山育ちの竜胆と不殺の彼岸花   作:トウチ亀

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前書きに書くことが思いつかなかったんで投稿です。


8話

 

 

 

 

「――仲間が大勢死んだ」

 

 それはさながら西部劇か。

 乾いた風に火薬の香りが乗る。

 粉塵と煙で変貌した平穏の象徴、その中心にて黒コートの男はその威風を崩すことなく、三人だけの戦場で独り言ちた。

 その様はまるで、群れに独り残った手負いの獣を彷彿させる。

 

「俺が手塩にかけて育て、実戦で叩き上げた教え子たちで構成した部隊だ。相応の自負を以て引き受けた依頼だったが――どうにも此処が年貢の納め時らしい」

 

 どこか芝居がかった様子で僕と錦木さんを見据える男。

 ナイフを構えた僕と、拳銃を向ける錦木さんに油断はない。

 ……目の前の男は『DA』の高度な監視網を掻い潜って今回の奇襲をほぼ完璧に近い形で成功させ、あの夜においては僅かとは言え錦木さんと渡り合ったほどの人間である。

 

 作戦は終盤、それが意味するのは敵の盤面の詰み。

 だというのに。

 その不気味にすら感じる無防備な佇まいに、少なくとも僕は油断なんて余計な感情は抱ける筈も無かった。

 

「狙った獲物に寝首を掻かれるとは思いもしなかったがな。まさか剥けた皮の下にバケモノが潜んでいたとは誰も思うまい。なぁ、坊主」

「……錦木さん、あの人前より口数が多い。どこかから狙い撃ちされたりしない?」

「いやぁー、案外ヤケになっているだけかもよ? そこのところどうなんです、おじさん」

「余裕か錦木さん」

 

 聞いて答えてくれるものなのか、それ。

 だがそんな錦木さんの様子の何がおかしいのか、黒コートの男は意図が読めない薄ら笑いを浮かべていた。

 

 そんな様子に、思わず嫌な汗が滲む。このやたら上手く動く体に最適な結果を掴ませるに至る経験が自分にはない。

 ただで終わらせないという、静かながら燃え上がる様な激しさを、その笑みの裏に確信染みたナニカが如実に警笛を鳴らしてくる。

 

 しかも、僕に関してはそろそろ傷がマズイ。

 先日自分で抉った傷。この男に付けられた傷。此処にきて最悪のタイミングでその清算をしようとしている。

 死を予感するその寒々しさに、思わずナイフを握る手に力がこもった。

 

「さてな。これでも部隊を指揮し率いる身だ。勝機が見えん局面を見出せないほど俺も馬鹿にはなれん。それがたとえ、己の分水嶺だとしてもな」

「ならー、投降してくんない? ぶっちゃけ私のツレ、こう見えて結構ギリギリみたいでさ。この後いっぱい美味しいもの食べさせて、元気になって貰わなくちゃいけないの」

「別に無理してない」

「と、さっき私に泣きついた男が何か言っています」

「言わんでいいから……」

「なるほどな――結局巻き込んだというワケか、女。それでもなお『不殺』とやらを貫くというのだから、笑わせる」

 

 ――――ちり、と思考に火花が迸ると同時に確信した。

 

 この男の狙いは、既に僕などではない。

 とっくの昔に、仕事上の利益とかそういうのは放棄している。

 だとするなら、僕と錦木さんがこうして出てきて武装解除を促すのも計画通り。盤面における予定調和でしかない。

 

 彼女なら誘いに乗ると知って、もう自身が逃げられないと悟ったうえで。

 錦木さんに何かを、問おうとしている――。

 

「それで? その殺さずを貫いた先に何が残る? 平和と言う名の静けさか? それとも――護った筈の人間に撃ち抜かれるお前の死体か?」

「かー、わかってないなぁーおじさん。私が護った人を護るための誓いでしょ。その人が笑っていればそれで良いし――護った人に私を撃ち抜かせない為にも、私が止まるワケにはいかないじゃん?」

 

 マズイ。

 これじゃまるで大きな釣り針だ。

 こんなの僕しかわからない。いや、この男の当初の狙いが僕だったからこそわかる。僕を護ろうとするほど、この会話はドツボに嵌まる。

 意味なんてない。価値も。目的も。この会話に実益的な要素なんて万が一つにも在りやしない。

 

 けれども、錦木さんなら。

 あの夜。目の前のこの男に『不殺』をその身で説いた錦木さんだからこそ、この会話は意味が変わってくる。

 

「そうか――俺には人ではなく、その『理想』を護った様にしか思えんが」

「それは難しく考えすぎだよ。目の前で誰かが泣いているよりは何倍もマシ。おじさんはどうか知らないけど」

「バカなことを。お前の掲げるモノはな、力がある者にのみ許される暴論に過ぎん。いいか、理想で護れるのは理想だけだ」

 

 説教臭いソレは――いつぞやの呪いの続きだった。

 あの夜、この男が錦木さんに向けて放った言葉の呪詛。

 

 その信条は、錦木千束を殺しうると。

 身内を、家族を、友人を、仲間を、同僚を。錦木千束が尊ぶ周囲の存在、その全てを火薬と銃火の前にさらし、やがて破滅するのだと。

 初めて彼女の涙を見た、あの夜に。

 

 

 ――――ああ、だからか。

 非常に癪なことに目の前の男の言葉のお陰で察した。

 いつも疑問に思っていた。彼女が『独り』の理由を。

 この任務にしても、生まれてよりの古巣である『DA』における扱いにしてもそうだ。

 

 どうして楠木さんが錦木さんに対してあんな振る舞いをしているのかとか、どうして錦木さんは今回の仕事にしても、一人で臨んでいるのか。

 誰も、彼女の戦場で感じている苦しみを理解しない。だってそれは、戦場に生きていくうちに忘れていくもので、誰もが捨てていくものだからだ。

 なにぶん彼女は強いから、誰もが誤解する。

 

 

 

 誰にも理解されないから――錦木さんはいつも『独り』なんだ。

 

 

 

「じゃ、痛い目みとくー? 威力に関してはお察しだよ」

「戦うという意味なら然りだ。坊主も、これから巻き込まれるというのなら覚えておくと良い――殺さないというのは、こういうことだ」

 

 

 そして直後――黒コートの下に着けられたソレを見て、その答えを知った。

 

 無慈悲にちくたくと。刻々と無機質にその終局を目指す赤い電光の数字。映画やら何やらでよく見る赤やら青やらの細い線が、黒い角ばった筒へ乱雑に繋げられている。

 俗に『C4』と称される爆弾。

 それが男の黒いコートの下に、まるで出来損ないの腹筋みたいに括りつけられてた。

 

 つまりは、なんだ。

 この男、己の最後っ屁に自身の命を懸けているというワケだ。

 

 

 ――――自分が育てた教え子たちに、少しでも報いるために。

 

 

「これは一方的な八つ当たりだ。だが悪く思うなよ――せめて仇の矜持くらいへし折らんと、死んでいった奴も報われんだろう」

 

 

 

 そんな唾棄と侮蔑がふんだんに込められた言葉を。

 先程とは違い――静かなる激情で命を燃やしているその男を、僅かに揺れる赤い瞳で見つめていた。

 

「爆弾ねー……ちょいと笑えないかな。B級映画じゃないんだからさ」

「生憎とこちらは持ち合わせがなくてな。だが一人の女の矜持をへし折るなら、十分すぎる武器だとは思わないか? 少なくとも、お前の矜持に傷の一つはつけられる」

「――」

「あぁ、俺を助けようとしたところで無駄だぞ」

 

 駆け出そうとした錦木さんに合わせて男は端末を取り出した。

 そこには錦木さんと色違いの制服を着た女の子が――椅子に縛られ身動きが取れない状態で目の前の男と同じ爆弾を括り付けていた。

 

 だが驚くべき所はそこではない。

 目の前の男と同じ時限式、しかも表示されている()()()()同じであることだった。

 

「……アンタまさか」

「お前の仲間だろう? 『不殺』がお前の信条なら、同僚を見捨てるワケにはいくまい」

 

 即ち――助ける命の選択。

 一方を助ければ片方が、もう一方を助けようとすればもう片方が命を落とす。

 助けられるのは、助けようとした方だけ。

 ……中々に、悪辣だ。特に錦木さんにとってこの選択は辛いだろう。

 

 そして、男の指摘したそれは事実だ。

 妙な偶然か、負傷者を抱えて撤退したリコリス。現場判断に任せるという、実質的な錦木さんへの作戦委託。そして画面上のリコリスの体には爆弾がぎっしりと詰められ、今でも刻々とその数字を進めている現状。

 

「さぁ選べ、俺か。それともこの子か。別に助けるのは構わんが――その場合、俺の事は諦めるんだな」

 

 そして錦木千束は、目の前で助けられる可能性を諦めることはしない。

 清濁併せ呑みながらもなお、これまで破られることのなかった信条を、僕はこれまでのやり取りで否が応でも理解している。

 

 ……だというのに、なんでだろう。

 その真意を知って。利益の為に全力で他人を陥れて、誰かの平穏を犯すことをはばからないこの所業を目の当たりにしてもなお。

 

 ――――この男の事を、憎み切れなくなっている自分がいる。

 それはきっと。

 

「そっか――家族想いなんだな、アンタ」

「――なに?」

「……竜胆くん?」

「ああ、ごめん。つい。そんな場合じゃないってのはわかってるんだけどさ」

 

 男と錦木さんの虚を突かれたかのような顔に、戦場らしくない柔らかな笑みが零れた。

 

 何故ってそれは、美しかったから。

 僕の知っている家族というのはそんなに温かなものじゃないって、朧気ながら感じていたからだ。

 

 ――家族というのはただの社会的な記号であり。

 ――生物的な生産を効率的に促す生活基盤を示すものであり。

 ――()()()()()()()都合が良いから存在するものだ。

 ――――故に、そこに『温かさ』などというものはありやしない。

 

 相変わらず漠然としている。だけど()()()()()()()()と無根拠に、理由らしい理由なんて思い浮かばないのに確信している自分がいる。

 それはこうしてナイフを握らなければ忘れることが出来たかもしれない。その無根拠な現実を上書きして、空想にすることも出来たかもしれない。

 もう、どちらも僕には叶わないことだけど。

 

 簡単な話だ。

 叶わないから美しいと感じてしまった。

それらを温かいものに出来るこの男も、僕には凄く綺麗なものに見えただけ。

 

 そんな無いものねだりをしているから、より強く思ってしまったんだ。

 この人のことは――殺してはいけないと。

 この人は、生きなきゃならない。残された人たちの為に、死んでしまった仲間の為にも、生き続けなきゃならない。

 

「――走れ、錦木さん」

 

 ナイフを持ち替えて、彼女の前に出る。

 ずっと朧気だった、彼女の為に出来る自分の役割。その彼女の信条を護るために、信条を護るからこそ生じるその障害すらも護れる馬鹿げたその道理を、貫き通すために。

 

 彼女が泣かない選択肢を、少しでも作ってやれるように。

 彼女がその馬鹿げた考えを、想い続けられるように。

 

「この人は僕が止める」

「竜胆くん……でも」

「殺さないよ……いや、僕が殺されるかもしれないけど、それでも死んでやらないさ。この人の為にも、な。だから早く戻ってきてくれると僕も助かる」

 

 現状の最適解。錦木さんが助けて、僕が止める。爆弾の処理なんて力技で切り離すくらいしか僕には思いつかないし、わかりやすい役割分担だ。

 だけど、彼女の気持ちもわかる。

 これで僕が死んでは、彼女の心に傷を残すことになる。

 それは駄目だ。

 

 無茶振りにも限度があるってものだ。殺そうとしに来た相手を殺さず、自身には一つしかない命を、全力で二つも救おうとしているのだから。

 だがそれで良い。それが良い。

 どうせ武器を握るなら、誰かを死なせないために全力を注いでいる方が良い。

 

 少なくとも――僕はそうしたいんだ。

 

「大丈夫」

 

 それはあの夜と同じ。

 違うのは、錦木さんの護りたいものを護るために僕が武器を手に取っていること。

 

 だから僕も。

 安心してくれるように。その迷いを振り払う様に。

 いつもの喫茶店の太陽を思い浮かべて、強張ったその口角を上げる。

 

「――――絶対に絶対に、僕は護る」

 

 だから一緒にその馬鹿げた考え、貫き通そう。

 

 男が銃口を錦木さんへ向ける。

 瞬きにも満たない一瞬、研ぎ澄まされた体は切る様にその射線に割り込んでいる。

 だが問題はない。

 視界が切り取った刹那、その瞳に映り込んでいた彼女の表情は。

 

 ――勝利を確信する、迷いを振り切った横顔だった。

 

「おじさんを頼むよ、相棒」

「――わかってる」

 

 飛来した銃弾。

 受け止めた刃物は寸分たがわず、その効果を失う様に地面へと転がった。

 

 だがその一瞬は――百戦を生き抜いた兵士にとって間合いを詰めるには十分。

 

「――――そういうワケだから、死ぬなよ」

「――――論外だ」

 

 

 

 男の姿が消える。

 爆弾はそれなりの重さだ。だというのに、その動きを一切陰らせることなく霞むが如く此方との間合いを詰めてくる。

 錦木さんとの戦闘で見せた『歩法』。拳銃を片手に、視覚という認識から外れたのだ。

 いずれ来たる攻撃を正面に見据えながら――自身を取り巻く戦況を整理する。

 

 この体が持ちうる戦力は把握している。

 所持武装はナイフ一本。数少ない武装の一つとも言えるこの身体は既に、先日の戦闘のダメージが抜けきらず、崩壊寸前。

 此処から体育館までおよそ一分と強。

 赤い電光の数字に残された時間は――二分もない。

 

「はっ――――」

 

 その視界から消えた()()()を頼りに、ナイフと正拳の様に突き付けられた拳銃を弾く。

 銃弾が頬を掠める。峰打ちした刃が男の頬を捉える。

 相手の狙いはこの命。此方の狙いは彼の生存。

 命を刈り取り、命を救う。

 終わらせるのは難解だが――この男を生かすという一念でのみ刃を振るう。

 

「正気かお前たち――ッ!」

「正気でやっていられるかこんなこと――ッ」

 

 回転する戦況、剣戟の間合いで駆け引きを行う刃と銃。

 火花が散る。鋼が赤熱する。銃口が火を噴いている。

 まるで深い海に沈むような身体。まだ、まだと無限とも思えるほどに湧いてくる力と技。指の動きから全身を巡る血管、神経、全身を機能させるその全てが起き掛けの様に、その施錠を解いていくような感覚。

 

 冴えている。研がれている。鍛えられている。

 竜胆要人という体が、錆に包まれたこのこの体が此処に来て、まるで錬鉄の刃の様に研ぎ澄まされ様としている――――ッ!

 

 六〇と三〇。

 三〇と一五。

 

 そして一〇――。

 

 

「――これでも止まらないか、坊主!」

「当たり前だッ……!」

「まさか初陣でコレとはな……ッ! だがどうする、あの女はお前が護ろうとも、同じことを繰り返すぞ! お前は死ぬまで戦い続けることになるぞ!」

「――――それでも」

 

 

 

 

「それでも僕には、あの子の在り方が凄く愛おしいって思う」

 

 

 

 

 あんな子が居て良いんだって。生きていて良いんだって。

 

 

 ――――人を殺す為に生まれたモノが、誰かを護っていいんだって。

 

 

 傷が開いた。ぎちぎちと、継ぎはぎになりかけている体が筋肉の『変革』に耐えられず、その最適化に追いつかずついに決壊する。

 だがそれでも、ひたすら前へ目指す。

 

「な――」

「――――逃がさない」

 

 掴んだ爆弾。その数十数。鳩尾に銃口が突き付けられ、全身の酸素の巡りが一瞬停止し、視界が霞んだ。

 それでも離さない。

 

 解体する。

 血が滴る刃。一つに繋ぎ止められたそれらを一閃、誘爆を許さず、僅かの狂いもなく敵が命を絶つその手段を斬り飛ばした。

 

 錦木さんの『不殺』を護り抜くって決めた。

 出来ることなら彼女の視界で悲劇が無くなることを願って、がら空きになった男の胴体に間合いを引き離すべく全力で蹴りを抉り込む。

 ――不殺の為の必殺を、打ち込むために。

 吹き飛ぶ体。要塞の様に堅牢な男の決定的な数瞬の隙を垣間見る。

 残り、二秒――。

 

 

「――――行くぞ」

 

 

 撃鉄を下ろす。落とされた引き鉄は火花を想起させ、それが自身の中で電流の様に回転する痛みであると認識する。

 腕は引き絞る弓の如く。構える刃は抜刀の如く。

 だが深く、それでももっと深く。

 己が恐怖し踏み入らなかった領域の前へ、もっと先に。

 

 煤に塗れた己が業を検索する。

 躍動する血肉へ最適化された技能。堅く施された枷を壊して、ひたすら前を目指せ。

 もとよりこの体は、その為だけにある。

 

 だが注意せよ。

 今から引き出す『刃』は一本にして、己自身。僕の体と等価を成すモノ。使えば最後、少なくともこの戦闘において立ち上がることは許されない。

 そんな諸刃の剣を、お前はたった一人の女の子のために抜けるか――。

 

 

 ――――そんなの、決まっている。

 

 

 そのために、弱い自分とはお別れをした。

 もとより武器とは恐れるもの。もとより我が身は畏れるモノ。

 孤独を許さない居場所を飛び出して、錦木さんと並ぶために僕は荒野を目指す。

 

 

「無銘――」

 

 

 ――――刻銘(のりと)を口にする。

 名が不要の一刀――故の無銘。

 知る事の無い技――故に無銘。

 失われる筈の業――故に無銘。

 不完全で無いない尽くしの毀れた一振り――故に幻想。

 

 ――――壊れる。

 ぐしゃ、と。くしゃくしゃになった紙屑みたいにあっけない。

 ナイフを握っている拳を起点に、突き出した腕全体が崩壊する。

 肺が酸素を受け付けない。五感が情報の更新を放棄している。抑えてきた先日の傷は遅咲きの華みたいに開いている。

 踏み込みに使った脚は罅割れ、極限にまで収縮した筋肉が粉々になった骨へ追い打ちをかける。

 

 ――――止まらない。

 僕の今の技量じゃ、再現しきれない。

 足りないものは足していけ。使えるものは使っていけ。

 肺、血管、心臓、神経、綻びそうになる内側を周りのもので手当たり次第補う。

 自身を構成するパーツを、この刹那に組み立てていく。

 バラバラだった部品は一つとなり。

 幻想を此処に示し――。

 

 

「――■■(ジゲン)

 

 

 一振りの剣と成す――――。

 

 

「ごッ――――」

「がっ――――」

 

 

 ひしゃげた腕。血を吐く男の体は、少なくともこの戦闘においては再起の気配を見せない。

 当然だ。()()()()()()()()()()()にしてやったのだ。死なない程度に、不完全な『得物』だからこそ出来た芸当。

 この男がだいぶ強いものだから、無理をした。

 

 だがそれでも――この体は倒れることはない。

 

 

 

「――――体は」

 

 

 

 それもそのはず。 

 だってこの体はその為だけに生み出され、鍛えられたのだから。

 『刃』はその刀身が錆びれるまで、酷使されなければならない。

 故に――。

 

 

 

「――――剣で出来ている」

 

 

 

 そんな知る筈もない馬鹿げた言葉が妙に馴染んで――二つの爆音が学校中を揺らした。

 

 

「――――全く」

 

 ボロボロの体で、男は呟いた。まだ意識があることに呆れる。

 けれども命に別状がないのなら、それで良い。

 だって……正直言って僕の方が死にそうだし。

 

 

「重い男は、モテんぞ。坊主」

「失礼な、純愛だよ」

 

 

 

 

 

 

 そして限界だった体は容易に、その電源を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は此処まで。
次回で0話は終了予定。今回は0話でやりたいことやれたので書いてて楽しかった。

竜胆要人は自分では絶対に手に入らないものを美しいと感じるタイプです。

感想と評価ありがとうございます。これからも気軽に送っていただければ。

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