そんな訳で初投稿です。
───あれから、幾つかの月日が流れた。
恩師である姫野葵に進学の話を受けて尚続けてきた鍛練、小中学までマトモに友人も作らず、ただゴジータとして生きていくことを目標にしていた後藤甚田は今日、ヒーローの教育機関として有名な雄英高等学校の門前に来ていた。
「……本当に来ちゃったよ」
あの日から、事ある度に勉学を教えようとしてくる恩師に内心辟易としていたが、拾ってくれた事、自分の我が儘を聞いてくれた恩と負い目の事もあり、甚田は素直に彼女の教えを受け入れた。
幸い、恩師である姫野葵の教え方は良く、勉学を不得手としている甚田にも分かりやすく通じ、お陰で中学時代の後半は割と好成績を修める事が出来た。
その甲斐あって、甚田は無事にいち生徒として中学を卒業し、雄英試験まで漕ぎ着けたのだが……正直モチベーションはそこまで高くはない。
何故なら、甚田は其処までヒーローなる職業に魅力を感じられなかったからだ。個性を鍛え、派手に使い、ヴィランを倒して世間から注目という名のスポットを浴びる。
名声と力、場合によっては富すら築ける昨今の学生達の就職ランキングNo.1ではあるが、甚田からすればどうでもよかった。
富と名声など端から求めてはおらず、力に至っては論ずる意味もない。ただゴジータとして生き、自身を極めていく事しか頭にない甚田にとって、ヒーロー業とはあまり魅力的に映らなかった。
とは言え、恩師である姫野の出した条件は雄英を入学し無事に卒業する事。ヒーローになれなんて言われてない為、気にする必要はないだろう。
問題は目の前の毎年倍率の高い学校の難問を如何に解いていくかと言うこと、実技試験? あぁ、そんなのもあるのね。
「ま、ベストを尽くしますかぁ」
ややうんざりしながら、重い足取りで甚田は雄英の門を潜るのだった。
◇
そうして筆記試験も無事に終わり、いよいよ実技試験となった。場所は室内から屋外へ、中学時代のジャージを身に纏いながら、後藤甚田は他の雄英希望者達と共に実技の試験会場へ向かう。
有名なヒーロー育成機関だけあって、雄英の敷地は広い。広く整頓されている街を模倣した試験会場へ辿り着いた甚田を含めた入学希望者達、いよいよ始まる試験を前に甚田は予め教えられていた試験内容を思い出す。
内容は至って単純、ポイントを有するヴィランを想定したロボットを可能な限り撃破していく事。途中お邪魔な0ポイントロボなんているらしいが、要するに全てのロボを破壊するだけでいいのだ。
(なんだか簡単すぎる気がするなぁ、これなら筆記試験の方がまだ難関なんじゃないか?)
筆記試験の方は……個人採点でギリ合格といった所。トップで入学しなくてはならないなんて縛りもないし、実技の方はノンビリやっていこうか。
なんて考えるのも束の間。
『スタート!!』
突然、試験担当者の開始の音頭が会場に響き渡った。曰く、実際のヴィランとの戦いで用意スタートなんて事態は起こらない。速く駆け出し敵を倒せと煽り、煽られた入学希望者達は一目散にヴィランポイントを稼ぐために駆け出していく。
バタバタと慌てながら駆けていく学生達、そんな彼等を後ろで冷めた眼で見つめながら……。
「んじゃ、やりますか」
一歩足を前に進めた瞬間、後藤甚田の姿は掻き消えた。
◇
「へぇ、今年の子達もやるじゃない」
「仮想ヴィランと言えど、敵意を持って向かってくる相手に、良くもまぁ正面から挑めるもんだ」
「だが、それは逆に自らの個性と相手の危険性を考慮していない事にも繋がる。要注意だな」
健闘している生徒達を別室でモニタリングしていた教師達、いずれもプロヒーローとして活躍経験のある実力者達で固められた雄英の教師陣営は、各エリアで奮戦している学生達を冷静に分析していた。
皆、様々な個性を持ち合わせている。今日という日の為に隠れて個性の訓練してきた者もいるだろう。
だが、それでもプロとして本物のヴィラン達を相手に戦ってきたヒーロー達から見れば、アマチュアも良いところだ。けれど、だからこそ鍛え甲斐がある。これから合格し、入学してくる自分達の生徒達をどう導き鍛えてやろうか、不敵に笑う教師達だが、ふと一人の教師が違和感を覚える。
「───なんだ?」
「アン? どうしたイレイザー」
「エリアFの所、様子がおかしくないか? 仮想ヴィランが出てきて無いように見えるが?」
「はぁ?」
個性を打ち消す個性、名をイレイザーヘッドと呼ばれる雄英の教師の一人。彼が指を指す先には仮想ヴィランの反応の無いモニターが映し出されていた。
良く見れば、学生達の様子も何処かおかしい。戸惑っている彼等の様子にまさか仮想ヴィランの動作不良か? と、試験的に最悪なケースを教師達の脳裏に過った。
「い、いや待て! この日の為に何度も点検したんだ! 動作不良なんて……!」
思わず向けられる視線に、サポート科を担当しているパワーローダーは手と首を振って無罪を主張する。彼の仕事振りを知る他の教師達もそれを知っているからこそ、それ以上の疑問は向けず、そうだよなぁと首を傾げた。
一応調べるとその場を後にするパワーローダー、何が起きたのか未だ不明なエリアFの様子に雄英の校長である根津は一つの答えに行き着いた。
「───まさか」
「校長?」
「どうされました?」
声を掛ける教師の声に反応せず、モニターを操作する。突然の行動に戸惑う教師達だが、次に拡大される映像を見て言葉を失った。
無惨に破壊された機械群、その中心に佇む一人の学生、その両手に仮想ヴィランの首を掴むその姿は、ヒーローと言うより怪物の類いに見えた。
「───あり得ねぇ、まだ試験が始まって一分も経ってねぇんだぞ!?」
嘗て無い事態、だが事実は揺るがない。あろうことかエリアFの仮想ヴィランはたった一人の学生の手によってモノの見事に破壊し尽くされていた。
エリア全体に満遍なく配置された仮想ヴィラン。裏路地、建物内、屋上、大通り、その全てが粉砕されている。
其処に一切の個性によって破壊の痕跡を残さず、ただ素手で壊されたという結果だけが残されていた。
一体、エリアFで何が起きている? 前代未聞の展開にあ然となる教師達、誰もが言葉を失っている中で、事態は更に動き出す。
◇
─────その日、その少年は夢を見た。自分がヒーローとして活躍し、トップヒーローの仲間入りを果たすその夢を。
雄英。それはヒーローを志す者ならば、一度は挑んでみたいヒーローへの登竜門。過去にもオールマイトやエンデヴァー等のトップヒーローを輩出したこの学校で、自分もプロヒーローになるのだと、少年は今日という日を心待ちにしていた。
勉強もして、個性の特訓も隠れてしてきた。憧れのヒーロー達みたいになりたくて、少しでも近付けるように、少年は自分なりの努力を続けてきた。
そして今日、遂にこの時がきた。筆記試験は個人採点で何とか合格範囲、あとはこの試験に合格するだけだと挑み……。
気が付けば、全てが終わっていた。
一陣の風が自分達の後ろから通り過ぎたと思った瞬間、仮想ヴィラン達は音を立てて瓦解していった。え? と、声を漏らすのも束の間、次々と仮想ヴィランのロボは破壊され、そのどれもが断末魔すら発せられずに破壊されていく。
目に映らぬ処か、状況すら頭に追い付いてこない。何が起きているのだと理解できていない少年を含めた学生達が呆然としている最中、ソイツは現れた。
「────こんなもんかよ、攻撃どころか反撃すらしてこないとか、こんなのヴィランじゃなくただの案山子だろ」
逆立った黒髪、手にした仮想ヴィランの残骸を手に、呆れの言葉を漏らすのは、この試験に消極的だった学生だった。
恐らくは記念試験の一人なのだろう、ライバル意識もなく、ある意味見下していた学生が、つまらなそうに何かを呟いている。
そんな彼を見て少年の脳裏に一つの答えが過るが………認めたくない。認めてしまえば、これ迄の自分の努力が無駄になったと認めてしまうようで、少年は震えながら立ち尽くす事しか出来なかった。
そんな時、地鳴りが会場に響き渡る。見るとビルの隙間から見上げる程の巨大な仮想ヴィランが、自分達を見下ろしていた。
これが説明にあった0ポイントのお邪魔ロボ。倒すだけ徒労で終わる文字通りのお邪魔ロボ、その巨体で建物を押し退け、自分達に迫るその迫力に一人、また一人とその場から逃げ出していく。
少年も逃げようかと思った。けど、あのやる気のなかった学生が、その0ポイントを見上げて………嗤っていたのだ。
「最後に、いっちょ派手にやるか」
そう言うと、彼を中心に暴風が荒れ狂う。砂塵が舞い、残骸が吹き飛び、力の暴風が集約されていく。
炎。次の瞬間少年が見据えるのは黄金の炎を纏う学生が其処にいた。黒髪も金色に染め上がり、正面を見たわけでないのに、迫力が増しているのが分かる。
「とう」
跳躍。膝を曲げず、自然体のまま跳べば、既に学生は0ポイントロボの目の前まで飛び上がっている。不敵に笑う生徒、その姿と顔を目の当たりにした仮想ヴィランは………心なしか、怯えている様にも見えた。
「ぶっ飛べ」
瞬間、握り締めた拳が振るわれ、巨大ヴィランが宙を舞う。首だけが吹き飛ぶのではなく、巨大な身体全てがぶっ飛ぶその異様な光景に、学生達だけでなく、モニタリングしていた教師達ですら、目が飛び出す勢いで見開いていた。
声がでない。一分足らずの時間で事態は動き………否、動きすぎた。情報が大きすぎる光景に脳は処理が追い付かず、スーパーブレインを持つ根津もその光景を理解するのに数秒は掛かった。
分かっている事はただ一つ、やらなければいけないことは、遠く離れたエリアまで大型ヴィランを吹き飛ばした事による試験の一時中断と、試験のやり直しという前代未聞の事柄に対する後片付けだった。
登場人物紹介
少年
ヒーローを夢見て努力を続けてきた少年、個性は自分の動きをイメージしてその通りにトレースしたり、触れた相手を一秒間フリーズさせたり出来る。
複雑そうな個性ではあるが、少年が努力家である為に地元では有望視されていた。
そしてこの日、少年は目撃してしまった。圧倒的力を持つ個を。そして知ってしまった、最強というモノがどんなものなのか。
「追い付こうとは思わん。けど、目指すくらいは別にエエよな」
善人で知られるその少年は、今日も二人の年下の姪っ子に弄られながら鍛練を続けている。