「……ねぇ、なんであの人こんなとこ居るの?」
「さ、さぁ……? ぷ、プレゼントとかじゃない?」
「でも店員さんに詰め寄られるし……つーか本人が一番死にそうな顔してるけど」
「あー……広義的な意味でのアウトドア派なんだよきっと」
「下着売り場でアウトドア派って聞くとより変態性が増す不思議」
「ねー」
「…………」
――――女性からの白い視線を肌で感じている。
真っ昼間に加え、夏も間近の季節で浴びせられる絶対零度のなんと居心地の悪いことか。
目の前には先程たきなに買ってあげた服として見るには余りにも布面積が少なく、あしらわれた花々とした装飾は男である僕にとっては目が痛くなるような光景が広がっている。
そんな、上下はおろか性別も生まれも男な僕とは縁遠い場所。
マネキンからも『なんでお前が此処に居るんだ』と訴えかけてきている気さえしてくるのだから不思議だ。
きっかけはなんてことない。
本当に些細な、ひょんなことから僕は、予想だにしない地獄に僕は身を置いていた。
その地獄の名とは何を隠そう――女性用ランジェリーショップである。
「――良いですか、今年でアラフォーの影を踏まんとしている喪女のワタクシですが」
「いや、あのですね」
「アパレル店員の癖に、それも下着コーナーの店員の癖に万年スポブラで上下が違ったりする私ですが、今は置いておきましょう。職業選択の自由は尊重されるべきです」
「下着コーナーに男が居ることは尊重されないのでは?」
「彼氏さんが此処にいる状況、そして真剣な顔で下着を注視している二人の美人さんがいらっしゃる――ですが敢えて言います。時代は青より赤だと」
「知らないです」
「しかも赤い方は何やらご執心な様子! 見てくださいあの真剣な眼差しッ! なら進む以外の道はない! アラサーの私を踏み越えて、幸せにしてやるのですっ!」
「その赤いのが今にも僕をぶっ飛ばしそうな視線を寄越してるんですが」
「うだうだ言ってないでくっついてやれよっ! 下着コーナーがなんだっていうんですっ! 矢印向けられてるならヨロシクやってやれよっ!! 男ならっっっ!!! お゛ど゛ご゛な゛ら゛っっ!!!!」
「下着コーナーからは退ねばならんのですわ男でも」
目の前で見事なまでに男泣きを披露する妙齢の女性に、不覚ながら気圧される僕。うなぎ登りで止まることを知らないボルテージには感服する他ない。思わずドン引きをした僕の反応を誰が責められようか。
……いや、どう予想しろというのだこんな地獄。
そもそも地獄行きのランジェリーショップってなんだ。せめてどっちかにしてくれ。閻魔はアルコールかシンナーでもキメて仕事でもしていたのだろうか。
あと近い。本当に近い。距離感の詰め方がエグい。
男に対して常にこんな感じならミズキさんという特級呪物化も頷ける。かくいう僕が女性用下着店などに用があるわけでもなく、紛れもなく初対面だ。
それと見間違いじゃなければ、さっきから店員さんに詰め寄られているこの状況で、この目の前の女性ではなく僕に殺気染みた視線を寄越している子が居る。
無論、千束だ。
「…………。…………なーにタジタジしちゃってんだか」
「気になるのなら、助けてあげれば良いのでは?」
「んー……いや、最近オイタが過ぎるところあるし、しばらくこのままで」
「ならその今にも銃を抜きそうな視線はやめてあげましょうよ……」
どうして、どうしてこうなった。
特にこの目の前の女性はなんだ。なんなんだこの怨念と熱量は。ミズキさんの亡霊でも染み付いてるのだろうか。
それはなんて毒電波発声装置だろうか。リコリコから距離があるというのにこれほどの影響力を生み出すとは。悪影響しかないから早く結婚して欲しい。そしたらついでに僕にも謝って欲しい。
「聞いてるんですかっ!! 彼氏さんっ!!!」
「彼氏じゃねぇ……聞きますんで落ち着いてください、マジで」
「――――ハイ」
「いきなり落ち着くな……!」
女性がしてはならない百面相が一瞬でスンってなった。
聞いてもないのに話してきたこの人のプロフィール曰くいい年してるらしいんで、頼むから情緒不安定になるのは勘弁して欲しいものだ。諫めるこっちの気にもなってくれ。
「……それで実際のところ、どうなんです? なにせこのご時世です、理由もなく女性の下着購入へ同行するなんてことはないでしょう?」
「……」
「興味がないわけじゃない、と……」
「違います。いや、違くないかもしれないですけど違います。説明すると長くなるのと本人のプライバシー云々かんぬんがあったりしてですね? なので決してやましい理由があるわけじゃ……」
「ほうほう――つまりはあの赤い子があなたの下着の好みをさり気なく調査しようとしていると……やりますね」
「違います違います。あと下着持ってこないでください。なんなんですかその勢い」
もはや話を聞く以前の問題な気がしてきた。
一体全体、今の文脈でナニを受け取って解釈したらそんな答えに行きつくのだろうか。
先のプレッシャーといい、この本能スピードっぷりはとんだカリスマランジェリーショップ店員だ。こんなのがまだ法事国家の日本に居たとは。是非とも男の僕より女性であるたきなや千束のとこへ行って本来の職務を全うして欲しいものである。
……というかそもそもの話、これはたきなの下着購入の機会であった筈。
同性である千束がたきなの好みを聞くのならともかくとして、僕と『そういう関係』でもないのにそういった趣味趣向を共有するなど土台無理な話だ。
加えて普段は傍若無人というか自由人めいた言動が嫌でも目立ってしまう千束ではあるのだが、ああみえて常識は弁えているところはあるのだ。
……公衆の面前で踊り出したり歌い出したりしかねないあの子が常識を弁えているのかという前提はひとまず置いておくとして。
流石にそんなことはないと思いたいぞ、僕は。
「……………………」
「千束? なんで黙り込んで……カナメとあの店員の話が気になるのでしょうか?」
「えっ!? ええっ!!? い、いやぁ、そそそ、ソンナコトナイヨ!?」
何やらあちらでも妙なことになっているみたいだが、生憎と音声が拾えない。
何故って、未だに僕へ下着の説明と千束たちとの関係を根掘り葉掘りほじくって聞こうとしてる店員さんを捌くことに手一杯だからである。
「そ、それよりもどう? 好きなのあった?」
「好きなのを、選ばなきゃならないんですか……しいて言うなら……」
「言うなら?」
「仕事に向いてるものが良いですね」
「ああ、銃撃戦向けのランジェリーですか――ってそんなものあるかぁー!」
「これ良いんですけどねぇ。通気性もよく動きやすい、流石店長だなって」
ごめんたきな、たぶん店長はそこまで考えてないです。
「……あの黒髪の子、もしかしてそれほどエッグイ下着を……?」
「触れないで良いですから……!」
未だ正体不明の店員さんが血走った眼でたきなのある一点を見つめ始めたので、下着店へより深く踏み込むという何やら社会的に抗わなければならないナニカを承知でたきな達の壁になってちょっとした格闘戦を展開する。
誠に遺憾ながら、今のたきなは女性ものランジェリーショップで女性モノの下着を買いに来ているトランクスを着用したJKというのが現状である。
そんなこの場合に限る地雷要素パンパンな彼女なのに、目の前にいる悪性培養されたミズキさんみたいな店員さんに知られでもしたら、ただでさえ意味わからん状況が余計に意味わからなくなるのは目に見えている。
「その矯正に乗じてあの赤い子はさり気なく、それでいて貴方の反応を見ようとしているってワケですか……つたないながら悪くない手段です」
「んなワケないでしょう!」
加えてそんな状況で、どうして僕の好みを聞くという発想が出てくるというのか。
流石にそんなことはないと思いたいぞ、僕は。
「……………………」
「千束の顔が赤い……どうせならカナメもこっちに連れてきます?」
おいやめろ、たきな。やめろよ。絶っっ対にやめろよ。
澄ました顔でなんて恐ろしい提案をするんだ。千束の強引さを知らないわけではないだろうに。ここでそんな提案をすればいよいよ袋小路だ。
加えてこの僕の目の前にいる妖怪の存在もあれば、その時はいよいよ僕が社会的に死ぬ時となるのは目に見えている。
「…………そんなこと、ないし」
「え?」
「ナンデモナイデス……ってかね、たきなの穿いてるソレだけど先生は動きやすだとかそこまでぜーったい考えてないから」
否定できないのがツライ。
「どうして千束にそんなことがわかるんです?」
「そりゃあ信頼と実績っつーか……ぶっちゃけて言うとマジで
「いや、そもそもパンツって人に見せるものじゃなくないでしょう」
「『いざ』って時どーすんのよ」
「『いざ』ってどんな時です?」
――――『いざ』。
いざ。いざ。いざである。
稀に見る、大事な場面などに使われるその言葉。
それが何やら妙に自分の中、ひいては店の中で噛み締めるように木霊していくのを錯覚した。
この場における『いざ』とは何だろうか。
たきなの言う通り、下着とは見せるものではない。下着丸出しで外を徘徊することなど『DA』が出動するまでもなく法律で禁じられていることは周知の事実。というか常識である。そこに男も女も関係はない。
つまりこの場における『いざ』とは即ち――
「(…………『それ』が許される状況って、なんだ……?)」
一度迸った沈黙は、次の言葉を発することを許さない。
なので僕がぼんやりと浮かべた疑問に答える人間は、残念ながらこの場には居ない。残念なことに此方の戦力と言えば一人はトランクス着用のJKとミズキさんの亡霊が乗り移った店員さんのみ。
改めて自分を囲っている地獄っぷりに意識が遠のきかけるが、そしてこの静寂の発端である千束は、元々赤を基調にしていた服装も相まって全身真っ赤かに染まっているのを見て、どうにか持ち直す。
「…………え……っと、あの…………そんなつもりじゃなくて」
「そんなつもりって?」
「いや、だから……」
さて――ここで事態を俯瞰してみよう。
ここは女性向けランジェリーショップ。ざっと見るだけで何着あるかわからない下着の数々と、その先には実目麗しい女子が二名。んで、それを誠に遺憾ながらこの場においては事実として真っ向から見つめざるを得ない、紛れもなく男子として生まれた僕。
そんな状況に陥りながらも僕は、この妙な沈黙の中にある文脈を読み取ろうとしていた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
……すまない。この場に有識者が居たら是非とも教えて欲しいのだが。
――――なんで千束は、僕を見てるんだろうか……?
「千束、なんだか先程より真っ赤に……さっきから変ですよ?」
「…………………」
黙って俯いたまま、ふるふると千束が全身で震えだす。っていうかたきなの発言がさっきから強心臓すぎる。心臓がしめ縄の塊か何かで出来ているのだろうかと思わせるほどの鬼畜っぷりだが、たきなの視界には依然としてもう辛抱堪らん千束の姿が認識できていないらしい。
……それを証明すると言わんばかりに今の千束をよーく観察してみると、どことなく涙目になっている気がしなくもない。
これってもしかしなくともかなりテンパった状態――あと一刺しで爆発する危険物のソレではなかろーか。
「……える」
「……なんて言った?」
恐る恐ると言った具合で聞いてみる。
とはいってもそんなおっかなびっくりなのは僕ぐらい。
たきなは何が何だかわかってないのかぽかんとしてるし、今も僕が全力で抑え込んでいる店員さんは鼻息荒く目を爛々と輝かせている。現実とはかくも非情なものだと思い知らされる一幕だ。
そして千束から放たれた言葉は、案の定と言うべきものだった。
「――かえる。もうしらない」
「えっ」
「待て待て待て待て! 待って! 早まるんじゃあない! せめて一品くらい選んであげてくれ! 一品だけ、せめて一品だけを……っ!」
柄にもなく大慌てで声を張り上げてしまった。
踵を返してこの場から離脱を始めようとした千束の肩を掴む。後ろで抑えて前で止まってで大忙しである。
ああ、この場に男がいないことが本当に嘆かわしい。いたらいたで問題だけど。
「カナメがかつてないほど必死になってますが」
「……周りが下着だらけで興奮してるんでしょきっと」
「んなわけあるか……! そこまで社会性捨ててないから!」
「でも一年前だとちょっと危なかったよね。『色んな』意味で」
「……」
…………いやっ、流石に…………そんな、………こと……は……。
「彼氏さん、もしかしてヤバい人?」
「この状況においてアンタにだけは言われたくないわっ!」
この空間の変人平均値を莫大に引き上げている存在に言われるのは誠に遺憾である。
というかそんなことを言われてしまえば、なおのこと千束を此処から離脱させるわけにはいかないのだ。
多分、多分だが――流れ的に僕がたきなの下着を選ぶという地獄が生まれかねない。
そんな未来、想像するだけで総毛が立つ。嫌だとかそういうのじゃなくて、その行為自体に本能的な恐怖すら感じている。
仮に知らんぷりしたところで、次に出てくるのは今僕がどうにか抑え込んでいるこの妖怪だけだ。情緒がこの状況において残酷なまでに真っ白なたきなにこの店員さんはゲテモノ過ぎる。
「安心してください、カナメ。二人が喧嘩をするのは私にとっても不本意です。下着くらい私にも選べますよ――というわけでお願いします、店員さん」
「お任せを」
「完っっ全に人選ミスだから! 安心して任せられたいなら頼むから涎を拭いてくれ……!」
「だいたい、あなたマジで誰なんですかねぇ……お陰で私の計画が色々台無しに……!」
……千束の言う計画とやらが気になって仕方がないが、この際それは置いておくとしよう。
今はそれよりもこの世にも奇妙な事態の終息に努めねばなるまい。
「ってかそれより千束、この意味不明な状況でこのミズキさんモドキにたきなの下着なんか選ばせてみろ! そしてその現場に居合わせるであろう僕の気持ちにもなってみろ! おっそろしいことになるぞ!」
「あーもー! そんなこと私が知るかぁーーーーー!! だいたい、たきなもカナメくんも好き放題してるんだから好きにすればいーんじゃないですかー!? 選んでくれたパンツでも被ってればいいーじゃん!」
「なんて!?」
「パンツって被るものじゃなくないですか?」
「たきな、ツッコミどころは今はそこじゃないんだ……!」
たきなの無垢な疑問が状況を悪化させる。
お陰で千束はもう赤くないところを探すのが難しいくらい真っ赤かだ。
「『いざ』って時どーすんのさっ!」
「『いざ』ってどんな時です?」
「…………………かかかか、カナメくんっ!」
「僕が知るかっ!!!」
ボケが渋滞して一人では捌き切れないっ!
「……なんで二人とも先程からその『いざ』を答えてくれないんです? 私としては用途を知りたいだけなんですけど……」
「用途って言い方はヤメテ」
「……たきな、それは男の僕からでは口にするのははばかれる内容でな? 出来る限り触れないで状況に流されて欲しいというのが僕の偽りのない身勝手な本音というか」
「ホントに身勝手ですね……そもそも口にはばかれることなんて別に……――――あ」
――オイ、やめろ。
ぴきーん、と、何やら電波めいたものがたきなに迸ったのを感じ取った。何やら宇宙めいたイメージも余計について来る。
一瞬だけ止まる時間。交わる視線。ひしひしと視線に乗ってくる嫌な予感が僕とたきなの間で交錯した。
何に気づいた。ナニに気づいた。
そもそもなんの交信だコレ、と混乱極まったところで――たきなの爆弾発言に目をひん剥くことになる。
「――千束が好きなのはどれですか」
「「え゛」」
瞬間――僕と千束の間に昨日ぶりの緊張が奔る。
頭を過るのは鬼気迫る表情で僕のパンツをひん剥かんとリコリスとしての技能を全力で行使してくる千束の姿。
もう一つはその時のノリと勢いで妙なことを口走って変な空気にしてしまった僕自身。
そしてそこまでくれば嫌でも思い出す。思い出さざるを得ない。
その時、僕は何を口にして。
僕が口にした言葉に、千束がどんな反応をしていたのかを――。
「――――」
「ち、ちょちょちょちょーい!? 何を言ってやがるんですかたきなクン……!?」
「千束の好きなパンツが知りたいんです」
「うぉーい声のトーン考えろ! 端折りすぎだから! だいぶ間を端折ってるから……! ちょっとカナメくんも何か言って……カナメくん!? い、息をしていない……!?」
「大変ですっ! 千束、人工呼吸をっ!」
「ででで出来るかーッ!!!」
「――――」
何やら目の前でたきなと千束がとんでもないやり取りをしている様な気がするが、それも気にならない。ぐわんぐわんと揺さぶられて、顔をぺちぺちとはたかれてる様な感じがするが、それも恐らく気の所為だろう。
だってこの状況、これまでのたきなと千束の言動を含めて、認識せざるを得ない。
男の僕がこんな場所に来ている今。そして千束の様子と、今たきなが口にしたこと。
つまり、つまりだ。
千束が、あの千束が僕の――。
「た、たきな、もしかしなくとも…………『そういう』ことですか……!?」
「………………」
「そこで黙っちゃうかいっ!!」
「――千束が逃げます。店員さん、カバーを」
「やはり本命はそちらでしたか……待っていましたよ、この
「勇気をもって下さい千束――さぁ」
「待って待って待って待って……! 状況がおかしい、おかしいって! っとととと、取り敢えず、ついてこーいカナメくん! 一時退散んんんっ!!!」
「え」
真っ白になっていた思考が認識するよりも早く、千束に腕を引かれる。
にじり寄って来ていたたきなと謎の店員さんから距離を取るように、下着店の奥の奥へと引っ張られていく。
それを認識してようやくこの異常事態から解放されるのかと、現実逃避気味に手放しかけていた意識を取り戻していく。
「って、なーんで試着室だーっ!?」
――逃げた先がよりにもよってこの下着店の最奥も最奥でなければ。
……いよいよ言い逃れ出来ないぞ。百歩譲って未成年の悪ふざけだとしてもこればっかりは誰も擁護出来ない。すぐさま店長が出動し僕の脳天に実弾をぶっこんで来たとしても不思議じゃない。
良くなるどころか更に悪化した自身を取り巻く状況に再び気絶しかけるが――。
「――カナメくん、こうなったらやるしかない」
何やら色んな決意が詰まったその一言に、否が応でも頷きざるを得なかった。
「や、やるって何を――ってうおっ!?」
有無など言わさぬと言わんばかりに僕の両肩を掴み、相も変わらず肌のいたる所を赤く染めながらも、真剣さを宿した眼差しを向けてくる千束の顔はごく間近だ。
……さっきから怒ったり恥ずかしがったりで見事なまでに百面相を披露してる千束だけど、こうしてみるととんでもない美人さんだ。
そんな子に下着店の試着室でこんなにも詰め寄られてるという事実に、これまでの経緯も相まってとっくのとうに頭の中が限界を迎えているのだが……ここまで来たら何を言われても驚くまい。
「決まってるでしょ――カナメくんのパンツの好みを聞く」
んんんんんんっっ前言撤回……!? ち、千束様、錦木様っ!? 目的が完全にすり替わっていることにはお気づきで……!?
ナニがとは言わないが。言わないがっ!
「待ってくれ待ってくれ! そ、そんなこと急に言われたってどう答えたら良いか……!」
話の流れ的にきっと『そういう』ことだろう。店長と同じ轍を踏む気は毛頭ない。
だがこれはあまりにもあんまりである。
そりゃあ僕の女性の好みは白い髪で赤い服が似合ってちょっとガサツでいい加減な所があるけど生きているって凄く楽しいって全身で伝えて来る様な子だけども。
ましてや女の子が穿く様な下着のイメージなんて出来るわけがないっ!
「………………い、一回見れれば、良いんでしょ?」
「……待て、またもやイヤな予感が――」
「じゃあ――私の、見せるから」
ちっ、千束ぉぉぉ――――――ッ!
「よし、いくぞぅ……!」
「待って、言う、ちゃんと言う! 言うからベルトから手を離して……! 流石にこれ以上は男の沽券に関わるっ!」
「あーもうっ! じゃあ早くいっちゃえよ……っ! カナメくんはっ、何色が好きなのっ!」
ああ、どうしてこうなったのか。
というかこの勢いでたきなの下着の購入なんて出来るのか。
千束に似合う下着の色は何色だろうか。あか、しろ、くろ、浮かんでは消えて行って。
最後に絞り出すように、その言葉を口にした。
「――あか、です」
そう僕が口にしたことで――地獄の下着選びは終着した。
更新が遅れてしまった。異動って大変。そのぶん楽しいこともあったから良き。
人が性癖を開示する時って独特なおぞましさがあるのは何故だろう。文章化すると完成してしまう不思議。
感想、お気に入り登録ありがとうございます!
それでは。