超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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今回は仮免試験編の導入話。

故に、あまり面白くはないかもです。




記録58

 

 

 

「会長、本日もお疲れさまでした」

 

「あぁ、篠宮もな」

 

 秀治院学園。先のヴィラン襲来により一時閉鎖されていた学園は、多くの生徒達の声もあって再開を果たし、無事に学舎としての機能を取り戻すことに成功した。

 

 壊された箇所も既に修復され、学園の風景は既に日常の姿を取り戻している。

 

 そんな生徒達の纏め役でもある生徒会も、端から見ればいつもと変わらぬ時間を送っていた。

 

学園の運営により生まれた問題、それらを表面化させて書類として処理する。当たり障りのないいつもの仕事を終えた生徒会長である城鐘御幸は、同じく生徒会副会長である篠宮かぐやへ労いの言葉を返す。

 

「一時は学園が閉鎖してどうなることかと思ったが、無事にこうして再開できたのは良かった。リモートでの授業があるとは言え、やはり学生は学校に通ってこそ、だよな」

 

「そうですね。単に授業内容をこなすだけならリモートだけでも事足りますが、部活や生徒同士によるコミュニケーションの場となるのも学校の機能の一つ。そう考えれば、この学園は私達のもう一つの家と呼べなくもないかもですね」

 

「失い掛けて初めて解る有り難さだな。この事を教訓にして、これからはもう少し落ち着いて物事を見るべきだな」

 

「慧眼、流石です。会長」

 

「からかうなよ。篠宮」

 

 珍しく二人きりの空間、普段は小言の多い庶務もおらず、陰気な会計も、そして一番厄介な書記も今は席を外している。

 

今この生徒会室にいるのは自分と城鐘御幸だけ、生徒会としての仕事を終わらせ、後は下校時刻まで談笑するだけとなった篠宮かぐやは、御幸に対して質問したい事があった。

 

 ズバリ、城鐘御幸とゴジータの関係性である。先のヴィラン襲来により、学園は一時機能不全となった。学園のセキュリティシステムは悉く破壊され、雇っていたヒーローも軒並み倒された。

 

当時篠宮は他の生徒達共々体育館へ避難していたから具体的な事は知らないが、ある日とある噂が彼女の耳に入ってきた。

 

 それは、ゴジータと御幸が親しき間柄であるという噂。ヴィラン襲来の際、危機に瀕していた会長である御幸とその妹である城鐘恵、そして巻き込まれた一般生徒の前にかのNo.1ヒーローがやって来た。

 

そしてその時、城鐘恵は言ったのだ。ゴジータを指して“兄”と、そう呼んだのだそうな。

 

しかし、ゴジータにこれと言った肉親はいない。以前篠宮家で父が新たなNo.1ヒーローである彼の身元を徹底的に調べた事から、それは間違いない筈だ。なら、何故城鐘恵はNo.1ヒーローを兄と呼んだのか。

 

(考えられる可能性は幾つかあるけれど………今一つ確信には至れないのよね)

 

 仕事終わりの一杯として、自身が淹れたお茶を美味しそうに啜る御幸を眺めながら、篠宮かぐやはその頭脳を回転させる。

 

(ゴジータ……後藤甚田は施設育ちの孤児。星の都出身の人間、仮に会長達が彼の弟妹だとするのなら───)

 

 自分が慕う(友情的な意味で)生徒達の長である城鐘御幸もまた、親無しの孤児である事を意味している。

 

 有り得ないとかぐやは否定するが、そう言えばやたらと二人に関する情報が秘匿されていたなと、思い出す。当時は然程気にしていなかったが、噂を耳にしたときから彼女の裡には言葉には言い難い焦燥感の様なものが燻り始めていた。

 

 もし、会長が親無しの施設育ちなのだと知られたら、果たして彼等はこの学園に居られるのだろうか? ……難しいだろう。秀治院学園は良くも悪くも名家から輩出される将来を有望視された子供達が集まる教育現場。

 

そこに如何に学問に秀でていようと、出自の分からない輩を放置しておく程、この学園の歴史は優しくはない。もし、二人が施設出身だと知られれば、この学園での二人の居場所は消えて無くなるだろう。

 

(───ダメ、それだけは絶対にダメ!)

 

(篠宮、さっきから難しい顔してどうしたんだろ?)

 

 何やら真剣な顔で思考を巡らせている様子の副会長に、御幸は戸惑った。

 

(仮に、仮に噂が本当だとして、二人が施設の出の人間だとしても、私がするべき事は変わらない。副会長として、最後まで会長と妹さんを支える為に尽力するのみよ!)

 

 嘘である。この篠宮かぐやは欲しいものがあればどんな手を使ってでも手に入れる強欲の持ち主。城鐘御幸という宝石を手に入れる為ならば、どんな汚い手段を取るのも辞さない鋼の戦乙女である。

 

 そんな彼女はいつでも如何にして目の前の男から告らせるかを思案し、実行してきた。

 

ならばこの状況を利用し、彼の関心を自分一人に向けさせる。其処まで考えが至るまでに彼女の思考は三秒も掛からなかった。

 

しかし。

 

「篠宮、大丈夫か?」

 

「え? あ、失礼しました。つい考え事を」

 

「………それって、例の噂についてか?」

 

「ッ!? 会長、御存じだったのですか?」

 

「流石に直接聞かれた事はなかったがな。だが、ああも連日奇異なモノを見る目で見られては、ある程度察しはつく」

 

「──────」

 

「無理もない。そして、その噂は事実だ。俺とゴジータ……彼とは血こそ繋がってはいないが、同じ施設で育った間柄だ」

 

 あっさりと、一切の言い訳をせずに肯定する御幸に篠宮かぐやは息を呑んだ。

 

「───何故、それを私に?」

 

 城鐘御幸という男は、他人に弱さを見せることを良しとしない男だった。常にどんな時も凛と胸を張り、正しい事には愚直に挑む生徒達の模範となる長。そんな彼が妹の事も巻き込んだ上で自分に事実を告げている。

 

他の誰かの耳に入れば、自分の人生の枷になることも承知の上で。

 

「何でだろうな。色々と理由は考えていたんだが……篠宮には嘘をつきたくないのが、一番の理由かな」

 

「…………え?」

 

「篠宮には散々世話になったからな、副会長であるお前に不義理を働きたくない。無論、この事は既に恵ちゃんも了承済みだ」

 

「妹さんも……」

 

「もし、この学園に真実が伝わり、俺達を排斥しても、お前が気に病むことはない。今の内にそれだけは伝えておく」

 

「……会長」

 

「俺が生徒会長としていつまでいられるか分からんが………その時まで宜しく頼むよ」

 

 唖然となっている篠宮かぐやの肩を、ポンと叩きながら城鐘御幸は生徒会室を後にする。少しだけ寂しそうな笑みを浮かべて、一人満足そうに退室していく彼に………。

 

(なによ、なによ……それ!)

 

 篠宮かぐやは怒りに震えていた。

 

(私が懸念していた事をあっさりと受け入れて、一人満足そうに受け入れて! 真剣に悩んでいる私がバカみたいじゃない!!)

 

 しかし、言葉に反して彼女の心の裡には確かな暖かさが伝わっていた。それは城鐘御幸からの心からの信頼の証、誰も知らない真実を自分にだけ教えたという事実が、かぐやの胸中を満たしていた。

 

(いーわよ! そっちがその気なら私にだって考えがありますからね! たとえお父様を敵に回したとしても、絶対にお二人の事は私が守ってあげるんだから!)

 

 尚、そんなかぐやの思惑とは別に、彼女の父親はゴジータの大ファンである為、かぐやの心配は杞憂に終わるのだが……それを知るのはまだ当分先のお話。

 

 ────本日の勝負、ゴジータの勝ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮免試験。それはヒーローを志す有精卵達が目指す一つの関門、これを乗り越えたモノにはヒーロー活動の仮免の資格を獲得し、プロヒーローへの道が大きく近付くこととなる。

 

当然、その試験内容は厳しく設定されており、毎年多くの失格者を出していて、今回開催される試験を受ける者の中には今度こそ受かるんだという強い意思を持ったヒーロー志望者もまた存在している。

 

 そんな多くの志望者達が夢抱くヒーローへの道。決して楽ではない道であることを知りながら、それでも手を伸ばさずにはいられない。

 

 今日も、その日はやって来た。

 

「着いたぞ。全員速やかにバスから降りろ」

 

 引率の相澤に促され、バスから降り立つのは雄英ヒーロー科一年A組。度重なるヴィラン襲撃をはね除け、世間から最も注目されている次世代のヒーロー達。

 

そんな彼等がバスから降り立って最初に晒されるのは………幾つもの敵意に満ちた視線。

 

「お、おいおい、なんか空気がおかしくねぇか?」

 

「なんであいつらオイラ達をあんな風に睨んでくるんだよぉ!」

 

 初対面の人間から突然の敵意を向けられ後退る上鳴と峰田。だが、彼等が雄英を敵視するのはある意味仕方がないことだった。

 

「アッハハハハ! そりゃあそうさ! アンタ達雄英は幾人ものトップヒーローを輩出した屈指の名門高、そんな連中が来たとあっちゃ、否が応でも関心を寄せちゃうってもんさ!」

 

「あ、あなたは! 【スマイルヒーロー】Ms.ジョーク!」

 

 何故、自分達に敵意を向けてくるのか、それを親切に教えてくれたのは笑みを絶やさない女性、Ms.ジョーク。傑物学園高校ヒーロー科二年二組の担任である。

 

「ようイレイザー! 久し振りだな! 結婚しようぜ!」

 

「しねぇよ」

 

 唐突なプロポーズも即答で返され、ジョークは笑うしかなかった。

 

「アッハハ! 相変わらず返しが早いねぇイレイザー、んで、その子達が噂の卵達かい? ……成る程、噂どおり良い面構えをしているじゃないか」

 

しかし、その笑みは次の瞬間別のモノへ切り替わる。単純に笑いを楽しむというより、相手を値踏みしてその価値に笑みを浮かべる。決して自分達を侮っている訳ではなく、寧ろその逆。獲物を前にした獣の様な笑みを浮かべるジョークにA組の多くは戦慄する。

 

「先生、他校に絡むのは其処までにしておきましょ? 雄英の人達困っているじゃないですか」

 

 そんな彼女を諌める形で後ろから現れるのは、黒髪の男子。爽やかな笑みを携えて現れる彼を見て、A組の多くが緊張を和らげるなか、唯一爆豪だけは鼻を鳴らした。

 

「僕の名前は真堂揺。此処ではライバルだけど、試験が終わったらまた改めて話をさせて欲しいな」

 

「あ、はい! こちらこそよろしく!」

 

手を差し出してくる真堂に快く応える緑谷、そんな二人を爆豪は気に掛けることもなく横を素通りする。

 

「君は……爆豪勝己君、だったよね? 君の事も知ってるよ。試験では負けないように頑張るから、よろしくね」

 

「ハッ、何がヨロシクだ腹黒野郎。そういう台詞は顔と一致させてから宣いやがれ」

 

 鼻で笑い、挑発する爆豪に真堂は驚きで固まった。それは親切な対応の自分に無礼で返した事ではない、自分の性根を初見で見抜かれたことだ。

 

 そんな爆豪を飯田が失礼だと諌めようとした時、一台のタクシーが雄英のバスの横に停まる。

 

試験の関係者か? 現れたタクシーから降り立つ人影に誰もが注目し………仰天した。

 

「ふぅ、どうやら間に合った様だな。紳士足るもの、時間には余裕を持って行動せねば」

 

「その通りねジェントル、一応紅茶のセット持ってきたけど……そこまでの余裕はあるかしら?」

 

 それは、昨今No.1ヒーローの下で更正の為の訓練を受けてきた自称義賊、ジェントル。その隣に相方のラブラバを侍らせながら、ヒーローの卵達の前に降り立つ。

 

 そして、その後ろには……。

 

「マジで、タクシーって今はこんなにするの!? やっべぇ、下ろすの忘れてたから金たんねぇ……あ! 相澤先生良いところに! ちょっと金貸してー! 三百円でいいからー!」

 

 嘗ての恩師に金を借りようとしているNo.1がいた。

 

「……あの、相澤先生、呼んでますよ?」

 

「知らん、他人のフリしろ」

 

 ゴジータの懇願を無視しながら会場へ進む相澤、その隣では爆笑しているMs.ジョークが呼吸困難に陥っていた。

 

 

 







オマケ

篠宮雁庵。

篠宮かぐやをはじめとした兄妹達の父親であり、篠宮グループの総帥。
たった一代で巨万の富を築き上げ、過去には裏で解放を謳う輩との政治的な熾烈な戦いを繰り広げていたらしい。


数年前、とある災害事故に不運にも巻き込まれた雁庵は、この時黄金の炎を纏う少年を目撃する。以来、ゴジータの大ファンとなり、合法な手段ではあるもののグッズを手当たり次第に買い漁っている。

普段は寡黙でグループ内では恐ろしい印象を持たれているが、好きな事になると早口になる。

昨今はゴジータについてアンチが建てたスレと激しいレスバを繰り広げているが、この時にとある幼女と某ヒーロー殺しと結託しているのは……本人達も知ることはなかった。

尚、現在は新しくでた例の二枚の超激レアカードを手に入れようと躍起になっている模様。







オマケそのに。


「─────出た。しかもサイン付きシークレット」

緑谷出久、人生二度目の二枚抜きである。

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