超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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漸くティアキンに手を出しました。

そんな訳で初投稿です。


記録62

 

 

 

『はい、最後の合格者が出ましたところで第一試験終了。合格した生徒の皆さんは次の試験の準備がはじまるので、速やかに指定の所まで戻ってください』

 

 聞こえてくるアナウンス。最後の合格者という言葉に耳を傾けながら、既に第一試験を突破した緑谷は次の試験に思いを馳せる。

 

「最初の試験は何とか突破出来たけど、次はどんな試験内容なんやろ」

 

「多分、救助関係だと思うよ。会場の規模からして大災害に見舞われた際の救助訓練、あらゆる地形で引き起こされる対災害に対して適切な行動が取れるか、的な」

 

「となると、救助の場に於ける連携が肝要になりそうだな。今の内に何組かにグループ分けするべきか?」

 

「いや飯田、それは少し早計だと思う。緑谷の言う通り災害救援を想定しているなら、監督側は俺達の対応力も見ておきたい筈だ。現場での即席のチームアップ、最悪他校の生徒と即座に組められる様にする事も視野に入れた方がいいかも」

 

「確かに」

 

 一次試験を難なく突破しておきながら、既に次の試験内容について話し合う雄英の一年達。ヴィラン襲撃から始まり、これ迄幾度となく窮地と言うものを体験してきた彼等にとって、試練は乗り越えるべき壁でしかない。

 

「デク、テメェも突破したか」

 

「かっちゃん。うん、みんなのお陰で何とかなったよ」

 

「………何とか、ねぇ」

 

 そんな時、普段から切島や上鳴以外とはつるまない爆豪が、訳知り顔でやってきた。第一声の罵倒も出てこないのにももう慣れ始めてきた緑谷だが、すれ違いざまに耳打ちされる言葉に凍り付く。

 

「オールマイトから受け継いだ個性使ってんだ。コケたら殺すぞ」

 

「─────え」

 

小声で、他の生徒に聞かれていない事を配慮しておきながらハッキリとそう言われた。一瞬何を言われたのか理解できなかったが、自分がオールマイトからOFAを受け継いだことを知られたと悟った緑谷は大粒の冷や汗を大量に流しながら爆豪へと振り返る。

 

 しかし、其処には既に切島と上鳴がいる。これでは話が出来ない、オールマイトや事情を知るゴジータに話をしたかったが、今はそんな余裕はない。

 

「デク君、大丈夫?」

 

「あ、うんごめん。大丈夫だよ、麗日さん」

 

もうすぐ次の試験が始まる。今は爆豪との会話を記憶の隅へ追いやり、気持ちを無理矢理にでも切り替える。

 

全ては次の試験を乗り越えてから。しかし、緑谷は予感していた。この試験が終えた後、自分と幼馴染みの彼とは、一つの岐路を迎える事になるのだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ダメだな、俺は」

 

 人気のない通路、もうじき第二の試験が始まると言うのに、夜嵐イナサは一人無気力に座り込んでいる。

 

あの後、手を差しのべてきた轟焦凍から逃げるように立ち去り、何とか目標だったターゲット二つ分を撃破したが、いずれも不意打ち気味の目眩まし攻撃によるもの。

 

きっと、相手側は納得していないだろう。強風で視界が奪われた所へ強襲なんて、ヒーローの行動としては誉められない。無論、イナサ自身も納得できてはいなかった。

 

けれど、我武者羅だった。ズタズタにされたプライドを必死に縫い合わせて作り上げた虚像の一撃、ただ合格のみを目指して放たれた攻撃は、何処までもみっともなく、醜かった。

 

 いや、何よりも醜いのは………。

 

「まさか、俺にこんな醜い感情があったなんて………」

 

 自分自身、己の裡に秘められていた激情。轟焦凍を目にした時に沸き上がってきた拒絶反応、ヒーローは熱いからこそ、そう豪語するイナサにとってその感情は無縁のモノである筈だった。

 

しかし、あの目。自分を邪魔だと拒絶し、遥か遠くを見据えるだけの燃え滾る炎の眼差し。自分達の事など眼中にないその振る舞いは、イナサの心に深く刻み込まれた。

 

 そして、雄英の推薦入試。憧れの雄英に入学し、熱い学校生活を夢見ていたイナサの前に、再びその眼差しは現れた。

 

『───邪魔だ』

 

 何処までも恐ろしく、何処までもおぞましく、そして何処までも似ていたあの眼差し。推薦入試では自分が勝った筈なのに、まるで勝った気がしない。

 

此方の事などまるで眼中に入っていない当時の彼の眼に、イナサは誓った。この男にだけは負けないと。そう誓い、推薦トップだった自分は雄英入学を蹴り、西にある士傑高校へ入学したのだ。

 

 ─────それなのに。

 

「なんで、なんであんな真っ直ぐな眼になれるんだよ」

 

 差し伸べてきた彼の手、そして向けてくるその瞳は自分を真っ直ぐ見据えていた。打算など微塵もない、本心から自分を気遣っていた彼の眼差しを、イナサは直視出来なかった。

 

これじゃあ、自分がバカみたいだ。超えるべき相手はドンドン先に行って。自分は此処でみっともなく腐っているだけ、こんな自分がヒーローになって良い訳がない。

 

第二試験の辞退。イナサの頭にその選択が思い浮かんだ時、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「あれ~? イナサじゃん。ここでなにしてんのウケる」

 

「ケミィ先輩、肉倉先輩、どうしてここに?」

 

「どうしてもなにもあるか。もうじき次の試験が始まる。身内が無様を晒す前に呼びに来ただけだ」

 

 自分を迎えに来たと言う二人、ギャル風の少女と規律に厳しそうな軍人気質の少年、何れもイナサの先輩である二人は後輩であるイナサを迎えに来たと言う。

 

言動はどうあれ、何だかんだ面倒見の良い二人に有り難く思うが、それ以上に申し訳なく思った。

 

「───すみません。次の試験、自分は棄権させて欲しいっス」

 

「はぁ?」

 

「ちょっ、イナサどういう事だし?」

 

「今回の試験を受けて、俺分かったんス。俺はヒーローには向いていないんだって、だから……」

 

「いやいや分からんから。取り敢えずどうしてそうなったんかお話ししてみ? 愚痴くらい聞くよ、ウチ」

 

 迎えに来たら何やら酷く落ち込んでおり、挙げ句の果てには仮免試験を辞退するなんて言い出す後輩に、普段チャラけているギャルのケミィも比較的真面目に話し掛ける。

 

そんな先輩の意思を汲み取り、イナサは少しずつ話し始めた。自分の中にあるどす黒い感情、一方的に敵視していた相手への感情。嫌悪感や劣等感、他にも様々な悪感情が自身の裡で渦巻いていたことを正直に話した。

 

すると……。

 

「馬鹿馬鹿しい。何だそれは? 貴様、よりにもよって己の心情の為にこの場に立っていたのか」

 

「────」

 

「正直に言おう。私は貴様を軽蔑している。ヒーローを志す人間が、一つの事に執着するなどあってはならない。それが他人に対する悪感情を根底としているなら尚更だ」

 

 項垂れるイナサに、肉倉精児の鋭い言葉が突き刺さる。容赦なく罵倒を浴びせる精児に隣のケミィはドン引いているが、言われているイナサ本人が反論しない為静観している。

 

「ヒーローとは、他者の為に己が身を顧みない者の事。一人の人間を出し抜くことに固執している貴様に、果たしてそれが成せると思うか? 今の貴様は肉塊にも劣る存在だと知れ」

 

「………はい」

 

 言い返せなかった。自分の気持ちが、抱いている思いがヒーローらしく無いことはイナサ本人が自覚している。だから此処から去ろう、そう思い立ち上がる彼に……。

 

「だが、それがどうした。どれだけ未熟だろうと、貴様は未だ学生の身、半人前が如何に思い悩もうとも、それ自体何の意味もない」

 

「……………え?」

 

「自分はヒーローには相応しくないだと? そんなもの、考えるだけ意味がない。相応しいか相応しくない等と、決め付けること自体烏滸がましいと何故気付かない」

 

「え、えっと………」

 

「やだ肉倉、言っている事無茶苦茶過ぎ。ウケる」

 

「黙れ現見。………兎も角イナサ、今の貴様には悩むよりも先に、やるべき事がある筈なのではないか?」

 

「─────あ」

 

 そうだ。そうだった。自分は考えるよりも先に行動に移す人間だった筈、らしくもなくウジウジ考えて、愚考の坩堝に嵌まっていた。

 

「肉倉先輩、ありがとうございます!」

 

「礼など良い、さっさといけ」

 

「ハイ!」

 

 ガバリと立ち上がり、深々と頭を下げると足取り軽やかに走り去っていく。現金な後輩に呆れの溜め息を溢すと、隣にいた現見ケミィはニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「ヤッバ、優しくてキモすぎワロタ。どうしたん肉倉、アンタにしては優しいじゃん」

 

「フン、仮にもヒーローを志す者が、ああも腑抜けられては此方の士気が下がる。雄英と対する士傑の一員として、斯くあるべしと示しただけにすぎん」

 

「あーあ、これがちゃんと第一試験突破していたら格好良かったんだけどなぁ」

 

「ぬぐぅっ」

 

 現見の言葉に顔をしかめる。そう、この男散々上から目線で煽っておきながら、先の試験にて脱落した不合格者なのである。

 

ヒーロー仮免の失格者、その事を指摘されて苦虫を噛み潰したような表情を晒す肉倉はそれでもいいと立ち上がる。

 

「なればこそ、奴には私の分まで活躍して貰わなければならん」

 

「うわー、他力本願寺。じゃ、あーしもそろそろ行くから、肉倉は大人しくしてなさいよー」

 

「貴様もとっとといけ。私にイチイチ構うな」

 

「はいはーい。………ねぇ肉倉」

 

「む?」

 

「アンタ、ちょっと変わったね」

 

 これ迄飄々としておきながら、特に笑ったりしていなかった彼女が、初めて笑みを見せた気がする。同級生から変わったと言われた肉倉は、会場へ向かう現見の背中を見えなくなるまで見送ると、自身の手を見下ろす。

 

「────変わったか」

 

 

 

 

 

 

『お前、肉倉って言うの? さっきからお前の事見ていたけどさ、なんか色々と影響受けすぎじゃね? 具体的には、ステインの野郎と似たことを言ってる』

 

『……思念思想への干渉は、此度の指導に関係ない筈では?』

 

『あぁ、関係ないな。お前がどんな意思を持ち、思想を持っているのかなんて興味もないが………ただ鼻に付くんだよ。お前の言ってることは他人の言葉の焼き写しみたいでよ』

 

『な、なんですって!? 幾らNo.1でもその発言は許されないぞ!』

 

『しかも自覚もねぇのかい。………いいか肉倉、今言ったようにお前がどんな思想を持とうと俺には関係ないし、興味もない。けどな』

 

『俺の知るヒーローの中で、お前みたいに自分の思想を誰かに押し付けるような真似をする奴は誰一人いなかったぞ。況してや、他人の言葉に流されるような奴はな』

 

『───自分が、流されるだけの人間だと?』

 

『………以前、タルタロスでお前の父ちゃんと会ってな。色々と話をしてみたよ。何でアンタが此処で働いているのか、アンタみたいな人間ならヒーローになって即座にヴィラン退治に乗り出していた筈だろうってな』

 

『──────』

 

『そしたらよ、“自分の職務は此処でヴィランを見張ることであり、断じて己を誇示する為ではない。人々が安寧に浸れる為に必要なことだ”と、そう返すんだぜ』

 

 凄いだろ? 父の真似をしながらそう語るNo.1に肉倉は自分の言動を顧みていた。

 

『別にお前の考え方や生き方を否定するつもりはないが、父親に顔向け出来る人間になっとけよ』

 

 そう語るNo.1の言葉を思い返しながら、肉倉は笑う。変われるさ。人は、きっかけ一つで簡単に変われる生き物なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、発破かける必要もなかったな」

 

 気配を殺し、一部始終を死角から覗き込んでいたNo.1ヒーロー───ゴジータは、その顔に笑みを浮かべていた。

 

「夜嵐イナサ。アイツのエンデヴァーに向ける感情は中々に複雑だ。だから轟と顔を合わせた時にどんな化学反応が起きるか若干不安だったが………この分だと、大丈夫そうだな」

 

どんなに優れた人格者でも、何処かに欠点は存在する。それが人間関係に起因するモノなら、尚更だ。

 

けれど、彼等ならその問題すら乗り越えて見せるだろう。この後の試験を楽しみに思いながら、ゴジータもまた観客席に戻るのだった。

 

 

 

 

 





Q.ここの肉倉君も落ちたの?

A.落ちた原因は緑谷の蹴りによる爆風に吹き飛ばされ、バランスを崩したケミィを庇ったから。
本人は庇われた事に気付いていないが、肉倉はその事を誇示する事はなかった。

その後、毛むくじゃらの先輩の嘆願により、後日肉倉は仮免補講を受けることになる。






オマケ


オールスター渋谷事変


「────ご」

 自身が殴られた事に気付いたのは、空高く打ち上げられた時。顎を貫き、脳を揺さぶり、全身が霧散すると錯覚する程の衝撃を受けながら、宿儺はその男を見上げた。

「そら、この程度で驚いてんじゃねぇよ」

「チィッ!」

 不敵な笑みを浮かべて接近してくるゴジータに自らの術式を叩き込む。不可視の斬撃、効かなくとも足止めにはなっていた宿儺の対抗は。

「ッ!?」

さらに加速するゴジータに当たることは無かった。

同時に襲い掛かる脇腹への衝撃、それがゴジータの蹴りによる一撃なのだと思い知る頃、宿儺は無数の打撃を浴びせられていた。

上から下、下から上、斜め等、空中であることを良いことに宿儺はピンボールの如く夜の渋谷の空を舞い続けた。

最早宿儺には何処が上で何処が下なのか分からない。夜空の旅の遊覧旅行、最後に地上へ叩き落とされた宿儺が待っていたのは、更なる地獄だった。

「ちょっとちょっと甚田~、それ一応僕の生徒なんだから、あまり乱暴にしないでくれよ?」

其処には無限の呪術師が。

「え!? コイツサトルの弟子なのか!?」

其処には太陽神の化身が。

「俺初めて聞いたってばよ!?」

其処には火の意思を継ぐ者が。

「お前、何でそう言う大事な事を………」

其処には死神が、宿儺を囲むように佇んでいて。

そして………。

「あれ、言ってなかったっけ?」

「「「「言ってねぇよ!!」」」」


其処には、黄金の炎を纏う超戦士がいた。

「ったく、そんじゃあコイツはお前の生徒に取り憑いた悪霊って感じで良いのか?」

「そんな感じ。………で、どう? イケそう」

「余裕だろ。コイツ、どう見てもあの時の邪鬼(ジャネンバ)以下だし」

「アイツかぁ。アイツ一人に瀞霊廷が落ちかけたのはマジで焦ったよなぁ、唯一マユリだけは興味津々にしてたけど」

「俺はその後のムキムキの大男(ブロリー)の方がおっかなかったってばよ」

「カイドウより小さいのにカイドウよりヤバかったもんな」

 既に、コイツらの感心は自分にはない。思い出を語り合う怪物達を前に、小さな怪物はただその時を待つしかなかった。

「さて、そんな訳でお前は此処までだ。じゃあな、名も知らない悪霊君」

 そう言って、その手に虹色の光を凝縮させるゴジータに。

「───化け物め」

呪いの王と呼ばれた呪霊は呆気なく世界から消滅した。







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