無事、三週目クリア。
考察が捗りそう。
超サイヤ人になれるようになって早数年。既に小学校を卒業し、中学も半ばという所。後藤甚田こと今世の俺は今日も今日とて鍛練に明け暮れていた。
重力負荷も既に300倍を超え、超サイヤ人も“2”へ至った事だし、そろそろ500倍の重力にも素で挑もうかと思っているこの頃。最近の俺はとある事に頭を悩ませていた。
それは、圧倒的な実戦不足。特に対等或いは格上相手との戦闘が全くと言っていい程無いのである。
いや、ゴジータ自体格上と戦う事がなかったと言うのもあるが、それはあくまで本物のゴジータの話。偽物でしかない俺がゴジータとして戦っていくには、やはりそれに見合った戦いの経験というモノが必要になってくるのだと思う。
そもそも、ゴジータの元となった悟空とベジータも戦闘民族というだけあって、その人生の大半を戦いに費やしている。積み上げてきた経験も凄まじい二人が合体したからゴジータという最強戦士が生まれたのだ。
なら、ゴジータとして生きていく自分も、それに倣わなければお話になりはしないのだ。
けれど、自分はこれ迄殴り合いの喧嘩などしたこともない。前世は………小さい頃に一度か二度くらいはあったかもしれないが、今世に至っては一度もない。
施設の子供達ともあまり会話もしていないし、あったとしても事故に遭いそうになった城鐘兄妹の妹の方を助けた程度。あの時以降は妹ちゃんとはちょくちょく話をしているけど………なんか兄の方はやたらと警戒されてるんだよなぁ。
まぁいいけど。
そんな訳で小学生卒業間際から、ちょくちょく施設を抜け出して夜の街へ繰り出し、時折暴れるヴィラン擬きを相手にしているのだけど………いやー雑魚。
幾ら加減しているとはいえパンチ一発処かデコピン一発で気絶とか、ちょっと脆くない? しかもこっちは超サイヤ人にすらなってないんだよ? と、剰りにもヴィランの弱さに驚きを通り越して絶望した。
別に街を巻き込んでのバトルをしたい訳ではないが、それでもこの弱さはない。社会に反旗を翻すにしても、もう少し心身ともに鍛えてから暴れて欲しいモノだ。
個性という超常の力を持っている人口が増えてきているのに対し、それをちゃんと制御している奴が少なすぎる。
いや、確かに個性を悪用することを危惧しているのは分かるが、ある程度自己管理出来る程度には使えるようにしておかないと、却って変な事件事故に繋がるんじゃないのか?
この間もなんかヴィランをおちょくっている奴を見掛けた。四つん這いになって滑るように走る独特な個性なのは目を引いたが、それだけ。結果怒らせたヴィランを俺が横からかっさらう形でノシてしまう事になってしまった。
外見的に中学生くらいだろうか。愉快な個性以外特に目立った所の無いもやしの青年、オールマイトのグッズのパーカーを着込んでいたりと、今時なヒーローオタクな彼は、ヴィランが何故倒れたのか分からないまま呆然としていた。
あのもやしの人、個性の扱いを変に解釈している所為であんな間の抜けた事になっているけど、本来の力を理解したら一気に伸びる可能性があるぞ。それこそ、トップヒーローに名を刻める程度には。
閑話休題。
とまぁ、夜の街に繰り出して早二年ちょい、未だに警察すらも俺の存在を認識出来ていないみたいだし。
監視カメラ程度で収まる程、今の俺の速さはトロくない。夜の街でチンピラヴィランと戦う時は基本的に暗い路地裏だし、俺の姿も夜の路地裏という事でマトモに見られた事もない。基本的には拾った黒い大きめのパーカーを着ているから、端から見ればダボダボのパーカーが宙に浮かんでいる様に見えるだろう。
そんな訳でチンピラヴィランを倒していく日々の俺だったが………人を殴る耐性や加減は出来るようになっても、対人戦を体験した気がしないまま、小学校を卒業してしまった。
これではいかん。最近は成長期に伴って身体も大きくなってきたし、そろそろ本格的に対人戦を学ばなければ。未だにイメトレでしか出来ていないとか、色んな意味で不味い。
姫野さんに正直に話してジムにでも通わせて貰う? いや、これは最後の手段だ。最近の葵さんは事あることに俺の鍛練に干渉しようとしてきている。まぁ、生身の人間が300倍の重力に挑戦したいとか宣っているのだから、気にかける気持ちも分かるけど。
ともあれ、対人戦を学びたいからジムに通いたいなんて言われたら、変に心配を掛けるわけにもいかない。だから、この案は最後の手段にしておこう。
ではどうするか。最近の俺は夜の街を全国規模で駆け巡った結果、面白い噂を聞いた。とある街のビル、その地下では違法な賭けが横行する地下闘技場なるモノがあるのだとか。
しかも個性を用いてのルール無用。闘技場という事もあって街中のチンピラ止まりのヴィランよりは手練れの連中がいる事だろう。尤も、バリバリの違法賭博の会場でもあるだろうから、当然其処に行き着く迄には時間が掛かるだろう。
そう思いながら調査する事数日。見付けちゃいました。
割りと簡単に見付けられたのは単に運が良かったのか、はたまたゴジータとしての直感が勝ったのか。いつも通り夜の街中を散策していると、ラッパとか言う如何にもな荒くれ者が、ヤル気満々で何処かの場所を目指して歩いていた。
遠巻きから見て、ラッパとか言う荒くれ者は戦える者がいたら誰彼構わず噛み付く狂犬タイプ。そんな手合いが大人しく夜の街を練り歩くなんておかしい、そう思って付いていってみると………ビンゴ。見事闘技場の会場を見付けた。
しかも結構な盛況ぶり、参加者も全員が如何にも血に飢えた狂犬達だった。リングで殴り合うアウトロー達も個性を用いていたので、此処が目的の場所だというのは確信できた。
見た限り、結構動ける人が何人かいた。格闘技らしい体捌きの人も見掛けた事だし、超サイヤ人にならず且つ超絶手を抜けば、結構な経験になるかもしれない。
一先ず場所を見付けた俺は、明日、改めて挑もうと思う。当然、施設の皆には気付かれずに、だ。
◇
「────ちょっといいか」
「あん? なんだコイツ」
熱気盛んな地下闘技場。血飛沫と歓声が飛び交うアウトローの世界にて、その日、一人の黒が降り立った。
「闘技場への参加は此処で合っているのか?」
「あぁ? テメェも参加してぇのか?」
「つーか、コイツどう見てもガキじゃねぇか」
小学生から中学に上がった事で、体格も成長し始めた甚田だが、未だ少年の域は出ていない。幼さが残る甚田の顔をパーカーの奥からチラリと見えた闘技場関係者は、鼻息ならしながら手を振った。
「帰れクソガキ、此処はテメェみてぇなガキが来ていい所じゃねぇんだよ」
「いや待て、俺コイツ知ってるぞ。その黒いパーカー、お前………まさか最近噂になっている死神パーカーか?」
(誰それ?)
さっさと帰るよう促してくる強面の男だが、同じく強面のおっさんがそれを止めに来る。どうやら甚田の事を知っているみたいだが、初めて耳にする死神パーカーなる呼び名に若干目を見開いた。
「死神パーカーというのは初耳だが、最近のチンピラをノシていたのは確かに俺だ」
「へー、あの死神パーカーさんが遂にアウトローデビューか。おい、今すぐカードを組め。余興になるし、場合によれば金になるかもしれんぞ」
ニヤリと笑い、男は甚田を奥の控え室へと案内する。どうやら話は通ったらしく、試合は今やっているのが終わり次第組まれる様だ。
これで漸く本物の戦いというモノを体験できる。会場の大きさやアウトローなのはこの際どうでもいい、今甚田が望んでいるのは大事なのは格闘技を扱う者と戦えること。
ゴジータとして生きるためには戦いの経験はなくてはならない。格闘技を、戦いというモノを学んだ上で勝つ。それが、今回此処へ来た理由だ。
「おい、時間だぜ。お望みの試合だ」
呼びに来た関係者に促され、リングへ向かう。黒いパーカーを羽織った自分の登場に、会場は一瞬静寂に包まれてどよめくが………。
『お待たせしました。本日の余興試合、飛び入り参加の紹介です。本日現れましたのは昨今話題の死神パーカー! 正体不明の死神が本日を以てアウトローデビュー!!』
いやしないが。なんて甚田の内心のツッコミとは他所に、会場内は一気に歓声に沸き立つ。どうやら自分の事はある程度認知されていたらしい、全く嬉しくないが。
しかし、今はそんな事よりも。
『対するは、美しき肉食獣。今夜もその足技は見れるのか!? タイガーかバニーか、本人曰く両方、タイガーバニー!!』
「よぉ、テメェが噂の死神パーカーか? は、確かに真っ黒でなんも見えねぇ、確かに正体不明だな」
虎を模したマスクを被り、褐色肌で兎の耳が生えたマスクの女子。学生服を着て明らかなパンピーなその女子は、甚田に獰猛な眼で見定める。
「…………」
「は、黙りかよ。良いぜ、テメェが沈黙を貫くってんなら、先ずはその黒パーカーをひん剥いてやる」
(どうしよう、帰りたくなってきた)
沈黙は金。昔の人はそんな格言を残したが、どうやらこの場合は悪手だったらしい。無反応を装う自分に興味を失う処かより闘争心を掻き立てられた
ゴングの開始と同時に、彼女の飛び蹴りが甚田に強襲した。
今回の話で色々と矛盾点があるかもですがご容赦を。
今回のプロフィール。
死神パーカー
少し前から裏社会で話題に上がる神出鬼没なヴィジランテ。夜の街で黒いパーカーというから目撃情報は殆んど無いが、何でもパーカーが独り歩きして夜な夜な暴れるチンピラなヴィランを倒して回っているらしい。
圧倒的な速さでヴィランを倒している事から、スピード重視の個性だと噂では囁かれている。
警察の某塚内君も一応警戒している。
尚、本人は自分がそんな風に呼ばれていることを欠片も知らなかった。
タイガーバニー。
褐色肌の勝ち気な女子格闘技。強い奴を蹴り倒すために地下闘技場へ参戦。
最近噂の死神パーカーを蹴り飛ばしたくてウズウズしている。