プロローグ
もう終わりだと、否が応でも理解させられた。
心の臓へ向けられた鈍く輝く黒い銃口。肩口から流れ止まる気配のない血肉の香り。
音速より放たれる凶弾を防ぐ術を、自分は持たない。
その無機質な弾丸はひたすら人の肉を穿つ事を絶対として君臨してきた兵器なのだから。
だが。
「――カナメくん!」
――自身の名を叫んだその声によって、その凶弾はこの命を穿つことなく終わりを迎えた。
置き去りに響き渡る静かな銃声。
からん、と空となった弾丸が地面を転がる音に、赤い制服の少女の荒い息遣いが混じる。
血を吐く様に叫んで自分の名を呼ぶその姿からもなお想像もつかないほど焦燥を、おのずと理解した。
君こそ怪我はないのか。
何故そんなにも急いでくれたのか。
聞きたい事なんて山のようにある。
だがそんな疑問は――痛みで明滅する視界が映し出した光景によって、全て消し飛んだ。
「――良かった、間に合って」
金色が混じる白い髪が風に乗る。
明朗快活な笑みを浮かべながらも底なしの安堵を感じさせるその綺麗な声色を聞いて、
むしろ白に映える赤いリボンの髪留めと、返り血の様な赤い色の制服を纏うその姿は――まさしく彼岸の花に宿る妖精と称せる美しさ。
許されるならいつまでも眺めていたいと思えるその美しき妖精の名を、僕は知っている。
「――
「はーい、あなたの千束さんですよー?」
――
行きつけの喫茶店『リコリコ』の看板娘にして、今は正体不明の
そしてこの時――
伽藍洞の心に秘めた想いを健気に、少女は言った。
自分は誰かの時間を奪いたくない。奪われていく時間と命を視たくないと。
自分が、人を殺す為に生まれた存在だと知ったうえで。
皮肉な話だ。
誰よりも命の価値を知っていた少女の正体が、誰よりも命を冒涜する存在として生を受けた。
誰かの明日を祝福できる優しい女の子に、そんなものを叩き込んだ。
だと言うのに――その子はそれでも満足だと、笑って死のうとしている。
だから、僕がやってやる。
理屈なんか知らない。愚かだと、三流だと好きなだけ叫べ。
ただそれでも僕は、『生きたい』と願う女の子が自由に生きられる世界にしてやる。
あの太陽の様な笑顔はきっと、また誰かを救ってくれるから。
幸せに。
幸せに。
永く、健やかに。
たとえその先に、僕が居なかったとしても。
それで――誰も泣かずに済むのなら。
リコリスの世界に山育ち的なアレをぶち込んでみた。
そしてリコリスをすこれ。