山育ちの竜胆と不殺の彼岸花   作:トウチ亀

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15話

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やっぱり、()()()()()()

 

 唸りを上げ疾走する思考を感じ取りながら、たきなそう口にする。

 絶海の致死地点。『DA』の本部という、前人未到の処刑場じみた、現在もっとも死の気配が濃密であろう生命圏の中心。

 ゆうに十五メートルは超えるであろう高さを誇る天井にて、たきなは『ソレ』を見据える。

 言語野を沈め、音を廃し、目的遂行に必要な生存だけを追求した機械じみた集中力。

 極限状況が作り上げる疑似的な死がもたらす、極上のインスピレーション。

 

 

 その極限で僅かに可視化される――凶つ星が如き絶技の極点を。

 

 

 それでもなお、視えない。

 厳密には見続けるに至らない。捉えられる実体など無く、ピントが合わなければ()()()()()()()()その点を、たきなの脳は認識出来なかった。

 

「だけど――」

 

 既に迷いは振り切った。

 彼と彼女。結ばれる視線は、この戦闘における最後の空白を生む。

 

 幾度となく繰り返され現実を上書きする臨死体験は――走馬灯のようにこの『作戦』の羅列を追憶としてもたらした。

 

 

 

 

『――作戦遂行にあたり、竜胆の治療記録と肉体のデータを洗い直した』

『自己認識によって強制的に肉体情報を改竄する技術。アイツの身体は、脳から出されたその情報と信号に応じて変えられる筋肉と神経に構造の理がある』

『情報と信号――つまり電気だ。アイツの肉体は、機械基盤の回路のように信号が伝達するように出来ている。精巧に出来過ぎて、かえって単純な作りになっている』

 

 

『今のアイツはマシンだ――だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが出来る』

 

 

 遅延する思考は、楠木のその言葉を冷静に反芻する。

 誤算は多くあった。『殺人貴』の耐久力と、本部のリコリス総出でもなお捉えきれない戦闘技能。そして何より、竜胆要人が従来から気質として持ち合わせていた。目的のために己の状態を鑑みない()()()()()。その方向性の変化は見事に、『DA』司令部の予想を悉く上回った。

 

 だがそれでも――リコリス達はきっちりと仕事をこなしていたのだ。

 

『――十秒だ。その策で、アイツの隙を作る。致死量ギリギリの感電を、一瞬だけ引き起こす。『道』はエリカやフキが作らせよう。お前はただアイツの死角から外れて決定打を叩き込め』

 

 そも、『殺人貴』をこの場所に誘導できた時点で、作戦の下準備は整っている。

 噴水がある螺旋廊への誘導と、『殺人貴』をこの場所へ押し留め疑似的ではあるとは言え袋小路の状況を構築することに成功した。

 

「でも、それは――」

 

 だが留意しなければならない点が一つ。

 感電はあくまできっかけだ。

 今の状態の『殺人貴』を竜胆要人に戻すには、おそらく()()()()()()()()

 理屈は不明だ。

 だがそれだけでは絶対に失敗すると、たきなは確信している。それはきっと作戦の立案者の楠木とて同様だろう。

 

 おそらくはあと一手。

 キッカケを決定打にするための――絶対の一撃が必要だ。

 

 

 

 

『そのうえでハッキリ言うぞ、たきな――今度こそ、お前は死ぬ』

 

 

 

 

「――――」

 

 ソレが語られた自身の末路。

 確かな戦術眼を以て導き出された、この戦闘における井ノ上たきなという兵士の使い道。

 事実、たきなは自分の死を確信している。

 一〇メートルを超える高度から限りなく()()に近づけた『魔風』で『殺人貴』へと向けて滑走するのだ。

 まず命はない。

 成功したとて、その技の行使に体が耐えられるかなど、竜胆要人自身が証明している。

 使えば最後、この身体は自らの肉体の駆動に耐え切れず自壊するだろう。

 そして少しでも『殺人貴』の対応力がたきなと司令部の予測と作戦内容を上回れば、その結果は実証するまでもない。

 

 失敗は死。

 成功も死。

 

 どちらを選ぶかなんて――決まっている。

 

 

「――いい」

 

 

 それで良い。それが良い。

 迷わず閉ざす未来を選択する。

 生存の確率は良くて二割。現実としてそれは、事実上の死を確定させる。

 それでも彼女に後悔はない。

 短かったけど、それでも良いものはたくさん貰えたのだから。

 これがその対価だというのなら、それでもおつりがくるというもの。

 

 

 ――本当はもっと、一緒に居たい。

 

 

 自分がいない未来。初めて手に入れた自分の居場所に、自分がいないその人生をたきなは明確にイメージする。

 

 

 だが、それでも。

 

 

 ――構わない。あの二人がこれから先も一緒に居られる対価なら、納得の結末だ。

 

 

 粉塵の見据える先。

 

 

 

 

 亡者すら及ばない悍ましい執念は――その瞳に薄く蒼を灯した。

 

 

 

 

「では――キツイのいきますよ、カナメ」

 

 

 

 

 そして――滑走と言う名の落下が始まる。

 ぶちりと、その踏み込みだけで筋線維が致命的な断裂を引き起こしたことを認識した。

 巻き上がる噴煙の中、ようやく交錯するたきなと『殺人貴』の視線。

 時間にして僅か一秒の索敵。

 その適応性には驚愕するが、この場にいる全員が繋いで作り上げた一秒は、自己保存を省みない『魔風』を前において致命的過ぎる。

 指向性を持たせた落下は、これ以上ないほどの移動手段と化す。

 

「始まったよ!」

「サクラ! そっち準備は出来てるんだろうな!」

「ばっちりっスけど……! コレ二人とも死にませんか!? 一応どっちも生還が目的なんスよね!?」

「たきなはともかくアイツはあの傷で動くんだぞ!? 感電して死ぬようならとっくに死んでるっての! エリカはたきなをいつでも援護できるように配置につけ! サクラ、私が合図したらすぐその配線ちょん切れ! いいな!?」

「りょ、了解!」

 

 ――この時点で、たきなは迎撃含めたあらゆる対応手段を放棄している。

 死に迫る体と思考。たきなの練度では、迎撃から決定打へ移行することが出来ない。

 そして『殺人貴』には無防備で落下する獲物を決して逃がしはしないだろう。

 故に、己の生存を省みる余裕などない。あるわけがない。

 だがそれでいい。足りないもの、足りない分はこの作戦を共にする同胞が補強する。

 

 

 具体的には、『殺人貴』が爆破によって破壊した隔壁によって剥き出しになった配線。

 

 開始直後のより一秒にも満たない。現在リコリス達は濡れた広場に及ばない階層より作戦を展開している。

 たきなに釘付けにさせられている『殺人貴』は、爆発によって巻き上げられた粉塵も相まってその三名の動きに気づけない。

 

 余人であれば()()()()()()()()()()()()を持つソレを噴水で濡れた広場に、今もスパークを発生させながら広場の床へ叩きつけられようとしているソレを放てばどうなるか。

 

 

 何度でも言おう。

 単騎では『殺人貴』には到底及ばない。単純な強さでは、どうあっても遅れを取る。

 この場では、あらゆる選択が致命打になりかねない。

 

 しかし、この戦場ではその『弱さ』こそが『殺人貴』陥落の鍵となる。

 

 

「〝――――〟」

 

 

 直後、『殺人貴』の視界を通じて燐光が迸る。

 『殺人貴』の身体を纏わりつく噴水の水滴はその物理法則に従い忠実に、彼の身体を硬直させ地面へと縫い留める。

 常人であればその身に晒されたその瞬間に絶命を決定づけられる電光。

 

 

 だが、その過剰な電撃に晒されてもなお。

 

 

 『殺人貴』は飛来する『死』を見据え続ける様に――片手に握られた自動小銃の照準がたきなの全身へと向けられた。

 

「――――!!!」

 

 ――二秒。

 ここが瀬戸際。今際の際で回転数を上げ続ける命を持つものとしての本能が、たきなの中で嘗てない程の警笛を上げる。

 だけど、関係ない。

 弾幕は落下の軌道へ重なるように、獲物たるたきなへと殺到する。

 それでも、関係ない。

 

 そんな、本能が引き起こした理性への誤作動など知ったことか。

 

「――ッ!!!」

 

 ――これで、井ノ上たきなは己の死亡を確定した。

 動作は最小限に。肉を切らせ骨を断つ。頭と心臓、即死を免れるだけの回避行動にのみ専念する。

 

 その過程で、左肩、右脚が撃ち抜かれた。

 

 生存の確率はかろうじて二桁から絶対的な一桁へ。肩と足から込み上げる鋭い痛みと熱が、己の最期へのカウントダウンを強制的に確信させられる。

 だがこれで終わりじゃない。

 彼女からすればこれすらもまだ想定の範囲内。

 

 次だ、次にこそ――『本命』が放たれる。

 

「〝――――〟」

 

 轟と剛。雷鳴と巌が如き駆動を以て、ソレは()()()()

 刹那のやり取りの中、『殺人貴』は飛来する暗殺者を自動小銃(こんなもの)では仕留め切れないと断じた。

 電撃によって地面に縫い付けられた今の彼では、間合いの外からの攻撃に対して現状では成す術がない。

 

 故にここで放たれるのは――『投擲』の一択。

 

「――――、!」

 

 唸る大気。速度は重さへ、重さは質量へ。『殺人貴』の手に握られた一振りの剣は穿ちの鋼となって飛翔する。

 『溜め』もなく放たれる、〇から一〇〇の一投。

 ソレはその速度も相まって投擲を超え、もはや砲撃に近い。

 何を隠そう、その正体は錦木千束を一時戦闘不能へと追いやった絶殺の一撃。

 『示幻』の要領で行われる、必中必殺の投擲は分水嶺であるにも関わらず、見惚れるほど流麗に脳を吹き飛ばす軌道を辿った。

 

 それでも、たきなは考えない。己の死という要素を考慮しない。

 

 ポイントの変更はあり得ない。そんな無駄な選択は、落下が始まった時点で放棄した。

 そも、死んでいるというのなら右肩と左脚を撃ち抜かれた時点で、井ノ上たきなは死んでいる。

 

 だが、その確定した死に際こそがこの自殺の『決着』だというのなら――まだ選ぶ余地がある。

 

 

「こんな豆鉄砲でも――……ッ!」

 

 

 ――五秒。

 一閃し空中を突貫する剣の射線に、()()()()()()

 火を吹く銃閃。刹那に重なる金切り音。磨耗する鋼は放たれた弾丸の方だ。

 故に人体より放たれる砲撃に、銃撃によって重ねられたいくつもの弾丸で以て対抗する。

 真正面に働く慣性と威力に対し、()()()()()()()()()力を与えるという常人を優に超えるソレは確実に、その投擲から威力を奪った。

 それがエリカの援護によるものだと、たきなに認識できるリソースは残っていない。

 

 だが、銃撃が砲撃に敵う道理は存在しない。

 依然、投擲はその軌道を保ったまま。

 剣の砲弾に鉄砲では届かない。その威力は未だに井ノ上たきな一人を殺しきるには十分過ぎる。

 エリカとたきなだけでは、剣弾を相殺しきれない。それは精々、死亡からほんの少し遠ざけられただけの悪足掻きに等しい。

 

 

 だから。

 

 

 ――――ここで、()()()()()()()()

 

 

「、は――、はっ――」

 

 

 ――七秒。

 

 痛み(さけび)を無視して、背の鞄より千束から託された切り札を抜き放つ。

 電撃を帯びた棍棒――竜胆要人を止めるためだけに作られた特注のバトン。

 重量も相まって、それはハンマーやメイスに近い。

 

 それを用い――半壊した四肢を以てこの大砲を迎え撃つ。

 

 コンマ数秒後、網膜に実像として焼き付く自身の『死』 に息が切れる。

 喘ぐ肺と共に、はち切れんばかりの脈拍が全身の血管を加速させた。

 巡る技巧、循環する肉体、共感する経験。

 そして本来あり得ざる、『死』への実体験。

 イメージしている暇はない。

 イメージに時間はいらない。

 

 だって――手本なら、その眼で何度だって見てきたのだから。

 

 

「――あぁあああぁああああッッッッ!!!!!」

 

 

 たきなのたきなの全身が吼えた。

 金属製の棍棒が無数の火花と共に衝撃を纏って軋みを上げる。

 煌々と視界を瞬く閃光。大気を喰らう鋼の切っ先が、一瞬の均衡を見せる。

 もうこの戦闘で何度迎えたかわからない己の上限に、既に悲鳴を上げていた体は断末魔にも等しい叫びを具現していた。

 チャンスは一度だけ。

 引き返すことすら許されない不可能と断じた迎撃に、文字通り全霊を込める。

 

 

「〝――――〟」

 

 

 かろうじて体と繋がっていた筋肉が今度こそ断ち切れた。

 一部の骨が砕け、内蔵にその破片が身体の中で抉り込み、それでもと稼働を続ける筋肉によって更に暴れ回る。

 それでも、眼を逸らさない。

 壊れた肉体の上へ更なる強化を重ね、また壊れる。

 

 壊して。

 

 壊して壊して壊して壊して壊して――。

 

 

「ッッッッッ――――……!!!!」

 

 

 ――――刃を弾く赤い粉塵が、その刃の軌道を変えた。

 

 

「今だ! 切れ、サクラ!」

 

 

 ――九秒。

 こめかみを通り過ぎる刃を確認し、最後の工程に移る。

 電撃は停止し、間もなく『殺人貴』は放たれる。

 だがもう遅い。

 着地を考え生存を獲得する本能も、この犠牲に異議を唱える理性もない。

 

 

 その『死』すら置き去りにした駆け引きの果てで、たきなは確かに()()

 

 

 光すら届かない極天。静止の穴倉。

 

 

 そこではあらゆる物質が『停止』すると本能的に理解できる――知覚する『終わり』を。

 

 

「カナメ――!!!!」

 

 

 だが、そんな発見などどうでも良いと拾い上げた視界の情報を空中で破棄する。

 壊れた左腕で構えられる拳銃に、引き絞る様に構えられた棍棒。

 得物の照準は『停止』の極天へ、棍棒は頭部へと据える。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()に抗うように、たきなはその名を叫んだ。

 

 この滑走に待ち受ける末路を、確信する様に。

 

 

「――――」

 

 

 考えない。躱すまでもない。此方の全てを投げうった所で、勝ち取れる未来は一つだけ。

 良くて相打ち。必ずどちらかが死ぬだけの選択。

 いい。

 ここで心臓を一突きにされても、きっと気づかない。

 

 

 だが、それでも。

 惜しい。惜しまずにはいられない。

 かつて追い求めたリコリスとしての理想。リコリスの()()()()()姿()

 それが今、目の前に居る。

 奪うことしか出来ないと、壊すことでしか出来ないと嘗ての彼は嘆いていたけれども。

 誰かの為にこれだけの技量と強さを発揮できる彼が、たきなには羨ましくて仕方がない。

 

 

 たとえ――今はその見る影が微塵も無いとしても。

 

 

 

 

「――――え?」

 

 

 

 

 ――十秒。

 

 

 虚を突くように、その光景に視線は釘付けになった。

 四肢が砕けようともなお断ずることのなかった思考は、目の前の光景に対して否が応でも強制停止を余儀なくされる。

 

 

 

 接敵より間もなく、たきなの視界の隅から飛び出した赤い影。

 

 その正体は言うまでもない。

 目の前で起こる誰かの死を命を賭して否定する、この場で誰よりも人殺しに相応しい力を持つ彼岸花。

 

 

 

 

 錦木千束が――ナイフを構えた『殺人貴』へと抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『殺人貴』は、理解に苦しんだ。

 錯覚させられた自身の終わり。飛来する黒い暗殺者に認識させられたソレを迎え撃たんとした、その刹那。

 

 現状においてもっとも脅威と認識した白い女が、無防備に己を抱き寄せている。

 

 まるで、怯える子どもを安心させるように。

 泣いている誰かを、壊れないようその胸の内に抱え込むみたいに。

 飛び込んできた赤い影はそっと、『殺人貴』の頭を自身の胸へと押し当てた。

 

「〝――、――〟」

 

 懐に飛び込んできた『敵』に、『殺人貴』は反射的にナイフを構え直す。

 虚を突くつもりだったのか。はたまたそれ以外の目的があったのか。

 それを考えるような余力など、今の彼にはない。

 互いに既に満身創痍。

 特にこの身体はいつ壊れるかわからない消耗品。

 ならば消耗しきる前に、この眼前の一番の脅威と認識する女を串刺しにせんと――。

 

 

 

 

「――――え」

 

 

 

 

 ――――『殺人貴』が停止し、竜胆要人としての側面が貌を出した。

 

 一言も喋らず、度重なる痛覚に苦悶の声すら一つ落とさなかった稀代の殺人者。

 それがあまりにも容易く、間抜けな声を木霊させた。

 無論、理由はある。

 井ノ上たきなが壊れた左腕で放った、拳銃の一弾。

 それは的確に、彼女が現在視認する『停止』の極点を貫いていた。

 ソレを貫かれたモノは、あらゆる活動を()()()()()()()()()

 命を奪うものではない。たきなの錦木千束と竜胆要人に届きたいという綺麗な願いが生み出した山の技巧の成れの果て。

 

 それは竜胆要人の肉体が持つ『殺人貴』としての機能も例外ではない。

 

 

 だからこそ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()を、『殺人貴』と『竜胆要人』は同時に認識せざるを得なかった。

 

 

「…………あ、」

 

 

 その矛盾を、『殺人貴』と竜胆要人は処理しきれない。

 それはひとえに、『殺人貴』としての力を取り戻し身体能力が向上したが故の弊害。

 死んでいる筈なのに、生きている。

 停止している心臓は奇しくも、戦闘に必要な機能以外を削ぎ落した『殺人貴』としての彼と同じ。

 

 死んでるけど、生きてる。

 生きているけど、心臓が動いていない。

 死体が動く道理はない。今この身体を包み込んでいる温もりは、止まった心臓では決して生み出すことのない、得難い温かさだ。

 

 死んでいるなら、殺せない。

 その命の存在を明確に感じ取る『殺人貴』では、心臓もなく動く存在など動く死体と大差がない。

 

 それこそ己と同じ――戦うことだけを求められた絡繰人形と同じものだ。

 

「――――」

 

 ――――ああ、それでも。

 そんなことがどうでもよくなるくらい。

 あり得ないものを感じている。

 

 

 ……そうだ。

 

 

 ()()、強さが欲しかったわけじゃない。

 僕は故障箇所だ。この素晴らしい世界で生まれてはならない、持ちうる部品を持たない、生物としての熱のない欠陥品だ。

 

 

 ただ、独りきりになった、この世界で。

 

 

 ただの兵器でも生きてい良いって。

 

 

 何も生み出さず、何も出来ず。

 誰にも貢献できない、こんな自分の手を握って生きてくれる人がいるんだって。

 

 

 希望を持って生きていたくて――。

 

 

 

 

「…………あ、」

 

 

 

 

 ぬるりと、ナイフを持つ手を温かなナニカが伝っている。

 間抜けな声が口から込み上げる。してはならないことをしてしまった、後戻りが出来ない実感と後悔が徐々に胸の内から溢れ出てきた。

 頭を抱える手から、その温もりと生気が失われていく。

 耐え難い喪失に、叫び出しそうになるのをどうにか堪えている。

 

 だというのに。

 

 目の前で自分を刺した男の顔を見て、安心した顔でソイツは笑っていた。

 

 

「は、はは――」

 

 

 込み上げる嗤い。

 

 

 

 

 結局、自分から大事なものを壊していくことに気づいた僕は――。

 

 

 

 

 

 ――――脳天を襲う痺れと衝撃によって、その意識を遮断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。

風邪で仕事行って調子崩してこんな時間が空いてしまった……あと普通に仕事がつらたん。
精神安定のためにゴジラとアニマックスのライブ行ったけど回復しきれんかった。泣ける。というか泣いた。

それはそれとして感想、評価、お気に入り登録あざました!
特に感想と評価ぶっこんでくれると嬉しい。新規の感想も糧になる。というか糧にする。

それでは。
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