超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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最近、暑さが酷くなってきています。
水分補給はこまめにね!

そんな訳で初投稿です。


記録94

 

 

 

「ふー、取り敢えず洗濯物はこれで全部終わりかな」

 

 子供達の衣服が風で靡く様子を見て、孤児院“星の都”の院長の姫野葵は満足そうに額から流れる汗を拭う。

 

 昼食の準備も終わり、午前の家事を一通り片付けた葵は痛む腰に手を当てて、空になった籠に手を伸ばす。

 

「センセー、終わった~?」

 

「うん。終わったよ」

 

「じゃあ、カゴは私が片付けとくね!」

 

「ありがとう、アイ」

 

 瞳に星を宿した少女、アイ。孤児院に来た時は塞ぎ込んでいた彼女も、他の子供達と同様に明るくなり、今では軽めの家事なら手伝うようになっていた。

 

「さて、お昼までまだ時間があるし、少し休憩しようかな」

 

 そんな子供達の献身もあり、最近はこうして身体を休める時間も増えた。この分なら午後の買い出しも余裕をもって済ませられそうだと、葵がお茶の間へ移動した時だ。

 

『────きんきゅ、緊急、緊急速報です!! ○県にある蛇腔病院とその周辺地域にて、大規模な爆発が発生!! 被害は甚大! 街は、壊滅的な被害を受けています!!』

 

「─────え?」

 

 テレビに映し出されたある光景、人の営み、その結晶である街がまるで抉りとられたように更地になっている。

 

 建物は砕かれ、吹き飛び、其処に生きる人々の痕跡を根刮ぎ破壊し尽くされた画。あまりにも非現実な光景に葵は一瞬テレビのフェイクニュースを予見した。

 

 しかし、ヘリらしき場所から映るアナウンサーの必死さの具合がそれが事実だと物語る。

 

『既に多数のヒーロー達の死亡が確認され、行方不明者も多数挙がっているとの事です! 神野に続く大規模災害、一体何故このような事態が起きてしまったのか!』

 

 ふと、テレビの画角の端に陰が映ってきた。大きく、巨大で、武骨な肉の塊。其処から覗き込んでくる相貌は見ているものに圧倒的な恐怖を刷り込んできた。

 

『え、今なにか光───ギャッ』

 

 ブツ。とぶつ切りの音と共に画面が暗転、次に映り込んでくる【しばらくお待ち下さい】のテロップに葵は愕然となりながらテレビの前に立ち尽くした。

 

「────甚田」

 

 嫌な予感がする。ざわめく胸元を抑えながら、葵は蛇腔病院のある方角へ視線を向けた。

 

 向こうの空から、黒い暗雲が広がりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、マキアの奴、目からビーム出しやがった」

 

 やるなァー。燃え盛り、爆散しながら落ちていくヘリを見て、死柄木弔は面白可笑しく笑っていた。

 

「けど、あんま暴れ過ぎんなよ。お前の肩には一応俺達の恩人がいる訳なんだからさ」

 

「一応とはなんじゃい!」

 

 マキアの山の様な背中、その上から憤慨した様子の殻木が抗議してくるが、それすらも愉しそうに笑う。

 

 何せ。

 

「で、無駄な抵抗は終わったか?」

 

 そうでもしないと、退屈で死んでしまいそうだから。

 

 倒れ伏しているヒーロー達。緑谷、轟、爆豪、飯田、プレゼントマイクや駆け付けたヒーロー達も、死柄木弔の攻撃によって諸とも捩じ伏せられてしまっていた。

 

「いや、攻撃という攻撃はしてないんだけどな。いけねぇ、丁寧にやるって言ったのに、これじゃあマキアの事が言えねぇな」

 

 死柄木が行ったのはただ腕を薙いだだけ、ただそれだけで衝撃波が起こり、拘束していた氷諸とも大地を抉りヒーロー達を吹き飛ばしてしまった。

 

 何という膂力。個性という範疇すら超えた人ならざる力の発露、これがあのNo.1ヒーローの力かと、死柄木は自身の掌を見て悦に浸る。

 

「さて、遊びにもならないしいい加減終わらせるか……あん?」

 

 緑谷から個性を奪い、O.F.Aを自身のモノとする。今更あまり興味のない目的だが、達成する目標は必要だよな。

 

 そう一歩踏み締めた時、視界の端で立ち上がる姿が見えた。

 

 爆豪勝己。その立ち振舞いと口調から、自分達ヴィラン側に近い人間として一時は【ターゲット】の一人として見てきた彼、そんな奴が額から血を流しながら生意気に此方を睨み付けてきた。

 

「へぇ、結構タフじゃん。……いや違うな、衝撃に呑まれる際に爆発で直撃を緩和させたのか。センスがあるのかみみっちいのか、良くわからん事をするな」

 

 壊れた玩具の残骸からまた遊べる玩具を見付けた子供の心境、そんなノリで近付いてくる死柄木に爆豪は両手を一度突きだし。

 

「?」

 

 それを、右の腰へと持っていく。一体何をする気だと、訝しげに首を傾ける死柄木だが。

 

「かぁ……」

 

「めぇ……」

 

「はぁ……」

 

「めぇ……」

 

 その両手の間、何もない筈の空間に小さな蒼白い光が灯ったのを見た瞬間、全身が総毛立つ感覚に襲われた。

 

 そして、次に沸き上がる苛立ちに従い、瞬時に間合いを詰め、何かを放とうとした爆豪の体に蹴りを叩き込んだ。

 

「がっ……!」

 

 意識が飛び掛ける。バチバチと火花が散り、目の前が白と黒で埋め尽くされる。溜めていた光(・・・・・・)は霧散し、血反吐を吐きながら悶絶する爆豪を、デクは動けない体で身動ぐ事しか出来なかった。

 

「今の知ってるぜ、【かめはめ波】だろ? ゴジータの必殺技、まさかお前がアレを扱えるなんてな」

 

「が、は………」

 

「いや、単にお前の個性を応用か。焦らせやがって」

 

 爆豪が見せた光、それが個性による応用であって偽物以下の劣化技でしかない。そう断じる死柄木は倒れながらまだ死んだ目をしていない爆豪を、トドメを刺そうとある事実を突きつける。

 

「そうだ。今の内に教えておいてやるよ。お前らが頼りにしているNo.1ヒーローな、来ないぞ」

 

「…………ァ?」

 

「アイツな、宇宙に跳ばされたんだと! お前も知ってるだろ! 宇宙空間には酸素がない! 空気がない! 生命体が生きていく為に必要な要素、それらが皆無な所にアイツは跳ばされたんだよ!」

 

 笑いながらそう告げる死柄木、周囲のヒーローは何の事だと言葉の意味を理解出来ていないが、そんな彼等の反応を見て、死柄木の笑みは更に深くなっていく。

 

「分かりやすく教えてやるよ、お前らが頼りにしている【希望の象徴】は死んだ。誰も知らない、誰も届かない未知の空間で、あのヒーローは一人寂しく死んだんだよ!」

 

「デタラメ言うな!!」

 

 嗤う死柄木に、憤りの叫びを上げながら立ち上がるのはデクだった。自身の腕に黒鞭を巻き付け、折れた腕の添え木代わりしながら、彼は口許を歪ませて嘲笑う死柄木を睨み付ける。

 

「ゴジータが、僕達のNo.1ヒーローが、そんな簡単に死ぬわけないだろ!!」

 

「なら何故そのゴジータはここにこない?」

 

「っ!」

 

 ゴジータは死なない、死ぬわけがない。そう断じるデクだが、死柄木は両手を広げ今の自分達の立つ惨状を改めて見せ付けながら問い掛ける。

 

「これだけの惨劇をして、これだけのヒーローが消し飛んだにも関わらず、どうしてNo.1ヒーローは来ない? アイツならここに10秒足らずで駆け付けられるだろう?」

 

「………ッ!!」

 

「それが答えだ。現実を見ろよ、ヒーロー」

 

 歯を食い縛り、涙ぐむデク。悔しい、悔しいのに何も言い返すことが出来ない。

 

 情けない。どれだけ成長し、強くなったと言われても未だに自分は無個性であることを蔑まれてきた頃と何一つ変わらない。

 

「なァにが、現実だ。クソボケ、デク、テメェもヴィランの言葉に言い負かされて、ンじゃねぇよ!」 

 

「かっちゃん!」

 

 それでも、爆豪は立ち上がる。無駄と分かっていても、勝てないと分かっていても、それでも緑谷出久の幼馴染みは勝利の為に立ち上がって見せた。

 

「エラソーに謳っているが、所詮テメェは人から得た力で威張っているだけに過ぎねぇカスだ。横からかっさらうだけしか能がねぇガキが、上からモノ言ってんじゃネェヨ」

 

「………やけに舌が回るじゃないか。呼吸する事すら億劫な癖に。けど、どれだけ吠えた所で現実は何一つ変わらない。呑み込めてねぇようだから分かりやすく教えてやるよ」

 

「お前達、ヒーローの時代は終わりだ。お前達が蓋をし、見ようともしなかった────腐れ、爛れた()が何もかもブッ壊す」

 

 瞬間、死柄木の体から白い炎が噴き出してくる。

 

 力の発露、それは大気を震わせ、大地を震撼させていく。ただ力を解放しただけで引き起こされる天変地異、遠くから幾つものヒーロー達の悲鳴の声がデクに言葉に出来ない畏怖を植え付ける。

 

 しかし。

 

「それがどうした」

 

 男は揺るがない。

 

「テメェがどれだけ強かろうと、俺がやるべき事は変わらねぇ」

 

「テメェが誰かを殺し、何かをブッ壊そうてんなら………俺は守る。守り、守り抜いて、テメェに勝つ」

 

 どれだけ力の差を見せ付けられても、爆豪の目は死なない。

 

 澄んだ眼で自分を見る、それがどうしようもなく苛立った死柄木は………。

 

「そうか、なら死ね」

 

 ただ一言だけそう告げる。

 

 もう言葉は交わした。つまらなそうに吐き捨てながら、死柄木は爆豪を殺そうと一瞬にして間合いを詰め───。

 

「よぉ吼えたガキ!」

 

 瞬足の蹴りが、死柄木の顎を横から蹴り上げ。

 

「お前の意志、確かに聞き届けた!」

 

 燃え盛る炎の刃が、がら空きとなった死柄木の胴体に斬り付け。

 

「バルーン・トランポリン!!」

 

「オラァッ!!」

 

 獰猛な兎が、空気のバネを利用して渾身の一撃を叩き込む。

 

 吹き飛び、たたらを踏む死柄木。予想外からの攻撃に一瞬面食らうが……相変わらずダメージはない。ただ後から沸いてくるヒーロー()に苛立ちを覚えた。

 

「ミルコ! それにジェントルとそっちは……マッハスピードに焔武者!?」

 

「おっ、まだ元気そうな子もおるな」

 

「うむ、向こうの少女達も気絶しているだけ、善哉善哉!」

 

「相澤センセーの方は……アカン、死にかけとる。ジェントル! 仙豆擬きはまだ残っとるか!?」

 

「済まない! ミルコ氏に喰わせたのが最初で最後だ!!」

 

 チッと、舌打ちをしながら駆け付けた善院の目線は死柄木に向けられる。

 

 手応えはあった。タイミングも申し分無く、ミルコも自分達同様に死柄木を殺す気で一撃を見舞った。

 

 なのに、相手は死ぬ処か平然と佇んでいる。これが例の細胞の恩恵を受けた怪物か。

 

「あぁ~ヤダヤダ、楽して強ぉなろうとする奴は性根が曲がっていて敵わん」

 

「なんだ、羨ましいのか?」

 

「アホ抜かせ、誰が偽物の力なんぞに固執するかい」

 

 煽ろうとしてくる死柄木を、鼻で嗤って一蹴する。とは言え、相手は過去に前例が無いほどの怪物だ。どうやってコイツを倒そうかと頭を悩ませていると。

 

「いつまで遊んでいるんだよ、死柄木」

 

 死装束に身を包んだ………白髪の荼毘が何かを抱えて死柄木の隣へ降り立った。

 

「なんだ。生きてたのか荼毘、連絡が無くて寂しかったぜ」

 

「テメェ等がテンション任せで暴れるから瓦礫に呑まれ掛けたんだわ。死ぬかと思ったぜ」

 

 お前のせいで死にかけたと、そう悪態を吐く荼毘だが、倒れ伏している轟をみると、その顔を喜悦の笑みで歪ませる。

 

「おぉ、焦凍も生きていたか。良かったァ、心配してたんだぜ。お前は是非とも親父と一緒に死んで欲しかったからなァ」

 

「───あぁ?」

 

 漸く起き上がれるようになった焦凍、そんな彼の前に投げ落とされたモノを見て、彼の表情は凍り付く。

 

「エンデヴァー!」

 

 それは全身を焼かれ、意識を失っているエンデヴァーだった。

 

「全く、あのNo.2ヒーローがたかが死に別れた息子と再会しただけで無力化するなんてよぉ、お陰で此方は肩透かしだ」

 

「まさか………燈矢兄ぃ、なのか?」

 

「そうだよ! お前と親父を殺す為に、無様に生き延びてきた! さぁ、地獄で一緒に踊ろうぜ!」

 

「やれやれ、久し振りの家族との再会でテンション振りきれたか。まぁいい、まとめて片付けるのには丁度良い」

 

 蒼い炎を纏いながら迫る荼毘、奴に追随して改めて一歩踏み締める死柄木に相対するヒーロー達は身構える。

 

 だが、状況は最悪。死柄木も荼毘も共に広範囲に高火力の攻撃を持つ。対応は困難、加えて未だに静観を決め込んでいるあのデカブツまで動き出したら、いよいよ此方に勝ち目は無くなる。

 

 だから………。

 

「おいガキ、お前爆豪って言ったか」

 

「…………なんだ」

 

「もっかい、今のをやれ。できるな?」

 

 善院直哉はヒーローの卵である爆豪に全てを賭けた。

 

 理屈はない。理由もない。ただゴジータが認めたという根拠だけ。【かめはめ波】を伝授した爆豪の可能性に、一筋の光明をみた。

 

 プロヒーローが、自分に全てを託した。その事実に爆豪は自身の脚が震えるのを感じたが。

 

「任せろ」

 

 ただ生意気に、そう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駆ける。ニヤニヤと此方を見下すクソ野郎(死柄木弔)の顔に一発叩き込むために、マッハスピード(善院直哉)は自身に掛かる負荷を省みず、初速から全力で飛ばす。

 

「眼鏡君、まだいけるやろ!?」

 

「はい!!」

 

 付いてこい。そう暗に激を飛ばす直哉に飯田も反射的に応える。未だ兄の名(インゲニウム)を受け継いでいないが、それでも自分に追い縋ろうとする飯田を、善院は初見で気に入った。

 

「合わせろや、インゲニウム(・・・・・・)!!」

 

「はい!!」

 

 聞こえていないのか、二回も反射的に返事をする飯田だが………それでいい。目の前の化物を押し留めるのに余計な思考は邪魔だ。

 

 黒と白、二つの閃光が軌跡を画き、それに縫い合わせるように焔武者(炎獄)が斬り結ぶ。

 

「弐ノ型、昇り炎天!!」

 

「あー、うっぜ」

 

 それでも、死柄木に堪えた様子はない。

 

 ミルコは先程の一撃の反動か動かなくなり、ジェントルがそんな彼女を背中に抱えながら追ってくるデカブツの手から何とか躱している。

 

 荼毘の方は、焦凍が必死に耐え、気絶しているエンデヴァーを庇いながら氷で炎を防いでいるが………長くは持たない。遠く離れた所では同じく気を失っている相澤とマニュアルがいる。

 

 もう、時間は掛けられない。失敗は許されない。自分の肩に乗せられた恐怖と焦りに気を揉みながら、それでも今一度爆豪は自身の両手で印を結ぶ。

 

「かぁ……」

 

 思い出せ、自分の原点。何になりたいのか、何のためにそうなりたいのか。

 

 爆豪勝己(自分)がなりたいと願ったのは、勝って助ける無敵のヒーロー。そして………。

 

『お前はまだ折れちゃいない。なら、お前はまだ負けてねぇよ』

 

 自分の理想に少しでも近付きたい為に、爆豪は願う。

 

「────おいおい、マジか」

 

「あぁ?」

 

 見れば、爆豪の全身から白い炎が立ち上っていた。弱く、薄く、死柄木のと比べれば雲泥の差程の小さな光。

 

 しかし。

 

「めぇ……」

 

 構えた腰に当てた両手、其処から覗かせる蒼白い光が、ヤケに死柄木の鼻に付いた。

 

「ちっ、性懲りもなく」

 

「このぉッ!!」

 

「シカトこいてんなダボがッ!!」

 

「うるさい」

 

 蹴り掛かる飯田を、殴り掛かる善院を、一瞥することなく裏拳で破壊する。

 

「はぁ……」

 

 倒れ伏す二人、いい加減この遊びも飽きたと、死柄木は地面に手を当てて周囲のヒーローごと全て消してやろうとするが………。

 

「…………あぁ?」

 

 崩壊が起こらない。一瞬の困惑、まさかと思い顔を上げると、気絶していた筈の相澤が文字通り目を光らせており。

 

オーバードライブ!!(五速)

 

 目の前には、異様な速さで目の前に現れるデクがいた。

 

クイン・ティブル(五重)!!」

 

 振り抜かれる拳、これ迄防ぐ素振りも見せなかった死柄木が初めて危機感を感じた。

 

 誰かに援護を、そう思い辺りを見回すが、マキアには捻れた波動を放つ女ヒーローとキメラのヒーローが、荼毘には全てを透過させるヒーローがそれぞれ足止めをしている。

 

「めぇ……」

 

 役立たずが! そう悪態するのも束の間。嘗て無い衝撃が死柄木の顎をカチ上げる。

 

「かっちゃん!!」

 

「っ!!」

 

 視界がブレ、この身体になって初めて感じる痛みに意識が削がれる。そして。

 

 臨界。そう思わせる程の光が爆豪の両手に集まっていた。

 

 間に合わない。だったら緑谷を盾にしようと手を伸ばすが……黄色いマントを翻す老齢のヒーローが、緑谷を連れ去っていく。

 

「────ありがとう」

 

 それを見送った爆豪は、自分の為に身体を張ってくれた全てに感謝をしながら。

 

「波ァァァァッ!!!」

 

 全てを出し切る。もう立てなくなってもいい、そう思える程の勢いで。

 

 遂に、極光は放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪のそれは、紛れもなく会心の一撃だった。個性とは異なる力、何度も模索し、失敗を繰り返しながら遂にその領域へ足を踏み入れた。

 

 誰もが彼を認めただろう。爆豪はゴジータの弟子足り得るのだと。

 

 きっと、そう遠くない未来で彼の名はトップヒーローに名を連ね、多くの人々の希望になり得ただろう。

 

 ───しかし。

 

「ったく、ビビらせやがって」

 

 彼等の前に聳え立つ悪意は、あまりにも重く、分厚く、そして高かった。

 

 全身に焦げ目が付いているが………それだけ、所々血が出ているが………それだけ。

 

 傷付いた身体は再生の個性によって回復し、微かに受けたダメージは瞬く間に回復されてしまった。

 

 クソッタレ。なんて悪態を吐く気力も無くし、ただ睨み付ける事しか出来ない爆豪を、死柄木は嘲笑う。

 

「折角の技、効いてやれなくてゴメンなぁ? でも、最期に良い夢見れただろ? 自分でもゴジータみたいになれるって、ガキみたいに喜べただろ?」

 

「───」

 

「だから、永遠に夢を見せてやるよ。──マキア」

 

「はっ」

 

「壊せ」

 

「ハァァァァッ!!」

 

 死柄木の言葉に従い、マキアの拳が振り上げられる。

 

 ヒーロー達が懸命に叫び、阻止しようと動くが、蟻が巨人の動きを止められる筈もなく。

 

 マキアの拳は、一切の加減なく振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冥王星………だと?」

 

「あぁ、地球から凡そ47億8000万km。途方もない距離感に流石の僕も半信半疑だった。けど、僕の盟友は成し遂げた。夥しい数の思考実験を繰り返し、数多の失敗を積み重ねながら、遂にやり遂げて見せた」

 

 嗤う。暗雲広がる蛇腔方面の空を見ながら、A.F.Oは両手を広げて嗤う。

 

「ゴジータ。確かに奴は厄介極まりない男だよ。けれど、奴はもういない。遥か宇宙の彼方で一人孤独に死んでいる。誰にも看取られることなく、誰にも知られる事なく、ひっそりと、呆気なくなぁ!!」

 

「……………」

 

「そして、全てを片付けた後に僕は死柄木弔と融合を果たし、この星の頂点に君臨する。これこそが、僕が最高の魔王になるための物語さ!!」

 

 ゴジータという最大にして最強の障害がいなくなった事で、すべては自分の掌の上。

 

 圧倒的力と言うのはこれ以上無い程に分かりやすく、また心酔しやすい。自分という脅威に苛まれ、今後生まれるすべての可能性は自分の下に平伏せざるを得ない。

 

 そんな未来を思い描いて、A.F.Oは愉しそうに嗤うが………。

 

「────フッ」

 

 そんなA.F.Oの野望をオールマイトは鼻で嗤った。

 

「………なにか、言いたい事でも?」

 

「あ、いやなに。随分と可愛らしい夢を持っているんだな、と思ってね」

 

「───随分と上から目線だな」

 

「別にそんなつもりはないよ。ただ呆れただけさ」

 

「………まさか、この期に及んでまだいもしないNo.1に縋っているのか?」

 

 ゴジータは不在で、蛇腔にいるのはそのゴジータの力を宿した死柄木弔(自分の器)とマキアがいる。どう足掻いてもヒーローに勝ち目は無いと、そう断じるA.F.Oに対し、オールマイトは変わらず不敵に笑っていた。

 

「まさか。私達は日々自己を研鑽している。爆豪少年も、緑谷少年も………そして、世界中のヒーローも彼に続こうと頑張っている。それにな、A.F.O」

 

「私達のNo.1が、ゴジータが、たかが宇宙に飛ばされた程度で………死ぬと思っているのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かに、ゴジータは宇宙へと飛ばされた。

 

 跳ばされたのは遥か遠い冥王星、一度は太陽系の惑星の列に並び、そして弾かれた太陽系の中でも地球から最も遠く離れた惑星だった星。

 

 それに、疑いを抱くものはいなかった。殻木も死柄木も、A.F.Oも。

 

 だから確信した。ゴジータはもう地球には戻ってこれない。下らない情に絆されて、二度と自分達の前に現れはしないと。

 

「───マジで」

 

 ならマキアの一撃を、振り下ろされた巨人の一撃を、涼しい顔して片手で防いでいるアイツは………なんだ。

 

 黄金の炎を身に纏い、翡翠に輝く二つの眼で此方を射貫いてくる奴は────一体なんだというのだ。

 

「何なんだよ、お前」

 

 初めて死柄木弔の顔が歪む。マキアは目を剥き、殻木に至っては腰を抜かして失禁している。

 

 誰もが言葉を失う中、彼は呟く。

 

「────爆豪」

 

 振り返りはしない。けど、その言葉は他でもない自分に向けられている。

 

「この戦い、最後まで自分を信じ、そして………俺を信じてくれた」

 

「お前の勝ちだ」

 

 ただ、その言葉に全て報われた気がした爆豪は……。

 

「───へへ」

 

 照れ臭そうに笑った。

 

 

 

 

 

 






次回、真髄。


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