超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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ククルカン、念願の宝具レベル5。
そんな訳で初投稿です。


記録57

 

 

 

 幾重にも重ねられた最新の防衛システム。冥府(タルタロス)という名称を冠された人工の島に建てられた敵犯罪者収容施設。

 

中に封じ込められているのは、何れも凶悪なヴィラン達。強盗殺人は勿論、人に仇なすあらゆる禁忌を犯してきた罪人達の檻。

 

24時間体制で常に監視は怠らず、監視員の一人一人が常に社会の平和を背負う覚悟で職務に励んでいる。

 

 多くの闇と悪を詰め合わせ、一度開けば大災害は免れない正に冥府の檻。

 

そんな“タルタロス”だが、今日はまるで嘘の様に静まり帰っていた。いつもは監視下の中でも不気味に笑っている凶悪なヴィラン達も、独房の部屋の隅で大人しく座り込んでいる。

 

「なんだ。凶悪なヴィラン達がいるって聞いたから、てっきりもっと騒がしいもんかと思っていたけど……意外と静かなんだな」

 

「いや、仮にも収容施設だから。どんな刑務所を想像していたんだい君?」

 

「もっとこう、鉄格子をガンガン叩いたり、下卑た笑いを向けてきたり、意味不明な煽りとかされるものかと……」

 

「映画の見すぎだよ」

 

 ヴィラン達は怯えていた。凶悪な犯罪者らしいその野生の如き直感により、今のタルタロスには恐ろしい怪物が来ていることを本能的に察知したのだ。

 

しかも二人、その内一人はヴィラン達がよく知る平和の象徴ことオールマイト。そしてその片割れが囚人達を更に怯えさせる原因の怪物だった。

 

 その怪物の名はゴジータ。その名を知るものは怯え、震え、竦み上がり、部屋の隅でガクブルと震えていた。

 

嘗てない囚人達の様子に、監視員の一人は不謹慎ながらこう思う。

 

(───今日は、いつもより楽できそうだな)

 

 囚人達が怪しい行動をしていないか、逐一監視し、僅かでも見逃さない神経を磨り減る仕事を続けている施設の職員達。モニターに映し出されている囚人達の様子に、いけない事だと知りながらも職員達はいつもより肩の力を抜いて職務に務めるのだった。

 

………いや、ただ一人だけ奇妙な動きをしている輩がいる。それは最近になってこのタルタロスに収容された恐ろしき犯罪者。

 

ヒーロー殺しと呼ばれ、世間から恐れられている粛清者ステイン。多くの囚人達が隅で震える中、ステインは扉の前で祈るように両手を組んで跪いていた。

 

「んで、このタルタロスで特に厳重に収監されているのが、あの梅干し面なんだな」

 

 梅干し。そう聞かされた案内役の塚内は必死に噴き出すのを堪えた。一方のオールマイトは既にAFOを格下扱いしているNo.1ヒーローに乾いた笑みを浮かべている。

 

「……さて、二人とも、そろそろ面会の場所だが……くれぐれも扱いに気を付けてくれ。特にオールマイト、奴の挑発には乗らないように」

 

「あぁ、分かっているとも」

 

「あれだけやられて挑発してきたら、それはそれで根性ありそうだよな」

 

 塚内の言葉に従い、挑発に乗らない事を誓う一方で、隣のゴジータは軽口を叩く。そんなNo.1ヒーローを軽めに戒めると、改めて二人は案内された扉の先へと足を踏み入れた。

 

 其処にあるのは真っ白な空間。隔たれた透明な壁の先にいるのは、嘗てのオールマイトの宿敵。

 

幾重にも拘束され、呼吸器のみを付けられることを許された時代の怪物────AFOが其処にいた。

 

『時間は予定通りとなります。くれぐれも会話にはお気を付け下さい』

 

 アナウンスに促され、頷いた二人は用意された席に座る。対面式に向かい合う両者、オールマイトは静かに見据え、対してAFOはその口元に笑みを浮かべている。

 

「やれやれ、今日は僕の処刑日かい? いつから日本は私刑を許される世の中になったのかな?」

 

「お前には幾つか聞きたい事がある。AFO」

 

「死柄木弔のことかい?」

 

「………っ、そうだ。何故貴様がお師匠の、先代の血縁を取り込んだ」

 

「何故って、この前も言ったじゃないか! 僕は君を憎み、恨んでいる。君が嫌がることは徹底的にやり尽くすと」

 

 オールマイトが訊ねたいのは死柄木弔のこと。本名は志村転弧、先代OFA継承者である志村菜奈の孫である彼は、何の因果かAFOの後継者として敵連合の一員となっている。

 

先代の志村菜奈、オールマイトにとって恩人以上の存在である人物の血縁がヴィランとなってしまっている。しかもよりにもよって宿敵の後継者という立場として………。

 

憤怒が込み上げてくるの必死に抑え、その目をより鋭くさせながらオールマイトは問う。

 

「………死柄木の居場所は何処だ」

 

「それを僕が正直に言うと思ったのかい?」

 

 嗤う。憤怒に駆られ、今にも殴り倒そうと息巻きながら、強靭な精神力で耐えているオールマイトを、AFOは火に薪をくべる様に嘲笑う。

 

「もっと有意義な話をしようぜオールマイト、ここじゃあ僕の話を聞いてくれる奴は一人もいないんだ。飢えているんだよ、人と話すの」

 

怒りに堪えながら、それでも対話を望むオールマイトに対してお前の話はつまらないとAFOは一笑する。

 

「なら、今度は俺から質問してもいいか?」

 

「………今度は君か。正直、僕はオールマイトよりも君の方が不愉快な存在だよ。神野で見せた妙な光、あれはなんだい?」

 

「お望みなら今すぐにでも味わわせてやるよ。………俺が聞きたいのはただ一つ、なんでこんな真似をした?」

 

「? こんな、とは?」

 

「お前が行ったすべてだよ。何故人を操る? 何故踏みにじる? お前、結局何がしたいんだ?」

 

 要領の得ない質問だと小馬鹿にしてくるAFOに構わず、ゴジータは質問を続ける。それはAFOの目的の更に奥深くへ突き刺すモノ、ゴジータの言葉の意味を理解したAFOは、これ迄より一番深い笑みを浮かべた。

 

「決まっているじゃないか。愉しむ為だよ、ゴジータ。僕が人を踏みにじるのは、美味しいワインを飲みたいが為さ」

 

「ワインだと?」

 

「知らないのかい? ワインは葡萄といった果実を潰し、発酵させたアルコール酒さ!」

 

「────なら、お前にとって個性を持った人間は果実か」

 

「そうだね。一つ違うのは果実とは違い一度踏み潰したら終わりではなく、踏み方や組み合わせによって味も匂いも劇的に変化するって事かな? そういう意味では“あの二人”の父親は実に良い味を出してくれたよ」

 

「────」

 

 口元を三日月に歪めてそう口にするAFOに対し、今度はゴジータが口を閉じた。目の前の人の形をした悪魔が口にしたあの二人、それが自分を兄と慕う城鐘兄妹の事を指しているからだ。

 

「僕はね、人の未来を阻みたいんだ。どんなに輝かしい未来を待つ者も、どれだけ悲惨な過去を持つ者も、等しく僕の掌で極上のワインとなる。それは、ある意味究極の平等と言えるんじゃないかな?」

 

 己をただ一つの頂点として君臨し、それ以外の他のすべてを下にする。そこには人の優劣など存在せず、ただ全てが己を満たす素材でしかない。歪み、捻れ、破局の粋をかき集めた唾棄すべき悪。

 

聞かされた塚内や他の看守も絶句し、オールマイトすら言葉を失う中、ゴジータだけ反応し、立ち上がる。

 

「ん? どうしたんだいゴジータ、いきなり立ち上がったりして? まさか、僕を殺す気かい?」

 

 明らかにこれ迄とは顔付きが違う。何かを決め、何かを悟った様な顔付きになるゴジータにAFOは察した。

 

「出来るのかい? 今の僕は法の監視下に置かれている。多くの人達が見ているなか、無抵抗な人間に君は暴力を振るえるのかい?」

 

今、AFOは法の下に捕らえられている。だが、それは逆を言えば法によって保護されている事を意味している。

 

法治国家である日本では、死刑が下される事例はあれど、それまでに至るには例外なく多くの手順が必要になってくる。

 

 AFOもそうだ。例えどれだけ残忍で非道な行いをしてきたとしても、それを明らかにするには事前の調査が必要になってくる。それが明らかになるまで、AFOの身柄は法の下に手出しをする事は罷りならない。

 

それこそ個人の感情一つで、下していいものでは決してあり得ない。それが例えNo.1ヒーローであったとしても。

 

いや、No.1ヒーローだからこそ、法を犯す事は許されない。

 

───しかし。

 

『ゴジータ!?』

 

「……おいおい、嘘だろ?」

 

 その手に集まる光を見て、その常識は覆る。

 

 それは、ゴジータが見せる初めての殺意だった。静かに目の前の悪意の塊を見据え、その悪辣さを理解した上で、ゴジータは自分のするべき行いを本能で悟る。

 

『ダメだゴジータ!! それだけはダメだ!!』

 

 モニター越しで見守っていた塚内が口を挟むが、対するゴジータは微塵も動かない。

 

「止めないでくれ塚内さん。今のやり取りで解った。コイツは生かしておくわけにはいかない。生かしてちゃいけない類いの存在だ」

 

 存在。そう口にするゴジータからは既に目の前の怪物を人として認識していない事が伺える。彼は本気だ。本気でAFOを独断で消そうとしている。

 

掌から集まる光、それが熱を持ち、更なるエネルギーへと凝縮されていく。目の当たりにする殺意の力、何処までも純粋で恐ろしい力の集約に、初めてAFOの笑みがひきつる。

 

「正気かい? そんなモノを此処で放ったら、このタルタロスも無事では済まないよ? そうなったら、システムから解放された犯罪者達も暴れだすけど、いいのかい?」

 

「命乞いが下手だな。そんなもん、俺がその直後にソイツら全員を抵抗できなくなるまでぶちのめせば済む話だ。タルタロスも、完全な形になるまで協力するし、その後は俺も大人しく収監されてやるよ」

 

『ダメだゴジータ! そうなったら後の社会はどうなる! 君に期待を寄せる多くの人達を裏切る事になるんだぞ!?』

 

 No.1ヒーローが人を殺めた。その醜聞は瞬く間に社会に大きな衝撃を与える事になり、最悪の場合ヒーローに対する不信感を煽る事に繋がりかねない。

 

何より、最強のヒーローであるゴジータを犯罪者として失うリスクは余りにも大きすぎる。ただでさえオールマイトが事実上の引退を表明したのに、そうなった時の社会への反響は塚内でも予測不可能だった。

 

「俺一人が泥を被る事で、巨悪から社会を守れるなら別にいいさ。まぁ、死柄木弔をどうにかするまでは自由にさせて欲しいけど……」

 

しかし、それを踏まえた上でゴジータは目の前の悪意を滅ぼす選択を選ぶ。

 

 施設の子供達、城鐘兄妹や恩師である姫野葵には申し訳ないが、既に目の前の悪意の塊は彼女達にヴィランをけしかけて危機に陥れている。中でも御幸と恵にはヴィランによって怖い思いをさせてしまっている。

 

裏社会に潜むAFOの手先、そんな奴等に対して牽制する意味合いを含め、ゴジータは自らの手を汚すことを厭わなかった。No.1ヒーローとしての責務、それを理解した上でのゴジータの選択に塚内も何も言えなくなった。

 

 光がより強さを増していく。目の前で膨らむ殺意の光に、AFOが人生二度目の恐怖を知った時。

 

ゴジータの腕に一人の手が置かれた。

 

「ゴジータ、ありがとう」

 

「─────」

 

「君のその怒り、その義憤は何も間違っちゃいない。誰よりも怒るその姿に、私は救われたよ。だからどうか、今だけ堪えて欲しい」

 

 微笑み、優しい声音で諭してくるオールマイトにゴジータは殺意と共に光を霧散させた。それを目の当たりにしたAFOは、無自覚に安堵の溜め息を吐き出す。

 

「───分かったよ。まだ俺にはやることがあるし、それを放ったままにするのは気分が悪いしな」

 

 オールマイトの言葉に従い、この場での私刑は一先ず止めにする。

 

そして、更には予定していた例の必殺技をぶつける事もやめにした。

 

「おいAFO、オールマイトの情けで此処にいる限り俺からお前に手を出すことはしない。約束してやる」

 

 

それは一つの口実。これから先、万が一AFOが脱獄を試みた時に対するある種の言い訳。

 

「…………」

 

「けどな、もしお前がこのタルタロスから出てくることがあれば、その時は今度こそ俺が跡形もなく消してやる」

 

脱獄する手段を残し、その時のぶちのめす口実を手にする為、敢えてゴジータは例の必殺技をぶつける事を中止する。

 

「─────ヒッ」

 

 小さな、本当に小さな悲鳴。No.1ヒーローが見せる最後にして最大の殺気を前に、長らく裏社会に君臨してきたAFOは、その表情を強張らせていた。

 

『─────時間です。お二人とも、速やかに退出を』

 

アナウンスから看守の声が届く。どうやら彼等も相当焦っていたのか、その声音から些か震えが聞き取れた。彼等にも悪いことをしたな、そう思いながらその場を後にする二人。

 

 最後に、オールマイトは一度だけAFOに振り返り。

 

「────さらばだ。AFO」

 

その言葉だけを残して、二人は振り返ることなく去っていった。

 

残されたAFOはその後、自分がゴジータによって殺されかけ、オールマイトに助けてもらった事実に気付き、自我半壊する迄の合間、ひたすら己の無事という幸福を噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

そして翌日。一つの決着を迎えた二人は次代のヒーロー達の成長ぶりを確認するべく、気持ちを新たにして仮免試験の見学に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ところでゴジータ。君、あの後例のヒーロー殺しとも面会してきたみたいだけど、何してたの?」

 

「なに、ちょっとしたファンサービスだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉ、おぉぉぉぉっ!!」

 

その後、特別にNo.1ヒーローから差し入れとしてとあるカードを“四枚程”受け取ったステインは、毎日数時間、カード達に向けて土下座という名の礼拝を行っていた。

 

 

 




Q,ここのAFOって死刑なの?
A,これ迄の所業から普通に残当かと。ただ、原作ではその為の調査やら何やらで対応が遅れ、裁判が下される前にあんな事が起きたのだと個人的に解釈してます。

オールマイトが公に出来なかった弊害の一つのとも言えるかも。

Q,ゴジータが殺っても良かったんじゃない?

A,よくも悪くも法治国家である日本。仮にもNo.1ヒーローが人を殺めたら賛否問わず動揺は広がりそうだし、何より家族である施設の皆に良からぬ事になりかねない。

弟分である御幸や恵の将来を考え、“今回は”見逃した甚田君でした。


でも次はないです


Q,ステインが貰った差し入れって?

A,塚内さんに相談して、拠点に隠していた二枚の激レアカードと、今度発売される神野でのゴジータとオールマイトの新たな超激レアカード。
四枚全てに直筆サインが書かれており、受け取ったステインは涙と過呼吸で死にかけた。



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