山育ちの竜胆と不殺の彼岸花   作:トウチ亀

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14話

 

 

 

 

 

 

 

 

 失われた熱は――その姿を思い出す。

 

 

 空中で身を投げ出す二騎の青い影。

 その一騎が纏う全霊を、彼は知っている。

なぞり、象り、憑依した戦闘技術は、『殺人貴』さえ忘れていた凶器の一振りを、今際の際で確かに垣間見る。

 

 

 懐かしさすら感じる戦場で、ソレは確かに視た。

 

 

 ()()()()()()()()――黒き剣士の面影を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はッ、はッ、は――――ぁ!」

 

 

 ――交錯する影。

 視野に溶ける黒い風は、傷つき煤だらけとなった白亜の螺旋廊に浮き上がる。

 傍目から見れば辛うじて人型を保っているのナニカが視界をなぞっているようにしか見えないことだろう。

 放つ一撃は全て必殺へと至るモノ。

 なまなかな戦闘技術を持つモノでは目に届ける事すら許されない、逢魔の協奏。

 退いては距離を取り、そして一呼吸の間もなく影は行き交う。

 交わる度に奏でられる金切り音と、巻き上げられる火花だけが、その影の実在を証明していた。

 

 だからこそ、絶速で構築される戦闘領域が狭まっていることに、常人では気づけない。

 

「――避けろ、サクラ!」

 

 声と一緒にサクラの首へと目掛けて正面に放たれる突き。

 その回転数を未だ際限なく上げていく鋼と風の領域。

 故にそれを見切れない兵に待っているのは死のみ。そこには悠長にソレを認識させる猶予すら存在しないだろう。

 

 現に見開かれるサクラの目には、刃なんて微塵も捉えられていない。

 打ち合いもなく、一合にも満たない辻斬りめいた暗殺へ彼女は成す術もなく――。

 

「づっ――!?」

 

 ――背後の壁へと叩きつけられる。

 

「……?」

 

 訪れる静寂に、冷や汗が流れるサクラ。その速さに声をあげる暇すらない。

 何をされたのか、判別は一瞬だった。

 認識までの間は一呼吸にも満たない。

 

 それでもなお、理解が及ばなかった。

 

 視線を下ろせば、刃の切っ先が壁へ鋭利に沈み込んでいる。

 りぃんと、静かに揺れる小さな鈴のように大気へ鳴動する刀身。無音から停止した戦闘を前に、凶器のあげる唸り声だけがその名残を感じ取らせた。

 

 そして目の前には――血塗れの手で刃を握るたきなと、突きを前に停止する『殺人貴』の姿がある。

 

「――――」

「〝――――〟」

 

 刃から滴る血に構いもせず、言葉のない零度の瞳が互いを見据えている。

 はたはたと地面に落ち続ける血はたきなのもの。突きの軌道は寸でのところでサクラの首を躱し、その刃はたきなの手に握られ停止していた。

 

 たきなのその迷いの無さに、サクラはまた助けられたという事実を押し退け戦慄する。

 人間として、部位の欠損への恐怖は無いのかとただただ驚愕した。

 

 強制的な攻撃の軌道変更。

 速さでは叶わないが、捉えることが出来る。ならばその凶器の動きを変えてやれば良い。

 そこに自傷への恐怖はない。出血への躊躇いはない。

 そんな迷いは――飛び込んだ時に捨ててきた。

 

「さっき、よりっ、力が弱いんじゃないですか、カナメ」

「〝――――〟」

 

 片や生存に己が死力を尽くす単純な生き物。

 片や目的に己の命を歯車として献上する不可解な無機物。

 

 土俵に上がれぬモノは排斥するという無意識の拒絶が、確かに両者の間で存在していた。

 

「――避けて!」

「……っ! アンタは早く手を――」

「〝――――〟」 

 

 それに構わず振り抜かれる刃。刃物を握るたきなの指ごと斬り落とすつもりで振り抜かれようとしているソレを察し、サクラは『殺人貴』の右腕を蹴り上げる。

 

「……!? か、壁……!?」

 

 一瞬でかち上げられる腕。

 『殺人貴』の腕を折る気概で渾身の力を込めて振り抜いた両脚が感じたのは、まさしく無機物のソレ。

 びりびりと、『DA』特注の鉄板が備え付けられた靴を伝導し、衝撃に耐えかねた脚が悲鳴を上げているのがわかった。

 余人なら正しく打ち込めずにとっくに粉砕しているであろうソレ。

 加えて先程放った『示幻』によってより脆くなっている筈であるその体に、サクラは流石に戸惑う。

 

 とはいえこれも明確な隙。

 

 このやり取りを眼で追えていたリコリスは、その一瞬を見逃さない。

 

「どうせならもっと飛べよ竜胆――!」

「〝――――〟」

 

 荒々しい言葉と共に顔面に飛んでくるフキの両脚蹴り。

サクラの放ったソレとは文字通り数段上の練度を誇るソレを『殺人貴』は剣の柄で受け止め、その反動を利用して逆手に持った刃を翻し一閃する。

 一重、二重。

 刃が甲高く銃身を噛み切る音と、銃弾を防ぎきる学生鞄が火花を散らせながら滑る音が高速の打ちい合いの中で響き渡る。

 

 数多く『DA』に籍を置くリコリスの中で『格が違う』と称される春川フキの腕前。

 ファースト、赤服の称号は伊達ではない。否、伊達でなれるようならば彼女はこの打ち合いにも至らずとっくの当にその命を落としている。

 小柄な体躯を活かした高機動戦闘は、奇しくも『殺人貴』の技能に含まれるコンセプトと共通するもの。

 こと高速戦闘においてはフキにも分がある。

 

 だが――そのフキを以てしてもこの攻防を以て防ぐことに専念させられていた。

 

「チィ……!」

 

 やがて盾として機能していた学生鞄が斬り捨てられる。

 そこで生じた隙をカバーするべく、ほんの僅かな打ち合いで痺れを訴える両腕のダメージを無視し拳銃を構えるが、それすらも遅い。

 正面を見据えた刃はその切っ先をフキの心臓に照準を合わせた。

 

「エリカ、後詰め――!」

「任せて!」

 

 秒読みの死を、数合わせで回避する。

 後方に控えていたエリカが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し、再度盾としてその突きをその威力ごと後方へと受け流す。

 突きによる力の流動の大半は学生鞄を伝い、火花を上げる刃と共に外へ。

 それでもなお殺しきれない威力。技にすら満たない基本動作にも関わらずエリカの腕から全身の芯に至るまで吹き飛ばさんとする力を感じ取る。

 

 そして勢いのまま、『殺人貴』に一瞬だけ生じた腹部への隙を目掛けて、振り抜かれた。

 

「づぅ――ッ……!!!」

 

 脇腹を目掛けて放たれた鞄による打撃と共に、両者の身体が後退する。

 その威力はエリカが竜胆要人より教授された『魔風』も相まって、その質量以上の威力を誇る。

 『魔風』の使い手同士の衝突。

 それは、高機動戦闘の中で行われる重攻撃による死合の発生が必定となる。

 速度は重さに。重さは速度に。生じた速さによる重みを攻撃と移動の両立を実現する。

 結果として展開されるのは僅かな点が視界に軌跡を残す高速戦闘だ。

 

 加えて、こうして戦闘が成立しているのはそれだけが理由じゃない。

 

 都合にして何度死んだかわからない四名のリコリスによって構築される盤面で、その四人は確かに見抜いていた。

 

「私らで対応出来始めてるってことは、アイツも()()()()()()……だが」

「それでもまだ、届かない……!」

「――二人とも! 前方から射撃来ます!」

 

 一転して襲い掛かる銃撃の気配。後方からたきなの声に反応するエリカとフキだが、視界に火を吹いて瞬く閃光に、リコリスとして鍛えらた体はほぼ反射で回避動作を取る。

 文字通り思考の隙がない。

 既にいくつ命を落としたかわからない死線。その在り得ざる状況によって、体を動かす理性はとっくのとうに生存にしがみつく獣の如き本能と入れ替わっている。

 

 『殺人貴』の身体に無視できないダメージが蓄積しているのは明らかだ。

 どういうわけか、千束との戦闘とたきなとエリカの奇襲を対処して以降、その活動には明らかなダメージによる影響が見られる。

 どれだけ爆発に巻き込まれ、自身の技によって骨が砕かれようとも反応の無かった体が、そんな人間らしい反応を見せるようになってきた。

 

 しかし、その事実を踏まえたうえで――この状況はジリ貧と称する他ない。

 

「いつまで続くんスか、コレ……!」

「くれぐれも当てようとすんなよ! ()()()()()()()()()()()()使()()()()! 当てようと思ったらアイツはその射線を辿ってコッチに距離を詰めてくるんだ! 当てないくらいが丁度いい!」

「回避じゃねーっスよそんなん! 使おうと思って使えるもんじゃないでしょソレ!」

「だから私が知るかっ!」

 

 広場の全体に渡って音速を以て振りまかれる鉄の飛礫。

 リコリス側の機動を潰し、己の機動を展開するための弾幕の狙いを、この短い間ながらフキは正確に見抜いていた。 

 

 だがそれでも、底が見えない。

 この戦闘の終わりが見えない。武装にだって限りがあるのだ。今でこそ先の迎撃戦における武器がいくつか散乱しているが故に戦えるが、今の一進一退の状況が続けばその限りではない。

 どうしようもなく『決定打』に欠けるこの戦況が好ましくないことは、この場に居る四人とて理解しているのだ。

 

 だからこそ、リコリス側が用意できる『切り札』の存在がこの戦闘の行末を左右することとなる。

 

「おい、たきな! ()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 行き交う弾幕の中、フキの上げる声はもはや怒鳴り声に近い。

 だがそれは同時に、この場におけるリコリスの総意でもあった。

 

 その言葉に、たきなは周囲を見渡した。

 

 

「――まだ、です」

 

 

 激しい戦闘の中、未だに水を放出し続ける噴水。

 螺旋状に広がる戦場と化した広場。

 対侵入者用のセキュリティ機能としてこの『DA』全体に搭載させている()()()の壊れた隔壁。

 

 

 ――だが、足りない。

 『殺人貴』となった竜胆要人を止めるには、これでも足りない。

 準備は整っている。

 噴水への仕込みは済ませ、隔壁に関しては壊れた事が幸いして小細工をするのは容易かった。

 あとは、千束の目覚めを待つだけ。

 

 だというのに。

 

 

 なぜだか、たきなにはこのまま行けば今度こそ絶対に誰かが死ぬという強い予感がある。

 

 

「オイ、どうなんだたきな! いけるのか、いけないのか!」

「……仕込みは事前に完了しています! あとはカナメの動きをどうにか停止させないと! 少なくとも二秒、……いや四秒ほど!」

「あんな怪我負っててもぴょんぴょん飛び回れる奴にかっ!? 仮に撃ち抜けたとして今更アイツがどうにかなんのか!?」

 

 そして彼女の言い分を、たきなはあの奇襲が失敗した時から既に理解している。

 故にあらゆる方法を試したのだ。

 爆発、弾幕、同じ技術による体術。そしてそれを単純な数で更に押す。

 だが、それはどの方法も『殺人貴』にとっては『既知』だ。

 

 ハッキリ言って『殺人貴』の攻撃への対処能力は人間離れしている。思考の埒外にあると言っても良い。

 

 既に存在する方法ではアレを止めることは出来ないだろう。

 

 出来るすればそれは、純粋に彼と並び立つ存在をぶつけるか。

 

 あるいは――『殺人貴』すら知らない方法で対処するしかない。

 

「――もう一度、『アレ』が出来るなら」

 

 誰にも聞かせることなく、そう独り言ちる。

 だが注意せよ。

 アレは()()()()()()()()()()。人間として生きる以上、『アレ』は見えなくては良いものだ。

 その成れの果てが今目の前にいるという事実。

 そして自身が見えるソレが、井ノ上たきなという器にとっては分不相応なものであるということを、彼女は直感している。

 

「違う――やるんだ。絶対に」

 

 迷いを断ち切る様に、その言葉を口にする。

 己の生存を優先し叫び続ける本能と、そんなもの捨ててしまえと囁く理性がひしめぎ合っている。

 

 だがそれでも、拭いきれない。

 人間性をくべたその先に。

 果たして、その先に自分はいるのだろうか、と。

 自己犠牲の果てに救いはない。あるとすれば、犠牲にした本人の心くらいのもの。

 絶対に死なせないと誓ってくれた少年。生き抜いて欲しいと願う少女の想いを。

 

 

 自分は裏切れるのか――。

 

 

「たきな、前――っ!」

「――――ッ!」」

 

 

 ――鋭利な鋼の気配。

 その迷いをつくかのような視界を迸る白銀に、刹那の思考を浮かび上がる取捨選択ごと斬り捨てる斬撃に、たきなは反応できない。

 

 エリカを除いて誰も反応が出来なかった『殺人貴』の挙動。

 跳躍し回避行動を取るがそれも遅い。

 後方への回避を予測した突き技が、たきなの行動が無駄に終わることを容易に理解へ至らしめるが――。

 

 

「お待たせ――!」

 

 

「〝――――〟」

 

 

 ――刃を弾いた赤い弾丸がその結末を否定した。

 

 

『殺人貴』の切り替えは迅速だった。

刃が弾丸によって弾かれたと認識し、たきなを殺せぬと判断した彼は即座に、この場における最大の脅威を振り払おうと刃を向け直す。

 

「よっと!」

 

 振り抜かれようとした刃を腕ごと回し蹴りで蹴り上げ、のけ反った体に数発の非殺傷弾が撃ち込まれる。

そして怯んだ彼の身体へ抉り込むようにガバメントの銃口を『殺人貴』の身体に押し付け、吹き飛ばした。

 

「――()()()()、当たりが弱くなってる……?」

「千束、おま、大丈夫なのかよっ!?」

「フキちゃんはこの頭の血が見えないのカナ~……あ、まだちょっと眩暈が」

「見えたうえで言ってんだよクソがっ!」

「元気でよろしー。んで、一応楠木さんから『策』の内容は聞いたんだけど――」

 

 

「――カナメくんを止める方法なら、あるよ」

「「「!!!??」」」

 

「……」

 

 この場にいる()()()リコリスは、戦闘に没頭していた。

 否、正しくは没頭しなければ間違いなく死んでいたというのが正しい。

 

 だが、この場における五人目――錦木千束だけは例外である。

 彼女はこのことの顛末をあらかた予想していた。論理や理屈でなく、()()()()()()()()()という、野生動物じみた直感を以てしてその行末を把握していたのだ。

 だから、観察に徹していた。

 

 そして既に、その観察による結論は出ている。

 

「千束……詳しくは聞きません」

「たきな……」

 

 

 そしてたきなは見逃さない。

 

 

 それを告げる千束の表情がほんの一瞬だけ――悲し気に歪められたことを。

 

 

 だが、任せるということはそういうことだ。

 誰かが背負うナニカを、自分に変わって背負わせる行為。

 

 

 それでも信じると決めたからこそ――たきなは迷わない。

 

 

「きっと、千束じゃなければ出来ないことなんでしょう。ならば私は、それに合わせて動きます――なので、教えてください」

 

 

 

 

 ――どうすれば良い?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〝――――〟」

 

 

 

 

――なぜ、この身体(おのれ)が退いたのか。

 

 手負いの暗殺者達と対峙する『殺人貴』は、らしくなく思考を巡らせている。

色の無い瞳は虚空を見据え、何処を見るワケでもなくただただ頭の奥で焼き付いた光景を追憶していた。

 

 痛みも感じなければ情動の熱すら感じない。

 意味も価値も問うことなく、ただただ一振りの武器で在れ。

 そうやって正気を捨てた筈の脳が、あの一瞬――白と黒の女と肉迫した時から、正常に稼働しようと努めていた。

 

 

 否――正確には取り戻そうとしている。

 

 

 今この身で感じ取っている感覚は、『殺人貴』には未知なるもの。この失くした筈の熱を、『殺人貴』では処理しきれない。

 不要だからと斬り捨てた筈の機能が此処に来て必要とされる皮肉に、『殺人貴』は嗤う素振りすら見せない。

 

 当然だ。必要ならば必要なだけ出来ることをするだけ。

 機械が如き合理性と冷徹さを合わせ持つ体が求めたのは他でも無い、『竜胆要人』によって生み出されたモノを確実に殺しきる一手となり得る。

 それが目的の邪魔になるなら利用することも厭わない。事故を阻む矛盾を利用することに、疑問すら持たない。

 

 それが『殺人貴』である己を殺す行為であったとしても。

 

 その程度の矛盾では、その目的を止める理由にはならない。

 

「〝――――〟」

 

 何故なら――あの女どもには己を殺す用意がある。

 

 白い女に、二名の『同門』と思わしい動きを見せる暗殺者。

 理屈は不明だが、己の討伐手段に見当がついているという事実には変わらないだろう。

 

 だからこそ、自分のやることは変わらない。

 

「〝――――〟」

 

 出来た傷は――全て問題なし。

 右腕部の粉砕骨折は()()()()()()()()()()()()()()補強し黙認する。

 防ぎきれなかった爆炎による火傷も同様だ。骨を焦がすまでに及ばない熱傷など、中途半端に生物としての機能など残しているが故の錯覚に過ぎない。

 

 人間として振る舞おうと、()()()()()()と思っていた頃の残滓でしかない。

 

 なら――捨ててしまえ。

 

 どちらにしろ、この身体ははもうもたない。

 

 既に奴らの奇襲は失敗している。もう決して逃がすことはない。

まみえたら最後、確実にその命を刈り取る。

 『敵』が正面から立ちはだかるというのなら、その戦法ごと正面から叩きつぶすだけ。

 

 そも、この身体に敗北は許されない。

 許されては、ならない。

 そんな人間らしい末路による死など、己が許容してなるものか。

 否、元よりこの身体は死してなお動いている。死んでいるのだから、敗北も何もない。

 

 

 ――だというのに、なぜ。

 

 

「〝――――……?〟」

 

 

 ――この身体はこんなにも、無様を晒している?

 

 

「〝――、――〟」

 

 先程の『示幻』にしてもそうだ。

 なんだ、あの体たらくは。もはや残り少ない身銭(からだ)を使って放った渾身の一撃が、()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、あり得ない。

 あってはならない。

 

 意地だとか、誇りだとか、そういう人間臭い話ではない。

 言うなれば現象、現実を生きる上での絶対的なルールだ。

 火は酸素が無ければ燃えない。、水が無ければ雲が発生しないような、そういった物質界における法則になぞらったこの世界における絶対の理屈により成り立つもの。

 それが、たった二人の女に崩されたなど、在り得てはならない。

 

 なにが、そうさせる。

 

 なにが、この結果を引き寄せた。

 

 あの白い女に、何を感じた。

 

 あの黒い女に、()()()()

 

 

 なにが――『僕』をこんな風にさせている。

 

 

「〝――――〟」

 

 

 ……いや、関係ない。

 渦巻く渇望は、未だに答えは出さずに停止している。

 答えはそこにあると言わんばかりに、己の中に燻り、滞っている。

 

 それが――酷くもどかしい。

 

 だからこそ殺す。

 その原因であろう目の前の女たちに、絶対的な終わりを与える。

 

 

 だって――それしか知らないのだから。

 壊して、解体して、ようやくソレがなんだったのかを証明できる。

 

 

 

 今のところ、脅威と言えるのは黒い髪と白い髪を持つ二名の暗殺者。

 この二人こそがこの場所における要。それらを崩せば砂上の楼閣も同然。ことを終えればあとは崩れ落ち陥落するのみだ。

 

 

 あの片割れのどちらかが――()()()()()()()()()()()()()()()でない限り。

 

 

 

 

「〝――――〟」

 

 

 

 

 女たちが動き出す気配と共に――噴水を含めた螺旋の回廊が悉く爆破した。

 なにやら画策していたのは見抜いていた。

 この身体を殺す用意は、おそらくとっくのとうに整えられている。

 

 盤面で称すところの詰みへの布石。

 だがこの程度の範囲攻撃であれば、回避は()()()()()()()

 

 

 砕け散った噴水によって()()()()()()()()()()()を感じ取りながら、『殺人貴』はその爆発の範囲を確実に見抜く。

 攻撃範囲の及ばない、まるで縫う様な軌道を描いて、この戦闘においてもっとも規模の大きい爆発を彼は無傷で攻略する。

 

 

 

 

 そう、たったの一秒。

 

 

 

 たったの一秒、その合理を突き詰めた思考から切り離しただけ。

 

 

 

 それが、致命的なモノとなることも知らずに。

 

 

 

 

「〝――――!〟」

 

 

 

 

 爆発の範囲を見切った彼の目。それはやがて天井へ。

 そこには未だ無事な照明が、()()()()()()()()()()()()()()()電灯が一際強く、光を放っているのがわかった。

 

 

 

 そしてその目は――黒い影を捉えた。 

 

 

 

 

「〝――――〟」

 

 

 

 

 白い灯かりに紛れるように天井に張り付くソレ。

 

 

 

 

 亡霊のように蒼く灯る――『停止』を見据える双眸がそこにある。

 

 

 

 




今回はここまで。

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それでは次回。
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