超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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今年最後の更新。

そんな訳で初投稿です。

死穢八斎會編、開幕


記録79

 

 

 

 少女───渡我被身子にとって、世界は息苦しい檻だった。普通に笑っているつもりなのに、笑顔が気持ちが悪いとされ、好きなものになりたいという衝動から来る行いは、他人も両親からすらも不気味に思われるようになっていった。

 

 生きにくい。自分の【好き】な気持ちに正直に生きていく事、それがこの世界では何と生きにくい事か。とうとう両親から拒絶され、罵倒され、見捨てられた少女は、その日を境にヴィランとして活動。自分の欲求が求めるままに生きていくようになり、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、あぁ! 推しのイズクきゅんが目の前に! あ、凄いまた筋肉量増えてる。童顔な顔して脱いだら凄いとか、なんてエッッッ!! これはもう、次世代の18禁ヒーローを目指すしかないですね!」

 

「おぉう、言葉の暴風」

 

 顔を赤くさせ、テンション高めに捲し立てるトガヒミコ。凶悪なヴィランである筈なのに何故か憎めない彼女に、緑谷は初っ端から圧倒されていた。

 

しかし、このままだらだらと時間を掛ける訳にもいかない。限られた時間の中でヴィラン連合の情報を少しでも抜き取ろうと、緑谷は表情を引き締める。

 

「───トガヒミコ、どうして今回の面会で僕を指名したの?」

 

「えっ、急にキリッとしたイズクきゅんカッコよ。………ゲフンゲフン、それは勿論イズクきゅんとお話がしたいからですよ!」

 

「そう、なんだ」

 

 相変わらずの高いテンション、初めて出会った時から良く分からない好意を向けられてきた出久としては戸惑う他ないが、相手は現在大きな社会問題であるヴィラン連合の元構成員。

 

未だに逃亡している死柄木弔と荼毘の行方を知っているかもしれない彼女との面会は、情報を引き出すまたとない好機。相手の自分に対する好印象を損なわず、情報を聞き出す。

 

 危険且つ難易度の高い任務だが、やり遂げる意気込みはある。先ずは会話を重ねて警戒を緩めさせ、相手の懐に入る所から模索する。

 

「僕も君と話をしてみたかった。良ければ色々と聞かせてくれないかな」

 

「え? イズクきゅんが私を知りたがっている? これはもう両想いなのでは?」

 

「違うよ」

 

 何故だろう、女子に対しては其処まで耐性は高くない筈なのに、何故か目の前の少女には辛辣になってしまう。これも雄英の育成プログラムの賜物か。恐らくは違う。

 

 何故なら、出久は本能的に見抜いていたからだ。トガヒミコの抱える闇、その奥にある暗く悲しく、寂しがり屋な本質を………。

 

「トガヒミコ、どうして君はその……ヴィラン連合に属していたの?」

 

「おぉう、いきなりですねぇ。直線的なアプローチ、嫌いではありません」

 

 いきなりの核心部分、端からみても唐突な緑谷の質問に、監視カメラで監視している人達は息を呑んだ。これでは余計な警戒心を抱かせるだけだと、静観しているナイトアイとルミリオンを除いた大人達が内心慌てている中、緑谷は真っ直ぐの視線を外すことなく目の前のトガヒミコを見据えている。

 

そんな真剣な眼差しの推しに、彼女の口は少しだけ軽くなった。

 

「イズク君は、今の世の中をどう思います? 息苦しく感じたり、狭く感じたりしませんでしたか?」

 

「…………」

 

「私はあります。ただ好きな事を好きといえず、かぁいいものをかぁいいと呼べない」

 

「…………」

 

「私の“好き”はこの世界では受け入れられないモノでした。私にとってはそれがとても息苦しく、生き辛い。だから───」

 

「だからヴィラン連合に、死柄木弔に与したの?」

 

 緑谷の問いを、トガヒミコは否定も肯定もせずに笑みで答える。それはこれ迄の狂気に染まった笑みではなく、何処か寂しくて諦観した自嘲の微笑みだった。

 

そんな彼女の微笑みが、緑谷にとって………。

 

「弔君は言いました。今の社会のシステムが俺達を生き辛くしているのなら、その全てを壊してやるって。私もそれが良いと思ったので……」

 

 俯き、下を見るトガヒミコの表情は見えない。けれど、彼女が凶悪なヴィランである事実には変わりなく、彼女の行動の裏には沢山の人達が傷付いたのも揺るがない現実。

 

故に、緑谷出久の口からは慰めの言葉は出てこない。

 

「────トガヒミコ、君はこれ迄多くの人達を傷付けてきた。例え君の過去に何があろうと、その事実は消えないし、その罪もまた消えない」

 

「─────」

 

 分かっていた事だ。自分の生き辛さを理由にしても、誰かを傷付ける免罪符にはなりはしない。トガヒミコが求めたのは、自分をこの生き辛い世界からの解放ではなく。

 

『どうしよう、私、人間じゃない子を産んじゃった!!』

 

 ただ、寄り添ってくれる人とのほんの僅かな共感を得たかっただけ。好きを言える勇気と、かぁいいと言葉に出きる勇気、そのどちらもが自分には足りないモノだった。

 

だから。

 

「だから、もし君がこの施設から出てこられた時は、僕のサイドキックになってみない?」

 

「─────は?」

 

 その差し伸べられた手に、何の反応も出来なかった。

 

 時間が止まる。そんな錯覚を覚えたのはトガヒミコだけじゃない。監視カメラ越しに眺めていた施設職員達は騒然となり、ナイトアイは眼鏡を外して目頭を抑えている。唯一ルミリオンだけは、満面の笑みを浮かべて手を叩いていた。

 

「………あの、言っている意味が分からないんですけど? え? 今イズクきゅんからプロポーズされました?」

 

「イヤ違うから」

 

 思わず素で反応してしまったのを誤魔化すように惚けるトガヒミコだが、その口振りにいつもの余裕はなく、その目には明らかな動揺が色濃く滲み出ていた。

 

「どういうつもりですか? 私をサイドキックに誘うなんて」

 

「だって、君の個性は凄いじゃないか。血を摂取することでその人の外見を得られるなんて、色んな活躍の場がありそうだなって」

 

 トガヒミコの個性は【変身】、相手の血液を摂取することで外見をその人と同じモノにするという色々と汎用性が高そうな能力。潜入捜査とか特別な才能を求められる場合、彼女の個性は非常に有用であると、個性オタクでもある緑谷は、すぐに彼女の個性の使い方を模索する。

 

だが、対するトガヒミコは面白くないのか、これ迄推しである筈の出久に対して憤怒の表情を浮かべており、その鋭くなった眼光には憎しみすら込められている様に見えた。

 

「なんなんですか? バカにしてるんですか? 私はヴィランで、貴方はヒーローでしょう?」

 

「ヒーローがヴィランを更正させちゃいけない、なんて法律も無かったけどね」

 

 緑谷が脳裏に思い浮かぶのは最近某動画サイトに投稿しているNo.1ヒーローの姿。これ迄チンピラヴィランとして認識されていたジェントル・クリミナル、そんな彼をヒーローとして育て上げ、数々のトップヒーローにも認められ、遂には仮免試験に参加させ合格させたという実績を叩き出していた。

 

 誰かを助け、救いたい。その方法はヴィランを倒したり、災害から人を守るだけじゃない。個性という超常の力を持て余し、人生を振り回されてヴィランになるしかなかった人達に、一つの選択肢を与える事も必要なのだと、緑谷は思い知った。

 

 No.1ヒーロー(ゴジータ)の猿真似と言われればそれまでだが、それでも目の前の少女を救いたい、そう思ってしまった以上、緑谷出久は止まらなかった。

 

 しかし、悪意に深く染まっていた少女には届かない。

 

「アハハ、成る程それは予想外です。ならイズクきゅん………私の為に血をちうちうさせてくれますか?」

 

 深く、三日月の様に歪んだ笑みを浮かべるトガヒミコ、獲物を見付けた捕食者の眼光を有し、喜悦と狂喜が孕んだ表情を浮かべる。

 

母に人間じゃないと罵られ、父親からも化物扱いされてきた。誰にも理解されず、誰にも好かれる事の無い自分の笑み。

 

 この笑顔こそが、自分の狂気の根底。不気味がられ、気持ち悪いとされてきた自分の笑みを目の当たりにした緑谷は………。

 

「え? いいけど?」

 

 即答で、自分の首筋を差し出してきた。全くの違和感、忌避感を感じさせずに……。

 

その行動にトガヒミコは言葉を失った。何故、そんな純粋な眼差しを向けてくる? 何故気味悪がらない? 戸惑いながらどうしてと訊ねるトガヒミコに対して……。

 

「そう、かな? 僕からみたら、君の笑顔はとても素敵に見えたけど?」

 

「────」

 

 あっけらかんと応える緑谷に、トガヒミコは言葉を失った。これ迄化物と呼ばれ、産みの親にすら人間ではないと断じられてきた少女、これまで人の悪意と蔑みに晒されてきたトガヒミコにとって、目の前の少年は眩しさが過ぎた。

 

「───ヴィラン連合、AFOは複数の組織と繋がりがあった形跡があります」

 

「っ!」

 

「私から言えるのはそれだけ、それ以上は分かりませんし、興味もありません。………それでは」

 

「待って、トガヒミコ!」

 

 面会時間も終わりに近付き、席から立ち上がるトガヒミコ。そんな彼女に緑谷は呼び止めるが、今の彼にこれ以上トガヒミコに掛ける言葉は持ち合わせていない。

 

しかし、そんな緑谷にトガヒミコは一度だけ振り返り。

 

「ふふ………ばーか」

 

 悪戯に笑みを浮かべ、今度こそトガヒミコは施設の奥、収容されている一室へ戻っていくのだった。

 

その笑みは何処か憑き物が落ちたようで、その微笑みに緑谷は一瞬見惚れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、肝を冷やしたぞ。一体誰の影響を受けたんだか」

 

「いやー、やるね緑谷。まさか女の子とはいえヴィランを口説くとは」

 

「ち、ちちちちちが! 別に口説くとかそんなつもりは!!」

 

 面会も終わり、施設を後にするナイトアイ達三人は、とある作戦実行の埋め合わせをするべく、大阪へと赴いていた。

 

 緑谷の勝手な言動を諌めつつ、それでも引き出してくれた有用性の高い情報を精査しながら、ナイトアイは眼鏡をかけ直しながら口を開く。

 

「トガヒミコが残した台詞、AFOが関わったとされる複数の組織。その内の一つが、現在我々が調査に当たっている組織である可能性が高い」

 

「ッ!」

 

「名を死穢八斎會。嘗ては極道と呼ばれたヴィラン団体の一つ。ヤクザだ」

 

「や、ヤクザですか」

 

「確か、例の個性消失弾の出所も其処から、という可能性が高いんですよね?」

 

「あくまで可能性の範疇だがな。しかし、裏取りの根拠も揃いつつある。鍵となるのは一人の少女、彼女を救い出すことが今後の我々の総合的な目標になる事だろう」

 

 手渡されるのは一枚の写真、ボロボロの写真に包帯だらけの銀髪の少女、額から伸びる刺のようなモノが特徴的な小さな女の子。

 

恐らくは例の死穢八斎會なる組織の根幹を担っているのだろう。ヴィラン組織が抱える闇の深さに触れた緑谷とルミリオンは表情を強張らせるが、気負いすぎだとナイトアイから諌められる。

 

「これから我々が向かうのは、今回の作戦に必要と判断した面々との顔合わせ………並びに作戦の打ち合わせだ。お前達二人にも働いてもらうことになるかもしれん。気を引き締めろよ」

 

「「はい!」」

 

 助ける。既に自分達のやるべき事を見据える二人に、ナイトアイも自然と笑みが溢れる。そんな若きヒーローの卵に安堵しながらヒーロー達が待っている扉を開けると。

 

「おー、やっぱプリキ○ア好きなんだな。ウチのチビ達も好きだからもしかしてと思って借りてきた甲斐があったな」

 

「しっかし、それにしても細すぎや。この頃の女の子ならもうちっとふっくらしてた方が健康的なんやで? ほら嬢ちゃん、たこ焼き食うか?」

 

「いや、見た感じ何日も飯食わせて貰ってなさそうだし、あまり重いものはオススメしねぇぞ? くず湯とかどうだ?」

 

「今用意してるところだクソが! つうかこのペスト野郎の処遇を決めるのが先だろうが!!」

 

 多くのヒーロー達が遠巻きにしている中、中心で屯っている二人のヒーローとインターン生に注目が集まる。彼等が守るように囲んでいるのは与えられた人形を大事そうに抱える一人の少女。

 

そして、そんな彼女を抱えているのはNo.1ヒーローことゴジータその人であった。

 

 和気藹々とした雰囲気、そんな彼等の横に簀巻きにされて転がされているペストマスクを着用している男が目を回している。目の前の状況に理解すること数秒、ナイトアイはピクピク震えるコメカミを抑えながら……。

 

「お前、ほんっっっといい加減にしろよ?」

 

 割りと本気でキレそうになっていた。

 

 

 

 






そして閉幕。

……いや、流石に嘘ですよ?


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