そんなわけで初投稿です。
───数分前、神野廃工場前。
「よし、情報通りの位置取り。ここで間違いないな」
眼前に聳え立つ廃工場。夜という時間帯も相まって外観の雰囲気は如何にもな空気に包まれていた。
「なんつーか、如何にもって場所だな。何で今まで誰も気付かなかったんだ?」
「保有する会社があったのだろう。仮に架空のモノだとしても、書類として認知されている以上、それが架空のモノだという証明が無ければ手出しが出来ん。そして、人間は関心の無い真実の是非をワザワザ暴く事はしない。今回のケースは特にな」
廃工場を見て思い浮かんだ率直な疑問に答えるギャングオルカ、人の心理を利用した巧妙な手口だと語る強面ヒーローの説明にゴジータは成る程と頷いた。
「廃工場という一見価値の無いモノ、故にヴィラン犯罪の温床になりやすい。手入れを怠ったデニムが、カビにまみれるのと同じ理屈だな」
「そ、そうなのです?」
「真に受けるなMt.レディ、デニムが移るぞ」
事あるごとに物事をデニムに例えるベストジーニスト。この人ってただデニム言いたいだけなんじゃねぇの? ゴジータは訝しんだ。
「ラグドール、どうか無事でいてくれ」
ふと隣を見れば、鋭い眼光で工場を睨む虎がいた。彼もまたゴジータの知人、その経緯から色々と世話になり、対自然災害で諸々の知識を叩き込んでくれた恩人。
平静を装いながら、それでもチームメイトの安否を祈る虎の様子にゴジータは何も言えなくなった。
………作戦開始時刻まであと僅か、参加しているヒーローの面々が自然と言葉数が少なくなるのと同時に。
ヒーロー達に装備されたインカムに作戦開始の合図が送られる。
「合図が来た。Mt.レディ!」
「了解!」
ベストジーニストの指示のもと、巨大化して廃工場を踏みつける。初撃で建物を半壊させておきながら、周辺への被害を抑えている絶妙な力加減。ヒーローとして成長しているMt.レディにゴジータは素直に感心した。
「よし、最初の一撃は成功したな」
「Mt.レディは巨大化したまま周辺を警戒!」
「はい!」
初撃で相手の設備の大半を機能不全に陥らせたのは良かった。しかし、奥からウジャウジャと現れる人造ヴィラン───脳無の出現にゴジータ達の表情は引き締まる。
「さて、それじゃあ俺とベストジーニスト、オルカさんで制圧するとしますか。虎さんはラグドールの捜索を頼む」
「任された」
「さて、やるとするか」
「迅速に済ませるとしよう」
仕事人な雰囲気で拳を鳴らすギャングオルカ。虎にラグドールの捜索を一任し、そんな彼に脳無からの邪魔が入らないよう目の前の脳無達はゴジータ達が引き受ける。
押し寄せる脳無の群れ。しかし歴戦のトップヒーローにとっては大した脅威ではなく、同様に巨大化という強力な個性を持つMt.レディやベテランヒーローである虎にとっても其処までの障害には至らず、忽ちに討ち洩らした脳無を仕留めていく。
瞬く間に脳無の群れは制圧され、脳無の格納庫と思われる廃工場は沈黙した。作戦開始から五分も経っていない電撃作戦、此処までは順調だった。
「ラグドール! しっかりしろ、ラグドール! 何故目を覚まさない!」
「特殊な薬で眠らされているのかも知れない。虎さん、急いでラグドールを安全な場所へ」
培養液に浸かっていたラグドールを発見、救助に成功した虎は必死に彼女に呼び掛けるが、天真爛漫な彼女らしくない朧気な返事が返ってくるだけ、見るからに普通ではないラグドールに一先ずゴジータは安全な場所へ下がるように指示を出す。
これで施設の九割は制圧した。後は僅かばかりの敷地を調べて黒幕の尻尾を掴むだけ、この分なら早く決着は付くだろう。
あとは向こうでオールマイト達が実行犯等を取り押さえるのを待つばかり。これなら頃合いを見て自分も向かうべきか………いや。
(何だ、この気配?)
奥の暗闇から突如感じた気味の悪い気配、幾つもの気配が折り重なり、歪み、無理矢理融合したような気味の悪さ。連なる無数の気配が連鎖反応の如く膨れ上がったのを感じたゴジータは、瞬時に気を解放してベストジーニスト達を庇うように前に出る。
「Mt.レディ! 今すぐ縮め!」
「え、ゴジータ?」
「一体何を?」
突然のゴジータの言葉に戸惑うMt.レディ、虎もラグドールの事で頭が一杯だった様で、反応が遅れてしまった。
一番速く対応出来たのは、ベストジーニストただ一人。ギャングオルカも次点で察して対応に駆けるが………。
「遅いよ、何もかも………」
瞬間、廃工場は跡形もなく吹き飛んだ。
◇
────同時刻、ゴジータ改め後藤甚田宅。
先のヴィラン襲撃により、しばらくの間休校になった秀治院学園。そこに通う御幸と恵の城鐘兄妹の二人は施設の子供達と施設長である姫野葵と共に義理の長兄である甚田の家に一時的に身を寄せる形となった。
「飛田さん、相場さん、私達の為に貴重な時間を割いてくださり、本当に有り難うございます」
施設長である姫野葵、子供達にとって母親同然でもある彼女は、今回件の騒動が片付くまでの間、護衛を請け負ってくれた人物であるヒーロー志望の
「いえいえ、紳士として市民を守るのは当然の義務です。礼は不要ですよマダム」
「しかし、先日のことといい、守って頂いている以上、やはり最低限の礼節は必要かと」
これがあのゴジータを育てた女性。何と真摯に人と向き合っているのか。己の事をゴジータから聞き及んでいる筈なのに、事前情報の色眼鏡に惑わされることなく自身の目で己と向き合ってくれている。
こんな人もいるのか…目の前の誠意の塊のような女性は体格は小柄なラブラバとそんなに変わらないのに、器が大きい。
誠実で、且つ真摯な女性の態度にジェントルは不覚ながら圧倒された。
「葵さん、片付け終わったよ」
「子供達はもう寝かし付けたから、皆さんも少し休んでください」
「御幸、恵、二人ともごめんね。子供達の面倒を見させちゃって」
「気にしないでくれよ。俺も恵ちゃんもただじっとしているより体を動かしていた方が気が紛れるし」
「ま、どうせ学校もなくて暇だし、甚田兄さんがゴタゴタを片付けるまでの時間潰しにもなるから別に気にしなくていい」
子供達の面倒を押し付けてしまって申し訳無いと思う葵だが、二人としては子供達と触れ合う事で心が落ち着いたので、特に気にする事はなかった。どちらかと言えば、今頃ヴィランのアジトに乗り込んでいるゴジータに心を傾けている葵こそが二人にとっては心配だった。
「幸い、此処の周辺地域の人達は甚兄のお陰で皆協力的だ。警察の人も交代制で周辺を見回ってくれているし、葵さんもゆっくり休んでくれ」
「ジェントルさんも。守ってくれるのはありがたいですけど、ヒーローのお仕事は体が資本なんで、ちゃんと休んで下さいね?」
「うん、そうね。御幸の言う通りね」
「いやはや、その若さでしっかりしている。流石はゴジータの弟妹達、ですな」
「………まぁ、あの人無茶苦茶やるから、ちゃんとしなきゃなって」
手放しで褒めてくるジェントルに御幸は気恥ずかしそうに頬を掻く。けど、それでも強く否定しない辺り、本人的にも満更ではないようだ。
ジェントルも葵も事件が起きてからマトモに休んでいない。それを案じた二人に甘え、少しだけ休息しようと席を立った時、それは聞こえてきた。
『り、臨時、臨時ニュースです! 突如神野の一画にて大規模な爆発が発生! 被害は甚大、繰り返します! 被害は甚大です! あぁ、なんて事だ!!』
消していた筈のテレビから流れてきたニュース、一体何事かと駆け付けるジェントル達の目に飛び込んで来たのは、壊滅した街の一画。
ビルは崩れ、アスファルトの地面は抉れ、配水管が破裂してあちこちから水飛沫が立ち上る。まるで爆心地、悲劇と呼ぶには凄惨過ぎる光景にジェントル達は息を呑んだ。
一体、何人の人間が巻き込まれているのか。いや、そもそも生存者はいるのか? 凄惨な光景を前に誰もが愕然としていた時……。
「────大丈夫だよ」
ソファーから、にゅっと手が伸びる。丁度御幸達の視界の死角の所に潜んでいたその子に、一同目を剥いた。
「ちょ、ちょっとアイ!?」
「お前、寝てたんじゃ………」
御幸と恵の質問に応える事なく、少女はテレビへ指を差す。一体何だと、戸惑いながらテレビへ視線を向けると……。
『あ、あの黄金の光、まさか………そう! ゴジータです! ゴジータが大勢の人達を背後にヴィランらしき人物と相対しています! 信じられない、まさかあの一瞬で、あれだけの人々を救助したとでもいうのか!?』
爆心地の中心に佇む黄金の戦士、その後ろには煤だらけになりながらも傷一つ負っていない人達が困惑した様子で座り込んでいた。マジか、物理的に不可能な出来事をあっさりとやり遂げた画面の向こうのゴジータに、ジェントルや御幸が愕然とした様子で口を開けている一方で。
「ゴジータ! 最っっっっ高!!」
両の目に星を宿した少女は、その満面の笑みを浮かべ画面の向こうの最強ヒーローを見つめていた。
◇
爆発、衝撃、襲い来る情報の海。しかし何れもゴジータにとって脅威ではなく、彼が見据えるのはこの衝撃に巻き込まれる人々の事。
ヒーローの本質は、助ける事。その事を母校から骨の髄にまで染み付けられたゴジータは、目の前の諸悪の根元を前に一つの選択を即時に下す。
──────0.001秒。それが衝撃に巻き込まれた人々を救出する際にゴジータの費やした時間。残業していた者、寝ていた者、趣味に勤しんでいた者、家族との団欒を楽しんでいた者、それら全てを救助し終える頃には、瓦礫は地に落ち砂塵が舞っていた。
舞い上がる砂塵が全て落ちると、顕になるこの惨劇を作り出した元凶が、一瞬驚いた様子を見せるが、次いで、まるで愉快そうに鼻で笑う。
其処から繰り出される煽りの応酬、巨悪は事実を元に、ゴジータは更に皮肉を混ぜて言葉の刃を振り下ろす。
「ふふ、強がるなよヒーロー。確かに君の強さは本物かもしれない。あの一瞬でこれだけの人々を救い出したんだ。その反動のダメージは相当のモノだろ?」
言われて初めてベストジーニストは気付く。今の衝撃は間違いなく目の前のヴィランによるもの、しかしあれだけの規模でありながら、驚く程に自分達にダメージがない。
唯一巻き込まれたMt.レディも、気絶程度で済んでいる。なら、一体何が………いや、
口にするまでもない、その全てはゴジータによって受け止められていた。体のあちこちに付いた傷が、それを物語っている。
……いや、本音を言えばそれだけではない。巻き込まれた人々の救助に使った0.001秒の世界、それはまさにゴジータが身を切る思いで行った救助作業だった。
音速を超え、光に迫る速度で動き、その衝撃を外部に洩らさず、全てを己の内側に収束させる。物理法則を度外視したゴジータの救助活動は、ゴジータ自身に深いダメージを刻み込んでいたのだ。
初めて目の当たりにするゴジータの血、それを見たベストジーニストは己の不甲斐なさに歯噛みするが、元凶は更なる一手を指してくる。
「さぁて、ダメ押しだ。守るべき人が多いこの状況で、お荷物のヒーローを抱えながら僕のハイエンド達に勝てるかな!?」
嗤いながら、男は高らかに右手を振り上げる。瞬間、数体の黒い脳無が、巨悪と同様に笑いながら瓦礫の中から這い出てくる。
恐らく、何らかの転移系の個性を使って送られてきたのだろう。見るからにこれ迄と違う脳無にベストジーニストとギャングオルカは戦慄する。
守るべきモノが多いこの状況で、果たして何処まで捌ける? いや、やるしかないのだ! 覚悟を決めた二人。
─────瞬間。
「あぁ、ビックリしたぜ」
黒に染まるハイエンド達は、文字通り弾け飛んだ。
「─────この程度で俺をどうにか出来ると思っている、その低脳っぷりにな」
済まない、話が進まなくて済まない。
今オールマイトが全速力で現場に向かっているから、もうしばらくお待ちください。
オマケ
プロフィールNo.??
星之アイ
児童養護施設【星の都】の子供。
不幸とも呼べる境遇から施設に厄介になるが、施設長である葵の優しさに触れ、心を開いた。
両目に浮かぶ星が特徴的な女の子、普段は大人しくしているが、その実態は重度のゴジータファン。
実はネットで某ヒーロー殺しと論争繰り広げるほどのゴジータオタク。たまに帰ってくる甚田と本当は話をしたいのにヒーロー活動で疲れていると、自分からは接しにいかない徹底ぶり。
それでも時々無防備な甚田を見かけてはちょこんと近くで座る。頭を撫でられたりすると三日は風呂に入らない。
最近のトレンドはゴジータの腹筋の上で昼寝をする事。来年で小学生に上がる。
────多分、もう出てこない。
「ファッ!?」