映画ウマ娘、観てきました。
感動と興奮、そして限界を超える気持ち。
その全てが揃った良い映画だと思います。
その上で一つだけ言わせてほしい。
プリティ要素………どこ?
そんな訳で初投稿です。
蛇腔総合病院。A.F.O.の盟友であり脳無製作の要、殻木球大。
奴の身柄を抑える為、エンデヴァーを筆頭に多くのヒーロー達が病院へと殴り込む。
そこで待ち受けていたのは無数の脳無、複製された二倍の個性によって分身していた殻木が崩れた事を皮切りに、蛇腔に配置されていた全ての脳無が起動。
蛇腔病院は瞬く間に戦場と化した。
既に病院に入院、通院していた患者達を避難させたヒーロー達は、予めホークスから伝えられた情報を元に、地下への突入を開始する。
既に先行し、恐らくは本物であろう殻木を見付けたと報告してきたミルコ、彼女の言葉が真実なら其処にヴィラン連合の首魁である死柄木弔もいる筈。
其処には数多くの強大な力を持った脳無がいる事も確かな筈で、もし此方の対応が遅れてしまったら、そこでミルコは無数の脳無に嬲り殺しにされかねないという事も、充分に考慮しなくてはならない。
(落ち着け。思考を止めず、判断を誤るな。俺は奴とは違う、確実に迅速に対処を進めなければ……!)
思い浮かぶのは黄金の炎を身に纏う金髪碧眼の新たなNo.1。自分を超え、自分と
恨めしいと、妬ましいと思った事も一度や二度じゃないし、それと同じくらい恨み言の数を呑み込んできた。
自分には届かなかった頂を、あっさりと超えていった若きヒーロー、ゴジータ。奴にはどうやっても敵わない。
(────いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。ヒーローとして、己の責務を完遂せねば……!)
雑念を捨てようと首を横に振る。今は一秒の判断も許されない正念場、急ぎ地下へと続く通路を確保し、ミルコの援護に向かわねば。
「っ!」
そこへ、エンデヴァーの行く手を遮るように蒼い炎が放たれる。濁流の如く燃え盛る炎は、エンデヴァーとそれ以外のヒーローへと分かち、壁となって分断される。
「グッ、この炎は……!」
「エンデヴァー!」
「構うな、お前達はそのまま地下への通路を探してミルコの援護へ向かえ!!」
炎の向こうにいるヒーロー達へ指示を飛ばし、エンデヴァーは炎の奥から現れる人影を睨み付ける。忘れもしない、その男はヴィラン連合の一人であり、自分と同じ炎を操る個性の人物。
その名を……。
「荼毘……!」
「ようエンデヴァー、お前の最高傑作は元気かい?」
全身が焼け爛れた男、荼毘。その身に纏う衣裳は白く、まるで死装束の様だった。
◇
─────蛇腔総合病院、地下。
「ふほほほほほほ! 見たか! 我が傑作のハイエンド達の力を! トップヒーローと言えど、相手にならん!!」
黒い脳無───ハイエンドと呼ばれる強大な怪物達の力により、ミルコは研究所の壁へと叩き付けられる。
派手に瓦礫が飛び散り、無事ではいられないであろうミルコを予想し、殻木球大は子供のようにはしゃぐ。
「忌々しい。ゴジータによって倒されたハイエンド達は数知れず、遠距離攻撃に特化した脳無も数少ない。だが、それでも此処にいる脳無達を目覚めさせれば問題ない、奴のいない貴様等なんぞ烏合の衆にも劣るわ」
更に補足すれば、奥にはこれ迄の自分の知識と技術、経験と人生の全てを費やして完成した
二人が目覚めればヒーローなぞ恐れるに足らず、その力はオールマイト………いや、ゴジータにさえ届くだろう。
「さぁ、奴をしとめろハイエンド達よ。そして死柄木弔達の目覚めの為にどうか時間を稼いでくれ!!」
ハイエンド達の目に光が灯る。唸り、獣の様に小さく喉を鳴らしながら、ミルコが吹き飛んだ場所へ歩み寄る。
その時、彼女のいた場所が突如吹き飛び、砂塵の中から影が飛び出してくる。素早い跳躍、目覚めたばかりの脳無ではまだその速さに対応できず、臀部が異常に大きい女型のハイエンドは、その頭部を弾けさせて地に倒れ伏す。
ハイエンド達の真ん中に現れる一匹の兎、彼女の額から血が流れているが………。
「だぁれが、烏合の衆だコラ」
その迫力の相貌に、殻木は鼻水を噴出し、心底怯えた様子で奥へと逃げていった。
◇
─────いつからだろう。アイツの背中を目で追い始めたのは。
「私等が烏合かどうか、その身で堪能しな。糞ジジイ」
「ヒッ、ヒヒィィィッ!!」
No.1ヒーローになってから? ヒーローとして活動してから? アタシの
───いいや、違う。
「シネ、ヒーロー!!」
「退けやノータリンどもッ!!」
切欠はもうずっと前、あの薄暗い地下闘技場で出会った時からだ。
誰よりも強い力を持っている癖に、誰よりも繊細に相手を思いやるアイツ。きっと、アイツから見たアタシ等は飴細工よりも脆く見えたんだろう。
少しでも加減を間違えれば相手を挽き肉にしてしまう。アタシがそう確信したのは、アイツに渾身の蹴りを叩き込んだ時だった。
誰よりも強く、硬く、速い。なのに誰よりも繊細に力を扱っているのは、それはアイツが優しいからだ。
優しくて、甘くて、だからこそ歪んだ。誰にも理解されない力を持ったアイツは、強い故に孤独だった。
失望。あの時、暗いフードの奥で見えたアイツの眼は、そんな風に淀んで見えた。
「ウラララララァッ!!」
「遅ぇよノロマッ!!」
次に会ったのはそれから随分と時間が過ぎていた。アタシはスッカリヒーローの仲間入りで、もうじきトップも目指せるという頃、雄英を首席で卒業したというアイツは、下積みという事でアタシの所に来た。
『後藤甚田、ヒーロー名はゴジータ。若輩の身ですがよろしくお願いします』
その時のアイツの顔は晴れ晴れとした………年相応の顔をしていて、アタシの事なんか覚えていなかった。
アタシの事を覚えていなかったのは………まぁいい。アタシもマスクしてたし、偽名名乗ってたし、フツーに当時は違法行為だったし、互いにその件は触れないようにしていた。
けど、アタシ以外の奴が、コイツをこんな風にしたのかと思うと………無性に腹が立った。あん時はあんなに世の中に対して失望していたアイツが、憑き物が落ちた見たいにしているのがムカついて、意味もなく何度もその背中を蹴飛ばしたっけ。
「
「グォッ!?」
「コイツッ!!」
けど、腹が立ったのと同じくらい納得もしていた。アタシじゃあきっと、アイツをあんな風に変えられなかったと思うから。
「図二ィッ、ノノノノルナァァァっ!!」
アタシに出来るのはクソヴィランを蹴り飛ばすだけ。アイツを変えた奴………誰だか知らないけど、アタシじゃあきっと逆立ちしたって敵わないんだろうな。
けど、だからこそ。
「
「コイツ、ナンデコノ傷デマダ動ケル!?」
アイツの隣に立つことは、誰にも譲らねぇッ!!
一人立ちして、一人で隕石ぶっ飛ばして、一人で地球救って、あっという間に追い抜かれちまった。誰もがアイツをNo.1と信じて疑わねぇ。
アァ、そうだ。そうだろうよ。アイツがこれからもっともっと強くなっていく。その背中に追い付ける奴なんてコノ世界の何処にもいやしねぇだろうよ。
けど、そんな事どうでもいい。アイツがどんなに強くなろうと、アタシは
戦っているアイツの横顔、ヴィランを相手に不敵に笑う顔、楽しそうに笑う顔、困った様に笑う顔。
その全部がアタシのモノだ。誰にも譲らねぇ、渡さねぇ。
─────だから。
「そこを退けや雑魚共ォッ! ミルコ様のお通りだ!!」
アタシの跳躍は、誰にも止めさせねぇ。
◇
「────コノ雌兎ィッ! イイ加減シネェ!!!」
頭部から伸びる触手が、ミルコの脚に突き刺さる。太股を貫かれたミルコは、それでも構わず動こうと踠くが、頭上から現れる巨体の脳無が押し潰そうと迫ってくる。
「ッ!!」
堪らず後退する。脚に刺さった触手を蹴り飛ばし、熱く痺れる片足を懸命に動かしながら、落ちてくる巨体脳無から逃れる。
振動と衝撃、どちらも今のミルコでは対応仕切れず、彼女の体は地面に無造作に投げ捨てられる。
────限界だった。
片腕はへし折れ、脇腹は抉られ、自身の最大の武器である脚も潰された。ハイエンドと呼ばれる上位の脳無、それも複数を相手に一人で対峙し続けてきた故の負傷。
それでも、10体近くいたハイエンド脳無は残る所四体。向こうの戦力を削れたのはいいが、それでも最大の標的である殻木球大と死柄木弔の身柄はまだ確保できていない。
(立てよミルコ、死ぬんだったら目的を達してから死ね!!)
吹き出る血に構うことなく、ミルコは立ち上がる。
立ち上がった所で既に満身創痍。それでも彼女の瞳は未だに諦めてはいなかった。
「お、オデノ拳ハ、ダイヤモンドモ砕ケチルルルルゥ!」
ノシノシと逃げ場を無くす様に迫る巨体の脳無、その背後からは触手が先端を鋭くさせて此方に狙いを定めている。
トドメを刺す気だなと、いよいよ追い込まれたミルコが決死の覚悟で脚に最期の力を入れた────その時だ。
「ヴィランよ、良いことを教えてあげよう」
振り抜かれた巨漢の脳無の拳、受ければ致命傷は避けられない必殺の一撃が、どういう訳か止まっていた。
見えない壁、包み込まれている様な不思議な感覚。眼を見開く脳無が次に見たのは、この場にしては似つかわしくない、燕尾服に身を包んだ紳士的な男が震える声を出しながら其処にいた。
瞬間、脳無の腕がバインと弾かれた。
「”柔らかい“と言う事は、“ダイヤモンドよりも砕けない!!” と言う事!!」
自身に出来る精一杯の不敵な笑み、恐怖と戦いながら立ち尽くすその男は………ジェントル。
クリミナルではない、只のジェントルが其処にいて……。
「折角かっこ良く決めたんや、モチッとビシっとせな!」
弾かれ、無防備となった巨漢の脳無の胴体に、速く鋭い蹴りが突き刺さる。
音速の一撃。その衝撃に耐えられなかった脳無は、白眼を剥いて吹き飛んでいく。
「───ッ!! 今更増エタ所デ!!」
着地し、無防備となった男へ、触手が無数に伸びていく。数を使っての飽和攻撃、全身を余す事なく串刺しにする筈だったハイエンドの攻撃は。
紅く眩い炎の軌跡に、悉く斬り落とされる。
「うむ、まさかトイレのロッカーに隠し通路があったとは、よもやよもやだ!」
「遅かったやんか委員長、遅刻は御法度なんやちゃうんかい」
「ウム! 済まない! 穴があったら入りたいな!!」
「声デカイっちゅーねん」
それは、嘗てのゴジータの級友。独特な羽織りを身に纏い、無数の悪意を前にしながら、二人は不敵に笑みを浮かべる。
「ほら、ボサッとすんなジェントル。ヒーローなら次に備えて構えんかい」
「とは言え、先程の防御は見事だった! 胸を張れ! お前は今、一つの命を救ったんだ!!」
「ッ!!」
二人のヒーローに促され、ジェントルも身構える。相手は人の枠組みから外れた怪物、正しく悪の軍勢。
チンケなチンピラでしかなかった自分では相手になる道理なんてない筈なのに。
どうしてだろう、何故か今は全く負ける気がしなかった。
次回、罠
悪意の賭けが博打に出る。