最近寒くなってきましたね。
皆様も風邪引かないよう、お気を付け下さい。
そんな訳で初投稿です。
雄英の試験から数日、合否の事など気にも止めずに後藤甚田は今日も今日とて高重力下での
既に倍率は800倍へと迫り、負荷だけなら
(今日は身体のキレもいい、このまま通常時の状態で1000倍の大台………狙えるか?)
恩師の知らない所で幾度となく骨を折り、時には死にかけた事数回。既に自身への鑑みなさの自覚を失っている甚田は、コンビニへ赴く感覚で死地へと足を突っ込もうとしていた。
死ねば其処まで。最近そう開き直れば色々と楽になると悟った甚田は、高難易度のゲームに挑む感覚で負荷の設定システムに手を加えようとする。いざとなれば超サイヤ人となって無理矢理にでも終わればいい、楽観的とも悲観的とも取れる境地の中、甚田は制御システムへ手を伸ばそうとして………。
『じ、甚田さん! 来ました! 来ましたよ!!』
矢鱈と跳ねた声が重力室に響き渡る。それは姫野葵がセーフティとして付けた外部からの通信システム。予定する時刻を超過し、予定の無い負荷を掛けようとすると、直ぐに外へ連絡が繋がり、重力室の全システムが緊急停止するという、甚田にとって頭が痛くなる代物。
しかもこの声は昨今矢鱈と自分に絡んでくるとある兄妹の妹の方だ。鍛練の邪魔をされて舌打ちを打ちそうになるのを懸命に堪えながら、声の主へと返事を返す。
「───どうした
『どうしたもこうしたもないよ! 甚田さん、今日がなんの日だったか覚えてないの!?』
興奮している彼女は、なにやら凄い剣幕で重力室に押し入ろうとしている。自分なら兎も角、並みの人間でしかない彼女が万が一この空間に入れば、その瞬間人間大の潰れたトマトが出来上がるだけである。
ドンドンと戸を叩く彼女にはぁ、と溜め息を溢して甚田は此処までだなと観念した様子で自らシステムをシャットダウンさせる。
軈て重力室を満たしていた高重力の危険を伝えるレッドシグナルは消え、プシューと空気が抜ける音と共に外界と繋ぐ扉は開かれる。
扉が開かれるとカンカンと音を立てて遠慮無しに入ってきたのは、甚田が恵と呼ぶ少女───城鐘恵が目を輝かせて走りよってきた。
「来た、来たんだよ! とうとう今日が!!」
「落ち着け、主語をはしょるな。一体何が来たって?」
「合否だよ! 雄英から甚田さんの合否通知が!!」
そう言ってはい! と押し付けてくる彼女に戸惑いながら、そう言えば今日だったなと、甚田は興味なさげにその通知を受け取るのだった。
◇
「前も来たけど……無駄に広いな、ここ」
そうして数日後、無事に雄英への入学を果たした甚田は、広大な敷地を持つ雄英を前に感心半分呆れ半分の声を漏らす。
あの日、雄英から合否の通達を受け取った甚田は、そのまま恵に手を引っ張られ、皆のいる居間へと通された。甚田が天下の雄英に入学できるか否か、それを甚田以上に気になっていた施設の子供達は、通達書類を持つ甚田に纏わり付く。
常日頃から子供達とは必要最低限しか関わっていない筈なのに、何故か妙に懐かれてしまっている。これも雄英のブランドパワーか? 疑問に思いながら通達の便箋の封を切った瞬間。
『熊かネズミか果たして如何ほどか、そう! つまりは僕さ!!』
ホログラム映像から大きめのネズミがドアップで映し出されていた。自らを校長と名乗るネズミに若干引きながらも、無事に合格を言い渡された甚田はこちらも何故か妙にテンション高めな姫野に連れ回され、まだ入学まで時間はあるのに、あらゆる準備をさせられてしまった。
「なぁんでどいつもコイツもテンション高いかね? そんなにいいもんかな名門校ってのは」
入学するのに矢鱈と難易度の高い筆記試験をさせられたのに、肝心の実技試験は単なるメカを相手取るだけという。
名門高と言うには大したことがない。既に雄英の底が見えた気がする甚田は、登校途中何度も溜め息を溢した。
これなら他の適当な高校に通って、暇な時に鍛練をしていた方が余程有意義な時間になるだろう。確かに前世でも高校生の生活は未経験な甚田だが、ゴジータとして生きていくと決めている以上、姫野葵の配慮は正直いって余分とも言えた。
けど………。
『格好いいよ。頑張って、甚田!』
目に涙を溜めながらサムズアップしてくる恩師を見てしまった以上、腹を決めるしかない。定められた期日は高校卒業まで、その時まで精々高校生活に殉ずるとしよう。
そう思い、教室に入るのも束の間……。
「よし、なら身体測定を始めるぞ」
いつの間にか甚田はダルそうな不審者感マシマシの担任である相澤消太の案内の下、入学式もガイダンスもそっちのけで、雄英敷地にある校庭の一つに体育服を着用で連れられていた。
それも、見込みの無い生徒だと判断されれば、除籍もされるという理不尽な触れ込みと共に。
◇
(────アイツが後藤甚田。実技試験で脅威の記録を叩き出した問題児)
面倒そうに、或いは自分以上にダルそうにしている甚田を見て、相澤はその目を鋭くさせて観察する。
あの日、雄英は創設から初となる試験のやり直しを迫られる事になった。ポイント制のロボを全て一人で撃破し、0ポイントの巨大ロボを隣の試験会場まで吹き飛ばした【個性】の持ち主。
その前代未聞の事態を前に雄英の教師達は連日の残業を強いられる事になった。同じ教師兼ヒーローであるセメントスや片付けのプロでもある13号がいなければ、数日程度では済まなかっただろう。
………どちらかと言えば、報告を纏める際の書類作りの方が手を焼いた気がする。
そんな、入学前から既に顔と名前を覚える事になった後藤甚田。彼を校長である根津は将来有望なヒーロー候補と期待しているが、相澤は其処まで楽観的になれなかった。
(あの時、奴は金髪碧眼へと変わっていた。恐らくはあれこそが奴の個性………だが、それじゃあそれまでの奴の膂力は? 仮にも個性を使った姿が変身した状態だとするなら、黒髪の状態は通常の状態と言える筈。………通常状態にも影響を及ぼす個性? 異形型とはまた違う新たな個性の在り方か)
何度もあの日の映像を見て、数少ない情報から甚田の個性を推察していく。これ迄発見されてきたどの個性とも違う
後藤甚田の身体能力は、生まれ持ってしまった才と独学と自殺紛いの鍛練と自身への追い込みによるもの。個性という枠ではなく、其処から逸脱した異常行為によるものだとは………気付ける筈もなかった。
未だに甚田は個性を使わない。使う素振りすら見せない彼に、今後の甚田の動向を見定める為にも相澤は一歩進みだす。
「おい後藤、お前いつまで三味線引いてやがる」
「あ?」
「さっきから見れば、お前の記録はどれも並程度。他の連中に合わせて力を抑えているつもりだろうが………このままだと、此方もお前は見込み無しだと判断せざるを得ないぞ」
「…………」
そう、先程から甚田は他の個性を扱って挑んでいる生徒達と同程度か、或いは少しだけ上にいく程度の記録しか出していない。まるでやる気が感じられない甚田に対して、相澤は横暴とも取れる手段を選択した。
「力を出し惜しんでヴィランに殺されるのが望みか? なら今すぐ帰れ、此処はヒーローを育成する教育の場だ。部外者をしごいてやるほど、此方は暇じゃない」
辛辣なコメント、眼の鋭さから相澤の言っていることが本気だと知る他の生徒達はその迫力に圧倒されて押し黙る。
そんな最悪の空気となったグラウンドにて、甚田の溜め息が零れた。
「……次は、遠投だったな」
サポートのロボから測定機のボールが手渡される。次の項目はボール投げ、相澤の視線を背に受けながら、甚田はサークルの中へと入っていく。
………個性を使う気配はない。此処まで言っても改善する気のない甚田に、今度は相澤の口から溜め息が漏れる。
(後藤甚田、どうやら見込みは薄いらしい。根津校長には申し訳ないが、明日から普通科への転属も視野に入れる必要が………)
瞬間、チュドンッという砲台のような轟音が相澤の耳朶を叩いた。何が起きたと目を丸くさせるが、既に其処には投げ終えた甚田と耳を抑える生徒達しかいない。
どうやら、漸くその気になったらしい。投球フォームを解く甚田だが、その姿は例の金髪碧眼ではなく、通常時の黒髪黒目のままだ。
これで一つの仮説は立証された。後藤甚田の素の身体能力は個性の影響もあって既に大きく変化している。異形型とはまた別の個性の形、これからまた忙しくなるぞと相澤は自らの頭を掻くが……。
「………? おい後藤、終わったのなら直ぐにサークルから出ろ」
「………はぁ」
サークルから出ることを促す相澤に対し、甚田は先程以上に大きな溜め息を漏らした。失望、落胆、失意の感情がこれでもかと込められた溜め息、一体何が言いたいんだと、相澤が若干の嫌悪感を抱き始めた………その時。
「そこ、危ないぞ」
「なに?」
相澤の横を何かが横切った。音を置き去りにし、勢いと鋭さを乗せたソレは、甚田の左手へと吸い込まれる。
見れば、それは先程甚田が投げた測定機のボールだった。ボロボロで、所々火花を散らせながら、何とか稼働しているそれを唖然としている相澤へと投げ渡す。
「ッ!?」
ボールに映し出される記録、それを見て相澤は更なる驚愕の底へ叩き落とされる。
「ね、ねぇ、今のってアイツが投げたボールだよな?」
「あ、あぁ、でもなんでそれが反対側から飛んできてんだよ?」
「もしかして、あれが後藤君の個性?」
「自分を、或いは触れたモノをワープさせる個性か! 成る程、それなら入学試験でのあの出鱈目な速さも納得だ」
甚田の一連の遣り取りをみて、それぞれ解釈し、納得していく。一部の生徒は「皆節穴かい、今のはそんな生易しいモノとはちゃうやろ」等と冷や汗をダラダラ流しながら戦慄している。
相澤もその一人、目を見開いて驚愕している彼の肩に、ポンッと甚田の手が置かれた。
「───まぁ、そう言う事だ。クラスの士気を下げる不適切な態度をしたのは謝るよ、悪かったな。でも、俺も俺でやるべき事が多いからさ、あんまり目立ちたくないんだ」
「─────」
「折角アンタ等にでも理解できる尺度でやってるんだ。………あまり、困らせないでくれよ」
それだけを告げて甚田はその場を後にする。そんな彼に何かを言い付ける訳でもなく、相澤はその記録に目が離せないでいた。
凡そ四万キロメートル。それが甚田の叩き出した記録。物理法則を無視して地球一周を果たした測定機は、そのまま音を立てて崩れ落ちていく。
「…………」
沈黙した相澤、教師として雄英に赴任した彼は、この日初めて教師としての挫折を味わう事になる。見込みを間違えたのは自分の方だと、それを正しく認識するまで、彼の苦悩は終えることはない。
Q.どうやって主人公はボールを地球一周させたの?
A.力と技術。いずれも彼が培ってきたモノ。
尚、数年後には主人公の記録を越える麗日な無限女子が現れる模様。
「箇条書きマジック止めて!?」
オマケ。
とある女子生徒G.H
本当は入学するつもりはなく、所謂記念試験。生まれてからただの一度も友人という者を得たことがなかったその少女は、持ち前の個性とギターを使い、他の生徒達を援護する。
これがレスキューポイントとして加算され、好評される。
しかしバグる、溶ける、破裂する等の奇怪な言動が目立つ為にヒーロー科ではなく普通科への入学となる。
ピンクのジャージがトレードマークな彼女は、一時は“もう一人の後藤”と称されており、色んな意味で注目されている。
「わ、私と同じ後藤の人。ど、どんな人なんでしょうか? や、やっぱり私と同じ陰キャで根暗なボッチなんでしょうか? ふ、フヒヒ、そ、それなら私と同じで、きっとしょぼくれた顔をして────」
その日、少女は思い知った。自分と彼との差異を。
彼は孤独ではなく孤高、決して自分とは相容れない、陰も陽も超越した存在なのだと。
眩しい、直視する事すら叶わないその少女は、今日も自己嫌悪に陥り人知れず破裂した。