超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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最近の冷え込みがマジで笑えん。

そんな訳で初投稿です。



記録77

 

 

 

 それから、少しだけ時間が過ぎていった。一週間何の音沙汰もなく、一時は自らを退学間際にまで追いやっていた甚田は、無事に復学を果たしていた。

 

 心配していた担任や各教師から説教を受け、保護者である姫野葵からギャン泣きされた甚田は、その日以降無茶な特訓はしなくなり、授業にも真面目に受けるようになっていた。

 

その様子は年相応の学生らしく、まるで憑き物が落ちたかの様な、晴れ晴れとしたモノだと、誰かが言った。

 

 そうして、改めて自分のなりたいゴジータとして活動していく事を決めた甚田は、取り敢えず目下の目標としてヒーローを目指すことにした。

 

 別に今の富や名声を生業とした職業としてのヒーローを目指すつもりはなく、あくまで自分の思い描くゴジータとして活動するための………謂わば資格取得の為。

 

だから甚田はヴィランや犯罪組織を相手に戦うヒーローではなく、救助を目的としたヒーローを目指すことにした。

 

 自然災害や突発的事故、これ等を相手にする方がヴィラン()を相手にするより気が楽という若干後ろめたい理由もあったりする。この事を担任である相澤に相談した時は、穏やかな笑みを向けられたのが何気に不思議だった。

 

 そして、それから甚田の雄英での学生生活は加速度的に過ぎていく事になる。相澤の紹介で改めて知り合う事になったワイルドワイルドプッシーキャッツ、林間合宿での態度を謝り、救助活動の教えを請う甚田を彼女達は笑いながら受け入れた。

 

 当然、甚田は持ち前の超パワーとスピードで救助活動をゴリ押ししていこうとするが、こういった活動には意外にも繊細な力加減が必要である事を思い知る事になる。

 

 崩れ掛ける橋を勢い良く持ち上げればその反動によって瓦解して二次災害を引き起こし掛け、座礁したタンカーを持ち上げようとすれば、タンカーから金属が割れる嫌な音が聞こえ、危うく中にある大量の化石燃料をぶちまけそうになる。

 

そんな、ヒーローとして様々な失敗を繰り広げていく内に、甚田は一つの答えを得る。

 

(なんだ、俺ってなにも分かってなかったんだな)

 

 全てを粉砕できる力、何者にも触れられない速さ、誰にも真似できない技巧、これ等が在ればヒーローなんてものは簡単になれる。そう思い、一人で強く在ろうとしていた甚田だが、こと救助に於いてそれは間違いであると思い知らされる。

 

出来ることはあっても、知らない事の方が出来ることよりも多い。それが、改めて勉学に励む甚田が自身に抱いた結論であった。

 

 救助の場に於いて誰かを助けるというのは、その間にその誰か以外の人達を危険に晒すという事。どれだけ力と技と速さで捩じ伏せても、状況という怪物は時間と共にドンドン変化し、肥大化していく。

 

 救助活動にあたって、時間こそが最大のヴィランである。これは救助を生業とするプッシーキャッツ……彼女達の言葉だった。

 

だから人を救助する際に、甚田は目の前の状況だけでなく、もっと多角的に視野を広げる事を覚え、更には人を頼る事を学んだ。

 

 そうする事でヒーローとして学び始めた甚田は、時には学友に、時には教師達に助力を請いながら、学生生活を送っていった。

 

ゴジータを目指し、ゴジータとして在ろうとした。今もその目的は変わらないし、目標もまたブレる事はない。

 

 けど、そんなゴジータとして生きていく自分でも誰かに助けを求めてもいいのだと、あの日見ず知らずの白い女性に教えてもらった。

 

自分は自分。たとえ理想に焦がれても、その根幹は変えることはない。いや、変える必要がないのだ。

 

 だって、理想や憧れは自分だけが理解して持ち得る原典(オリジン)なのだから………。

 

 そうして数々の人達の力と知恵を借りながら、後藤甚田は前世含めて初となる高校生活を満喫して行くのだった。

 

そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうとう、俺も卒業かー。なんかあっという間だったな」

 

 とある休日の昼下がり、久し振りに施設の皆で外食をする事になり、その帰り道近くの公園に立ち寄った時の事。

 

 甚田が雄英に入学して早三年、冬を越えて外の空気が少しだけ暖かく感じ始めた頃、かけっこしてはしゃぐ子供達を眺めながら、甚田は一人ごちる。

 

 思えば、マトモな高校生活なんて前世含めて初めての経験。同学年のクラスメイトに囲まれての生活は甚田にとって思い出という財産となっている。

 

それを与えてくれた恩師である姫野には、感謝しかない。子供達と一緒に遊んでいる恩師を見て、甚田は微笑んだ。

 

「どうしたんだよ、一人で黄昏ちゃってさ」

 

 そんな甚田を気安く隣に立つのは、施設の中での二番目の年長者。城鐘御幸、勤勉且つ真面目な甚田の弟分は、チビッ子達の面倒を見ている妹に手を振っている。

 

「いや、ちょっとこれ迄の自分を振り返っててな。我ながら中々に痛々しかったなって……」

 

「あー、確かに雄英に入学したばかりの頃の甚兄ぃ、かなり荒れてたからなぁ。俺も先生も何度泣きを見たことか」

 

「───あぁ、本当に悪かったと思ってるよ」

 

 軽く揶揄するだけのつもりだったのに、目を細めて真摯に受け止めている甚田に、御幸は調子が狂うと頭を掻く。

 

 あの一週間の音信不通から二年近く。施設の子供達との触れ合う機会も増やし、自分との関わりも増えるようになっていった。

 

そこに、何かに取り憑かれたように自らを拷問染みた鍛練を施す甚田の姿はなく、自分達を本当の弟のように大切にしている長兄がそこにいた。

 

 だからだろう。自然と御幸も“後藤さん”ではなく、甚兄ぃと親しみを込めて呼ぶようになったのは。

 

「……冗談だよ、アンタはもう立派に俺達のヒーローだよ」

 

「御幸……」

 

「別に、ヴィランを倒す事だけがヒーローの活躍の場じゃないだろ? 誰かを助け、誰かを救う。それがヒーロー足り得る資格だって言うのなら、甚兄ぃはもう充分ヒーローやれてるよ」

 

「……そうかな、そうだと良いんだがな」

 

 来月には甚田は施設を出ていき、一人暮らしを始める。拠点となる場所も星の都のある田舎と雰囲気が似ている地域で、そこでインターン時代に貯めた貯金で一軒家を建てた。そこは誰も甚田を知らない所で、文字通り一からのスタートである。

 

「ホラ、先生にも挨拶をしていくんだろ? ちび達の相手は俺達がしておくから、ちゃんと話をしてこいよ」

 

「あぁ、悪いな。お前にも世話になってばかりで」

 

「いいから今はそういうのは、ホラ、さっさと行った行った」

 

 自分も新学期からは慣れない土地での高校生活が始まるというのに、良く気が付く奴だ。自分を兄貴と慕ってくれる御幸に感謝しながら、甚田は姫野の所へ向かう。

 

 ベンチに座り、子供達の様子を微笑みながら見守っている。異形型の個性故にその顔立ちは初めて会った時と然程変わっていないが、その表情には何処か疲れがあるように見えた。

 

 最初に自分を見つけ、育て、ゴジータとしての一歩を踏み出した切っ掛けを与えてくれた恩師で、誰よりも迷惑を掛けてしまった人。胸中に渦巻く罪悪感を今はその時でないと圧し殺しながら、甚田は遠慮がちに隣に座った。

 

「────いよいよね。貴方が施設から巣立つのは」

 

 最初に言葉を発したのは、姫野からだった。疲れてはいるが、一つの大仕事をやり遂げた様に呟く彼女に甚田は一言「あぁ」とだけ返した。

 

「星の都もその頃には新しく建設される予定だし、次に顔を会わせるのは新居に引っ越ししてからになりそうね」

 

「………ちゃんと、顔を出しに来るよ」

 

 現在星の都には新たな施設建設の計画が進められており、来月の甚田の独立に合わせて工事は開始される予定となっている。

 

 新たに施設が建てられるのは受け入れる子供達の数が増えてきた事と、万が一地下にある重力室に立ち入られる事を防ぐ為である。今後地下の重力室は閉鎖し、その機能を完全に停止させる。それが、施設から出ていく時に話した甚田からの提案だった。

 

 これで、自分も後を濁さずに巣立てる。今日まで育ててくれた恩師に迷惑ばかり掛けてきたが、それでも一つの区切りは付けられそうだった。

 

「───ダメね、私は」

 

 そんな時、姫野の口から自嘲の笑みが溢れる。

 

「結局、私は貴方の苦悩を分かってあげられなかった。貴方が苦しんでいる時も、辛かった時も、何もしてあげられなかった」

 

 葵が思い出すのは、必死に踠く甚田の姿。自身の情景に呑まれ、押し潰されそうになり、それでも強くなろうと自身を傷付けながら尚踠く。そんな痛々しい甚田をただ見ていることしか出来ない自分を、ダメで情けないと言い捨てる。

 

「貴方は、貴方自身の力で立ち直って見せた。沢山の友達と先生達のお陰で、あの雄英を首席で卒業して見せた。私は、ただ貴方を苦しめただけ……」

 

「先生………」

 

「何より、自分以外の何者かに成ろうとした貴方を………気持ち悪いと思ってしまった。ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 最初に自らを傷付け、血だらけになった自分。激しい痛みと苦しみにそれでも心配ないとゴジータとして笑って見せたあの時の自分、それが葵の心に深い傷を負わせてしまっていた。

 

ごめんなさいと謝り続ける葵、涙を流しながら俯く彼女に甚田は前を見据えて言葉を返す。

 

「───俺はさ、多分あの時生まれてなかったんだよ」

 

「────え?」

 

「俺と葵さんが初めて出会った時、あの時俺は初めて自分という自我を自覚した。それからは葵さんと出会う前の事を思い出そうとしても………何も思い出せなかった」

 

 これは、半分嘘だ。甚田が甚田として自己を認識する前、◼️◼️◼️◼️だった頃の自分は病院のベッドで死を待つばかりだった。

 

けれど、それからどうやって自分がこの世界に生まれ落ちたのか、それがどうしても思い出せない。今となっては別に気にしてもいないが、それでも葵に気持ちを伝える上では、この話は避けては通れなかった。

 

「だから、俺の始まりは先生、貴方と出会えたからなんだ。先生と出会えたから、俺は後藤甚田として、ゴジータとして始められるようになったんだ」

 

「でも、その所為で甚田は……」

 

 涙目で、堪えるように言葉を紡ぐ姫野に甚田は静かに首を横に振る。

 

「これは、俺が決めたこと。俺が強くなる為に俺から始めた事なんだ。先生はただ俺の目的に巻き込まれただけ、それだけなんだ」

 

「ち、違っそれは違うわ甚田! 私は……!」

 

「うん。そうだな、きっと俺がそう言っても先生はきっと納得しない。だから───見てて欲しいんだ」

 

「────え?」

 

「貴方のお陰で今日まで鍛えて来られた俺が、今後どうやって生きていくのか。恩師として、親として、どうかこれからも見守って欲しいんだ」

 

「────」

 

「これからも沢山迷惑を掛けると思う。でも、約束するよ。これからはもう、先生を悲しませたりしない。だから───見届けてくれないかな?」

 

「────母さん」

 

「─────あ」

 

 その言葉に、今まで止めていた堰が外れた気がした。ポロポロと溢れる涙は大粒のモノとなり、姫野の頬を伝って落ちていく。

 

「う、うぅ……甚田、甚田ァ」

 

「ハハ、相変わらず泣き虫だなぁ。その泣き癖、そろそろ治しておけよ?」

 

「うぅ、うわぁーん!!」

 

「あー! ゴジータがまぁた先生泣かしたぁー!」

 

「ヒーローが人を泣かせてるー! いーけないんだいけないんだ! せーんせいに言ってやろ!!」

 

「その先生が絶賛大号泣なんだが?」

 

「ハッ!?」

 

 声を張り上げて泣き出す葵、そんな彼女の声を耳にした子供達が挙って甚田の所へ駆け付けてくる。

 

 異形として産まれ、家族や親族達から疎まれ続けてきた人生。異形故に子供には恵まれない体と知り、今日まで生きてきた姫野葵。

 

そんな彼女に今日、最強で無敵の息子が出来た。

 

 自分は間違ってきた。けれど、全くの無駄ではなかった。それを教えてくれた息子達に囲まれながら、姫野葵は泣き疲れるまで嬉し涙を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、暫くして。

 

「いやー、今日もいい天気だなぁ。昼寝したら気持ち良さそう」

 

 雄英を卒業し、サイドキックとしての経験を経て、無事に独立を果たした甚田は、その日交通整理に勤しんでいた。

 

甚田の拠点としているのは何もないのが特徴的な典型的な田舎、近くにコンビニもスーパーもないその地で、後藤甚田は出てきた欠伸を噛み締める。

 

「先日ノシたヴィラン、マス何とかって奴、個性ばっかの単純野郎だったし、やっぱヴィランってのもピンキリなんだなぁ」

 

 思い返すのは先日珍しくこの田舎に現れたヴィランを退治した時の事。あの時は独立して初めてのヴィラン戦だったのでついその気になったのだが、実際はワンパンKO。必死の形相で突っ込んでくる筋肉達磨のヴィランにゴジータは拳を一発腹部にめり込ませるだけで終わってしまった。

 

 見掛けはまぁまぁ強そうだったのに、とんだ肩透かしである。いや、平和そうな田舎で拠点を構えている時点で、ある程度の肩透かしは予想していたけれども。

 

「出てくるならもう少し強くなってからにして欲しいよなぁ、未だに自分がどれだけ強くなっているのかすら知らないとか、流石に不味いからさぁ」

 

 雄英を卒業して早一年。未だに全力を出したことの無い甚田は、今の自分がどれ程の強さになっているのか、未だに計り知れないでいる。

 

強くなるためには、自分の全力をキチンと把握しておく必要もある。今後自分の成りたい自分(ゴジータ)の為にも、そこら辺は決して無視できないが……。

 

 まぁ、そんな暇もあってゴジータの代名詞であるあの技の研究も、その為の試作品も着々と進められているのが幸いなのだが。

 

「………ま、焦る必要もないか。その時になったらその時の全力で頑張ればいい、諦めない心こそが肝要ってね」

 

 あの日の白い女性の言葉を思い出す。焦らず、広く健やかに視野を保つ。彼の亀の仙人の教えにもそんな教訓があった筈。

 

人生を面白可笑しく過ごすには、適度のメリハリこそが重要。今更ながら思い出す偉大な教えに、甚田は乗っかる事にした。

 

 そんな矢先、先日助けた少年をあしらっていた甚田にある光景が目に入る。

 

「うぉっ、デッケー隕石」

 

 突如として現れた超巨大隕石。規模も質量もこれ迄見てきたモノとは隔絶された物体に、流石の甚田も驚きを露にする。

 

しかし、その内心は全く乱れていない。距離感が狂う程の巨大な隕石を前に、これ迄絡んできた少年は腰を抜かし、近隣住民達も驚愕し、言葉を失っている。

 

 そんな彼等を一瞥すると、甚田は軽く屈伸運動をして………。

 

「そんじゃ、いっちょやってみっか」

 

 黄金の炎を纏い、金髪碧眼の超戦士となり、大空を舞う。

 

────これが、後藤甚田の始まり、ゴジータの本当の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ジータ、おい、ゴジータ!」

 

「………んぁ?」

 

「漸く起きやがった。つか、こんなところで堂々と寝てンじゃねぇよ」

 

「もうすぐ試験の結果発表だというのに、なんとまぁ大胆な」

 

「………あー、今日って仮免試験の日だったっけ? もう終わったの?」

 

「これから結果発表よ! 全く、折角のジェントルの晴れ舞台なのに、何で寝てるのかしらこのNo.1は!」

 

「まぁまぁ、良いではないかラブラバ。それよりもゴジータ、随分と気持ち良さそうに寝ていたが、何かいい夢でも見ていたのかね?」

 

「………ん? まぁな。随分と懐かしい、夢をちょっとね」

 

「ったく、相変わらず呑気なヒーロー様だよ全く!」

 

「か、かっちゃん、もうその辺で」

 

「ハハハ、それじゃあ結果を見に行こうか」

 

 懐かしい夢を見た。未熟で、愚かで、それでも大切な昔の記憶。

 

あの日に抱いた情景を胸に、甚田は今日も進んでいく。その背中に幾つもの希望を背負いながら、希望の象徴は緩やかに、けれど決して足を止める事なく進んでいく。

 

どこまでも、どこまでも………。

 

 

 

 

 

 





今回で過去編は終わり、次回からインターン編が始まります。

「次回、俺がゴジータの下へ」

「ま、待て! それは許さんぞ焦凍ォォォッ!!」

「更に向こうへ」

焦凍ォォォッ!!(Plus Ultra!!)







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