もうすぐ夏本番。
そんな訳で初投稿です。
震えているその男を、その生徒は鴨と認識した。公衆の面前で自らを格上と宣言しておきながら、自身の失言に顔を青くさせている男。
ゴジータの未来のサイドキック、そう噂されている男は、他の生徒達からみても大した器には見えなかった。
おどおどしてて、挙動不審。自分の立っている場所すら分かっていないような小心者に、何故あのNo.1ヒーローは目を掛けているのか。
あんな奴より、自分の方がもっと出来る。動画に映る涙目の男に生徒は常日頃からそう思っていた。
(そうだ。だったら先ずはコイツから脱落させてやる。ゴジータ本人からのお墨付きなんだ。此処でアイツを落としてやれば、ゴジータだって見る目が変わる筈だ!!)
自分を見て、一日だけとは言え自分の個性を見て貰った。一時間にも満たない短い時間でも、あのNo.1ヒーローは自分と向き合ってくれた。
あのNo.1ヒーローは、間違いなくこれからのヒーロー社会を背負う傑物。そんな英雄にあんな男は不純物に他ならない。故に、試験開始と同時に忍者の格好をした生徒は男────ジェントルに襲い掛かった。
瞬間、視界が潰される。まるで見えない柔らかい壁にぶつかった様な衝撃、痛みのないその衝撃に視界が潰されたのも束の間。いつの間にか自分の体に括り付けていたターゲットが、全て当たりの発光が点滅していた。
「済まんね。踏み台にするつもりはなかったのだが………少々隙だらけだったモノで」
すれ違いざまに耳元で囁かれ、瞬時に生徒は思い知る。あの瞬間自分はジェントルを狙い、そして返り討ちにあったのだと。
冷静に、そして落ち着いて対処すればもっと違った結果もあった筈。しかし、そこまで考えが至るには忍者の生徒はまだ若かった。
ジェントル・クリミナル。それは間違いなくゴジータが見初めた元ヴィランであり、自分達と同じヒーロー候補。
そして、士傑高校のルーキーを空から叩き落す光景に多くの生徒達は知る。この男は、真にNo.1ヒーローに認められた者なのだと。
◇
『えー、先ずは一名脱落』
聞こえてきたアナウンスに夜嵐イナサは戦慄し、自分のターゲットを確認する。発光しているのは三つの内の一つだけ、その事に気付き安堵したイナサは、安堵の溜め息を吐きながら帽子を被り直す。
「────ジェントル・クリミナル、ゴジータの弟子が自分に何の用ッスか」
目を鋭くさせて油断なく身構える。自分の個性を相手に悟らせる事なく進行方向に展開、妨害させる手際は最早プロの手品師のソレ。
ぶれない体幹で淀みなく等間隔に歩み寄ってくる元怪盗紳士に、夜嵐イナサは戦闘態勢を取る。
「いやね、何やら随分と思い詰めているのが個人的に気になったからさ、私なりのお節介さ」
対するジェントルは、イナサの眼を見て何となく放っておけなくなっていた。あれは認められたくないものを見て、怒りで意固地になっている者の眼だ。ああいった手合いは一度自分が決めた事に対して、中々覆そうとはしない。
そして、その怒りの矛先は恐らくはこの会場の誰かであり、目の前の彼はその誰かに並々ならぬ感情を抱いている。このままではいずれ周囲を巻き込んで自爆しかねない、そうなる前に一度話をと思い、足止めさせてみたものの………どうやら、タイミングが悪かったらしい。
「おい、テメェが噂の紳士野郎だな? ゴジータの手解きを受けたっつーテメェの力、見せて貰うぜ」
「………ワォ」
頭上から、弾道ミサイルの如く飛来してきた何かが、地面を抉りながら降り立ってきた。砂塵の中から現れたのは悪鬼羅刹すら逃げ仰せる顔をした少年、既に彼も一人の脱落者を出したのか、手にしているボールは三つに減っている。
『おわ、もう二人目の脱落者ですか。早いですねー』
今更伝わってくるアナウンス。それでも落ち着きを保っていられるのは前例があるお陰か。
「むぅ、紳士としては若者からの挑戦は受けて立ちたい所だが………後じゃダメ?」
「死ね」
どうやら避けられないらしい。光る爆発と共に瞬く間に間合いを詰めてくる爆豪に、ジェントルは否応なしに応戦する。
爆発の力を利用しての加速、其処から繰り出される回し蹴りはジェントルの顔面へと向けられるが………柔らかい壁が、爆豪の蹴りを受け止める。
「チッ、例の緩衝材か」
「
「ハッ、だが破れねぇ事はねぇんだろ?」
「フッ、ならば試してみるといい」
「上等」
凶悪な笑みを浮かべる爆豪に、紳士的な笑みを浮かべるジェントル。互いに年齢は離れていても、抱く思いは然程変わらず。
激突する両者の間には、ヒーローを目指すライバルという肩書き以外、何もなかった。
◇
「マジか爆豪、速攻で一人脱落させやがった!」
「相変わらず忙しねぇなぁまったく」
開始早々始まる試験。最初の内容は対人戦を指定された為、毎年他の学校から狙い撃ちにされてきた雄英は、今年も例に漏れずその洗礼を受ける事になった。
他校からの一斉掃射、様々な個性を用いての攻撃はしかして一人の生徒の蹴りの一振によって掻き消された。
“セントルイススマッシュ・エアフォース”。OFAの50%を解放しての緑谷の一撃は、他校の生徒達の攻撃を打ち消し、それどころかその風圧で瞬く間に敵対生徒達を吹き飛ばしてしまった。
お陰で他校同士が結託して作り上げた包囲網は瓦解し、仕切り直しの出来た緑谷達だが、此処で爆豪は離脱。吹き飛ばされていち早く立て直した生徒に止めのボールを三つ浴びせると、爆豪は今回のダークホース枠であるジェントルに向かって一人吶喊していったのだ。
「まぁ、かっちゃんなら大丈夫だと思うし、僕達は僕達でやっていこうよ」
「うむ、なら今の内に我々も陣形を立て直そう。幾つかチームに分けて………」
「緑谷、飯田、悪いが俺も此処からは一人で行かせて貰うぞ」
「轟君?」
「俺の個性は他の連中も巻き込んじまうからな。なるべく負担は掛けたくねぇ」
「負担だなんて………」
「大丈夫だ。ヘマはしねぇ、ただ未完成だった技をモノにする意味でも、少し一人になりたいんだ」
「………分かった。けど、くれぐれも気を付けてくれよ。皆で仮免試験合格が今の我々の目標なのだからね!」
「あぁ」
それだけを告げて、轟は皆から離れていく。不安はない。彼もまたゴジータから薫陶を受けた一人であり、自分の個性と向き合うことを決めた仲間だ。
ならばその仲間を信じて、自分達はやるべき事を全うしよう。立ち上がり、此方を見据えてくる生徒達に緑谷達も身構えるのだった。
◇
「オラァッ!」
「フッ!」
「ダラァッ!」
「トウッ!」
「防ぐな死ねぇッ!」
「怖いな君!?」
掌から迸るグリセリンを燃料に、爆発と共に肉薄する爆豪。爆発を利用して加速してくる彼の攻防を、己の個性と磨かれた体術で捌くジェントル。
ジェントルの防戦一方かと思えば、狙いが甘く大振りになったところを的確にカウンターで突いていく、しかし爆豪もまたそれを紙一重で躱していく。
爆豪は爆破で、ジェントルは個性で生み出した透明の膜をトランポリンの要領で駆使しながら高速の三次元軌道を描いていく。
一進一退の攻防、それを目の当たりにしているイナサは二人との差に愕然としていた。
「───すげぇ」
口に出来たのは、ただそれだけ。プロが顔負けするレベルの攻防を繰り広げる二人に、夜嵐イナサはただ圧倒されていた。
イナサもゴジータから指導を受けた身、ゴジータによる広い視点での指導は当時のイナサに大きな衝撃を与えた。
自分はまだまだ強くなると、そう言ってくれたNo.1。しかし、今のイナサにはその言葉も今はただ空しく思えた。
「チッ、うっぜぇなこの柔らかクソ壁ェ!!」
「ならば突破して見せるといい、君に出来るものならな!!」
「あ”ぁ”!? 上等だクソ紳士!!」
「ジェントルだと言っている!!」
速い。凄い。目視では追い付けない攻防を繰り広げている二人に、イナサはただ愕然となった。
そして、今はサバイバル。隙を晒した者が食われていくのは当然で。
「隙アリだ士傑!!」
「一年坊は、大人しく踏み台になっとけ!!」
「ッ!?」
背後からの二人の奇襲に気付けなかったイナサは………。
「邪魔」
「紳士的じゃないのは、感心しないね」
互いの戦いに夢中になっていた二人が、呆気なく打ち倒してしまう。
『はい、更に二名追加で脱落。合格者である爆豪勝己君と飛田弾柔郎君は速やかにその場から離脱してください』
「「あ」」
ついでとばかりに叩き付けたボールが、それぞれのターゲットに当たってしまった事で、爆豪とジェントルは無事に第一試験突破。本来なら喜ぶ場面だと言うのに当の本人達は酷く不満な様子。
「………仕方ねぇ、決着は次の機会だ」
「いや君、血の気多すぎない?」
個人的には不完全燃焼な結果に不満たらたらな爆豪だが、怒気を収められる程度の器量は出来上がっていた。それでも血気盛んな爆豪にドン引きなジェントルは………。
「───少年、君の抱える事情は私には推し量れないが、ここはヒーローを志す卵達が更に向こうへ至る為の場だ。気持ちの切り替えはちゃんとしておいた方がいいぞ」
絡んでおきながらこれ迄放置してしまったイナサに、せめてものフォローをしながら去っていく。そんな二人の背中を見えなくなるまで見つめていた夜嵐イナサは……。
「何をやってんだ。俺は!!」
心底悔しそうに、拳を地面に叩き付けていた。
今回、ゴジータの出番が全くなくてスミマセン。
いやね、ジェントルと爆豪君の絡みを書きたくてついね。
オマケ。
オールスター渋谷事変
「質問をしてるのはこちらだ」
そう言うや否や、呪いの王と呼ばれるその呪霊は、目の前の男に向けて術式を放つ。斬撃という分かりやすく凄まじい威力のそれは、間違いなく男へと叩き込まれ……。
ガキンと、鈍い音を立てるだけで終わった。
「!」
「んぁ? なんだ? 今なんか当たった様な……」
見えない何かに当たった。それだけに理解が及んでいないゴジータは、自分の身に触れたモノに首を捻る。
「ほう、存外に硬いな」
「?」
「ま、だからなんだという───」
次に、器の膂力と呪力を用いた身体強化で瞬く間に距離を詰めてその拳を叩き込もうとするが………。
「────なぁ」
(バカな、ビクともせんだと?)
首から上を吹き飛ばす処か、微動だにせず。
「この子達に向けた殺気といい、お前は敵って事でいいんだな?」
意に介した様子で、そう見下ろしてくるゴジータに呪いの王である宿儺は、初めて悪寒というモノを感じた。
「だったらどうする?」
それでも不敵に嘲笑う宿儺、そんな彼が次に体験するのは腹部に感じる衝撃と………地下から渋谷の空高く舞い上がる圧倒的な浮遊感だった。
「さて、先ずはあの物騒な奴から対処するとして……お前はどうするんだ?」
地下突き抜けた穴から、これ迄沈黙している火山頭の呪霊に視線を向けると……。
「────帰りまぁす」
自らを真の人間と豪語する呪霊は、呪霊としての矜持をかなぐり捨てて逃げの一手を選ぶのだった。