華連「そんな事あったんだ!」
華連は驚いたあまり、目を丸くしている
千鶴「私もあの時は、どうかしてたのよ!!考えてみたら、あんなクズみたいな奴らから、さっさと縁切っちゃえばよかったんだから!」
千鶴はペットボトルで、ウーロン茶を飲む
千鶴「毒島社長も、私と同じような人生だったんだってさ…だからこそ、毒島社長の所で働けて、誇りに思ってるの!」
華連は真剣な眼差しで、千鶴の話に耳を傾けている
千鶴「でもさ…神小路くんも無理する事ないと、思うんだ…白狐祭の時の『魚崎葉平が起こした殺人事件』の肩代わりなんか、する義務ないのにさ…」
華連は表情が曇る
華連「その事なんだけど…」
千鶴「言いたい事は、分かってる…『茉莉香さんの逆ギレで、傷害致死させたから、ヤケになってた』って事でしょ!」
華連「その…実は…」
千鶴「県警がいい加減すぎるのよ…十神えりなさんが『茉莉香さんの殺害事件は、多間木と魚崎の仕業に違いない!』って、再三、情報提供してたのに!」
千鶴は怒りで震える指で、タブレット端末を操作し、『県警の記者会見』の記事を出す
千鶴「『検死の結果、霧谷凛さんの遺体から、魚崎葉平容疑者の精液が検出されました!』って…無責任にも、程があるわよ…大体、魚崎が、白狐岳にある更生施設を何度も脱走してたんなら、それなりの対策ぐらい、しなさいよね!」
千鶴は病院の待合室である事も忘れて、大声になっていた
看護師「申し訳ありませんが、病院なのでお静かにお願いできますか?」
看護師が現れて、千鶴に注意を促す
千鶴はハッとして、正気を取り戻し、口が止まる
華連「ごめんなさい!」
華連が反射的に謝る
看護師「それはそうと…濱秋子さんの診察が終わりましたので、ご家族のかたも、病室にお願いします!」
千鶴「だってさ!行くわよ!」
華連は真実を言いそびれてしまった…最も、この時点では、まさか『横着した県警が、凛の遺体の検死結果を改ざんしていた』事までは、華連が知る由もなかった
千鶴「診察終わった?」
千鶴が華連と共に、診察室に入る
華連は濱のスカートとパンツを入れたカゴを持っている
女医「性病の心配も無さそうですので、問題ないと思います」
女医は濱の女性器を、消毒液を染み込ませたガーゼで拭きながら、答える
女医「診断書は、八重島大学病院の方へ、後日FAXさせて頂きますので!」
ーーーーーーー
病院の駐車場にて…
千鶴「検診なんだから、恥ずかしがる事ないじゃないの!」
『有限会社毒島』の社用車として使っている、クラシックカーの運転席で、千鶴はシートベルトを着ける
濱「だって…」
後部座席で、赤面した濱は、下を向いて答える
華連「『セービョー』は怖い病気だから、検査が大事だって、入間さんが言ってたよ!」
検診の様子を見ていない華連は、濱が赤面してウジウジしている理由が、理解できていないようだ
千鶴「社長ってば、また、ゴミ捨て忘れてる!」
千鶴は助手席に、ゴミ袋が置いてある事に気づいた
千鶴「ちょっと、ゴミ捨ててくるから!」
千鶴はドアを開け、ゴミを捨てに向かった
しばらくして、千鶴が駐車場へ戻ると…
華連「千鶴さん、車のカギ貸して!」
華連が慌てた様子で、手を出す
千鶴「どうしたのよ?」
華連「いいから、早く!」
すると…
男の声「早く、カギよこせ!」
社用車の運転席に座った男が、車の窓から叫ぶ
男「コイツがどうなっても、いいのか?」
後部座席では、共犯者と思われる女が、涙目になった濱に、拳銃を突きつけている
千鶴「分かった!」
千鶴は華連の前に立ち、カギを投げる
男は車から出てカギを取る
男「変なマネしたら、コイツの命はねーぞ!」
男は運転席に戻ると、エンジンをかける
華連「千鶴さん!」
千鶴「大丈夫!」
千鶴は諦めていない様子だった
女「ちょっと、早く出してよ!」
男「動かねぇんだよ!」
車は進んだり、止まったりを繰り返していた
華連「どういう事?」
華連は首を傾げる
千鶴「とりあえず、川原さんに電話して!」
千鶴は余裕の表情で、スマホを華連に渡す
華連「うん、分かった!」
華連は川原に電話する
ーーーーーーー
しばらくして…
川原刑事が毒島陸に加えて、警官3人と共に到着する
華連「あ、おじいちゃん!」
華連に気づいた川原は、毒島と共にパトカーから降り、華連と千鶴の方に向かう
毒島「濱秋子は、無事なのか?」
千鶴「あそこ!」
千鶴は余裕の表情で、50mほど離れた所を指差す
社用車は止まったり、動いたりを繰り返していた
女「いい加減、早く出してよ!」
濱に銃を突きつけた女が、叫ぶ
男「だから、動かねぇんだよ!」
毒島はそのまま走って、社用車の方へ向かう
毒島「降りろ!」
毒島は後部座席のドアを開ける
女が毒島の怖い顔に怯んだスキを、毒島は見逃さなかったため、女から銃を奪い取る
川原「警察です!」
運転席の男に、川原は警察手帳を見せる
容疑者2人は観念し、警官に手錠をかけられる
保護された濱は、華連に抱きつき、メソメソしている
毒島「川原さん、男の方の免許証が出てきたぞ!」
毒島は川原に、容疑者の男の免許証を渡す
千鶴「潮光太郎(うしおこうたろう)…帝王大学病院の勤務医だった、潮小次郎の兄貴よ!」
千鶴は免許証を見ないで即答する
その瞬間、毒島は驚く
毒島「知り合いだったのか?」
千鶴「知り合いも何も、私の姉貴の間男の1人よ…おおかた、金づるだった弟が死んだから、高く売れそうなクラシックカーを盗んだってトコよ!」
千鶴は腕組みして答える
華連「だけど、千鶴さんスゴいよ…追いかけないと、犯人逃げちゃうかもしれないのに…」
千鶴「アイツには、あの車は運転できないの…免許証、よく見て!」
川原は潮光太郎の運転免許証を確認する
川原「毒島くん、こういう事だよ!」
川原が毒島に見せた潮光太郎の免許証には…『オートマチック車に限る』という記載がされていた
毒島「そうだった…ウチの車、マニュアル車だった…」
凛の母に提供されたクラシックカーが、MT車だったため、『潮光太郎には運転できない』事を、千鶴は予想できていたのだ
川原「ですが、十月さん!無茶はしないで下さいね…容疑者は拳銃を持っていたんですから!」
川原は千鶴に注意する
ーーーーーーー
その頃、不動山市にある老舗の銭湯では…
店主「陸、ちょっといいか?」
Tシャツと短パンを着て、浴槽をデッキブラシで掃除していた陸に、店主が声をかける
店主「お客さんが来てるから、行ってほしいんだ」
店主は陸の手から、デッキブラシを取る
陸はタオルで汗をふきながら、事務室の方へ向かう
凛の母「元気そうね!」
来客というのは、凛の母だった
凛の母「神小路陸くんと、2人だけで話がしたいから、外してもらえるかしら!」
女性従業員「かしこまりました!」
女性従業員は応接室から出る
陸「俺、バイト中で忙しいんで…手短にしてくれないと、困るんッスよ!」
気まずさを感じているのか、陸はそっぽを向いている
凛の母「分かったわ!」
そう言って、凛の母は職業訓練校のパンフレットを出す
凛の母「実はね、この前、白狐村の霧谷さんを訪ねてきたの!」
凛の母は真剣な眼差しになっている
凛の母「『神小路くんを職業訓練校に通わせてあげるか』の相談をしてきたの!」
早い話が、『凛の父は、陸が職業訓練校に通うための学費を全額、負担する事を、快く了承してくれた』…というわけだった
凛の母「霧谷さんたちを安心させるためにも…お願いできるかしら?」
凛の母の目力に、さすがの陸も、戸惑いの表情になっている
凛の母「いきなり、こんな事言われても、戸惑うわよね…パンフレットを読んでから、じっくり考えてほしいの!」
そう言って、凛の母は席を立つ
凛の母「もちろん、無理強いする事じゃないから、神小路くんの意思で決断してね!」
凛の母は応接室を出る
陸はパンフレットに目を通していた
陸は職業訓練校で普通車免許を取得し…3年後には、大型自動車免許も取得するものの…
それはまた、別のお話
《あとがき》
いかがだったでしょうか?
本編を改めて観察すると…
茉莉香殺害時に、県警刑事たちは横着して、ろくに捜査していなかった事を、凛がはじめたちに話しています。
茉莉香が『全裸で遺体遺棄』されていたため…
十神えりなが『多間木と魚崎による再犯』を予想し、『県警に情報提供していた』と考えれば…
『空白の2ヶ月間』に対しても、筋が通りやすいと思われます。
つまり…
茉莉香に続いて、凛が殺害された事で、
県警は重い腰を上げて、多間木と魚崎について、調べ始め…
↓
多間木と魚崎が、3年前にも『殺人及び(被害者を全裸にして)遺体遺棄』の前科者である事を、突き止めた
↓
その矢先、【剣持警部の殺人】にて、多間木と魚崎が殺害される
↓
はじめの謎解きなどで、多間木と魚崎の本性が暴かれた事で…
↓
白狐祭当日の殺人事件は、『「多間木と魚崎の犯行」として、県警が結論づけ、マスコミに報道させてしまった』
…と考えれば、
『犯人が神小路陸である事実が、関係者に伏せられた』設定も、納得がいくと、私は解釈しました。
かいつまんで言うと…
多間木と魚崎は、死後にも天罰が上乗せになり、『冤罪を被せられる』という、生前に毒島に行なった仕打ちが、自分たちに返ってきた…
といった感じになります。