超なオイラのヒーロー記録【完結】   作:アゴン

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今回、場面展開が多くて読みづらいかもしれません。

そんな訳で初投稿です。




記録97

 

 

 

「────は、ハハ、マジかよ」

 

 ロックロック。ヒーローの中でも中堅でベテラン、実力もある彼は、その光景にただただ唖然としていた。

 

 最悪のヴィランとして覚醒した死柄木弔、奴の配下であり山のように巨大なヴィランのマキア。どちらも災害の如く凶悪な存在であり、自分の様な木っ端なヒーローでは足止めにもならないと、半ば諦めかけていた。

 

 しかし、その絶望をNo.1ヒーローが一瞬にして拭って見せた。腕の一振で地形を変えてしまう死柄木を、街一つを消し飛ばして見せたマキアを、ゴジータは余裕を以てこれ等を蹴り飛ばす。

 

格が違う。舞い上がる砂塵の向こうで超然と佇むゴジータにロックロックは安堵に腰を抜かしてしまう。

 

「──あぁ、本当、分かっていた筈なんだがな」

 

モノが違う。どんなに強大なヴィランが相手だろうと、どんなに危険な存在が現れようと、彼は不敵な笑みを浮かべて正面から立ち向かう。

 

 その在り方と姿は、正しくNo.1にふさわしい立ち振舞いで、マキアの姿を見てすっかり怯えてしまったロックロックには眩し過ぎる姿だった。

 

しかし。

 

『安心するのはまだ早い! 総員、気を抜くな!!』

 

「ナイトアイ?」

 

 耳に付けられているインカムから怒号の様な警戒の声が届いてくる。声の主は現在全作戦の支援を担っているナイトアイで、その声は何となく焦っている様にも聞こえた。

 

「どうしたよ、冷静沈着なアンタらしくない。………何か、嫌な未来でも見えたのか?」

 

 ナイトアイの個性は未来予知。その精度は高く、嘗てはオールマイトの無惨な死を予見した強力故に無慈悲な個性。

 

ゴジータという天下無敵のヒーローが到着したというのに何処か焦っている様子の彼に、ナイトアイはどうしたと問う。

 

『───先程、タルタロスにてA.F.Oの脱走が確認された。現在はオールマイトが対処してくれているが、奴の狙いが分かった以上悠長にはしていられない』

 

 ナイトアイからの報告に一部のヒーロー達に緊張が走る。A.F.Oとは先の神野で暴れたヴィランの名称、その目的と存在は未だに公安から規制を掛けられているが、その力は尋常のモノでない事は知っている。

 

『奴の目的は死柄木と同化を果たし、完全なる存在へ至る事! そうなる前に、決着を付けなければ!』

 

 唯でさえ恐ろしい死柄木が、更に手が付けられない事になる。そう語るナイトアイだが、ロックロックはそれでも動揺する事はなかった。

 

「け、けどよ。仮にそうだとしても、そういう事態になったとしても、ゴジータなら何とか出来るんじゃないのか?」

 

 情けないが、ゴジータの強さは規格外。死柄木とマキアの二人を相手にしてもその強さは健在で、仮令(たとえ)ナイトアイの語る最悪の状況が起きたとしても、ゴジータなら何とかなるのではないか、そう思えてしまうのだ。

 

しかし。

 

『────見えなかったんだ』

 

「は?」

 

『私の眼は、既に奴の……ゴジータの未来を視る事が出来なかった』

 

「み、見えないって……」

 

 ナイトアイが最後に見たゴジータの未来、それは光りに包まれ、光りに溶けていく彼の姿。

 

一体何が起きるのか。現場から程遠い位置にいるナイトアイは、周囲のヒーローに呼び掛けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エンデヴァー、おい。どうしたんだよアンタがいながら」

 

「…………」

 

 死柄木とマキアを蹴り飛した先へ軽く跳び、着地代わりに全身やけどのゾンビヴィランを蹴り飛ばしたゴジータは、近くのエンデヴァーの姿を眼にすると驚きに眼を剥いた。

 

エンデヴァーはトップヒーローの一人に数えられ、序列は2位。つまりは日本で二番目に活躍しているヒーローである。

 

 そんな彼がズタボロの様子で地に踞っている。プライドが高く、それに見合った実力を持つエンデヴァー、過去、どんなに凶悪なヴィランが相手でも決して怯む事がなかった彼が、此処まで打ちのめされているなんて見たことがなかった。

 

「轟、エンデヴァーに何が起きたか知っているのか?」

 

「そ、れは………」

 

「俺がやったんだよ」

 

 偶々近くにいた焦凍に訊ねるが、何故か歯切れが悪い彼に更に困惑すると、背後から声が掛かった。

 

 荼毘だ。頬を蹴り飛ばされ、外れた顎を乱暴に嵌め直し、血走った眼でゴジータを視る。

 

殺気というより狂気、鼻と口から血を流しておきながら、不気味に嗤う荼毘が嬉しそうに口を開いた。

 

「みっともねぇだろ? 万年二番手で一時は三番手にまで落ちぶれ、お情けで二番に返り咲いたヒーロー。こんなのが先達だと若手のヒーローは虚しいよなぁ!」

 

「なんだアイツ、エンデヴァーのファンか?」

 

 アンチというにはエンデヴァーに対して執念染みた拘りを持つ荼毘。嗤い、青い炎を滾らせて近付いてくる奴に、ゴジータも荼毘に向き直った。

 

「違うんだ、ゴジータ。アイツは、荼毘は………」

 

「お兄ちゃんさ」

 

「は?」

 

「俺はそこの轟炎司の息子で、轟焦凍の兄! 四人兄妹の長男で、見捨てられた失敗作なんだよ!」

 

 荼毘の衝撃的な告白。両手を広げ、高笑いをする荼毘に対して、焦凍とエンデヴァーは何も言えなかった。

 

「分かるかゴジータ、エンデヴァーの嫉妬()が俺を生み出し、エンデヴァーの()が何人もの人間を焼き殺したのさ! 酷い話だろ? 薄汚ねぇ話だろ? そこに転がっているNo.2様は、オールマイトを超える為だけに、無関係の人間を大勢巻き込んでいるんだよ!!」

 

 嘗て、荼毘こと轟燈矢はオールマイトを超える野望の下で生み出された個性婚によって生まれた子供だった。

 

しかし、自分の個性に欠陥があると知るや、轟炎司は燈矢を視る事は無くなった。日に日に増していく劣等感、日増しに抑えられ無くなっていく父への承認欲求。

 

 遂には父と母、両方の個性を受け継いだ焦凍に嫉妬の炎を燃やし、その炎で生まれたばかりの弟を燃やそうとして………。

 

結果、感情のままに全てを燃やしてしまった燈矢は轟家が所有する山の中で自らの炎に呑み込まれ、死亡し。

 

後に、荼毘という最悪のヴィランとして再誕を果たした。

 

 これが荼毘の生まれた経緯、これが轟燈矢というエンデヴァーの罪、その象徴。

 

 今日まで荼毘は多くの人々をその炎で焼いてきた。ヒーロー、チンピラ問わず。 エンデヴァーによって生み出された、禍々しい蒼い炎で。

 

「世間は俺を悪逆非道のヴィランと呼ぶが、その生みの親は紛れもなくエンデヴァーなんだよ! 全く大したモンだよな、万年2位のヒーローの嫉妬が多くの悲劇を生み出しちまってんだからよォ!」

 

 ゲラゲラと嗤う荼毘、自身の全てをエンデヴァーに向けたその衝動は、執念というより怨念のソレに近い。

 

「いや、それはないだろ」

 

「─────あ?」

 

 しかし、ゴジータは即答で否定する。

 

「お前がエンデヴァーの息子? オイオイ、幾ら自分の個性が炎由来のモノだからって、それはちょーっと自惚れ過ぎじゃね?」

 

「あぁ?」

 

 荼毘の顔から笑みが消える。自分は間違いなくエンデヴァーの息子だ。それはこの身に刻まれた遺伝子が何より証明している。

 

意図の読めないゴジータの言葉に、荼毘は当然ながら焦凍も測れないでいると。

 

「お前程度の炎で、エンデヴァーの息子を名乗れるモノかよ」

 

 フッと、鼻で嘲笑うゴジータに、荼毘の沸点が瞬時に振り切れる。

 

「赫灼熱拳ッ!!」

 

 胸元から蒼い炎が迸る。ジリジリと周囲の空気ごと焼き尽くそうとする蒼炎は、ゴジータやエンデヴァー、焦凍を自分ごと焼き尽くそうとして。

 

「プロミネンス───バーン!!」

 

放たれる。極限に溜めて圧縮した熱量を、ゴジータ達に向けて放たれる。大地すら灼く炎を前に、ゴジータは逃げる素振りを見せず。

 

「焦凍」

 

「ッ!」

 

「エンデヴァーを守れ。今はそれ以外を考えるな」

 

「───はい!」

 

 

 焦凍に一言命じる。守れ、ただその言葉に込められた意味を察すると焦凍は意識を集中させ、胸元に冷たい炎を宿し始める。

 

「赫灼熱拳・【燐】!!」

 

「ショート……」

 

 迫る炎の波を前に、焦凍は薄い氷の膜をエンデヴァーごと自身を包み込む。

 

「俺の炎は、燈矢兄やクソ親父みたいに燃やすだけのものじゃない」

 

 荼毘の放つ圧倒的熱量を前に、焦凍の張る氷の膜なぞ歯牙にも掛けない。父親諸とも焼きつくし、何もかもを灰にしてやろうとするが……。

 

 溶けない。どういう理屈か、焦凍の張る氷の膜が全く溶ける気配がない。

 

「俺のこの個性()は、父と母が授け、そして───」

 

『君の、力じゃないか!!』

 

「友達が導いてくれた。俺の個性()だ」

 

「ッ! それが、どォしたぁぁ!!」

 

 気に入らない。自分の炎を、自分とは違う()で防ぐ焦凍が、荼毘の神経を逆撫でる。

 

もっと、もっと火力を上げろ。周囲の被害も、自分自身すらも顧みない火力で、何もかもを灰にしてやる………!

 

「やっぱな」

 

 そんな荼毘の怨み辛みを、消し飛ばす様な暴風が起きた。

 

「ッ!?」

 

「ただ燃やす事しか能がないヴィランには、この程度が関の山か」

 

 荼毘の炎を、何もかもを消し炭にする筈だった蒼い炎は、目の前の怪物の腕の一振によって搔き消される。

 

呆れ果てた失望の眼差し、防いでいた焦凍と違い直撃した筈のゴジータには小さな火傷一つ付いていなかった。

 

「この程度じゃ、小火(ボヤ)にもなりゃしねぇよ」

 

「~~~~ッ!!」

 

 無下にされ、バカにされ、コケにされた。当然、荼毘は激しい怒りを顕にするが……。

 

「寝てろ」

 

「っ!!??」

 

 ゴジータの拳が荼毘の腹に捩じ込まれる。

 

「父親離れが出来てねぇ構ってちゃんが、騒ぎ立てるんじゃねぇよ」

 

 衝撃が荼毘を貫き、有無を言わさず意識を刈り取る。倒れ、地に伏す荼毘を見下ろすと、ゴジータの視線は別方向に向けられる。

 

「焦凍、二人の事を………」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 本来なら自分達で片を付けるべきだった。しかし、今はゴジータの邪魔にならないよう、エンデヴァーと荼毘を連れて此処から離れるべきだろう。

 

何故なら。

 

「オイオイ、俺の仲間を苛めるなよ」

 

 まだ、戦いは終わっていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死角から伸びる手、広げられた掌の奥からニヤけた笑みがゴジータに向けられる。触れれば死は免れないソレを凶手をゴジータは一瞥することなく避ける。

 

ほんの僅かに体を横にずらす事で回避し、無防備になった死柄木の腹部へ蹴りを叩き込む。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛ッ!!」

 

 頭上から巨人(マキア)の拳が振り下ろされる。圧倒的体格と質量から繰り出される拳は、それだけで周囲に大打撃を与え、衝撃波だけでヒーローに甚大な被害をもたらす。

 

しかし、その一撃はゴジータの拳によって簡単に返される。拮抗はなく、あまりにも一方的に殴り返され、マキアの拳はひしゃげ、砕かれた。

 

「暫く寝てろ」

 

「ガァッ!?」

 

 痛みに悶絶する暇もなく、眼にも映らない速度でマキアの顔にまで跳躍したゴジータは、回し蹴りでマキアの横っ面を蹴り飛ばす。

 

顎が粉砕され、勢いのまま地面に倒れ伏す。途中で年寄り男性の悲鳴が聞こえた気がしたが………今はおいておくとしよう。

 

「酷いなぁ、自分ばっかり好き勝手殴ってさァ!!」

 

「────再生能力か」

 

 倒れるマキアとすれ違いに飛び掛かってくる死柄木。あばら骨や内蔵を砕く勢いで蹴り飛ばした筈なのに平然と襲い掛かってくる。

 

 恐らくは個性移植による施術の中に再生の個性もあったのだろう、歪んだ笑みを浮かべながら飛び掛かる死柄木に、ゴジータは落ち着いた様子で迎え撃ち、向かってくる掌をいなし、返しの拳を捩じ込んでいく。

 

「ぶ、ガバ!?」

 

「遅ぇよ」

 

 何の策もなく、無闇に突っ込んでくるのは脅威的な再生能力を持つが故か。それとも施術中に痛覚を無くした事で怪我に対する恐れを無くしたからか。

 

何れにせよ、死柄木の特効染みた攻撃はゴジータに言わせれば無謀としか思えなかった。仮令(たとえ)自分の細胞で肉体を強化しても、極め続けている自分に届くことはない。

 

「まぁ、気を習得した事だけは認めてやるよ」

 

 あくまでそこまで再現した殻木(クソ野郎)の技術力に、と注釈する。

 

「………いいや、まだだ」

 

「?」

 

「まだ、俺のお披露目は終わってねぇぞ、ゴジータッ!!」

 

 咆哮を上げ、血走った眼でゴジータを捉えた瞬間、死柄木の左腕が膨張し、破裂する。

 

そこから現れるのは無数の指、大小重ねて蠢く指の集合体が、死柄木の左肩から生え伸びてくる。

 

再生能力の暴走? それにしても絵面がおぞましい死柄木にゴジータが内心ドン引いていると……。

 

「ま、不味いぞ! もしあの指一つ一つに崩壊の個性があったりしたら!」

 

「っ!」

 

 誰かの呟きにより、ゴジータの警戒心が一段階上昇する。死柄木の複合型とも呼べる個性やゴジータ特有の膂力もそうだが、何よりも奴自身が持っている【崩壊】が一番の脅威。

 

もし奴の新たに伸びたおぞましい指の腕(・・・)に同質の個性が備わっているとしたら、それによる被害は計り知れない。

 

 万が一、【G細胞】により個性の力までもが増幅されていたとしたら……。

 

「地球の崩壊の危機、てか。笑えねぇぜ全く」

 

 ひび割れ、色落ちた地球が崩れる様を幻視した。

 

「諸ともぶっ壊れろよ、ヒーロー!!」

 

 振り下ろされる左腕。指の集合体で、見る者によって悪寒すら与えるその不気味のシルエット。口許にも指のマスクが取り付けられ、体躯も肥大化しつつある。

 

人間だった頃の面影が薄くなりつつある死柄木だが、それでもゴジータの判断は速かった。

 

「ッ!?」

 

 突如、死柄木の左腕が両断される。その刹那、黄色い円盤が飛ぶのが見えた。

 

「気円斬」

 

「っ、て、メエェェッ!!」

 

 切り捨てられた左腕に個性が発動している様子はない。やはり本体を叩く事こそが最大の近道か。

 

「────何てな」

 

「っ!」

 

 その時、死柄木の体が膨張していく。先程の闘うための姿ではない。膨張し続けるその姿は、まるで自爆するための様に見えて……。

 

「──まさか!」

 

 ゴジータ────後藤甚田の脳裏に過るのは、ある光景。地球もろとも自爆に巻き込もうとしたとある人造人間。

 

 此処に来て諸々を無かった事にするつもりか? 刹那、ゴジータの予想とは裏腹に膨れ上がった死柄木の肉体による爆発は大きく下回っていた。

 

 いや、下回っているというよりもこれは………。

 

(目眩まし? 今更こんなのに引っ掛かるわけ………)

 

 爆発というより散布、死柄木の身体が破裂した瞬間に撒き散らされる血の煙、悪趣味この上ないと口を抑え………。

 

 気付く。

 

(奴の、目的は……!!)

 

 死柄木の気を辿り、そこへ向かう。奴は最初からマトモに戦うつもりなんて無かった。

 

 奴の目的はもっと別にあった。G細胞による肉体の調整も、再生能力も、全てが別にあった。

 

 死柄木の手が伸びる。その先にいるのは、未だ逃げている途中だった相澤先生(恩師)

 

片足を失くし、マニュアルに支えられながら、それでも最期まで抗おうとしている嘗ての担任教師。

 

 気弾も、衝撃波も間に合わない。既に奴の間合いには先生がいて、どうやっても今の自分では巻き込んでしまう。

 

………だから、まぁ、これはきっと仕方がない事なのだろう。

 

 頭にはこれまで迷惑しか掛けてこなかった過去だけが過り。

 

気付いた時には………体が勝手に動いていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当なら、きっとゴジータが勝っていた。

 

周りに誰もいなくて、誰一人彼の足を引かなければ、きっと、”こう“はならなかった。

 

 相澤消太はこの日の事を、生涯忘れる事はないだろう。

 

 

「甚田ァッ!!」

 

 

 自分を庇うように現れたゴジータ、抵抗も防御も出来ず、ただ恩師の盾になったNo.1ヒーローは。

 

「貰ったぞ、お前の個性()ッ!!」

 

 眼前に迫る凶手を受け入れ。

 

 その手に、遂に捉えられてしまった。

 

 瞬間、ゴジータの身体から光が溢れ───。

 

 彼の顔に皹が入り、相澤の断末魔に似た叫びが戦場に響き渡り。

 

 暗雲が、空を覆っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残念ですが、ご子息の寿命はもって二年。場合によってはもっと短くなる事でしょう』

 

 寿命二年、それが当時の自分に突き付けられた医者からの宣告だった。

 

 幼い頃から体が弱く、大人になるのも難しいとされてきた自分。

 

それでも、中学生にはなれたし、友達も出来た。日に日に病状は悪化してきたけど、卒業式にも出られたし………高校生にはなれなかったけど、家族の献身のお陰もあって限られた時間の中でも比較的幸せな人生を過ごす事が出来た。 

 

 何よりも、ベッドの上で死を待つだけだった自分が大好きなテレビをいつまでも眺める事が出来たのは望外の喜びだった。

 

両親が忙しい時間の中で買ってきてくれたビデオ。【ドラゴンボール】、アニメ版から劇場版までその全てを余すこと無く観ることが出来た。

 

 ………あぁいや、ごめん嘘吐いた。アニメ版の方は所々跳ばしてました。流石に引き延ばし回まで悠長に眺めている余裕は無かったです。劇場版だけは全部観たけどね!

 

 ───閑話休題───

 

 そうして最期に観たのが、映像の向こうで不敵に笑みを浮かべるゴジータ。その映像だけが死の間際だってのに今でも鮮明に覚えている。

 

”嗚呼、カッコいいなぁ。こんな風に、僕も………なれるかなぁ?“

 

 それが、後藤甚田の前の自分の最期の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁにが僕もこんな風になれるかだぁ? なれるわけねぇだろォが偽物がァっ!!』

 

『ッ!!』

 

 蹴り飛ばされる。後ろからその光景を眺めていた自分に衝撃が走る、碌な抵抗も受け身も出来なかった自分は、ただ吹き飛ばされ地に這いつくばる事しか出来なかった。

 

何で? 自分がなんの抵抗もなく蹴り飛ばされるなんて………と、自分の手を見て察してしまった。

 

 小さい。ゴジータのような強く、太く、鍛えぬかれた手足ではなく。視界にあるのは細く、折れそうな程に小さな手足。

 

これは、俺だ。ゴジータに、後藤甚田になる前の……。

 

(じゃあ、此処って……いわゆる精神世界……!?)

 

『そうだよ! 此処はお前の心ン中、下らなくて薄汚ねぇ、お前の腹の底だよぉっ!!』

 

『ギャッ!?』

 

 今、自分がいるのは生死の狭間でよく見る走馬灯みたいなもので、その人の心の中の光景と言うのなら、何故コイツがいる!? 自分を踏みつけながら嗤う死柄木弔が、なんで!?

 

『流石の君も知らないかぁ。まぁ、仕方ないか。特別に講義をして上げよう。人が持つ個性因子、世代を重ね、築き上げてきた個性には時折別人格の意識が宿る事がある』

 

『ッ!?』

 

 突然、死柄木の身体からA.F.Oが生えてくる。その異形さに目を剥いた。

 

あの野郎、個性だけでなく人格まで死柄木に植え付けていたのか!?

 

『だが、君のようなケースは流石に稀だよ。前世の記憶を持つ男、陳腐な夢にすがり付いた憐れで惨めな⬛⬛⬛⬛君?』

 

『先生、コイツは俺の獲物だ。今更しゃしゃり出るんじゃ───』

 

『五月蝿いよ』

 

『─────あ?』

 

 A.F.Oの声音が変わる。すると能面だった顔が捲れ、一人の男性の顔が顕になる。

 

『お前は僕の器なんだ。比喩じゃない、文字通りの意味でね』

 

『な、にを』

 

 呑み込まれていく。死柄木弔だった者の身体(精神)がA.F.Oの身体(精神)へ。

 

『お前は何一つ選んじゃいない。そう思い込んでいただけさ。長女は君と違って育ち過ぎていたからね』

 

『────あ』

 

 A.F.Oのその言葉を皮切りに、死柄木の精神は沈んでいく。彼の記憶に何が浮かんだのかは定かではないが、最後の表情から見るにきっと信じがたいモノだったのだろう。

 

 男の顔が顕になっていく。金髪で、筋骨粒々な……一見すれば紳士的にすら見える男。

 

しかし、色彩の薄い瞳から見える悪意は何処までもおぞましく、濁っていた。

 

これがA.F.O。オールマイトが、O.F.Aの歴代継承者達が終生を掛けて打倒を目指してきた巨悪!

 

『───さて、これで漸く邪魔者は消えた訳だけど』

 

『ギッ!?』

 

『残ったゴミは掃除しておかないとね』

 

 身構える余地なく、蹴り飛ばされる。精神世界なのに痛みを感じるのは、自分がA.F.Oに蝕まれつつあるからか。

 

『いや、本当に呆れてしまったよ。No.1ヒーロー、次代の英雄にして希望の象徴、世間は君の事をこれでもかと奉り上げていると言うのに、肝心な本人が………まさか詐欺師だったとはね』

 

『詐欺師………だと?』

 

『おいおい、まさかの無自覚かよ。ま、それも無理もないか。余命間近だった生ゴミが、ある日突然憧れそのものになったんだ。勘違いしてしまうのも無理はない』

 

『ッ!!』

 

『けどね、君のそれはただの贋作。ショーケースのオモチャの前で喜ぶ子供と何ら変わりない。目を醒ませよ、いい加減』

 

 ────その言葉を、否定できる材料が()には無かった。

 

『けど、そう悲観することはない。見ろよ』

 

 微笑み、A.F.Oが顎で差す先には───光があった。

 

キラキラで輝き、ギラギラで眩しい光。あれが………僕の、個性?

 

『凄いぜコイツは。これさえあればなんだって出来そうだ。与一も流石に僕の事を認める他ないだろうね』

 

 手を伸ばす。薄ら笑いを浮かべて、黒い靄で覆われた腕を伸ばしながら、光へ歩み寄るA.F.Oを。

 

『───はぁ』

 

 しがみつく。殴ることも、蹴ることも出来ない自分に精一杯の抵抗。

 

しかし、そんな抵抗もA.F.Oには煩わしいだけで。

 

『君さ、本当にいい加減にしなよ?』

 

『ぎゃ、あぐ、がっ!』

 

 殴られる。蹴り飛ばされる。胸ぐらを掴まれて吹き飛ばされる。

 

 抵抗なんて出来る訳がなかった。当然だ。自分は病に蝕まれた子供で、向こうは全盛期の大人。

 

勝敗なんて、はじめから分かっていた。

 

 ───でも。

 

『お前はゴジータなんかじゃない。ただなれもしないモノに憧れるだけの………ただのクソガキだ。ペテン師なんだよ、お前は』

 

 腕が折れた。足も折れた。目は潰れ、もうマトモに歩くことも出来ない。

 

 ───それでも。

 

『そんな事、分かってる。そんなことは、俺が一番分かっている』

 

 立て。立ち上がれ。どんなにボロボロでも、みっともなくても、嗤われても、立ち上がれ。

 

『僕が、俺がしているのはただ憧れをなぞっているだけ、嘘吐きで、偽物で、みっともないペテン師。あぁ、その通りだよ』

 

 けれど、仮令(たとえ)そうだとしても。

 

『それでも、僕の────()のこの気持ちは決して、決して!! 間違いなんかじゃない!!

 

 応援してくれた人がいる。泣いてくれる人がいる。支えて、こんな自分を見捨てないでいてくれた人達がいる。

 

”だって君、諦めないでしょ?“

 

 こんな自分を、信じてくれた人がいる。

 

 だったら立て、立って抗え。仮令(たとえ)それが無意味なことだとしても。

 

『はぁ、つくづく醜いな君も。醜さだけならオールマイト以上だ』

 

 握り締められる拳、それは人を殺すには充分な威力を秘めていて。

 

『さようなら、偽りの希望の象徴』

 

 その拳は、一切の加減なく振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『おっと、そこまでにして貰おうか』』

 

『なにっ!?』

 

『────え?』

 

 気付けば、【彼】がいた。

 

 A.F.Oの振り下ろされた拳を容易く掴み、捻り上げ、苦悶と驚愕の顔を晒す奴を蹴り跳ばす。

 

『何故、何故お前が……なんで、いる!?』

 

 A.F.Oが酷く狼狽しているが、それは自分も同様だった。

 

だって………。

 

『『フッ、なんだ。俺の事を忘れたのか?』』

 

 その背中は、その声は、間違う筈がない。

 

 あの日憧れた最高で最強のヒーロー(ゴジータ)が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 






ヒロアカ最終回。読みました。

堀越先生、多くの感動をありがとうございました。



次回、【復活の────】



オマケ


「死柄木弔の手が完全にゴジータの顔を掴んでいる。加えて背後にはまだまだ元気なマキアもいて、加えて殻木も何やら企んでいる」

「これって……」

「ああ」

「弔の勝ちだ」





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