超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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すみません、コーラルを舞台に傭兵稼業をしていたのと、仕事の忙しさに遅れました。

そんな訳で初投稿です。


記録66

 

 

 

 幸いな事に、自身を鍛えるのに必要な環境は割りと直ぐに整えて貰える事が出来た。

 

自分こと後藤甚田は、来るべき脅威とゴジータ(最強)の証明をするために児童養護施設“星の都”の創設者にして天才科学者である姫野葵さんに、体を鍛える為の環境を提供して貰える為にゴネて見た所、少しばかりの間があったものの、快く頷いて貰えた。

 

自分の身体の頑丈さを個性として認識されたのか、自分の要望も通り、三ヶ月も経つ頃には施設の地下に自分専用の鍛練場───即ち、重力室が完成した。

 

 どうやら、姫野さんはマジモンの天才だったらしい。本人曰く宇宙開発に於ける技術の応用と言っていたが、それにしたって仕事が早い気がする………まぁ、鍛練の場が完成したので、細かいことは気にしない事にしよう。

 

 そうして遂に始まる高重力下での特訓が始まるのだが……正直物足りなかった。

 

何せ、姫野さんが設定した最大の重力負荷が地球環境に合わせて通常の10倍程度。確かに最初の数秒は体にのし掛かる重みを感じていたが、一分も経つ頃には完全に肉体が10倍の重力に適応してしまっていた。

 

 恐るべきはゴジータの肉体スペック。どうやら生半可な負荷は瞬く間に適応してしまうらしい、高過ぎるスペックに俺自身が困惑してしまっていた。

 

しかし、同時に納得してしまった。ゴジータは悟空とベジータというドラゴンボールの作品内に於いて心体共に極まった超戦士。

 

そんな二人が融合し、合体して生まれたのがゴジータならば、その肉体強度も恐ろしく極まっている筈。分かっていた筈の事なのに、実際に体験してしまうと色んな意味で洒落にならないし、何よりこれ以上強くなれないという事実を示唆している事でもある。

 

 俺は焦った。このままでは強くなることが出来ない、ゴジータとしての証明が敵わなくなる。由々しき事態だし、今後の脅威に対して強くなる必要がある自分としては、重力による負荷の割り増しを急ぎ設定して貰う必要があった。

 

 しかし、此処でも問題があった。姫野葵さん、彼女の倫理的価値観が自分の修行に待ったを掛けてきたのだ。通常の10倍、数字で見れば大したことは無いように見えるが、実際に体感するとその負荷は凄まじく、並みの人間ではその高重力に耐えきれないのだという。

 

自分が10倍の重力に挑戦すると言った時もかなり動揺を見せていた。どうやら姫野さんは少しずつ高重力の負荷に馴れさせ、最終的には10倍の重力に挑戦させるというつもりでいたらしい。

 

 子供にそんな事はさせられないと、頑なに首を縦に振らない姫野さん。………彼女の気持ちは間違っていないし、自分の気持ちを尊重してくれた上で此処までしてくれた彼女に、自分は嬉しさと罪悪感で胸が締め付けられる思いを抱いた。

 

 ────けれど申し訳ない話だが、その感傷は余計なモノだ。彼女の思いやりは自分にとって重しであり、彼女の気遣いは自分にとって面倒な鎖でしかない。

 

酷い事を言っている自覚はある。けれど自分は、ゴジータは、こんな所で足踏みしている場合ではないのだ。今、こうしている間にも宇宙皇帝(フリーザ)が地球を狙っているかもしれない。

 

 呑気にご飯を食べてたり、寝ている間に何処かの地下組織が完全生命体(セル)を生み出しているかもしれない。

 

こうして何もしていない間に、魔人(ブウ)が大気圏外から地球を破壊しに来るかもしれない。

 

考えては尽きない不安と恐怖。これ等に打ち克つには自分自身が強くなる他無い、故に自分は姫野さんに頼んだ。もっと強くなりたい、強くなる為には今よりもっとキツくして貰わないといけない。

 

 そう訴える自分の言葉は、結局彼女に伝わる事はなかった。もう少し大きくなってからね、とか。焦らないでゆっくり進めましょうとか、そんな当たり障りの無い言葉を残して、姫野さんは自分の仕事を片付けにいった。

 

───仕方ない。彼女の言葉は正論で、間違っているのは自分の方だ。どれだけ強くなりたいと望もうとも、所詮は10にも満たない子供の戯れ言。

 

仕方がない。そう、仕方がないのだ。

 

───だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の行いは、欺瞞なのかもしれない。あの雨の中で、誰もが見て見ぬふりをする雨の中、まるで世界から弾き出された様に佇む彼を、過去の自分と重ねて保護をした。

 

偽善だろう、欺瞞だろう、あの時の彼の姿を嘗ての自分と重ねて放っておけないと思えた私は、他人から見れば酷く歪で、傲慢にも映る事だろう。

 

 けれど、そんな私の自己満足で彼を幸せに出来るのならそれで良かった。懸命に家事を手伝いながら、それでも人として感情を取り戻している彼を見て、私は確かに充足感を感じていた。

 

そんなある日、彼はあることを私に要求してきた。何でも一流のスポーツ選手は、自分の体に負荷を掛けて自らの膂力を鍛える風習があったのだとか。

 

超常社会黎明期よりも遥か前、個性と呼ばれる異能が生まれる以前の話。よくそんな古い情報を知っているなと感心する一方で、同時に少し不安に思った。

 

 この子は強さと言うものに執着している傾向がある。ヒーローという職業が存在している現在に於いて、この年頃の子ならば当然の欲求なのかもしれない。そうなら微笑ましい限りだが、どうやらこの子はそれだけではない気がする。

 

ともあれ、目の前の子────後藤甚田は自身が強くなることを望んでいる。私が初めて保護した子、甘やかすつもりはないが、それでも可能な限り応えてやりたいとも思えた。

 

 幸い、甚田の要望を叶える施設を作るには然程苦労はしなかった。元々あった重力制御システムのノウハウ、それを応用すれば限定的な空間であればこのくらい何て事はなかった。

 

たかが10倍とは言え、生身の人間でいきなり挑めば重傷は避けられない負荷。少しずつ慣らし始め、成長と共に段階を踏んで挑戦し続ければ、きっと将来彼は強いヒーローになれる。

 

 そう思っていた私の考えは、一瞬にして瓦解する事になる。彼は、後藤甚田は、あろうことか最初の段階で10倍の重力負荷に挑み、そして適応していた。

 

アラームが鳴り響く重力室にて、平然と佇む甚田。その顔には何処と無く失望感が滲み出ていて、私はただその光景に圧倒されていた。

 

「姫野さん、もう終わりなの?」

 

 暗に、この子は確信している。この重力室にはまだ上がある。システムに設定されていないだけで、上限など存在しない無限の負荷地獄になる事を。

 

本来ならば彼が10倍の重力を克服した後、粗大ゴミや不燃物を処理するために使われる圧壊室になる予定だった事。

 

彼は言う。強くなる為にはこのままではダメだ。もっと逆境を、もっと過酷を。もっと修練を。

 

もっと────地獄を。

 

 黒く伽藍堂な瞳で見詰められた私は、彼の言葉を全否定して、逃げるように仕事に戻った。彼は、後藤甚田は賢い子だ。きっと私の言葉にも理解してくれる。

 

そう期待しながら一度だけ振り返ると……やはり、無機質な黒い瞳が自分をジッと見詰めていた。

 

そして、それが初めての私の過ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────え?」

 

 仕事を終えて地下へ戻る。きっと今頃外に遊びに行ったのだろうと、帰ってきた時の彼の機嫌をどうするべきかと頭を悩ませながら重力室へ戻った私が見たものは───凄烈な光景だった。

 

血、赤く鈍った朱い小さな池が重力室の中心に出来ていた。そして、その池に沈んでいるのは私が初めて保護した子供。

 

「甚田!!」

 

 慌てて駆け寄る。バタバタと視界を涙で滲ませながら倒れる彼を抱き上げる。見れば上半身の服が何か強い衝撃に晒された様に弾け飛んでおり、胸元を中心に酷い火傷の痕が付いてしまっている。

 

一体何が起きたというのか。混乱しながら、それでも甚田を救おうと懸命に呼び掛け、救急車を呼ぼうと携帯に手を伸ばそうとして………。

 

「う、ん……?」

 

「甚田!? 大丈夫!? 甚田!!」

 

「いつつ、なんだ俺、寝ていたのか」

 

「甚田、一体何が起きたの!?」

 

「あれ? 姫野さん? 仕事は終わったの?」

 

(まだ、意識が……!!)

 

 起き上がり、立ち上がった甚田。しかし此方を見る視点は未だ虚ろなまま、絶句する姫野を余所に後藤甚田は乾いた笑みを浮かべる。

 

「これ以上、姫野さんに迷惑は掛けられないしな。なら、俺なりに頑張るしかないよな」

 

「甚田、何を言って───!?」

 

 再び言葉を失う。意識の朦朧としている後藤甚田の右手には、いつの間にか光が集まっていた。凄まじい力の波動、科学者である姫野から見ても未知なエネルギーの奔流。

 

そんなものがどうして甚田の手から現れるのか。これが彼の個性? 技術者であるが故に考察する彼女が次に見たのは………躊躇なく自らに放つ甚田の姿。

 

光の宿る手で自身の胸元を叩き付け、その瞬間爆発が重力室に轟いた。爆風に吹き飛ばされた姫野は小柄な体の為にコロコロと地面を転がる。

 

 それでも異形型である為、並みより頑丈に出来ていた彼女は、頭にたん瘤が出来る程度で終わった。痛む頭部、頭を擦りながら甚田の安否を気遣う彼女は急いで彼の元へ駆け寄るが………。

 

「─────」

 

 息を飲んだ。言葉に出来なかった。血を全身から吹き出し、視点も視界も朧気になりながらも、それでも立ち続けている甚田。

 

明らかに死に体、辺りには致死量レベルの血が散りばめられ、甚田の体からも夥しい量の血が流れ落ちている。

 

 しかし、それでも甚田は止まらない。再び自分の体を痛め付けようと、その手に光を集めて自身に叩き付けようとして………。

 

「やめて!!」

 

姫野葵は、抱き着くように甚田の体を制止させた。

 

「止めて、止めてよ甚田!! もういいから、私が悪かったから!!」

 

 自分の何が悪かったのかなんて分からない。けれど、今の姫野にはこうするしかなかった。

 

「お願いだからもうこんなことは止めて!! 甚田が、甚田が死んじゃうよぉ!!」

 

 涙ながらの絶叫。その訴えは朦朧としていた甚田の耳にも届き………そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────なんか、体が若干重い?

 

 ふと体に纏わり付く何かに気付いて見やると、そこには涙と鼻水でグシャグシャになった姫野さんが、自分の体に抱き着いていた。

 

何故? 確か彼女は自分の仕事を片付けに向かった筈。そんな彼女を見送った俺は、彼女の迷惑にならないようにもう一つの強くなる方法を試すことにしたのだ。

 

 自分の体が本当にあのゴジータなのだとしたら、彼らと同じサイヤ人としての特性も受け継いでいる筈。その特性を最大限応用する上で必要な自傷行為。

 

幸いゴジータとしての才能も備わっていた自分は、手に気の収束を行い、そのまま自分の胸元へ叩き付けた。流石はゴジータの一撃だけあって、その威力は桁外れに凄まじく、俺の意識はたった一撃で失っていた。

 

 これなら、過度な負荷修行もなく強くなれる。死にかけた状態からの復活は、サイヤ人を最も強くさせる方法の一つ。今後はこれを応用して強くなれば良い、我ながらそう思った矢先────気付けば、泣きじゃくる姫野さんが自分の体を抑え込んでいた。

 

────つくづく、自分の愚かさに嫌気がさす。何故、自分は姫野さんを泣かしてしまっているのか。これがゴジータなら、決して有り得ない事態である。

 

 ゴジータは誰かを泣かした事はあるか? 否。

 

 ゴジータは誰かを不安にさせたことはあったか? 否。

 

 

 何故姫野さんは泣いている? それは俺が無様を晒し、彼女を不安にさせてしまったから。

 

 ならば、ゴジータとして生きる自分がすべき事は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────大丈夫だよ、姫野さん」

 

「─────え?」

 

 その顔に、姫野は再び言葉を失った。

 

「俺は、大丈夫。この程度、なんともないさ」

 

 生気を失っていた顔に力が宿り、その瞳には光が灯る。

 

「俺は、ゴジータなんだ。だから………」

 

 痛む筈の体に鞭を打ち、子供らしからぬ振る舞いを見せ………。

 

「心配するな」

 

 笑った。不敵に、大胆に、【誰か】の様に目の前の子供は笑う。

 

 それが、姫野葵にはどうしようもなく───“気持ち悪く”映った。

 

自分は、勘違いをしていたのだと、この時初めて彼女は思い知った。

 

 彼は、強くなることに拘っているのではない。強くなることに取り憑かれている。

 

他ならぬ後藤甚田、彼自身が自ら望んで。

 

 姫野葵は間違えた。そこに彼女の非はなく、ただその運の悪さが廻ってしまっただけ。

 

この日、姫野葵は思った。思ってしまった。

 

 私は───関わる相手を、間違えた。

 

 不敵に笑う甚田、それを呆然と見上げる彼女が抱くのは、自らの欺瞞さと自己満足に陶酔していた………自らの醜悪さと無力さに対する絶望だった。

 

 

 

 

 

 





うーん、これは曇り? それとも晴れ?

多分中途半端。

これから彼女の曇りターンは続くので、もう暫くお待ちください。


それはそれとして今回のAC6、いい人多すぎん?

個人的にはウォルターさんとエア推し。

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