山育ちの竜胆と不殺の彼岸花   作:トウチ亀

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なんかアクセスの伸びが凄いし過去イチ感想が来たので投稿です。


5話

 

 

 

 

 『喫茶リコリコ』について少し話そうと思う。

 此処に居る面子は『DA』を指揮系統に置いているというだけで、実質的に別の組織の部隊という扱いを受けているのが実態である。

 独立愚連隊。組織のはぐれモノ。はたまた左遷支部。言い方は数あれど、組織的にはあまり褒められた状態ではないのが正直な所だ。

 

 理由は千束の敷いている方針の違いだ。敵を殺さず、味方を見捨てないといういつものアレ。

 だからなのか。

 基本的にリコリス優先な方針を取る僕は、『本部』直系の命令によって仕事に駆り出されることが多かったりする。

 

 それこそ、今の僕の様に。

 

「あのビルだな、フキさん」

 

「『アルファ・ワン』だ。作戦中だって忘れんなよ。アルファ・フォー」

 

「ああ、ごめん。えっと、アルファ・フキさん」

 

「不器用かっ」

 

 ――作戦決行の当日の早朝。

 朝陽が音も無く昇って夜の静寂を破り、大きな街が動き出す前の静けさを生み出す。

 『DA』 が捕捉した敵の拠点からいくらか離れた場所で見据えるのは僕と、千束と同じ階位の象徴である『赤服』のリコリスだった。

 

「想定より出張ってるな、敵」

 

「慎重になっているのはあっちも同じってことだね。どう、忍び込めそう?」

 

「取引の情報は聞いてんだろ――千丁だぞ。この数の火器を取引してるって事の意味がわからないとは言わせないぞ。」

 

「ま、侵入経路になりそうな場所は当然押さえておくか」

 

 名を春川フキ――額を晒した濃い茶髪を短く切り揃え、千束とは対照的に鋭い瞳が特徴的なファーストのリコリス。

 生真面目な故にちょっと喧嘩ッ早い一面がある。だけど僕が知る限り誰よりも仲間想いの、大変素敵な少女である。かくゆう僕もまだ『DA』の仕事を慣れていない頃に何度もお世話になったので、敬意と親愛を込めて『フキさん』と呼ばせて貰ってる。

 

「そう言えばフキさん」

 

「なんだよ」

 

「最近店長に会えてる?」

 

「あ゛!? あ・え・て・ねぇよ! 悪いかゴラッ!」

 

「うお」

 

 ……そうそう丁度、こんな感じに。

 超人染みた速度で首をめがけて放たれた足蹴りを躱しながら、まぁまぁとフキさんに落ち着く様に促す。気分はライオンとかトラの類のデカい猫を宥めるソレだ。

 

 無論、ただフキさんを揶揄うとかそういう目的があったワケじゃない。これはそう、れっきとした彼女への義理立てというちゃんとした理由があるのだ。

 

「お前は日に日に私への認識が悪化していくな。やっぱ一回死んでおくか? あ?」

 

「違うって。リコリコにおいでって意味だよ。ほら、僕はフキさんに色々と借りを作っちゃってるし。どうせなら店に貢献できる形でキミと店長に恩返ししたいってだけだから。本当だよ」

 

 ――嘘である。

 この春川フキという少女、生真面目なうえに不器用なものだから『喫茶リコリコ』に来る頻度はそれほど多くないのだ。それこそコッチからそれっぽい建前を用意してあげないと本当にたまにしか来てくれないのだ。

 

 それは何故か。まぁ簡単な話だ。

 僕の目が腐っていなければ――少なからずフキさんは店長に対して好意を抱いていることは確かなのである。

 

 だからまぁ、それに気づいた僕の心情は今の態度でどうか察して欲しい。店長に()()()()()()()()()()ってくらい進展がないのだ。世話になっているコッチからしてみれば、少なくとも多少強引な手段も致し方ないと言えた。

肝心のフキさんがそんなだから、未だに自動販売機の使い方も知らないのである。

 

「重要なのは会う頻度だよ、フキさん。ほら、無料券」

 

「だからって、おま、それはっ、この――だぁー!? やっぱ駄目だコイツ! 無駄に察しが良いのが腹立つ! お前これ千束に言ったら銃弾じゃすまないからなっ!? つーか人のこと言えたクチかっ!」

 

「抜いてる、もう抜いてるからフキさん」

 

 作戦中なんて定義づけはどこかに吹っ飛んだのか。

 神速が如き速度で鞄から取り出された銃口が気づけば額にゴリゴリと押し付けられていた。安全装置も解除しないで欲しい。引き鉄に指をかけないで欲しい。そろそろ本当にシャレにならない。

 

 しかもさり気なく無料券を受け取ってポケットにしまっているのだから、フキさんも大概ちゃっかりしてる。

 

「……また何をしたんですか、竜胆さん」

 

そしてそんな状況に周囲の偵察から戻ってきたアルファ・ツー――井ノ上さんが登場してくる。

 

「井ノ上さん、取り敢えず僕にトラブルの原因の当たりをつけるのはやめない?」

 

「違うんですか?」

 

「…………いや、そんなことは」

 

 ……確かに僕に原因があったのかもしれないと、井ノ上さんの訝し気に此方を見る表情に、思わずそんな事を考えてしまう。

 ま、マズイ。このままでは井ノ上さんの僕への認識が、酷い話ミズキさんと同じ色モノにカテゴリーされるという最悪の事態になりかねない。色モノだけは勘弁だ。

 

 あてもなく味方を探して視線を泳がせば、井ノ上さんと同じリコリスの制服を着た女の子がその表情をぎょっとさせながら、恐る恐る此方に向かってくる、。その気持ちはとてもよくわかる。

 

「たきな、先輩はどうしたの……なんか大体わかっちゃうけど」

 

「じゃ、蛇ノ目さん? そんなことないよって言ってくれないと」

 

「あはは……駄目ですよ先輩。任務中なんですから、ほどほどにしないと」

 

「ウソでしょ」

 

 井ノ上さんに続いて偵察から戻ってきたリコリス、地味に一番あてにしていた彼女からは遠回しなお叱りを受ける。

 

 彼女こそが僕の実質的な後輩――蛇ノ目エリカ。

 垂れ目で穏やかな声音からは、とてもじゃないが銃を握る物騒な気配は感じない。

 任務における合理性とビジュアルを両立させている、肩口で切り揃えられた明るい茶髪とぱっつんと整えられている前髪の他に、昇進祝いに贈った白いカチューシャがよく似合っていた。

 

「ああ、そうそう。蛇ノ目さん」

 

「……何でしょうか先輩?」

 

「カチューシャ、似合っててよかった」

 

「……っ! えっと……ありがとう、ございます」

 

 うんうん、と銃口を突き付けられながらなのでイマイチ格好がつかない。

だがフキさんも二人が戻ってきて溜飲を下げたのか、銃を下ろして彼女たちに向かい合った。

 

「フンッ!」

 

「~~~~ッ――!?」

 

 コンクリートを砕く威力を持つ鉄板入りのローファーで僕の足を踏みつけながら。

 

「馬鹿は放っておくぞ……無事に戻ったな二人とも。どうだ、侵入経路の方は確保できそうか」

 

「駄目ですね。敵のビルが良い位置取りをしています。車で周り込むにしても、隣のビルから入り込むにしても大通りの時点で気取られます」

 

「……エリカの方は? 狙撃手は確認できたか」

 

「……こっちも同じです。司令部のドローンと目視での確認では、少なくともそんな痕跡も確認できませんでした」

 

 井ノ上さんと蛇ノ目さんの報告を聞いて、僕とフキさんは二人そろって眉を潜めた。

 調査チームから上がってきた事前の情報では、慎重ではあるが突破出来ないほどではない、という分析だったのだ。少なくとも報告を耳にしたての頃は。

 

だがこれは――。

 

「蛇ノ目さん。本当に狙撃手は居なかったんだよね?」

 

 いたた、と踏みつけられた足指を擦りながら蛇ノ目さんへと問いかける。

 

「は、はい。狙撃手が位置を取れそうな所は全て確認してきたので……何か気になることでもあるんですか?」

 

 まぁ気になるというより――不自然と言うべきだろうか。

 千丁の銃だ。それらは少なくとも日本という極東の島国で振るわれて良い物量の銃火器ではない。それらの莫大な利益は、然るべき人員を動員すれば戦争をも起こせるのが千丁の銃の凄まじさなのである。

 

だというのに今回の標的は、まるで巣穴で巨大な獣の通過を待っている様な静けさがあったのだ。

 

「……竜胆さんは標的が敢えて()()()()()と?」

 

「そうだね。だって明らかに敵の動きが変わってる。護衛の配置も組み直して、こちらの想定以上に慎重な編成になった。入り口も最小限にして人員のコストを割いて、より明確に侵入者を想定した構造だ」

 

つまりは籠城戦のソレに近い。更にそれをより『隠れること』を意識したモノにして、出入りなどでどうしても生じる『穴』に対し、数で確実に相手を捕捉し処理できる様に監視体制と迎撃態勢を整えていると僕は感じた。

 

 これらが指し示すことは一つ。

 

 今回の標的も『DA』同様、正体不明の敵に踊らされているのだ。

 

「動き辛いな……最近こういうことばっかりだ。今回の作戦も筒抜けだったりしないだろうなこれ」

 

「だけどわかった事もあるだろ。お前のとこを襲撃したヤツと私たちの向かった現場を荒らしたヤツが別組織って線は消えた――つまりは、同じ組織による現場のブツの差し押さえってことになる」

 

「……なんのために?」

 

 返答を期待しない呟きが口から零れ出る。

 だが自ら出したその言葉は余りにも唐突に――あの緑髪の男の言動とその出来事を鮮明に思い浮かばせた。

 

 ――四ヶ月前の先兵と教官。

 ――同じタイミングで襲撃された現場。

 ――リコリスの存在を認識しているかのような動き。

 ――決着の寸前、割り込んだ狙撃。

 そして――あの男のあまりにも危険な破壊的思想ときた。

 

 ……なんていうか、こうして考えてみると今の僕らの状況さえどこかから見ているんじゃないか、なんて不安が胸の内から込み上げてくる。それこそ作戦が筒抜けなんて事態もあり得る話だ。

 

「さぁな。それこそ司令部が判断することだ。私達は臨機応変に、狙った獲物を確実に捉えれば良いんだよ」

 

「……それもそうか」

 

 吐き捨てる様に、それでいて淡々と事実を口にしたフキさん。別に返事を期待したワケじゃないので僕としては問題ない。口にした言葉は『リコリス』らしい、悪く言えば非常に偏ったものだが、それはそれ。

今考えても仕方がないことでもあるということは道理である。

 

敵の狙いがどうであれ、僕達がやることは変わらないのだ。

 

 

 それに僕に関して言えば――リコリスとリコリコの皆を護れればそれで良いのだ。

 

 

「フキさん、この流れだったら正面突破で迅速に制圧する奇襲になるでしょ?」

 

 だから、提案する。

 楠木さんが僕をこの作戦に指名した理由はきっと、責任問題だけではないだろう。

 僕ならきっとリコリスたちを庇う積極的な盾になり得る。それらを確信しての現在の配置なのだと考えることが出来る。

  

 相変わらず冷徹に優しさを振る舞う人だなと思うけど、いつもの事だ。

 

 ……今回に限って言えば、フキさんと千束の現場を荒らした下手人の存在が非常に気になる所だ。

 

 特に僕が相対した敵はセカンドのリコリスでも場合によっては一方的に殺しきる性能を持っていた。そういう意味でも、今から出す提案は悪くないと僕は思う。

 

「そのことなんだけど――僕に良い考えがあるんだ」

 

「「……」」

 

「今度はどんな爆発を?」

 

「しないよ?」

 

 井ノ上さん以外の二人がそれぞれが曖昧な表情で沈黙している。いや、この場合井ノ上さんも同類か。

 

 此処に居る皆は僕のことをどんな風に思ってるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――クソッ!」

 

 絶対的な銃の間合い。絶命を狙った眉間に伸びる弾丸。火薬が地面を叩く音が静かな朝のビルの中に残響する。

 

 音速で到来する死の気配。

着弾の先に待ち受ける詰みの予感は、手に持ったナイフをより速く鋭く一閃させる。

 

 木霊する断末魔じみた嘆きは、敵が予知したそんな未来を嘲笑う様に否定した。

 

「バケモノが――ッ!?」

 

 鋼の閃き。刃物が放つ鈍い輝きが視界を描いた。

 利き腕であろう銃を持つ腕を薄皮一枚。出血の少ない箇所を狙って切りつけ、ガバメントでダメ押しして確実に失神させる。

 

「今ので六人……思ったよりも居るんだな」

 

 現在いる場所は()()()()()()()()()

 七階建ての建設中のビルを模した構造となっている。手つかずとなっている階層を拠点として利用し、大通りという人目を盾にしたその場所はカモフラージュとして配置されている資材やブルーシートが確認できる。

 

 下の階層である六階に続く階段の踊り場には先ほどガバメントを命中させた男が失神しているのを見て、左耳のインカムに手を当てた。

 

「こちらアルファ・フォー。七階の制圧は完了した。そちらの進捗は? フキさん」

 

『……アルファ・フォー。私はアルファ・ワンだと教えたよな?』

 

「あ、ごめん……でも上手く行きそうでしょ――ただの囮作戦」

 

『……状況は適時報告しろ。それと、無理だと思えば直ぐに応援を呼べ』

 

 上手く作用しているようで何よりだった。

 了解、と返事をして通信を切る。

 

「最上階の窓から侵入してコレだから……多分この次は――」

 

「いたぞ、この先に侵入者だ!」

 

「どうやって入ってきやがった!?」

 

「窓からだッ! ソイツ、向かいのビルから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「ハァ!?」

 

「警戒してただけあって流石に対応が速いな――ッ!」

 

 千束が勝手に書いたイラストが施されたグレネード――を模した催涙弾のピンを抜きながら、僅か数分前にフキさんへ説明した作戦を振り返った。

 

 

 

 

 

 

『すまん、もう一度言ってくれ』

 

『要は――僕が七階の窓を突き破って、そのうちに本丸を確保すれば良い』

 

『やっぱり馬鹿か?』

 

『馬鹿じゃない』

 

 ――僕が思いついた作戦。

 まぁ、いわゆる囮作戦。ただ店長などの頭の良い人が考える計算し尽くされた作戦と比べれば、それほど高尚なモノでもない。なんならフキさんの反応が一番正しいまである。

 

 だが敵の警備は手厚い。しかも未確定の要素に満ちている。加えて敵は怖がって城から出てこない。かといって時間をかけ過ぎれば一般人の生活時間と被って騒ぎを書きつける人も出てくるかもしれないと来ている。

 

 となれば――脚のあるフキさんがチームを引き連れて指揮してくれれば、コトは迅速に解決に向かうと考えた。

 それこそ何者かの介入の余地がないくらいに。

 

『僕が上から。フキさんたちで下から。制圧してブツを見つけ次第、連絡する手筈でどうかな。アルファ・ワン』

 

『こんな時だけ呼びやがって……承認した』

 

 よし、これで良い。現場をフキさんが指揮してくれるというのなら、これ以上安心できる要素はないだろう。

 あとは、だ。

 

『フキさん、敵は――』

 

『わかってる。味方を殺さず、敵を殺さずの、千束と同じいつものアレだろ。相変わらず甘い考えだな――敵と味方の命を天秤に掛けれるほど偉くなったつもりか、お前』

 

『……無理に護ってくれとは言わない。井ノ上さんや蛇ノ目さんの命を優先して――』

 

『んなのは当たり前だろうが。だが今のお前は私の部下で、んで私もお前に付き合ってやると言った責任はある――護ってやるよ、そのくだらねぇ矜持』

 

『――ありがとう。やっぱり良い人だよね、フキさん』

 

『うるさい。なるべく粘って死ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。認めてくれている分、こっちも目下の問題を片付けて合流しなきゃな……」

 

やっぱり良い人だな、なんてフキさんへの印象を再度自分の中に刻み付けながら、ガバメントへ次弾を装填する。

 七階、六階の制圧を終え五階ときて――敵残存戦力、残り二名。

 

「応援はっ!」

 

「駄目です。上の部隊も下の部隊も通信が繋がりません!」

 

「まさか全滅させられたのか、まだ一〇分も経っていないんだぞ!?」

 

 動揺する二人を置いてけぼりに、疾走。

 火を吹くアサルトライフルは放射状に射線を広げ、一発でも当たれば僕の足を止め仕留めるには十分だろう。

 

 だが当たらない。

()()()()()()()()()僕に敵は更に動揺し、数による命中率の底上げが売りである機関銃はその役割を完遂することなく、弾詰まりを起こす。

 位置は、二名の敵の真上だ。

 

「よっ」

 

「ごばっ!?」

 

「ひぃん!?」

 

 疾走による慣性を失った体が重力に従って落下し、両手に持ったナイフと銃の柄でがら空きになっている首元に向けて思いっきり振り下ろせば、二名は沈黙する。

 そして、念には念だ。

 

 倒れ伏す片方に向けて非殺傷弾を撃ち込む。そしてやはりまだ意識があったもう片方は銃を手放して僕の方へ向き直るが、もう遅い。

 

「ま、待って――」

 

「大丈夫。死んだりしないからさ。もう悪さしないようにな」

 

 もっとも、そういう問題でもないのだろうが。非殺傷弾を命中させれば、着弾と一緒に赤い粉塵をまき散らし、やがて静けさが訪れる。

 

 あれだけ騒がしかったビルが今、静まり返っているという事はつまり――少なくともこの場には伏兵も隠し玉も存在せず、僕の役割である過半数の制圧が完了したということだ。

 

 状況が終了したことを悟りナイフと銃の構えを解いて、残心する。

 が――。

 

「……」

 

 不意に窓側に視線を向ければ、そこには『DA』仕様のドローンが()()()()()()()()

 

 そして隠密活動中であろうフキさんではなく、外部の部隊として作戦をビルの外側から見守っている本部側――司令部へと通信のチャンネルを変えて繋げる。

 

「司令部。こちらアルファ・フォー」

 

『カナメか。二手に分かれたそうだな。制圧は完了したか』

 

「制圧は完了しました。ちなみに二手にわかれるのは僕の提案ですね。効果のほどは?」

 

『混乱を与えすぎたな。()()()姿()()()()()()()()、陣形が崩れて指揮系統が乱れたことで護りは手薄になっているが、そのぶん敵の動きが予測し辛い』

 

「……? それは……すみません」

 

『張り切りすぎたな。だが許容範囲だ』

 

 ほんの少しの疑問を覚えて。

 叱咤とも慰めとも取れる楠木さんの言葉に苦い顔になりながらも、状況を観測しているであろう楠木さんへと追及する。

 

 

 

 

『……、――――……――!』

 

「……司令部? 司令部、楠木さん、何かありました?」

 

 

 

 だが、何がどうなっているのが。

 あの『ラジアータ』を基盤とする通信網を確立している司令部の通信が電子機器らしい雑音だけを鳴らし、やがて回線を正常値に保てず断絶する音だけが無情にも響き渡った。チャンネルを井ノ上さんやフキさん、蛇ノ目さんへと切り替えてもそれは変わらない。

 

 ――――心の臓が緊張で脈動する。

 

 だがあくまで冷静に辺りを見渡す。コンクリート製の建造物は

 この感覚には覚えがある。具体的には先日、僕と井ノ上さんが担当した現場を襲撃された時と同じ、何か見えない敵が僕らを観測している不気味な感覚だ。

 何か。何かがある筈だ。この通信を遮っているモノが必ず。

 

 パルス兵器。否、そんなことをすれば敵も通信が繋がる筈が無く自滅する。だから恐らく此方側の通信網のシステムを利用した何かのハズ。

 

 ならハッキングか。否、だとすればフキさんとの回線すら使えないのはおかしい。だから司令側の通信システムを殺しつつ、二段構えで現場の通信網を封じにかかっている事になる。例えば、電磁波とかで。

 

 ――なら。

 

「つまりコイツか――ッ!」

 

 転がっているアサルトライフルを蹴り上げ、構える。

 銃口の先はずっと此方側を見ている『DA』のドローン――否、()()()()()()()()()()()()()()()()()ドローンに目掛けて引き鉄をひき、窓が砕け破片が飛び散る不快な音を耳で感じ取った。

 

 命中し、火を吹いて大通りへと墜落する成りすましのドローン。

 

 

 だがそれでも――嫌な汗が止まらない。

 

 

 

「待て、だとしたら結構マズイぞ――ッ!」

 

 

 

 リコリスは通信、任務補助などの業務におけるあらゆる場面において『ラジアータ』に依存している。

それも国内最強のAIと称されたこの一〇年間ずっと、だ。

 

 『DA』 を信頼しファーストリコリスにまで上り詰めたフキさん。

 最近セカンドへ昇格したとは言えまだ慣れない現場が続いている蛇ノ目さん。

 そして――『DA』に心酔している節がある井ノ上さん。

 

 その三人がもしそんな状況で乱戦にでもなったりしたら――!

 

 

 

「アルファ・ワン。無事か! 此方アルファ・フォー!」

 

『――繋がった! 先輩!』

 

「蛇ノ目さんか! 今敵のダミーのドローンを破壊したから少なくとも一部通信が復旧している筈だ! 状況はどうなっている!?」

 

『そ、それが――』

 

 

 

 

 

 

 

 

『――私の所為で、たきなが人質に……ッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。コミュ回を含めた本編進行です。ヒバナがいなかったりで変更点もある。

前半にフキさんや蛇ノ目さんと関わらせたのは、それぞれにちゃんと役割があるからだったり。死にキャラは作りたくないからね。

新規のユーザーさんからも感想がたくさん届いたので、今回も少し早く書けました。

誤字報告、評価、感想、お気に入り登録ありがとうございます! 特に感想に関してはこれ以上ないってくらい燃料になっているので、今後ともよしなに。

それでは。

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