そんな訳で初投稿です。
「やれやれ、別支部とはいえまさかまた此処にくるとはな」
日本本土より離れた人工島、個性による凶悪な犯罪を犯したヴィラン達を収容する監獄“タルタロス”───A.F.O.が収監されている所とは異なる支部───に、ゴジータは訪れていた。
相変わらず開放的な海辺に在るとは思えない巨大で重厚な扉、その前に降り立ったゴジータは扉の前にて待っていた人物に片手を上げて挨拶を告げる。
「よぉ、グラントリノのじっちゃん。久し振りだな」
「おう、よく来てくれたなゴジータ。神野での一件では世話になったな」
年老い、小柄でありながら未だに現役で前線で身体を張る老兵グラントリノ、ゴジータの親しげな挨拶に心地よく返すも、その表情は何処か暗い。
自分を呼び出した事といい、余程重大な話なのだろう。真剣な面持ちのヒーローにゴジータも真面目に訊ねた。
「───で、マジなのか? 例の黒霧を取っ捕まえたってのは」
「あぁ、塚内達警察の地道な調査の賜物だ。アイツ等の奮闘がなけりゃあ、黒霧の逮捕はもっと難航していただろうな」
案内するように先行くグラントリノの後を追い、タルタロスの中へと入っていく。
黒霧は塚内達の労力のお陰で捕まえられた。グラントリノのその言葉に日頃から色々と世話になっているゴジータは流石だと舌を巻く。
「じゃあ、奴からなんか情報でも得られたんか? 例えば現在の敵連合の潜伏場所、とか」
「それなんだがな」
黒霧という敵連合の中でも重要な立ち位置にいるだろう人物の捕縛、それに伴って尋問等の聞き取り調査により、ある程度の情報は得られるとゴジータは考えていた。
しかし、口ごもるグラントリノを見るに、状況はそんな単純なモノではないらしく………。
「ここだ。此処に黒霧達がいる。入ってくれ」
「おう。………ん? 【達】?」
辿り着いた重厚な扉、グラントリノの言葉に違和感を覚えながら、開かれる扉の先へ足を踏み入れる。
其処には………強化ガラスの向こうにて拘束され、個性を含めた一切の身動きを封じられた黒い靄に顔を覆った黒霧と。
「来たか、後藤」
「─────」
酷く憔悴した嘗ての担任である相澤消太とその相方、山田ひざしが沈痛な面持ちで待ち構えていた。
◇
「─────この黒霧が、先生達の元同級生だと? マジなのか、それ」
グラントリノに呼び出され、黒霧を収監したというタルタロスへ赴いたゴジータが、そこで待っていた相澤達から聞かされたのは世にもおぞましい話だった。
嘗て、ヒーローを目指す際に相澤達も通ったインターン生活。ヒーロー見習いとして活躍していた相澤達は、しかし唐突に悲劇に見舞われる事になる。
インターン当時、大型ヴィランの突然の強襲。それにより殺された同級生の白雲朧。相澤や山田と同じヒーローを志し、同じ事務所で活躍しようと約束していた嘗ての仲間。
その嘗ての同級生が肉体を改造され、黒霧として利用されていた。悪い冗談としか聞こえない話だが、生憎と相澤先生にそんな事が口に出来る性分で無いことはゴジータもよく理解している。
それに、隣で意気消沈としている山田も似たような顔をしている事から、どうやら本当の話らしい。呼び出されて早々に重すぎる話にゴジータは溜め息を溢しそうになるが、本人達の手前グッと堪えた。
「それで、先生達が俺をここへ呼び出したってのは………もしかしなくても?」
「あぁ、神野で見せた虹色の光、あの仮面の脳無にやった同じことをコイツにもしてやって欲しい」
「頼む後藤、元生徒であるお前に縋るのは情けないことこの上ないが、どうか白雲を………俺達の
A.F.O.が神野でゴジータに差し向けた仮面の脳無。元となる人物の個性により、これ迄年単位で改造されてきた脳無の中でも一際異質な存在。
度重なる改造を施され、最早嘗ての面影も無くなっていた脳無だが、ゴジータの放つ虹色の光───【ソウルパニッシャー】のお陰で、元の姿に戻る事が出来た。
仮面の脳無───弟分である城鐘御幸の父親だった彼は、現在も意識不明の状態となっているが、それでも相澤と山田の二人が縋るには充分だった。
どうか、嘗ての級友を元に戻してやって欲しい。そう目で語り掛けてくる嘗ての恩師達に、ゴジータは申し訳なく思いながら口を開いた。
「────期待させといて申し訳ないが、あの技は別に死者蘇生の効果は付随していない。アレはあくまで浄化の業、その人に纏わり付いた不純物を取り除き、元の状態に可能な限り戻してやるってだけのモノだ」
ゴジータが長年時間を掛けて完成させた業、【ソウルパニッシャー】。それは邪悪を取り除き、悪しき魂や怨念を浄化させる神業である。
しかし、それは言うなれば歪んだモノを正常に戻すだけの話であり、死者を甦らせる代物じゃない。寄せられた期待を裏切る様で申し訳ないが、既に死んでいるだろう人物を元に戻す手段は流石のゴジータにも持ち合わせていなかった。
「俺の力では、精々昔の姿に戻してやれるのが精一杯だ」
「────」
ゴジータが城鐘兄妹の父親を救えたのは、偏に彼が死んでいなかっただけ。既に死亡し、肉体を改造された黒霧改め白雲にソウルパニッシャーを施しても、物言わぬ死体に成り下がるだけである。
「そう……か、そう、だよな」
項垂れ、地面に座り込む山田、嘗て自分を教え導いた教師が此処まで弱るのは見たことがない。相澤も心此処に在らずといった様子だ。
そんな二人にどう声を掛けたらいいか分からずにいると、ふとグラントリノが口を開いた。
「けどよゴジータ、この黒霧………いや、白雲か。仮に仮死状態で改造されてたとしたらよ。その場合はどうなるんだ?」
「え? いや、うーん。そりゃあやっぱり………神野の時みたくなるんじゃねぇーの?」
仮に死亡と確定していた筈の白雲が仮死状態だった場合、その結末はゴジータにも分からない。ただ、肉体が死亡した場合個性因子がどうなるのか、人道的配慮もあって未だに明らかになっていない部分が多いのもまた事実。
もし、白雲朧の現在の状態が死亡ではなく仮死状態で、その上に黒霧という別人格、別個性が張り付けてある状態だというのなら、万が一の可能性があるのかもしれない。
「………正直、これに関して俺がとやかく言うべきじゃないと思う。仮にグラントリノの言う通りだとしても、実行するには俺よりも二人の方が色々と気持ちの整理を付けた方がいいんじゃないか?」
だが、人一人の生死を左右させるには、現時点では不足に過ぎる。何せ、今ここでゴジータがソウルパニッシャーを施すと言うのは目の前の親友を二度も殺す事に繋がってしまうからだ。
脳裏に甦る嘗ての光景。自分を庇って殺された嘗ての級友を思い返しているのか、相澤の表情は暗い。
白雲を生かすか殺すか。突然突き付けられる選択肢、微かな希望が出てきてしまったが故の苦悩を前に、山田と相澤は………。
◇
「悪かったなゴジータ、結局無駄足させちまった」
「気にすんなよグラントリノ。幸い黒霧………いや白雲か。彼から有益な情報を得られているんだろ? それを聞かせてもらっただけでも来た甲斐はあった」
タルタロスの門を潜り、外へと戻ってきた二人。グラントリノからの謝罪を受け取り、その上でゴジータは気にするなと返す。
実際、詳しい情報はまだ精査されていないから聞かされていないが、黒霧状態の彼を尋問した際、有益な情報を得られたという事実はグラントリノから耳にしている。
恐らくは今頃超常解放とやらのヴィラン組織に潜入しているホークスと極秘のやり取りをしているのだろう。彼の負担を考慮するなら、余計な手出しはせずに静観するのも一つの手だろう。
「───それに、此方のやるべき事もあるからな。断片的とは言え、情報が共有出来ているのなら、やりようはある」
ホークスからエンデヴァーを通してもたらされた情報。数ヵ月後に待っている大規模ヴィラン組織との抗争が待っているとゴジータは予想する。
───本来なら、自分一人が敵組織に乗り込んで力ずくで解決するのがベストなのだろう。しかし、それではいけないと昨今の社会情勢は学習しつつある。
一人の超人が活躍するのではなく、一人の人間に責務を押し付けるのではなく、ヒーロー全員が挑み、乗り越える。その決意と覚悟を世論に証明する為にもこの作戦は必要なのだろう。
だから公安委員はゴジータに敵連合に関する情報は可能な限り抑えてきた。全ては人が個性という異能とキチンと向き合い、ちゃんとした社会を形成するために。
だから、ゴジータは無理に敵アジトを聞き出す真似は止めた。
「お前さんがそう言ってくれると儂等としてもやり易い。済まないが、色々と頼んだぞ」
「おう。面倒な書類仕事以外なら任せとけ」
それだけ言ってゴジータは空を飛び、遥か彼方へ飛翔する。相変わらず頼もしい後輩に安心感を抱きながら、グラントリノも次の行動へ移るのだった。
「────しかし、超常解放戦線ねぇ」
空を行くゴジータは思う。これ迄のヴィラン達の動きを、裏で蠢く悪意の思惑を。
今まで、ゴジータは相手を思いやって戦っていた。本気で殴れば触れただけで殺しかねないから、相手が気絶するギリギリの力加減でその力を奮ってきた。
ヒーローだから、誰もがNo.1ヒーローである自分を見て、ヒーローとして相応しい行動を心掛けていたからである。
けれど、それでもヴィランの犯罪件数が無くなる事はない。減ることはあっても、オールマイト一強だった頃よりも僅かだが増えている。
何故か? ゴジータが若いから? 経験の浅いヒーローだから? それとも………自分の血を手に入れたから?
理由は思い付く。けれど結局の所、最大の要因は一つしかない。
詰まる所………舐められているのだ。自分は、ゴジータというヒーローは、決して自分達を殺しはしないと、侮っているのだ。
「────上等だ」
嗤う。誰もいない空の上で、ゴジータは不敵に笑みを浮かべる。
そんな甚田が、自分の憧憬が侮られていると知って平然としていられるのか。
答えは………否。
「最強ってのを、見せてやる」
侮るというのなら見せてやる。そう決意するゴジータは急ぎ出久達の元へ戻り、心身ともに鍛えていくのだった。
オマケエピソード。
~ゴジータになりたくて~
「黄金の戦士?」
世界を裏から牛耳っている【ディアボロス教団】。歴史の裏から暗躍し、数多くの悲劇を生み出し、蹴り返している外法の輩。
数多の命を踏みにじり、尊厳すら貪り犯す。そんな外道とも呼べる組織に対抗するため、一人の男が立ち上げた【シャドウガーデン】。
そのNo.2である金髪で麗しいエルフの少女は部下からの報告に疑問の声を上げた。
「近頃ディアボロス教団の支部を破壊して回っているとされる黄金の戦士、まさか王国の近隣にまで聞こえてくるなんて………狙いは何かしら?」
「ベータ様曰く、此方に協力の意思を示す為かも知れないと」
「当然、罠である可能性もあるわね。しかし、歯痒いわ。黄金の戦士、その名の通り光輝いているのでしょうけど、それらしい目撃情報は全くと言っていいほどない。私達の捜査網を以てしても………ね」
「ゼータ様も、酷く悔しがっておられました」
近頃、裏社会にその名を轟かせている黄金の戦士。その実態と正体を暴くべく、あらゆる組織が調べているが………結果は全てハズレ。手掛かりとして残されているのは教われた教団の人間が遺した黄金の戦士という単語だけである。
存在はしている。しかし、その影すら踏ませない黄金の戦士の隠蔽能力の高さにシャドウガーデン最高幹部、七陰筆頭であるアルファは、その目を細く鋭く吊り上げる。
「……黄金の戦士、ね」
その底無し具合は自分達の主を彷彿とさせた。しかし、決してその事は口には出さない。
自分達の命を救い、教え、導いてきた大恩人にして我等シャドウガーデンの盟主【シャドウ】。
彼と同格の存在という事は、それは即ち自分達が総出て掛かっても敵わないという事を意味しているのだから。
「───え!? ブシン祭って剣を扱う奴しか出場出来ないの!?」
その頃、とある独特な格好をしている。黒髪黒目の男が会場受付にて頭を抱えていた。
そして………。
(ご、ゴジータがおるぅぅぅぅ!! やっべ、完成度たっか!! ど、どうしよう、サイン貰おうかな!?)
シャドウガーデンが誇る盟主本人は、完成度の高いその人物に目が離せないでいた。