正直な話、『DA』における自分がどんな評価が下っているのか、気にならなかったと言えば嘘になる。
まぁ気になるとは言っても、興味本位以上の所感は持ち合わせていないわけだが。強いて言うなら、僕の提供した父の技術とか僕の体術などがどのように使われているかぐらいだろう。
なにせどれも悪用すれば大なり小なり金になる。特に父の医療技術に関しては、素人目の僕から見ても明らかに現代の医療を逸脱していると言えるほどだ。それに対して僕の体捌きなど、前者の内包する爆弾要素と比べればまだまだ可愛いものと言えるだろう。
……とまぁ、我ながら能天気というか危機感の欠如した所感を述べたわけだが。
それもこれも、今のこの状況となっては既に過去の話である。
「ちょっとちょっと、聞いてるんスか竜胆先輩」
「……ああ、聞いてる。それで、なんだっけ?」
無機質ながら、古びた印象を感じさせない整然とした廊下にて。
執務室へ来いという命を受けてこうして来たのだが……一体どういうわけか、何やら勝気なリコリスに絡まれている。
「全っ然っ聞いてないじゃないっスかぁ! アレです、あのバカみたいな噂はどこまで本当なのかってことです。火薬庫爆発させたり、銃弾斬ったり、あとリコリス侍らせてたり」
「最後のは切実に否定させていただきます……いや、さっきから言ってるけど、大体あってるんじゃないか? 挙句の果て爆弾魔なんて呼ばれたりしてるけど」
「ウソだぁー! だって先輩全然強そうに見えないし!」
「明け透けだなぁ……」
「あと眼鏡だし」
「なんでだ眼鏡関係ないだろ」
そこまでハッキリ言われるといっそ清々しく感じてくる。たきなとか蛇ノ目さん、フキさんではまずお目にかかることが無い体育会系っぷりだ。
そのような人種の人間からすれば、眼鏡をかけて明らかに文系ですって風貌の
……もっとも、僕はこの目の前に居るリコリスの名前すら知らないのだが。
「あーそれで、えーと、キミは……?」
「乙女サクラっす。苗字で呼ばれんのはアレなんでサクラで良いっすよ」
「じゃあ、サクラちゃんだ」
とのほほんと告げるとピシっと固まるサクラちゃん。
「なんかマズかったか?」
「あ、いや、全然」
そりゃよかった。
これから組むこともあるだろうから、出来る限り仲良くしておきたいのだ。
やましい気持ちなんて微塵もないし、抱こうものなら僕が良く知っている赤いリコリスが助走つけて銃弾かましてくることだろうから、まず問題ない。
「…………」
……そもそもどうしてこうなったのか、と振り返るついでに、隣にいるリコリス――乙女サクラへと視線を移す。
ツーブロックに刈り上げた茶髪はやんちゃな雰囲気をより一層引き立てて、眼の奥でギラギラと主張している
堅い印象を与えるリコリスの制服は腕をまくり上げ、靴もこれまた他のリコリスになぞらえたローファーではなく、おそらく特注であろう運動性の高いスニーカーである。たきななどを主に見てきた僕からしてみれば、制服に抱いていた堅い印象を相応に払拭した。
まさしく勝気が人格を得たような溌剌っぷりを放つこの少女は、その制服から見てどうやらセカンドの階級に位置しているようだ。
……それに、正直に言えばまだまだ粗が目立つが、それでも他のセカンドと比べても中々に鍛えている印象を服越しでも感じれることを見るに、これは――。
「もしかして、最近フキさんとコンビ組んでるのサクラちゃんだったりしないか?」
「え、なんでわかるんスかそういうの気持ち悪」
「気持ち悪いって……まぁ確かに脚運びとか姿勢とか見て判断したけど」
「えぇ……なんスかソレ。んな映画じゃあるまいし」
「いやだって、サクラちゃんフキさんみたいな人好きでしょ」
「あー? ……まぁー……好きーっすー。その、ソンケ―もしてます」
たじたじと告げる彼女の姿に、つい写メを連射してフキさんへ送り付けたくなる様な衝動に駆られるのをどうにか堪える。
まぁ、彼女の気持ちもわからないでもない。『DA』からの任務の都合で何度かフキさんと組む機会があったが、その度に彼女の生真面目っぷりと仕事への真摯さは感銘を受けた。
そんな様を見せつけられれば姉御、姉貴と呼んで慕いたくなるというものだろう。
……にしても、フキさんと以前コンビを組んでいたのは確かたきなだったか。
「…………」
ほんの一瞬、ちらりとたきなの消えて行った方角へ視線を移した。
――今、たきなは席を外している。
半ば連行という形で彼女に引っ張られた僕だが、なぜこうして執務室の前にしておきながらノックもせずに待ち構えているのかと言うと、それはたきなの行動によるところが大きい。
何やら、気になることがあるとかなんとか。
それは何かと聞いても『カナメさんは知らなくて良いこと』と一点張り。軽―く見積もっても僕の説得なんざ徒労に終わることは目に見えている。
……そしてこのタイミングでの実質的なたきなの後任との対面だ。なにやら因縁めいたものを感じてくるのは気のせいだろうか。
「あのさ、サクラちゃん。つかぬことをお聞きしたいのだが」
「なんスか。別に遠慮なんかしなくていいっスよ。あたしと先輩の中じゃないっスか」
「仲もなにも僕と君は自己紹介しかしてないのだが……じゃあ遠慮なく。僕のこと、どれくらい知ってる?」
「いいスけど……それ知ってどうするんスか」
「いい加減自分の立ち位置について明確に知る必要があると思ったからな」
正直なところ、楠木さんから来る小言があんまりにも憂鬱で『DA』の内情を自分から遠ざけていた節が無くもないのだ。
勧誘じみた内容だってそうだが、毎回やんわりと断ると出るわ出るわ千束への不満めいた皮肉の数々。それが毎度の如く僕を通じて伝えられているとなれば、こんな調子になるのも時間の問題だった。千束が『DA』に近寄りたがらないのも納得の内容である。
だがそれが『DA』に到着してから頻発してる、たきなの妙な言動に繋がっているかもしれないとなれば話は別だ。
それは既に個人の範疇を超え、周囲にまで影響が出ている。
僕はどう評価されようが気にしないとは言ったが、たきなや千束の現状を鑑みるに僕自身は良くても周囲はそれを許さないとみた。
「というか、サクラちゃんはどうして此処に……?」
「司令からの命令でちょこっと。一緒にいたリコリス、えーと……」
「たきなのこと?」
「あーそうっス。確かそんな感じの。なにも呼んだのは竜胆先輩だけのハズだーって言って。様子を見てこいって」
「……楠木さんは執務室に居ないのか」
……そもそも、よく考えてみればこれもまたおかしな話だ。
何故、此処に来るまで誰にも会わなかったのか。
何より、あの楠木さんのことだ。公私ともに合理性にどっぷり浸かっている様なあの人が、自分から指定の場所に呼び出しておいてその場所にいない? そんな馬鹿な話があってたまるか。
そしてそこで重なる、まるで示し合わせたかのような遭遇。
確かめたいことがあると言って執務室の方角へ消えてからそれっきりのたきな。
一人っきりの自分に、セカンドという単騎を制圧するには心許ない、されど様子見としてはこれ以上ない適任のリコリスが眼前に居る。
加えて今は
「と言っても、私が知っていることなんてそれほど多くないっスよ? 先輩の背格好だって知ったのは最近だし、精々機関銃とか銃撃戦をナイフ一本で凌ごうと拘ってるマニアってくらい? あれっすか、前向きな自殺衝動みたいな?」
「拘りって言うかそれくらいしか出来ないってのが大きいんだけどな」
しかし聞くところによれば、僕とサクラちゃんの認識はそう大差がないように見える。
強いて言うならその噂に猛烈に反対したい気持ちが生まれていることくらいだろうか。
先程からサクラちゃんの馬鹿を見る目というか、人喰いの熊に無手で戯れに挑もうとしている愚かモノを見ている類の視線が地味に辛い。
楠木さんによる涙ぐましい情報統制の結果なのだろうが、これはあんまりである。
「え、じゃあ先輩って何が出来るんスか。もしかして女の子の前出て戦う自分に酔ってるとか、そういうのがカッコイイと思っちゃってるタイプですかー?」
「どうだろう。最近は負け続きだからなんとも」
……やはり少し神経質になり過ぎたかもしれない。
聞いたところ、当てに出来そうな話はどうにも出てこなさそうだ。
ここのところ、たきなの事などで頭を悩ませていたからだろうか。
たきながこの場に居ないことと、もしかしたら自分でも知らないうちにとすわ安心しかけたところに――――。
「じゃあ、先輩はこう思いませんか?」
「――そんな役立たずが、いつまで『DA』で『最強』の名前をぶら下げてんのかなーって」
――――空気を一瞬で塗り替える重い言葉が、それらの予感に確信を抱かせた。
……なるほど。しかし、そう来るとは。
役立たず。役立たずときたか。
今のサクラちゃんの言動で理解する。まったく、ここはヤクザの事務所かっての。こうなってくると楠木さんとの電話でのやり取りの時点で既に僕と『DA』の間では認識の齟齬が生まれていたと考えるべきだろう。
あれだけ緩んでいた空気が、今や針の飛礫のみたいに僕を射抜かんとキリキリと弦を張っている。
その鏃の先に何があるかなど言うまでもない。
柔らかく腕を組んで話す目の前のリコリス。和やかに、それでいて
その状況を理解する。
その事態を把握する。
その危機を認識する。
どういうワケかは知らないが、今の『DA』には――僕を殺す用意がある。
「――――」
空気が張り詰めているのを感知する。
刻まれる緊迫に思考は普段使いから、いつの間にか鉄火場仕様の仕様へと切り替わる。
映るモノは変わらないのに、気づけばその景色は一変している。
言うなれば本部という大きなキャンバスに出来たシミ。
白地にぽつんと浮かび上がって孤立した黒い異物への抗体反応の結果がコレだった。
なんたる失態。なんて無様。
近くに
――誰かが生み出したものしか信じず。
――自らで生み出したものすら信じず。
――――自壊でしか己に意味を見出せない破綻者には、相応しい末路だった。
……しかし、この状況はある意味で吉報でもある。
僕という遅咲きのウイルスを認識した眼前の白血球たるリコリス。
この距離、この間合いで銃を抜かず格闘による拘束もなく談笑に講じているという点からみて、どうやらまだ僕を
「役立たずね……もしかしなくとも僕が死にかけたことも知っている感じ?」
「あ、知ってますよ。なんかー、ファーストの千束さんの足を引っ張ったとか何とかで」
「ほうほう。他には?」
「……、…………あとは先日の銃取引の失敗スかね。結局一〇〇〇丁の銃の行方は不明のまま。」
「銃取引はそういう形で片付けられているのか。まぁ不都合は外様に押し付けるに限るってところなんだろうが……相変わらず余計な敵を作りそうな方法ばかりを取るな、楠木さんは」
会話をしながら思考を回す。
杞憂ならばそれで良い。サクラちゃんはどうにも口は軽いようだが、その軽さの反面組織への使命感とか、そういった熱いものを秘めているのは何となくわかった。
リコリスは皆がみんな真面目で困ることはあるが――それに救われているのも事実。
そんな彼女たちが僕を殺そうとしているなど、命令以外では考えられない。
ならば、死ぬわけにはいかない。
奪わせるわけにはいかない。
たとえ僕への殺意が、敵意が紛れもない本物であったとしても。
こんな茶番で、リコリス達に引き鉄を引かせるようなことなど、あってはならないのだ。
――――これまで影で戦い続けた彼女たちの名誉と、誇りにかけて。
それだけは、絶対に。
「いつまでも能天気で居られるのも腹立つんでいい加減言わせて貰いますけど――部外者の癖してしゃしゃり出てくる様なやつの居場所なんて、此処には無いって言ってんすよ」
「それで獲物の顔を見に来たってわけか。なんというか……悠長だな」
「……どういう意味っスかね」
「
直後――顔面に伸びる掌を視認する。
黒い影で塗り潰すのは、こちらの視界を殺すことを目的とした掌底。
紺の制服から伸びるソレが、目の前のリコリスのものであると認識するのに、こと速さに耐性があるこの体ではそう時間はいらない。
そのまま二の腕を弾いて逸らし、威力を殺さずに軌道を変えたソレにサクラちゃんはいとも簡単にそのバランスを崩す。
「――――」
驚愕に眼を見開くサクラちゃんの姿。
そんな彼女にちくりと胸の内が痛むが、がら空きになった胴体は組み敷くのに絶好の機会を逃がすような状況でもない。
弾いた腕を再び掴んで関節をきめ、もう片方の腕で彼女の両腕を彼女が動ける程度にその体を壁へと叩きつけた。
ここまで一秒にも満たない。
両腕を押さえつけたサクラちゃんは背中越しに、今度こそ殺意を隠そうともせずに無力化されていた。
「……て、め……!」
「あまり動かない方が良い、折れるから……ま、強いて言うなら――今のたきなや蛇ノ目さんだったら、この拘束を解いて僕に二、三発は撃ち込んでくるぞ」
「マウント取りとかっ、……男としてどーなんスかねぇ……ッ!」
「心外だな、自慢って言ってくれ。事実、既に実戦投入できる段階のたきなや蛇ノ目さんのが僕よりよっぽど凄いぞ」
それに……お節介だとは思うが、敢えて言わせて貰おう。
このサクラちゃんと言うリコリス、戦場に放ったら我先にへと突っ込んで死んでしまいそうな勢いがあるし。ここは一端、戦意を折らせて出直して貰うことにしよう。
どんな子であれ、僕はリコリスに無駄死にして欲しくないんだ。
「まぁ、アレだ――僕を殺すなら、しっかりな」
「…………なんスか、それ。自分の状況、わかってるんでしょ? 本部のリコリス総勢で袋叩きされそうになっているのが今の先輩の状況なんスけど」
「じゃどうして直ぐに殺らないんだ。セカンドの実力はよく知っている。この距離だったら銃を抜くまでもなく制圧できるだろうが……それが出来ない理由があるんじゃないか?」
「…………」
ぎり、と歯ぎしりが聞こえる。
それは図星だからか、あるいはこの拘束から抜け出そうにも抜け出せないこの状況に対するものなのか。
当然だ、動けるように締めてやったつもりは無い。ただこうして無力化したのは、このまま『戦闘』に突入すれば、話どころじゃなくなると思ったからに他ならない。
「どんな理由であれ、命令を遂行できなかったら責任を取らせられるのはキミ達だ。だからキミはこの場で突然僕に襲われた故に、対処が出来なかった――そういうことにしておくんだ」
「……どういうつもりっスか。まさか見逃すから見逃すように打診しろとでも言う気っスかね」
「命令なんだろ? リコリスは皆根っこが純粋だ。良かれ悪かれ所詮は部外者でしかない僕に思うところはあるだろうけど、命令だったら……なんであれ仕方ないよな」
「仕方ないって……やっぱ壊れてんな、アンタ」
「その認識は違うぞサクラちゃん――壊れないまま戦えるほど、僕は強くなかっただけのことなんだ」
自分が殺されかかっているこの状況で、仕方ないというのもおかしな話だろうが。
しかし、それはそれ。要は僕が死んでやらなきゃ良い話だ。
尊び、敬う人間の反発にどれだけの勇気がいることか。ましてやリコリス達にそれを行わせるなど、どれほど残酷なことかは身をもって知っている。
望んだモノになれず。
望まれたモノにもなれず。
見出された自分を放棄することの苦痛か、あの『夢』を見た僕はよく知っている。
「ほら、早く行くんだ。僕もお節介で言ってるんじゃない。キミが居なくならないと、さっきから姿が見えないたきなを追いかけられないんだよ」
「……先輩のこと、頼まれても庇わないっスから」
「わかってるよ。むしろそれで良い――サクラちゃんは自分の人生を大事にしてくれて良いんだから」
「――――」
そう言って、恨み節も捨て台詞も吐かずに背を向けて此処から離れていくサクラちゃんの様子を、向こう側に消えるまで眺める。
……あの調子だと、その楠木さんの『命令』とやらが解除されるのも時間の問題だろう。
状況はどうであれ、今の僕は味方に牙を向けた裏切りモノだ。
それまでに、せめてたきなの行方を追わないと。
そのあとの事は、その時に考えれば良い。
「さて、と」
戦闘の気配により一変した回廊の景色。
既に安全などどこにも感じないその空間はいっそ非現実的で、その中でも取り分けその異様さが際立っている、執務室の扉の方向へと半ば無意識に視線が寄せられる。
「――たきな」
その方向へ消えた彼女の名を呼ぶ。応答なんて期待していないソレは、執務室へと目指すたびに肝が冷えていくのがわかる。
だが生憎と、その
僕の感じているものとは裏腹に、冷えた肝をふるい立たせる様な灼熱に、体が順応していくのがわかる。
まだナイフを握っていないというのに、既に肉体はこれから来たる状況に適応し変革を始めていた。
「――――」
そしてついに、執務室の扉へとたどり着く。
木製のソレ、高貴な気配を感じる古めかしさを思わせない重厚なソレが、まだかまだかとその先への開帳を待ち侘びている気さえしてくる。
脚へと力を溜めておく。目指すは滑走ではなく跳躍の準備。本来上へと向かわせるべき力を、ひたすら前へと転身させるために。
左手をドアノブへ、右手を自由に。この扉の向こう側で待っているであろうあらゆる状況に対応すべく。
ノックなんかせずに、ドアノブを握って――ゆっくりとその扉を押し開けた。
「――――来たか」
――――人間として蓄積した歳月を感じさせる、どこかしわがれた声がした。
紫紺の背広を纏い、逆立てて整えた髪と髭はどことなく高貴な印象を与えると同時に、味方すら呑み込まんとする裏側の人間特有の冷酷さを否が応でも感じさせる。
否、
ソファに腰掛けるその男の姿に伴って現れる、
その、近くに。
――――そんな少年たちによって頭に銃口を添えられる、たきなの姿があった。
「話をしよう、竜胆要人よ」
「――――」
たきなのその姿を確認した直後――憤りを感じるより先に、体が動いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『司令、目標は執務室へ向かいました』
「竜胆は室内の様子に気づいた素振りは見せたか?」
『それは、はい』
「よし。それで良い。お前はフキやエリカと合流しろ。次の指示は追って出す」
『……了解っス』
部屋中に設置されたモニターが矢継ぎ早にその表示を変化させていく。
現在、千束が居るのは司令室。
人工知能『ラジアータ』による作戦の予測から事態の観測まで、
「…………」
とんとん、と千束は手持ち無沙汰に腕を組みながら、消えた表情でその光景を見つめる。
今回は特に大きな事件もないだろうにも関わらず、司令室に大きく展開される人員。それらの人間が一人残らず緊張した面持ちで画面を見据えている。
最強の人口知能たる『ラジアータ』とて、人間の様に話すワケじゃない。
あらゆるインフラ、あらゆる事態の予測と観測を行うがゆえに、機能はただその一点にのみに集約されている。
だからこそ、あらゆる異常や変化は随時オペレートし、作戦におけるあらゆる決定権を持つ楠木へと報告しなければならない。
それを、総動員で行う理由ともなればそれは、
千束の視線が忙しないその光景からモニターへと移る。
その画面にはラジアータが二次元的、三次元的に観測したこの場所――『DA』本部の見取り図が展開されていた。
「楠木さん、なんで私が司令室なんですか?」
「『目標』の正体を知れるからだ」
「私は、今すぐカナメくんとたきなに会いたい」
「お前の要望など聞いていない。何より今の状況でお前が前に出れば、事態は更にややこしい方向に加速する」
「それって、カナメくんをこんな怪獣退治みたいに扱う理由と関係してる?」
「……」
楠木は答えない。見ていればわかると言わんばかりのソレに、千束は思わず溜息を零す。
本当に、これではまるで怪獣とか化け物を相手しているのと変わらない。
展開された図面は、間違いなく『DA』本部が戦場になることを想定としたもの。
その図面の上にはアルファ、デルタ、チャーリーと動員する『駒』を冠した、実際にその現場にいるであろうリコリスは、とても
そうでもしないと竜胆要人を仕留められないと『ラジアータ』と司令部が判断した結果なのだろう。
そして楠木が千束に掲示した『竜胆要人の正体』との関係。
相手はあの楠木だ。あれだけあからさまに錦木千束を釣る餌として掲示した内容と今の状況に、関わりがないなどということはまずもってあり得ない。
「たきなもいるし、大丈夫だとは思うけど……」
だがそれは、竜胆要人が『DA』の掌の上で足掻き続けているかの話。
幸い、今はたきなが近くに居てくれている。
共に訓練し、同じ技を使い始めたたきなと彼の連携は、千束を以てしても目を見張るものがある。
その二人が居れば、万が一にも最悪の事態などあり得ないと、千束はそう信じた。
そんなことを考えていると、状況に変化があった。
『――――司令! 執務室の監視カメラ、復帰させました』
「モニターに展開しろ」
楠木の冷静な号令に迷わず反応する彼ら。
ひやりとした視線が千束個人へと向けられる。
尊敬もしている。『DA』に籍を置き、外でもリコリスとして活動できるように計らいをしてくれていることにも感謝している。
だが、それでも。
人間として見ながら、同時に『駒』として見る視線が入り交じるその矛盾。
それは仕方のないことなのかもしれない。
だがそれでも、千束はその楠木の瞳がどうしても好きになれなかった。
「よく見ておけ千束、アレがアイツの正体だ」
そこには――。
「え――――」
――――
今回はここまで。
山育ちの歪みの一つ。
他人優先と言うのは美徳だが、行き過ぎればそれは――自身への『関心の無さ』と取れなくもない。
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それでは!