超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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唐突に寒くなってて草

そんな訳で初投稿です。


記録75

 

 

 

「おはよー、あれ? 後藤の奴まだ来てねぇの? もうすぐHRの時間じゃん」

 

「今日もこないのかな。もう一週間になるよ」

 

「これ噂だけど、甚田の奴家にも帰っていないらしいぜ」

 

 いつもと変わらない日常の日々。雄英のヒーロー科に無事に合格した生徒達は、今日も学校側から課せられる艱難辛苦を乗り越えようと息巻いていた。

 

しかし、ここ最近そんな彼等の日常に一つの穴が出来上がる。本来なら満席で埋まる筈の席、その中の一つにポッかりと空きが出来てしまっていた。

 

 後藤甚田。自分達と同じ雄英ヒーロー科に在籍するクラスメイト、彼の一週間に及ぶ欠席は生徒達に言い知れぬ不安感を与えていた。

 

「ねぇ、誰か先生から何か聞いてない?」

 

「さぁ、俺は何も聞いてないけど……」

 

「アイツ、相澤先生だけじゃなく、色んな先生にも態度悪かったからなぁ……まさか」

 

「ちょ、止めてよ。仮にもクラスメイトだよ!」

 

「だってよ、アイツスゲー個性持ってるみたいだし、実際それで期末試験では三人の先生相手にも圧倒してたじゃん。天狗になっても仕方がねぇっつーか」

 

「だから、もう雄英には来なくていいって?」

 

 クラスメイトの欠席、それも一週間も続いているとあっては、流石に生徒達の間にも憶測が飛び交った。他者を寄せ付けない程の圧倒する才能とプロヒーローである教師達すら一蹴するセンス……彼の実力を羨むのに然程時間は掛からなかった。

 

圧倒的強者、それ故に問題児とされてきた後藤。そんな彼が素行の悪さを口実にとうとう雄英側から手がつけられないと退学処分を言い渡したのではないか? とある一人の生徒からそんな言葉が溢れ落ちた時。

 

「はっ、それが本当なら雄英はトコトン見る眼が無いなぁ」

 

「善院……おまえ」

 

「ドイツもこいつも憶測予想で変にビビってからに、これが天下の雄英生とは、呆れて言葉もないわ」

 

「け、けどお前だってアイツには何度も辛酸を舐めさせられてるじゃないか! この前の戦闘訓練だって一瞬でノされてただろ!」

 

「俺の無様さと後藤君への陰口に何の因果があるかいボケ」

 

 後藤に対して好き勝手言う生徒達に、一人の男子生徒が切り返した。つまらんことばかり言ってないで、少しでもヒーローになれるように努力せんかい。正論の刃でキリつける善院なる男子生徒だが、彼等がそれで収まる筈もなかった。

 

このままではクラスの空気が悪くなる一方だ。それを危惧してか、別の男子生徒が話に割って入ってきた。

 

「そこまでにしよう! 互いに言いたいことは数あれど、もうじき先生も到着する。気持ちを切り替え、授業に望むとしよう」

 

「え、炎獄………」

 

「………ま、クラス委員長に言われたら従うしかないな。そんじゃ」

 

凛々しい顔付きの男子生徒、獅子の鬣の様な髪を靡かせながら場を収めた少年は、普段は気の良い少年の元へ歩み寄る。

 

「………ゴメンな杏君、余計な面倒をかけてしもたね」

 

「気にするな! とは言え、確かに今のはお前らしくなかったな。そこまでアイツの事が気になるのか?」

 

 クラスの委員長の言葉に少年は頷く。彼にとって後藤甚田とは強さの象徴、それ故に傲慢な所が目につく所があるが、それは別に他者を見下している事ではない。

 

「………後藤くんは、真面目なだけや。純粋に強くなることを望んでいる。それを理解出来ないからって陰口叩くのは、筋違いやろ」

 

誰よりも強くあろうとし、必死になっている。彼とはあまり会話をしたことはないが、同じく強くなる事に固執している少年にとって、後藤甚田の存在は眩しかった。

 

「うむ、お前の言いたい気持ちは分かった。ならばこの後先生に直談判しに行くとしようか!」

 

「直談判って、何を訴えるつもりなん?」

 

「決まっている。後藤の自宅への突撃許可だ!!」

 

 ヒーロー科一年A組のクラス委員長である彼は、彼の持つ個性に負けず劣らずに良い意味で暑苦しい男であった。

 

が、その案は彼等の訴え虚しく却下される事になる。何故なら、他ならぬ担任である相澤と相方の山田が、彼の実家である星の都へ赴いているのだから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後藤甚田、彼が雄英に来なくなってもう一週間か」

 

「根津校長、本当にアイツはこのまま雄英を辞めるつもりなんスかね」

 

 雄英の教師兼プロヒーローであるプレゼントマイク、本名山田ひざしは不安を隠しきれない面持ちで車を運転し、後部座席に座る雄英校長に訊ねた。

 

彼が雄英に来なくなって一週間、既に彼のクラスでは実家である施設にも帰っていない事も知れ渡っており、彼の行方は依然として分からないままとなっている。

 

 このままでは行けないと、生徒にも教師にも自由であることを良しとする雄英もとうとう動かざるを得なかった。彼の安否を確認するためにも、先ずは彼の家である施設【星の都】に向かうことになった。

 

「───先日、彼から一通の手紙が渡されたよ」

 

「手紙?」

 

「直接渡された訳じゃなく、扉に挟める形でね。内容は………退学届けだったさ」

 

「ッ!?」

 

 一方的に校長室に届けられた退学届け。落ち込んだ様子で語る根津校長に、これ迄無言を貫いていた助手席に座る相澤の肩が揺れた。

 

「た、退学って………!」

 

「どうやら彼、個性が使えなくなったみたいでね。書かれていたモノもごく僅かだったよ。“自分はゴジータにはなれない。だから辞める”と」

 

「ンだよそれ、そんなの………訳わかんねぇよ」

 

「そうだね、分からないね。でも、そんな僕達では推し量れないものに彼は苦しんでいた」

 

「─────」

 

 退学届に書かれていた僅かな文言、それに書かれていた内容は、山田も根津も理解が出来なかった。しかし、その理解出来ない部分こそ甚田が苦しんでいた要因そのもの、其処に気付けず、見抜けなかった自分達こそが彼を退学まで追い詰めてしまった。

 

 相澤の顔に影が掛かる。あの時誰よりも早く気付き、諭すべきだったのが自分の筈なのに、理解が出来ないと突き放してしまった。その事を今更悔やんでも遅い。それでも相澤は思わずにはいられなかった。

 

「あの時、俺は、少しでもいいから奴の言葉に耳を傾けるべきだった」

 

「け、けどよ、その………フリーザ軍だって? 何だよ宇宙からの侵略者とか、そんなの理解しろって言う方が無茶振りだろ」

 

「…………」

 

 山田は相澤から聞かされた甚田の言葉を妄言の類いと思った。山田だけじゃなく、他の多くの教師がそう思い、呆れている。

 

山田も甚田の事は憂いてはいるが、やはり彼の言葉に信憑性は薄いと断言せざるを得なかった。現在の人類に個性という超常が発現してから百年余り、人類の宇宙進出への夢は個性という異能と其処から生まれる新たな問題によって、未だ先送りになっている。

 

そんな現状の地球人類に、突然宇宙からの侵略者とか言われても実感が湧かないのは当たり前で、共感できないのは当然の事であった。

 

「けど、一つだけ彼の言葉に無視できないものがある。それは、彼以上の脅威が現れた時、果たして我々に打つ手はあるのか、という話さ」

 

「「─────」」

 

 根津校長の言葉に、二人の教師は押し黙る。

 

 後藤甚田、既に彼の実力の高さは雄英の教師生徒問わず知れ渡っており、その圧倒的強さに誰もがトップヒーローの仲間入りを疑わなかった。

 

しかも、それが甚田にとって加減した実力であり、半分どころか一割にも満たないごく小規模なモノ。本気になったら学校が耐えられない、教師達や生徒達に余波だけで怪我を負わせかねない。

 

そんな、恐竜がアリを踏み潰さない様な繊細な力加減。そんな彼でも敵わない脅威が敵意と悪意を持って現れた時、果たして自分達が敵うのだろうか。

 

「勿論、それだけが彼の抱える苦悩の全てではない。けれど、そういう恐怖を常日頃から抱えていたのは間違いない」

 

 普段の知る甚田からは想像出来ない恐怖というワード、もし根津校長の言うことが真実なら、彼はあの飄々とした態度の裏で並々ならぬ想いを抱いていた事になる。

 

 彼が雄英に入学してから半年足らず。未だに後藤甚田の人物像は明らかになっていないが、今回の訪問でその全容が少しでも明らかになれば、彼への理解も深まるかもしれない。

 

警察や、他のヒーローに頼るのはその後でも良い。今の自分達に必要なのは、生徒に対して理解を深める事。

 

(待っていろ後藤、何も出来ない俺だが、生徒の一人の悩みくらい一緒に悩んでやる)

 

 自分の非力を棚上げするのは止めて、相澤も決意を固める。

 

そして、彼等は遂に辿り着く。後藤甚田の原典、地下に眠る強迫観念で凝り固まった………歪なオリジンの在り方に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────なんだ、これは」

 

 星の都。親を失くし、孤児となった子供達が最低限の生活を送れるために姫野葵が設立した児童養護施設。

 

施設到着後、死んだ目で相澤達を迎え入れた姫野は甚田が利用していた地下へと案内し、相澤達はその光景に絶句した。

 

 血。広がった地下空間にこびついた無数の血の跡、空間の至る所の箇所は陥没し、ひび割れているが、彼等が目についたのは生々しく、怖気がする程の血の跡だった。

 

「此処で、あの子は自分を鍛えていました。毎日毎日、学校がある日もそうじゃない日も、あの子は我武者羅に己を苛め続けました」

 

「鍛えるって………」

 

「苛めとかシゴキとかのレベルじゃねぇ、拷問の跡だろ、これ………」

 

「────」

 

 目の前の凄惨極まる光景に相澤も山田も言葉がなかった。相澤の肩に居座る根津校長すら、普段は見せない沈痛な面持ちで歯を食い縛っている。

 

「腕が折れようと、足が折れようと、あの子は立ち上がりました。自分はゴジータだからと、心配は要らないと、不敵な笑みで仮面を被り続けました」

 

「ッ、アンタは!」

 

「私には!!」

 

「ッ!?」

 

「────あの子の気持ちを推し量れなかった。どれだけ傷付いても立ち上がり、どれ程血を流しても笑い続ける。そんなあの子を見て………私は、気持ち悪いと思ってしまった」

 

 姫野葵は、特異な才能の持ち主だった。1500倍の重力室という、物理法則を度外視した発明を生み出し、施設の運営の為にその技術を必要な分だけ小分けに売り出し、経営していた。

 

子供達の面倒を見て、慈しみ、自分なりに愛情を持って接してきた。

 

 しかし、後藤甚田の歪んだ強迫観念に対して、彼女の想いは善性に過ぎた。

 

「私じゃ、あの子の仮面は剥がせない。だから、私はあの子を雄英に行かせました。私じゃなく、ヒーローを志す生徒達なら、きっとあの子の何かを変えてくれると………」

 

「─────」

 

「お願いです。どうか、どうかあの子を救ってください。他力本願なのは分かっています。情けないのも分かっています。私には頭を下げることしか出来ません。ですから、どうかお願いします」

 

「あの子を、後藤甚田を救って下さい。そうでないとあの子は………あの子でなくなってしまう」

 

 縋る様に………いや、実際縋っていたのだろう。その目から大粒の涙を流し、甚田を憂う彼女の想いは相澤達の胸に深く刻み付けた。

 

 しかし悲しいかな。縋り付く彼女に三人は何も反応出来なかった。想像を遥かに越えた甚田の歪み、その根っこを目の当たりにした彼等には、ただ目の前の光景を噛みしめ、呑み込むことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あの子傘も差さずに大丈夫かな?」

 

「止めておけって、変に関わって面倒ごとに関わるのは。ああ言うのはヒーローに任せておけば良いんだよ」

 

 雨が重い。この世界に生まれて初めての感覚、人目に晒され、雨に打たれずぶ濡れの甚田は、その目に光を失い、街中を歩いていた。

 

(───結局、俺は何をしたかったんだ?)

 

 頭に浮かぶのは、これ迄自分の行ってきた事。強くなる事にばかり必死で、ゴジータという存在になろうとして、それでも届かなかった現実。

 

唯一至れた超サイヤ人になる事も出来なくなり、どれだけ力を高めても、あの姿になる事は敵わなかった。

 

それも当然か、幻覚とは言え、自分は情景(ゴジータ)に見捨てられたのだ。自分はゴジータではない、そう突き付けられ、他ならぬ自分自身が受け入れてしまったのだ。

 

(もう、何もかもがどうでもいい)

 

 ゴジータに成れず、強くなれる道も閉ざされ、甚田の失意はただ深まるだけ。何もかもがどうでもいい、自暴自棄とも異なる失意の底に落ちた甚田は、ただ自分が消えてしまう事を望んでいた。

 

 ゴジータにはなれない。そんな分かりきった現実に無駄に足掻き続けてきた結果、妥当な顛末だと、自らを嘲笑しながら甚田は、ひっそりと誰からの記憶からも忘れられる事を望んでいた。

 

 自分の想いを理解されないのが辛いのではない。ただ、憧れにすがり付いていただけの自分が……恐ろしく滑稽で、みっともなく、惨めだった。

 

(はは、こんなことなら、生まれてこなければ………)

 

 いっそのこと、何処かで野垂れ死んだ方がこの世界の為かもしれない。無駄に引っ掻き回し、迷惑を掛けるより、よっぽど………。

 

「あっ!」

 

 瞬間、己の体に何かがぶつかりそうになった。相手側に怪我を負わせないよう咄嗟に自分の体を捻ったが、どうやら自分は相当弱っていたらしい。勢いに呑まれ、そのままうつ伏せに倒れる甚田。

 

もう、自分にはこんな簡単な事すら出来なくなったのか。哀れや惨めさを通り越して笑えてくる自分の現状に、甚田は口許を歪ませ………。

 

 ふと、視界の端に手が延びてきた。色白で、綺麗な手。ガラスの様に繊細でか細いその手に差し出された甚田は、一瞬訳が分からなかった。

 

 見上げれば、眼鏡を掛けた白髪の女性が膝を曲げて自分を覗き込んでいた。

 

 

 

 

 





次回、You Say Run

曇り空は、晴れるから良いのだ。




登場人物簡易紹介。

クラス委員長。

甚田の通うヒーロー科一年A組のクラス委員長。

獅子の鬣を想起させる髪型で、特殊な呼吸法と手にした得物に炎を纏わせる個性で戦う勇猛果敢で勇猛邁進な人物。

声が大きく、何事にもハキハキと応え、昼食時には食堂にて彼の「うまい!」が響き渡っている。

学生ながら実力は高く、弟がいるため面倒見が良い。関西弁のクラスメイトと良くつるんでいる。

「悩み事ならいつでも気軽に相談してくれ! 俺で良ければ力になるぞ!」

「ホンマ、いい人やわぁ」

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