今回は一方その頃なお話。
そんなわけで初投稿です。
『オールマイト………いえ、俊典さん。アンタには言っておこうと思う』
ある日、彼とコンビを組んでいた頃。何時ものようにヴィランを退治し、人々の平和と安寧を二人で守っていた帰り道、彼は言った。
『俺、実は嘘つきなんですよ』
自分はとある人物に憧れを抱き、成れないと解っていながら突き進む愚か者。憧憬に焦がれ、同時に恐怖し、それでも止まる事を止めなかった愚か者だと、彼は自嘲の笑みを浮かべてそう溢した。
その所為で多くの人達に迷惑を掛けた事、恩師を何度も泣かせた事、沈んでいく夕陽を眺めながら、彼は懺悔をするようにそう語った。
『今でこそ、自分なりに折り合いを付けているけど……俺が偽者であることには変わらない。そんな俺が果たして本当にNo.1ヒーローなんて肩書きを背負って良いものかな、そう思ってさ』
No.1ヒーローという肩書きを重荷と感じることはない。ただ、申し訳なさがゴジータというヒーローの胸中に渦巻いていた。
自分は偽者で贋作。それを理解できるのは
そんな新米No.1ヒーローの苦悩を、オールマイトは少しばかりの沈黙の後に答えた。
『偽者か、それってそんなに悪いことなのかい?』
『………は?』
『君が
『それは………』
『いいかい、はっきり言わせてもらうぜ。君は自分を偽者だと言うが、私達にとって君こそが【ゴジータ】なのさ!』
『っ!』
『誰がなんと言おうが、その事実だけは変わらない。………分かった様な口を叩いて済まない。けれど、これだけは忘れないでくれ』
『君は、既にヒーローなのだから!』
未だ完治しきれていない体の痛みに耐えながら。オールマイトは両手を広げて高らかに謳う。
君はヒーローで、君こそがゴジータだと。今の甚田にとって、それはとても重く、それでいてとても嬉しい言葉で。
『………へへ、そっか』
その笑みは、年相応の青年の照れ笑いだった。
◇
「ぐ、ぐぐぐ………」
押されている。迫り来る死、全ての個性を解放させて一つの巨大災害へと変貌を遂げたA.F.O 。
奴を止め、打ち倒すために単身………己の拳一つで打ち砕かんとするオールマイトだが、予想以上に重く硬い感触に苦悶の表情を浮かべる。
『はは、ハハハハハ!! やっぱりそうだ! オールマイト、君にはもう嘗ての力はない! どれだけゴジータの力を真似ようと、所詮は猿真似!! もはや君に僕を止めることは出来ないよ!!』
「っ! ぐ、ぅぅっ!!」
様々な個性が互いに干渉し合い、その結果相乗効果を果たし、歪んだ斥力力場を形成させる。其処から生じる弾き出す力と、凄まじい放電にオールマイトはその身を焼かれるが、それでも負けないと歯を食い縛る。
『もうじき弔………いや、もう一人の僕がゴジータの個性を奪い、魔王となる。仮に君が此処で僕を食い止めようと、もう僕の邪魔をする者はいない!!』
「───そん、な、事ぉッ!!」
『いい加減理解しろよ! 君のこれ迄の努力は、何もかもが無駄だったのさ!!』
押し負ける。既に個性を………O.F.Aの全てを使い果たしたオールマイトに嘗ての様な超パワーは無い。
“気”という力で補っても、目覚めたばかりのオールマイトには其処までの膂力は持ち合わせていない。
だから、A.F.O の言葉はその全てが真実で。
「………分かってないな、A.F.O ッ!!」
『───あぁ?』
だからこそ、気付けない。
「逆境を乗り越えてこそヒーロー、笑ってピンチを乗り越える。それが、私達だ!!」
ヒーローは、何時だってピンチをぶち壊す者。
此処が今の限界だと言うのなら───更に、その向こうへ。
『───何だ』
此処で漸くA.F.O は気付く。
(オールマイトが纏う白い炎が───紅い?)
オールマイトを覆う可視化された白い炎、それが彼の闘志に反応したのか、血のように紅く染め上がっていく。
それに伴って、圧していた筈の均衡がいつの間にか拮抗へ、そして徐々に押し返されていく。
『っ、ふざけるなァッ! 此処へ来て逆転なんて、そんなの、フィクションだけの……!!』
“違うよ、兄さん”
『ッ!?』
“これは、
(────与、一)
“兄さんは個性の性能に負けたんじゃない。紡いできた人の意思、可能性に負けたんだ”
瞬間、A.F.O が張っていた力場が砕かれ、弾かれた様に後ろへ吹き飛んだ。その光景に、周囲で目にしていた人々は驚愕し、
「───往くぞ、A.F.O !!」
力を高める。白から朱へ、立ち昇る炎は天を衝き、軈てその全てがオールマイトの拳へと集約されていく。
「UNITED」
『オール、マイトォォォォッ!!』
飛翔する。それを目の当たりにしたA.F.O は迎撃の触手を伸ばしてくるが、オールマイトは深紅の軌跡を描きながらこれを掻い潜る。
「STATES OF」
触手の槍、雨の如く降り注いでくるそれを避けるオールマイトだが、其処は既にA.F.O の射程圏内だった。
嗤う。こと此処に至って、最期まで自分の思うがままだった宿敵を嘲笑いながら、A.F.O はその肉体を変異させる。
全身を顎の様に開き、其処から未知数のエネルギーが収束されていく。避けるのは無理、オールマイトの脳裏に一瞬だけ防御の選択が浮かぶが……。
(やっちまえ、俊典!!)
「はい、お師匠!!」
確かに聞こえた師の言葉に後押しされ、より強く力を込める。
『因果の果てに消えろ!! オールマイトッ!!』
光が迫る。周囲の建物を呑み込み、跡形もなく消し飛ばす滅びの極光。そんな、死の具現化を前にして。
オールマイトは微塵も怖れなく笑う。
「SMASHッ!!」
ぶつかり合う力と力、それは端から見れば光と光のぶつかり合い。
全身の血が蒸発するのを感じながら、それでもオールマイトは突き進む。
「更に!!」
(((向こうへ!!)))
聞こえてくるのは、歴代の継承者達の声。
欠片だった筈の彼等が光り輝き、自身の裡で一つに成るのを感じながら、オールマイトは力を振り絞る。
「Plus───Ultraァァァッ!!!」
朱から虹へ、紡いだ力を結集させたその一撃は、A.F.O の放つ極光を打ち消し。
変異して膨大な肉の塊となったA.F.O、 そのど真ん中を────ぶち抜いた。
『与一、あぁぁ……与一ィィィ………』
瓦解していく。その口から、嘗ての弟の名を口ずさみながら、A.F.O の肉体は灰となり、崩れていく。
長らく続いてきた因縁の決着、それを見届けようとするオールマイトだが………。
「ぐっ……!」
全身に走る激痛、身体中の筋肉が断線していくような感覚に見舞われたオールマイトは、堪らずたたらを踏む……。
「オールマイト!!」
それを駆け付けたステインがオールマイトの脇下に潜り込んで支える。
「やったな、オールマイト」
「───いや、まだだ」
諸悪は打ち倒され、一つの終止符は打たれた。けれど、オールマイトの顔には未だ険しさがある。
「ヒーロー殺し、ステイン。君が、どうして此処にいるのか、何故私を助けてくれたのか、その是非は今は問わない」
「……………」
「だから頼む! 私を、向こうへ連れていってくれ!!」
全身を引き裂かれるような痛みがある筈なのに、オールマイトは強い眼差しでとある方向へ指を差す。
そこは蛇腔病院、他のヒーロー達が今も命を掛けて戦っている戦場。
「それは………何のために?」
既にオールマイトは満身創痍。A.F.Oとの死闘と、最後に見せたあの紅い光を身に纏った反動か、オールマイトの身体は既にズタボロ。
個性───O.F.Aも今の一撃で自身の裡から消滅している。仮に戦場に着いても、盾になる事位しか彼には出来ないだろう。
「友のため」
しかし、それでも力強い返事をしてくるオールマイトにステインは押し黙る。
辺りを見渡せば、偶々無傷だった大型単車が視界に入り。
「その願い、承った」
ステインは不敵に笑みを浮かべて頷いた。
今回のおすすめBGM。
つ“You Say Run”