神小路陸の決意   作:水野大陽

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神小路陸の決意(前編)

 鐘本あかり「お世話になりました!」

 

 あかりは守衛を務める刑務官に、お辞儀する

 

 あかりの横では、ボストンバッグを持った神小路陸も、無言で会釈する

 

 刑務官「彼が舞い戻ってこないように、しっかり、フォローを頼みましたよ!」

 

 あかり「ハイ!」

 

 あかりは元気よく即答する

 

 刑務官はあかりの返事に答えるかのように、敬礼する

 

 あかりと陸は門を出る

 

 陸「大きなお世話なんだよ!」

 

 陸は閉まった門に向かって、舌を出す

 

 霧谷凛の母「神小路くんも、元気そうね!」

 

 路肩に停めてあった車の運転席に座った、凛の母が声をかける

 

 あかり「陸!」

 

 あかりに促されて、陸は凛の母の車の後部座席に乗る

 

 凛の母「あかりさんのご両親には、事情は話してあるから、何かあったら言ってね!」

 

 そう言って、凛の母はエンジンをかける

 

ーーーーーーー

 

 あかりの自宅にて…

 

 凛の母「何かあったら、連絡してね」

 

 凛の母は陸とあかりを玄関で降ろすと、出発していった

 

 あかりは玄関のカギを開ける

 

 陸「今日は両親いないのか?」

 

 家の中に入った陸がたずねる

 

 あかり「2人とも出掛けてるから、今日はアタシ1人だよ」

 

 そう言って、あかりは飲み物を準備しようとするが…

 

 陸「俺がやるから、あかりは座ってていいぞ!」

 

 陸は慣れた手つきで、ヤカンに水を入れ、コンロに火をつける

 

 陸「なあ、あかり!」

 

 陸は真剣な眼差しになる

 

 陸「俺、凛の親父さんに、どうしても面と向かって言いたい事あるから…近々、白狐村へ行こうと思ってる…言っとくけど…止めてもムダだぞ!」

 

 しかし…

 

 あかり「陸がそう言うんだったら、止めないよ!」

 

 あかりは即答する

 

 あかり「アタシも一緒に行く!」

 

 あかりは真剣な眼差しになっていた

 

 その頃、白狐村では…

 

 毒島陸「いいのかよ…こんな…」

 

 毒島陸はクラシックカーを目の当たりにして、驚いている

 

 凛の父「八重島大学の入間先生が、譲ってくれたんだよ…『型は古いけど、十分使えるから、社用車に!』との事だったよ」

 

 そう言って、凛の父は運転席のドアを開ける

 

 凛の父「すまんが、免許証を出してくれるかな?」

 

 毒島「あぁ!」

 

 毒島は自分の自動車免許証を出す

 

 凛の父は『運転席』と『毒島の自動車免許証』を、交互に確認する

 

 凛の父「ありがとう!」

 

 凛の父は毒島に免許証を返す

 

 凛の父「毒島くんに、無料で提供する代わりに…入間先生から、1つだけ、条件をお願いされているんだ」

 

ーーーーーーー

 

 月日は流れて…

 

 白狐村にある病院にて、下半身裸の濱秋子が、仰向けにベッドに横たわっている

 

 毛を剃られて、女性器の割れ目が丸見えになっている濱は、顔をリンゴのように赤面させている

 

 女医「痛かったら言ってね!」

 

 麻酔が効いてきた頃合いを見計らった女医は、ファイバースコープを濱の女性器の割れ目に挿入する

 

 女医「経過は順調ね!」

 

 モニター画面を見ながら、女医は診察する

 

 女医「リラックスしててね!」

 

 女医は赤面する濱に語りかける

 

 麻酔で痛みこそ感じなかったものの…下半身裸でベッドに寝かされた上、女性器に異物を挿入されていた事には、変わりないため、羞恥心が半端なかったようだ

 

 女医「問題無さそうね!」

 

 女医はファイバースコープを、濱の性器から抜く

 

 待合室では…

 

 川原華連「そういえば、千鶴さんって、陸くんと何があったの?」

 

 ベンチに座る華連は、隣に座る十月千鶴(かんなづきちづる)の方を向いて、尋ねる

 

 千鶴「神小路くんと?」

 

 タブレット端末を操作していた千鶴は、手を止め、華連の方を向く

 

 千鶴「そうね…一言で言えば、神小路くんがいたからこそ、今の私がいるのよ!」

 

 千鶴は黒縁メガネをクイッと指で上げて答える

 

ーーーーーーー

 

 千鶴の回想にて…

 

 陸「あかり!」

 

 駅のホームで電車を待っていた陸は、あかりの方を向く

 

 陸「ゴミ、捨ててくる」

 

 あかり「うん、荷物はアタシが見てるから」

 

 わざわざ、報告する陸の律儀さに、あかりはクスクス笑っている

 

 アナウンス「間もなく、特急列車が通過致します!!危険ですので、白線の内側に下がってお待ち下さい!!」

 

 ゴミをくずかごに捨てた陸は、アナウンスに反応して、不意に横を向く

 

 すると…

 

 黒縁メガネをかけ、ヨレヨレのTシャツとスラックスを着た女性が、線路に飛び込もうとしている

 

 陸は目を見開き、反射的に体が動くが…女性は線路に飛び降りる

 

 陸「クッ!」

 

 陸も迷わず飛び降りた

 

 直後に特急列車が駅を通過する

 

 あかり「陸っ!」

 

 あかりが線路に目をやると…

 

 ホー厶下の退避スペースで、女性に覆いかぶさる陸に気付いた

 

 陸「バカヤロー、何考えてるんだ!」

 

 陸の大声が響く

 

 女性「何で死なせてくれないの!!」

 

 涙声交じりで、女性が大声で反論する

 

 あかり「陸、駅の人、呼んでくるから!」

 

 あかりは改札の方へ走る

 

 その日の夕方…

 

 あかりは霧谷家のインターホンを押す

 

 濱秋子「ハーイ!」

 

 濱はドアを開ける

 

 濱「え!あかりさん…それに陸さんも…」

 

 あかりと陸の突然の訪問だけでも、驚いていた濱だったが…もう1人の来訪者の身なりを目の当たりにして、固まってしまう

 

 あかり「秋子、おじさんかおばさんは、いるの?」

 

 あかりに尋ねられて、濱は我に返る

 

 濱「もうすぐ、帰ってくると思うけど…」

 

 陸「それよりも、今は風呂だ!」

 

 濱「あ、うん…」

 

 陸は一緒だった女性の肩を支えて、家の中に入る

 

 凛の父と茉莉香の母の帰宅後…

 

 濱「粗茶ですが…」

 

 濱は風呂から上がり、身なりも整った女性の前に、緑茶を出す

 

 凛の父「陸くん、一体、何があったのか、話してくれるかな?」

 

 凛の父は陸の方を向いて尋ねる

 

 陸「この人は十月千鶴(かんなづきちづる)さんだ…ここに来る途中、駅から線路に飛び込もうとしてたのを、俺とあかりが見つけた!」

 

 陸はそう言って、緑茶を一口飲む

 

 凛の父「えっと、千鶴さんだったかな…何があったのか、話してくれるかな?」

 

 凛の父は千鶴の方を向くが、千鶴は下を向いたまま、黙っている

 

 茉莉香の母「家族が心配するといけないから、電話しておくわ」

 

 茉莉香の母は立ち上がり、電話の方へ向かおうとするが…

 

 あかり「ダメ!」

 

 あかりが別人のような大声で、茉莉香の母を制止する

 

 あかり「家族に千鶴さんの居場所は、絶対に知らせちゃダメ!」

 

 あかりは目つきが鋭くなっている

 

 あかり「千鶴さん、お姉さん夫婦の所から、着の身着のままで逃げてきたの!」

 

 濱「どういう事なの?」

 

 濱も驚きの表情で、あかりに尋ねる

 

 陸「俺から話す…早い話が、姉貴とそのダンナがギャンブル中毒で、膨大な借金作りやがったんだよ…で、その穴埋めとして、千鶴さんを殺して保険金詐取しようとしてたんだ!」

 

 凛の父と茉莉香の母は、驚きのあまり、呆然としている

 

 すると陸はテーブルから立ち上がり、凛の父の方へ向かう

 

 陸「おじさん…頼む!千鶴さんを匿ってやってくれ!茉莉香の部屋が空いてるハズだろ…」

 

 陸はその場で、凛の父に土下座する

 

 陸「茉莉香や凛を殺した俺に、こんな事言う資格なんかねぇかもしれねぇ…だけど、千鶴さんを匿ってくれるんだったら、俺はどんな条件でも呑む…この場でひと思いに殺してくれたって、かまわねぇ…」

 

 あかり「陸…」

 

 陸の別人のような豹変ぶりに、あかりも驚いていた

 

 凛の父「陸くん、顔を上げてくれるかな!」

 

 凛の父に言われて、陸は顔を上げる

 

 凛の父「陸くん…千鶴さんを匿うのは、引き受けるよ…だけど、1つだけ、条件があるんだ!」

 

 凛の父はあかりの方をちらっと見た後、陸の目を見る

 

 凛の父「辛い事は、絶対に、1人で抱えこまないでほしいんだよ…何かあったら、まずは、あかりさんに必ず、報告する事…守れるかな?」

 

 陸は表情が歪むが…

 

 あかり「わかりました!」

 

 あかりが即答してしまう

 

 あかり「少しでも、陸の様子が変だったら、アタシが責任持って、陸から聞き出します」

 

 あかりは自信満々な表情になっている

 

 凛の父「分かった…私も責任持って、千鶴さんを匿うよ…交換条件って事でいいかな?」

 

 陸が考える間もなく、話がまとまってしまった

 

 凛の父「そうしたら、千鶴さん…お願いしたい事があるんだけど、いいかな?」

 

 そう言って、凛の父は茉莉香の母と共に、千鶴を連れて和室からいなくなった

 

 陸「あかり…ありがとな!」

 

 陸は横目で、あかりに礼を言う

 

 陸とあかりのそばでは、濱が千鶴の湯呑みを片付け、フキンでテーブルを拭いていた

 

 

 

 




《あとがき》

 いかがだったでしょうか?

【狐火流し殺人事件】は、
『茉莉香の死に続いて、凛を喪い、娘2人の死に嘆き悲しむ両親が気の毒!』…という意見が、多いです。

しかしながら、本編を観察すると、
『犯人が陸である事は、関係者に伏せられた』ものの…

神小路陸の性格上、『後々、正直に打ち明けそう』だと、私は感じました。

陸は刑期満了後、『凛の父に、真実を正直に打ち明けるため、白狐村へ向かう』道中に…

家族から、保険金詐取で殺されかかり、逃げてきた女性を、なりゆきで保護してしまった

『(その女性を)茉莉香の部屋に、匿ってやってほしい』と、凛の父に頭を下げて、懇願した
…と考えれば、『当初、陸の犯行であった事が、伏せられた』点に対して、筋が通りやすいと思われます。


つまり…

茉莉香は決して無駄死にではなく、
『家族から殺されかかり、逃げてきた女性が、救われた』展開の伏線

…と考えれば、納得がいくと、私は解釈しました。
 
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