超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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最近、寒さが笑えなくなってきた。

そんな訳で初投稿です。




記録76

 

 

 

 ────その雨は、いつもより重かった。

 

 父と母は、個性婚という今では寂れた価値観の下で夫婦となった。父のオールマイトを超えるという野望、その礎として選ばれた母は幾度となく父と交え、子を成していった

 

私は、そんな父と母の間に生まれた二人目の子供。轟家の長女として産まれ、他の兄弟達と同様に育ってきた。

 

 差異が生まれたのは、長男である燈矢に個性の扱いで欠点が出来てしまった頃。自らの個性に体が適応出来ず、自身の野望が果たせないと父が思い知った時である。

 

父……轟炎司は自らの炎で焼かれる燈矢を止めるように促すが、彼は父の言葉を振り払い、個性の力を出し続けてきた。

 

 何度も言っても分からない兄に、父も母も徐々に追い詰められていき……そして、悲劇は起きた。

 

 山火事。自らの個性を扱いきれなくなった燈矢は、自身の炎に焼かれ、亡くなった。父親を振り向かせたくて、懸命に頑張っていた長男は、最期まで父の事を考えながらあの山へ消えていった。

 

 それから父は、自らの執着を末っ子である焦凍に向け、虐待紛いの特訓を行う毎日。そして長男を失い、それでも止まらない父の野心に心身共に疲弊した母は精神を病み、焦凍に火傷を負わせ、自身も入院した。

 

 あの日から、ずっと我が家は狂ったままだ。父は野望に取り憑かれ、兄は死に、母は壊れ、末っ子は理不尽な痛みに毎日泣いて、次男はそんな家族に見切りを付けた。

 

私は、ただ繋ぎ止め……いや、そう見せるだけで精一杯だった。おかしくなってしまった私達だけど、それでも家族なのだと、特訓で怪我をした弟の手当てをしながら、そんな自己満足に浸っていただけだった。

 

 私だけだ。皆が傷付いている中で、私だけが常人ぶっている。何も出来ず、なにもしなかった私が、それでも家族だからと言い続けている。

 

────気持ち悪い。父や兄や母でもなく、誰よりも私自身が気持ち悪い。ただ自分が嫌だからと、そんな我が儘で始めた母親ごっこ。いつか元の家族に戻れると、ありもしない幻想に縋るだけの毎日。

 

本当に気持ち悪い。そんな【元の家族】なんて、最初から何処にもないというのは、私自身が良く分かっている事なのに。

 

 ─────でも。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 それでも、私は彼の事が放ってはおけなかった。

 

 降り頻る雨の中、ぶつかりそうになった私を寸での所で避け、雨溜まりへ倒れる彼。ボロボロで、手足に巻かれた包帯のあちこちから血が滲んでいる。

 

 周囲の人達は………見て見ぬふり。ヒーローの到着を待てと、通報すらしないで通りすぎていく彼等に、私は言い知れない感情を覚えた。

 

「………あぁ、何でもないよ、気を遣わせて悪かったな」

 

 戸惑う私を余所に、彼は平静を装いながら立ち上がった。そんな彼の横顔を見て、私は嘗ての兄の顔を思い出していた。

 

 きっと、あの頃の彼も近い顔をしていたのだろう。認めたくても認められない、認めて欲しくて、でも認められない。

 

だから、せめて自分だけでも認めようと、必死に足掻くその姿。………きっと、目の前の彼もそうなのだろう。

 

だから………。

 

「待ってください!!」

 

 気付けば、私は彼の手を取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手は硝子よりも脆く、雪のように白かった。雑に振りほどけば砕いてしまいそうな程に弱々しい。

 

なのに。

 

「………なんだよ」

 

 甚田は、その手を振り払えなかった。

 

「そんなボロボロで、何処に行くつもりなんですか」

 

「別に、何処でも良いだろ」

 

「そんな、放っておけません! 病院で適切な治療を受けて安静にしてないと!」

 

「なんだ、アンタ医者か? なら心配すんな。これは俺の不甲斐なさが招いたもの、この傷も直ぐに治る」

 

 目の前の女性は医者なのか、矢鱈と自身の体の事を気に掛けてくる。しかし、後藤甚田の肉体はこの世界に於ける最上級の規格外。手足がへし折れようと、その尋常ならざる回復力で直ぐに修復し、どれだけ雑に扱っても短時間で完治させてしまう。

 

だから、自分の事は心配する必要はないと、甚田はやんわり女性から手を離すように促すが……。

 

「そんなの、信じられる訳ないじゃないですか。そんな辛そうな顔しているのに、どうして強がるんですか!」

 

 手は放さない。処か、より強く握り締めてくる女性に、甚田の苛立ちは徐々に積み重なっていく。

 

 既に周囲に人影はなく、雨足だけがドンドン強くなっていく。自分に触れていては自分も濡れるだろうに、それでも目の前の女性は甚田の手を放そうとしない。

 

「………いい加減にしろよ。何でアンタみたいな人間に此処までしつこくされなきゃならないんだ。初対面だろうが」

 

「だって、それは君が………」

 

「俺はゴジータだ! 誰よりも強く、何よりも強く在らなきゃならない! そんな俺が────」

 

仮令(たとえ)貴方が何者であろうと、貴方は貴方じゃないですか!!」

 

「────!」

 

 それは、甚田に取って地雷だった。分かっていた事、分かりきっていた事実。それでもと自分に言い聞かせながら、決して目を向けようとしなかった真実。

 

自分は自分。そんな、誰にでも分かるような事実は甚田に取って何物にも勝る劇物、故に彼の怒りのボルテージは一気に膨らんでいく。

 

「………お前に」

 

「ッ!?」

 

「お前に、何が分かる」

 

 ヴィランですら裸足で逃げ出したくなる怒気。甚田の怒りの矛先を向けられた女性は、その顔を真っ青にさせる。

 

が、それでも手を離さない。いい加減振りほどいてやろうかと、怒りで我を見失い掛けた甚田は力を込めようとした時。

 

「それでも、それでも私は貴方の事が放っておけません。だって────」

 

「お前、本当にいい加減に………」

 

「だって! ………貴方が、助けを求める顔をしていたのだから」

 

 目尻に涙を浮かばせて、それでも笑い掛けてくる。優しく、朗らかで、慈愛の微笑み。

 

 その言葉に、その微笑みに、後藤甚田は自覚した。自覚───してしまった。

 

「お、俺は………」

 

 ゴジータという最強の力を使い、誰よりも強くなり、誰からも大切な人達を守れるようになる。そう意気込み、自らを追い込み続けてきた少年は………。

 

 その実、誰よりも助けを求めていた。

 

「俺は、俺は………」

 

 足ががくつき、力が入らない。崩れ落ちる自分を、女性は精一杯抱き止める。

 

 手にしていた傘は、既に手放している。自身がずぶ濡れになる事も厭わず、彼女は今日まで自身を痛め続けてきた彼を労る様に抱き止めた。

 

 だが、当然女性に甚田の体を支える程の力なんてあるわけがなく、その場に座り込むだけで精一杯。けれど、仮令(たとえ)びしょ濡れになろうとも、その手は決して……。

 

「もう、大丈夫だよ」

 

 離すことは、しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後手放した傘を拾い、手を繋いだまま近くの公園にやって来た二人は、屋根付きのベンチに座る。

 

女性の手慣れた手腕で、甚田の体の至る所にあった傷に手当てを施していく。その間甚田に目立った反応はなく、抵抗の無い彼に女性の処置は瞬く間に完了していく。

 

「良かった。手持ちの包帯で何とかなって、私の家ってちょっと特殊で、良く怪我をする弟にこうやって手当てをしてるんです。ほら、簡単な治療の出来る先生って、生徒から見てもポイント高そうでしょ?」

 

「─────」

 

 今更ながら場の空気が重い。女性は少しでも雰囲気を変えようと声色を明るくして、話し掛ける。

 

が、それでも甚田からの反応はなかった。無視しているのではなく、単純に此方の声が届いていない。そんな無反応の甚田に苦笑いを浮かべる事しか出来ない女性だが、これ迄の自分の言動を振り返り、その顔を瞬く間に赤くさせていく。

 

(て言うか、何で私こんな事してるのー!? 私、完全に変な人じゃん! しかもこの子学生!! 私もうすぐ二十歳超えるのに、一歩間違えれば犯罪者じゃない!!)

 

 顔を真っ赤にさせて、はしたないと首を横に振る。

 

「───俺は」

 

 そんな彼女の耳に漸く口を開いた甚田の言葉が届いた。

 

「俺は、強くならなくちゃいけないんだ。誰よりも強くなって、最強になって、アイツ等に対抗しなくちゃいけない」

 

「…………」

 

「負けちゃダメなんだ。俺が負けたら、皆が殺される。俺がやらなきゃ……誰がやるんだ」

 

 ブツブツと言葉を吐き続け、その意味は当然女性に推し量れるモノではない。けれど、一つだけ分かった事がある。

 

(そっか、この子……優しいんだ。それもただ優しいんじゃなく、誰かの為に頑張れる強くて優しい子)

 

 強く在ろうと、強くなろうとするのも、全ては守りたい人達の為。存在するかも分からない脅威を相手に仮令(たとえ)無駄に終わろうと鍛え続ける。求道とは異なる修練の道、それを否定するには目の前の少年は純粋過ぎた。

 

 いや、否定なんてする必要はない。彼の想いは何処までもまっすぐで、それがほんの少し捻れただけ。

 

なら、自分に出来る事があるとするなら………。

 

「───ねぇ、貴方がなりたいモノって、本当にその先にあるの?」

 

 その捻れた道を、自分で気付かせてあげるだけ。

 

それだけで………ほら、目の前の男の子はハッと我に返っている。

 

「君は、今までずっと頑張ってきたんだね」

 

「────」

 

「でもさ、君の周りの人は君が休んでくれるのを待っているんじゃないかな。頑張るのは大事だけど、それと同じくらい休むのも大事だよ」

 

「でも、怖いんだ。俺が強くなるのを止めたら、誰が宇宙からやってくるアイツ等と戦えるんだって、きっと他の奴らじゃフリーザ達は倒せない。可能性があるのはゴジータとして生まれた自分だけ、だから………」

 

「うーん、別に良いんじゃないかなぁ?」

 

「…………え?」

 

「そんなになるまで頑張って、それでもダメだった。別に怠けている訳でもなく、毎日を頑張ってきた君がいつか負けたとしても、私は君を責めたりしないよ」

 

「………俺が負けた所為で、殺される事になってもか?」

 

「なっても、だよ」

 

 頑張っている子を貶したり、嘲笑ったり、罵倒しては決してあってはいけない。それは教師を目指している女性だからこそ信条としているモノである。

 

たとえ目の前の少年が凶悪なヴィランに敗れ、それで自分達が殺されるのだとしても、決して少年の所為にはしない。そう断言する女性に甚田は初めて女性に視線を向けた。

 

「───そんなこと、初めて言われた」

 

「そう? でも、私は其処まで不安には思わないかな。それに、たとえ君が負けたとしても、多分私は殺されないと思う」

 

「は? な、何で……」

 

「だって君、諦めないでしょ?」

 

 どうやら、これも初めて言われた言葉らしい。目に力が戻り、光を宿す黒い瞳は力強く輝いていた。

 

「諦めないのなら、きっと君は大丈夫。絶対に、なりたい自分に成れるよ」

 

 立ち上がり、傘を差す。彼はもう大丈夫だと、そう確信しながらその場を後にする女性に。

 

「あの!」

 

「?」

 

「────ありがとう」

 

 甚田は、一言だけ声を掛ける。傷の手当てをしてくれた事、自分の気持ちを軽くしてくれたこと、押し潰されそうな重圧から助けてくれたこと、何より──道を示してくれた事。

 

自分のしたことは小さなアドバイス。それでも、目に力と光を取り戻し、ありがとうと言ってくる少年に。

 

「────頑張れ、ヒーロー」

 

 女性───轟冬美は、笑顔と共にエールを贈り、その場から去っていった。

 

 気付けば、雨は止んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────名前、聞くの忘れてたな」

 

 一方的に絡んできて、自分の抱えてきたものをこれまた一方的に軽くしていった彼女は、もう見えない。

 

今の甚田にあるのは軽くなった心と体と、取り戻していく力の脈動。失っていたものを取り戻していくような、そんな感覚。

 

………いや、失くしていたんじゃない。きっと、自分から勝手に見失っていただけなんだ。良く見れば簡単に分かる筈の答えを、今までの自分が拗れて見えなくなっていだけ。

 

 きっと、答えはずっと前から出ていたんだ。あの日、自分がゴジータだと認識したあの日から。

 

ただ、それを口にするのが怖かっただけ。

 

でも、今なら言える気がする。口にしても、許される気がする。

 

「───良いかな、俺のなりたい自分(ゴジータ)で」

 

 きっと、万人には受け入れられない。誰もが理想とし、夢想するゴジータではなく、自分が思う彼。

 

不敵に笑い、大胆に戦う。超絶で壮絶な超戦士。自分があの日“カッコいい”と思ったゴジータに。

 

『『いいんだよ、それで』』

 

「ッ!」

 

 ふと、声が聞こえた背後を振り返ると………やはり、誰もいなかった。あるのは先程まで自分が座っていた屋根付きのベンチ。

 

 幻聴? ただの気の所為? それとも………。

 

「………ま、いっか」

 

 ともあれ、自分のやりたいもの、目指すべきモノは決まった。なら、後は………。

 

 足が進む。その足取りは軽く、いっそ空が飛べる程に。

 

 なりたい自分を見付けた甚田は、自分のなりたいものを示す為に───走り始めた。

 

道行く人々を、車を、風すらも置き去りにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────アイツ、今日も来ないんかな」

 

 ヒーローの名門校、雄英のとある施設。今日のヒーロー学は生徒達のヒーローとしての必殺技を編み出す時間となっている。

 

それぞれ自らの個性を用いて多種多様の必殺技を編み出していく生徒達、しかしそんな彼等の中に一人だけ姿が見られない。

 

 相澤と山田、共に今回の授業で引率を務めている教師二人は、この場にいないあの問題児について思いを馳せる。

 

「俺さ、教師になってそこそこ経つけど、彼処まで悩みを抱えた奴は初めてみた。………いや、生徒の誰にだって悩みの一つや二つはあるんだろうけどよ」

 

「…………」

 

「でも、アイツ程自分を罰している奴はいなかったぜ。正直、軽く見てた」

 

 山田ひざしの独白は続く。

 

「いつもふてぶてしく、不敵なアイツがその裏でずっと苦しんでいた。………情けねぇ話だ。俺はずっと、アイツの内面を見ようとしなかった」

 

 もっと自分が見てあげていれば、もっと相談や話の相手になってやれば良かった。仮令(たとえ)甚田の思考思想が理解できなくても、否定せずに寄り添えていれば、何かが違っていたかもしれない。

 

「なぁ消太、やっぱもう一度根津校長に直談判して、後藤の奴を探しに行こうぜ。今度は───」

 

「よせ、山田」

 

 せめてもう一度街に出て甚田を探しに行こう。たとえ徒労に終わろうとも、何処かにいる生徒を見放す様な真似はしたくない。必死に訴えてくる山田ひざしを、相澤消太は淡々とした口調で断る。

 

「既に、根津校長が事態の収束に動いている。知り合いの警察に話を通すみたいだし、直に甚田の奴は見付かるさ」

 

「け、けどよぉ! ………いや、悪い。誰よりも此処から飛び出して行きたいのは、お前の方だったな。すまん」

 

 冷静に言い含める相澤に流石の山田も反論仕掛けるが、彼の憂いを帯びた横顔によって口に出しかけた言葉を呑み込む。

 

生徒達に気付かれないよう、目にバイザーを掛けて誤魔化しているが、今の相澤の瞳は後悔と悔しさに満ちている。担任である自分が一番に駆け付けてやるべきなのに、それも出来ずにいる。合理的判断と感情がぶつかり合うなか、それでも自制を選ぶ相澤の選択を、山田が揶揄出来る筈もなかった。

 

 ………本当に、甚田は雄英を辞めるのだろうか。辞めるにしても、もう一度だけ話を聞いてやりたかった。仮令(たとえ)理解できなくても、それでも教師として何かをしてやりたい。自分の不甲斐なさに打ちのめされている二人は……。

 

「へー、此処がトレーニングの台所ランドかぁ、テンション………いや、上がんねぇな」

 

 その日、久し振りに現れた問題児に目を見開く。

 

「え? ちょ、あれ甚田じゃね?」

 

「嘘、マジじゃん!」

 

「ようやっと来よったか、勿体ぶりすぎやでホンマ」

 

「うむ! 元気そうで何よりだ!! だが遅刻はダメだぞ!!」

 

 学友達に声を掛けられ、適度に返しながら施設に入る。そんな甚田に、山田は堪らず走りよってきた。

 

「お、おおお前! 甚田!! 戻ってきたのかよ!?」

 

「何だよマイク先生、そんなに切羽詰まらせて、自慢のトークはどこ行ったよ」

 

 散々心配掛けといて、相変わらずの生意気ぶり、毒気が抜かれた山田はガックリと肩を落とすが……。

 

「甚田、お前………本当に良いのか?」

 

 相澤は、それが空元気の類いではないのかと訝しむ。星の都で見た甚田の狂気的な一面を見たからこその言葉、バイザーを外して初めて見せる自分を心配している様子の相澤に、甚田は一瞬だけ面食らうが……。

 

そんな担任教師に甚田はあくまで不敵な笑みで返すだけだった。

 

「セメントス先生ッ!」

 

「ッ!?」

 

「一番大きい的を頼む!」

 

「わ、分かった!!」

 

 相澤の言葉に不敵に笑みを浮かべるだけ、今回の必殺技開発の担当であるセメントスに注文を出すと、甚田は言葉を投げ掛ける教師二人を無視して的の前に立つ。

 

 大きい的だ。見上げる程に巨大なコンクリートの的、あんな大きなモノを相手にどうするのか、教師三人は勿論、周囲の生徒達も注目する中。

 

「はぁぁぁぁぁ………ダァッ!!」

 

 暴風が、吹き荒れた。爆発の如く轟音を鳴らし、近くにいた生徒達や相澤達を吹き飛ばしていく。

 

爆発した中心点、そこには黄金の炎を纏った金髪碧眼の甚田がいた。

 

 入試以来見せることがなかった甚田の個性、初めて見る者は驚愕し、二回目の者は冷や汗を流しながら見入っていた。

 

あれが、あの姿こそが後藤甚田───否、ゴジータの本気の姿なのだと、その場にいる誰もが理解した。

 

「さて、確か今日のヒーロー学は必殺技の習得だったな」

 

 力を解放し、久し振りの高揚感に身を任せ、甚田は両手を腰に回す。

 

「───かぁ」

 

それは、必殺技の代名詞。

 

「───めぇ」

 

それは、後藤甚田がゴジータになって、初めて会得した基礎にして奥義。

 

「───はぁ」

 

この世界でこの技を知るのは自分しかいない。そんな事実に胸をときめかせながら。

 

「───めぇ」

 

臨界、光が集った次の瞬間。

 

「波ァァァッ!!!」

 

 放出。自らの力を溜めて、圧縮させた光の奔流は、その悉くを吹き飛ばし、消し飛ばしていった。

 

 軈て光が収まると、施設の半分以上が消し飛んでいて、周囲の生徒達の殆どは吹き飛び、目を回している。

 

 山田とセメントスは目が飛び出る程に驚愕し、相澤も何一つ言葉に出来なかった。

 

ただ、一つだけ分かっている事は……。

 

「───今後、俺は加減も容赦もしないんで」

 

「其処んとこヨロシク」

 

 このクソ生意気な大問題児に、教育的指導のプレゼントをせねばならない。ということだ。

 

 その後、巻き込まれた生徒一同含めて、後藤甚田は盛大な歓迎を受ける事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、これは必要ないね」

 

 極大の閃光が現れた箇所から、雄英の偉大なる校長は、心から彼の帰還を喜んだ。

 

悩みを持った生徒が、悩みを抱えながら、それでも前を向いて歩き始めている。ならば、自分達はそんな彼の背中を少しでも押してあげるだけ。

 

 一方的に渡された退学届け、それをビリビリと破ると、根津校長はゴミ箱に投げ入れ、上機嫌に部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 





次回、祝福。
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