超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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最近、気温の差の所為か、それとも仕事の疲れか体がダルい。

皆さんも体には気を付けましょう。

それでは初投稿です。


記録73

 

 

 

 ヒーローに興味はない。そう断じる甚田に相澤は何も言えなかった。

 

雄英は未来のヒーローを育成する最先端の教育現場だ。過去にオールマイトやエンデヴァーも在籍していた日本屈指のヒーロー養成学校。

 

この学舎に属する生徒達は全員ヒーローになる為に日々己を磨き、切磋琢磨している。

 

 だが、目の前の後藤甚田は違う。ヒーローになる為に雄英に通っているのではなく、ただ恩師にそう約束したからというだけ。思い入れなどある訳がなく、その胸中に抱くのは諦観だけ。

 

そう、甚田は冷めていた。ヒーローを目指す学舎に、未来のヒーロー育成施設とも呼べる雄英を、後藤甚田はいつも冷めた目で見ていた。

 

 何故なら、雄英が用意する壁も試練も試験も、その悉くが甚田にとって児戯にすらならない程に退屈……いや、糧にならないモノだからだ。

 

相澤も薄々気付いてはいた。常日頃から無意識に力を抑えていながら、更に強く意識して実力を出さないようにしている。その理由は先の身体測定の時と同様、他のクラスメイトや教師達に気を遣っているが故にである。

 

 ゴジータとして生きていく為にゴジータとして強くなるべく、日常的に自身を死地へ追い込む甚田にとって、雄英での日々はあまりにも緩慢に過ぎた。

 

だから、せめて学生らしく生活する為に目立つ事なく生活していこう。それが、半年にも満たない雄英での高校生活で、既に見切りを付けた甚田の結論である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、それじゃあヒーロー名が決まった者から順次発表してってね。ヒーロー名は一生付いて回るモノだから、慎重に考えなさいよー」

 

 本日のヒーロー学はヒーロー名。実際のヒーロー活動をする上で世間に知られる自身のもう一つの名前、面白半分で付けた日には割りと本気で後悔する事間違いなしな、ヒーローを志望する者にとって必須内容。

 

幼い頃から自分のヒーロー像を確立していた者は迷う事なく書き連ね、ドンドン発表していく。途中で大喜利みたいなノリになり掛けた時もあったが、その時は本日の担当である18禁ヒーローことミッドナイトの冷静なツッコミのお陰で軌道修正が出来た。

 

「はい、それじゃあ次は………」

 

「俺です」

 

 そろそろ発表する人数も少なくなり、各人のヒーロー名の御披露目は過ぎていく。そんな中次に挙手する甚田に、ミッドナイトの目が一瞬細くなる。

 

(後藤甚田君。ヒーローになるのに興味はないと断言した問題児、逆張りや捻くれた性格という訳ではなく、純粋に興味がない。相澤君はそう言ってたけど、何でそんな子が雄英に?)

 

 先日、甚田は雄英が開催する体育祭を災害に巻き込まれてしまい辞退してしまったと表向きにはされている。その為、体育祭を注目している多くのプロヒーローからの職場体験の誘いが彼だけには来ず、現在甚田は宙ぶらりんの状態になっている。

 

最も、活躍できなかった生徒達の救済処置を兼ねて雄英側は有望なヒーローには常時声を掛け、生徒達本人にも可能な限り希望を叶えてあげようとしているが………甚田からの希望要望は一切なく、ただ流されるままを由としており、その姿勢が甚田のヒーローに対する無頓着さをより説得力を持たせてしまっている。

 

 ヒーローに興味はないのに、雄英のヒーロー科に属している。矛盾に矛盾を重ねた甚田の在り方は相澤だけでなく他の教師兼ヒーロー達の頭を抱えさせた。

 

(本人曰く“約束したから”だそうだけど……それだけで雄英に入学してくるとか、律儀というかなんというか……)

 

 あまり個人の気持ちに無遠慮に踏み込むのはミッドナイトとしても気が引けるが、一度この問題は生徒とは腹を割って話すべきなのではないだろうか。そう思いながら教壇に立つ甚田を見守ると………。

 

「ヒーロー名【ゴジータ】。これが、俺のもう一つの名前だ」

 

ゴジータ。白いボードに書かれたその名称は、一見すれば自分の名前を捩っただけに見える。シンプルながら力強いネーミングにクラスメイト達もミッドナイトも良いんじゃないかと好評だった。

 

 けれど……自らをゴジータと名乗る甚田の表情は強張っていた。緊張、或いは決意、覚悟とも取れる強い想いでその胸中は揺れに揺れていた。

 

(あぁ、言っちまった。とうとう言っちまった。もう、後戻りは出来ない)

 

 これで、もう逃げ出すことも言い訳にする事も出来ない。自らゴジータと名乗ってしまった後藤甚田は、注視してくるミッドナイトに気付く事なく、自らを更に追い詰めていく。

 

(強くならなきゃ。この世界の誰よりも、いつか現れる宇宙の皇帝達を圧倒できる位に、もっと………もっと強く)

 

 見ている視点が違う。彼等と甚田の違いとそれによるズレは、詰まる所そういうこと。しかし、誰もその差異に気付く事はなく、甚田自身も口にする事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しして、雄英の年間の恒例行事である職場体験に参加した甚田───改めゴジータは、インゲニウムが率いるヒーローチーム【IDATEN】の厄介になる事となった。

 

人材を適材適所に配置し、総合力で人々の安寧を守る。その理念の下に集まる彼等の実力は、確かに理に叶っているのだろう。

 

しかし……。

 

「……この程度かよプロヒーロー」

 

「き、君は………」

 

「迷った子供の手を引いてやる。その理念理想は大変結構だが、迷った子供っていうのは一人だけじゃないだろ。ましてや、この状況なら尚更にな」

 

 その日、とあるショッピングモールにて起きた大規模な火災が発生。火の手が早く、瞬く間に子供連れの客達を呑み込んでしまった。

 

助けたくとも火の巡りが早くて助けにいけない。歯痒い状況にインゲニウムが遂に強行突破を仕掛けようとした時。

 

 突然、炎が消えた。あれだけ燃え広がっていた炎が突如として何かに掻き消されてしまった。

 

状況の変化に頭が付いてこない。が、それよりも人命救助が最優先と、インゲニウムは自身の個性であるエンジンをフルスロットルで加速し、救助者達の支援に回る。

 

 ショッピングモールを駆け巡る際、彼は見た。気絶している親子を火傷一つ負わせないで助け出しているゴジータの姿を。

 

 職場体験の最中である彼は、事務所にて待機を命じていた。その彼が一人で此処にいる。その背中を見てヒーローとして経験を重ねてきたインゲニウムは一つの解答を導き出した。

 

 その後、事務所にて。

 

「……ゴジータ、先のショッピングモールの火災の時、何処で何をしていた」

 

「火災の消火活動をしてました」

 

 彼───甚田は、さも当然のように答えた。ヒーローとしての資格もなく、個性の使用すら許されていない学生の身分でありながら、自らの意思だけで事をやり遂げる。

 

そんな、現在の個性社会のルールから真っ向から喧嘩を売る所業のゴジータに、当然サイドキック達は怒りの声を上げた。

 

 ルールを守らない輩はヴィランと同じ。そう声高にしているサイドキック達を宥めながら、インゲニウムは再度問う。

 

「ゴジータ……いや、甚田。どうしてそう一人で成し遂げようとする。我々もただ手をこ招いていた訳じゃない。状況に対処できるヒーローと連携し、事に挑むつもりだった。君の個性がどれだけ凄いかは知らないけど、それでも一人で出来ることには限りがある」

 

「君に万が一の事があれば、君の後見人だって悲しむだろ。何故、もっと自分を大事にしない」

 

 目の前のヒーロー、インゲニウムは甚田の行いに警告をしている。それは先の己の欲に忠実なエセヒーローとは違う。真に甚田を気遣っての事だった。

 

しかし。

 

「────アンタさ、自分の理念を忘れたのか?」

 

「なんだって?」

 

「アンタが理想としているヒーロー像は、迷っている子供の手を引いてやる事だろ? あの燃え盛る炎の中、親を探して泣いている子は何人もいたんだがな」

 

「ッ!?」

 

 ゴジータとインゲニウム、両者の間にある差異は呆れる程に広く、深かった。

 

ゴジータの言葉に愕然となるインゲニウム、項垂れる彼を一瞥すると。

 

「どうやら、此処で俺が得られるモノは何も無いみたいだな。じゃあなプロヒーロー、仕事の邪魔をして悪かったよ」

 

 それだけを言い残し、ゴジータはインゲニウムのヒーロー事務所を後にし、残った日数はただ自己研鑽の鍛練に充てていた。

 

しかし、当然雄英側はそんな勝手な事をする甚田を許す事は出来ず、甚田は後日再び担任である相澤に放課後呼び出しを受けていた。

 

「────後藤、率直に訊ねたい。お前は一体何を目指しているんだ?」

 

 誰もいない職員室、夕焼けの明かりが互いの半身に影を落としている中、相澤はこれ迄の生徒とはどれも当てはまらない甚田にとうとう音を上げていた。

 

そう、分からないのだ。ヒーロー育成校である雄英に入学しておきながら、ヒーローを目指してはおらず、なのに事故や災害には率先して駆け付けている。

 

資格の有無など関係なく、最悪ヴィラン認定されても可笑しくはない所業。現時点では雄英やインゲニウムの事務所が上手く誤魔化してくれているから表沙汰にはなっていないが、それでもこんなことが続くのであれば庇いきれない。

 

「お前は何を目指している? ………いや、何になりたくて此処にいる?」

 

 一体後藤甚田は何を目指しているのか、目の前の生徒の真意を見極めるべく、相澤は甚田に率直な疑問を叩き付けた。

 

しかし………。

 

「決まっています。ゴジータになる為です」

 

「─────は?」

 

 その返しに、言葉を詰まらせた。

 

「先生は、この地球の外………宇宙にはどれだけの脅威が存在しているかお分かりですか?」

 

「は? え? う、宇宙?」

 

「宇宙にはフリーザ軍を筆頭に数多くの脅威が存在している………かもしれません。俺は、そんな奴等を倒す為に日々修行の毎日を続けています」

 

「…………」

 

「先日の火災現場への介入もそう、ゴジータである俺が、出来る筈の事をやらなければ、それはゴジータの顔に泥を塗る事になる。俺は、俺がやらなきゃいけないことをやり遂げているだけなんですよ」

 

「待て、待て後藤、お前は………」

 

「相澤先生、もし明日俺よりも強い奴が地球に侵略しに来たら、どう対処します? 大人しく降伏しますか? それとも戦いますか? まぁ、先生はヒーローだから後者を選びそうですが……あまりお勧めはしません。一瞬で殺されて終わりです」

 

 矢継ぎ早に語る甚田の言葉に、相澤は付いて行けなかった。彼の口にする言葉の意味を半分も理解出来ない相澤は、語り続ける甚田を不気味に思いながらも聞き続けるしかなかった。

 

「雄英の授業では、強くなれる処か鈍ってしまう。だから自分で鍛えるしかないんです。俺がゴジータとして完成する為にも、どうかご理解の程を宜しくお願いします」

 

 そうして甚田が言葉を紡ぎ終えると、これ迄の話を踏まえて相澤に反応を見る。しかし、言葉の半分の意味も理解で来ていない相澤は、当然その期待に答えられる筈もなく……。

 

「お前は………何を言っているんだ?」

 

ただ、そうとしか言えなかった。

 

 愕然と、心底理解できないと、若干怯えてすらいる担任の表情に、甚田も我に返る。

 

そして………。

 

「───そう、ですよね」

 

「────っ」

 

 疲れたように笑う甚田に相澤は自らのやらかしを自覚した。

 

「すみません、意味不明な事を口走って。今のはただの冗談ですから、気にしないで下さい」

 

 その顔は、絶望した人間のソレ。分かっていた筈の答えを改めて突き付けられた罪人の顔だった。

 

「俺は、どうやら自分で思っていた以上に問題児だった様です。今後はご迷惑をお掛けしないよう気を付けますので………それでは」

 

「ま、待て後藤………!」

 

 頭を下げ、職員室を後にする。遠ざかる甚田を呼び止めようとするが、今の相澤に彼を呼び止められる言葉は持ちえない。

 

 理解できないものを、理解できないままにしておくのは、非合理的の極み。そんなこと、ずっと前から分かっていた筈なのに………。

 

「何を、やっているんだ俺は」

 

自分の愚かしさを呪いながら、相澤はただ頭を抱えることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。分かっていた事だ。俺のコレは誰にも理解はされない」

 

 雄英を出て、帰路に就く甚田。その胸に抱くのはこれ迄一度も忘れたことの無い決意と覚悟。

 

 自分の情景は理解されない。それは当たり前な事であり、当然の帰結。

 

 自分の悩みは共感されない。それも当たり前であり、当然の帰結。

 

 自分の恐怖は理解されない。そんなのはずっとそうで、これ迄もこれからも、きっと理解される事はない。

 

 理解など求めるな。共感など求めるな。元よりこれは自分だけの問題。自分にしか解決できない問題なのだ。

 

 自分はゴジータだ。最強で、最高で、◼️◼️◼️◼️(前世の自分)から続く己だけの情景。決して傷を付けてはならず、汚してはならない。

 

「強くならなきゃ。俺が、俺がやらなきゃいけないんだ」

 

 進むしかない。もう、自分にはそれしか残されていない。最強無敵の戦士となる為に、甚田はより己を追い詰めていく。

 

それが例え、後藤甚田という人格を磨耗させる事になるのだとしても。

 

 その道が、大切な恩人を泣かせる事になるのだとしても。

 

後藤甚田は、もう………

 

 

止まらない。

 

 

 

 

 





後藤甚田のやらかしは、他にも表沙汰に出てないだけで実は結構やらかしてます。

いずれも現在の個性社会にとってルール違反しているものばかりなので、担当した人達はそれはもう頭を悩ませています。


しかし、その一方でとあるヒーロー殺しからは既に注目されており、この頃から既に推しの一人に認定されています。




 初めて見たのは土砂崩れに巻き込まれた時、彼は黄金の炎を纏う戦士を目の当たりにし、次に見えたのは燃え盛る炎の中で泣きじゃくる子供達を抱き抱えていた時だ。

「何故だ。何故お前は、人を助ける。お前のその行動は今の社会には認められはしない。なのに!」

「知るかよ。気が付いたら身体が勝手に動いちまってんだ」

「!!??」

「つーか、そういうお前はなんなん………て、いねぇ。自分から一方的に声を掛けておいて、用を済ませたらトンズラかよ」

(あぁ、良かった! この世界にはまだ本物のヒーローがいる! ヒーローよ、まだ知らぬヒーローよ! どうかその苦悩に負けず、世界を照らしてくれ!!)

 ヒーロー殺し、ステイン。オールマイトからヒーローとしてのなん足るかを学び、ゴジータに希望を見出だしたその男は、彼の抱える苦悩を察しながら、ゴジータの今後の活躍に期待するのだった。




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