スレッタちゃんを餌付けするだけの話 作:プロリハビラー
水星の小動物……もとい、スレッタ・マーキュリーにサンドイッチを渡したのが3日前の事。
高専とは言うが、この学校の講義は大学のそれに近い。大講堂での講義だったり実習だったりが授業の大部分を占め、決まった席があるのは語学などの少人数科目のみ……というのが人数の多いメカニック科・経営戦略科の常識だ。
俺やスレッタのいるパイロット科は少々話が違ってくる。この科は人数が少ないので、他科では複数クラスに分けられる定員数の科目を全て1クラスでまとめて受けられるのだ。
当然、一々席割りを替える必要がないから席順は継続。少なくとも1日の半分程度はその席で過ごすことになる。
結果として、他科よりも「座席」が重視される、従来の高等学校のような仕組みが出来上がっている。
スレッタの席は、俺の真後ろということになった。
別に、俺が何かした訳ではない。元々後ろに座っていた奴は去年度末で退学してしまって席が開いていたので、そこを埋める形で彼女が入ったのだろう。
それよりも。編入したてで座学は大丈夫なのかとさり気なく後ろを気にしていたが、寧ろかなりデキるようで驚いた。
教授から唐突に当てられても、どもってこそいるがきちんと答え、教授が驚いたように授業に戻る所を既に何度も見せられている。
アレを見て俺は、水星にまともな飯はなくても、しっかりした教育はあるようだと認識を改めた。あるいは、スレッタが独学でここまで出来るほどの天才少女だったから、ここまで来られたのか。
そんなことをする度に(主にアーシアンの生徒たちから)尊敬のまなざしや耳打ちや賞賛入りのノートの切れ端を向けられ、照れ臭そうにノートで顔をかばう彼女を見るのは面白かったが、あまり立て続けにスペーシアンを刺激すると良くないかもしれない。
現状の彼女は地球でも都会のスペースコロニーでもない場所出身ということで皆対応を持て余している感があるが、つまりどちらに転んでも可笑しくない立場ということでもある。
このまま俺たちとつるんでいては「名誉アーシアン」扱いになってしまう日も近いだろう。何か手があるといいのだが……。
「時間だ。回答やめ」
小テスト(の分際で30分もの試験時間と相応の分量がある)を解き終わって余った時間でそんなことを考えているとやっと時間が来たらしく、教授が相変わらず神経質そうな声色でストップをかけた。
アドステラの時代に時間制でのペーパーテスト形式にこだわる(流石にタブレットへの回答にはなっているが)頭の固い人だ。
生徒の人気はないが、ああ見えて軍人上がりで知識は本物、うまいこと質問すれば周辺知識までまとめて答えてくれるので俺は何かと重宝している。
頭皮の再生治療を受けているのが知られていることから「ヅラ」「偽ハゲ」「ザビエル」等々バリエーション豊かな異名を与えられている教授の号令と同時に、全員の端末が一瞬だけロックされる。次の瞬間には、もう採点のすんだ答案を端末が映し出す。
紙でテストしていた時代と違って、名前を書く時間を許してもらえたりなどはせず即座に提出される無慈悲さで、最初の頃に無記名者が一律0点扱いにされて成績にダメージを負って以来"鬼門の科目"として皆の警戒心が高まっている。
「ほっ……」
しかしそんな中で、周りを気にせず如何にも「一応全部解けましたけど満点かは自信ないです」感のある息のつき方をしたものが背後にいる。
参考までに言っておくと、この教授の課す小テストはエリート揃いのパイロット科ですら平均60点台も珍しくない難易度である。
チャイムが鳴り、教授がそそくさと帰っていったのを確認してから、スレッタの方を向き直って聞いてみた。
「マーキュリーお前、今の解けたのか?」
「は、はい。だいたいは……」
これは全部解けている奴だなと、スレッタの顔を見て察する。『多分満点取れてるけど正直に言ったらなんかアレだしちょっと自信ねえわってことにしとこう』の時の俺と似た雰囲気を感じたからだ。
「まあ見りゃ分かるか、ほら集計出るぞ」
「集計?」
決闘の実力が「ホルダー」という形で可視化されているのと同様。座学の実力も、あそこまで露骨ではないにしろ可視化されているのがこの学校の特徴である。
記述式でもないペーパーテストくらい、今の技術なら回収した瞬間に採点が完了するので、こうして受けた後の休み時間には結果を見ることができるのだ。
「あの掲示板、直近の小テスト結果が成績順で張り出されんだよ」
校風的にも上の思惑的にも、座学の方はあまり重要視されていないため、本当に参考程度にしか用いられない指標ではあるが。
そんな追加情報を一旦胸の内にしまって、早速掲示板の更新を追いかける。
1位 LP011 リク・レイゼン 95点
2位 LP041 スレッタ・マーキュリー 90点
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「あれっ、どこ間違ったんだろ……」
「やっべ、2択外した……!」
心のなかで(やっぱりな)と思いつつ、自分のやらかした1ミスの心当たりに考えが至って一瞬顔をしかめる。その直後、彼女の成績を2度見した。
「っておまえ2ミスか!? やるなあ!」
小テストが各5点×20問だったので、自動的に1ミスごとに5点減る計算だ。
「えへへ……あ! で、でもリクさん、1位じゃないですか!」
俺が驚いて上げた声に一度は顔をほころばせたスレッタだが、すぐに俺の順位について言及してくる。
「そりゃあ、俺はガリ勉キャラで通ってるし、みっちり授業受けてるからな。お前みたいに半端な時期からの編入4日目でこれは俺でも無理だぞ。一体どうやったんだ?」
「え、えと、お、お母さんに教えてもらった所だったので、それで」
"操縦時にかかるGを軽減する機体機能とその制御について"なんて実践的な内容は、ここ以外だとガチガチの軍学校かそっち寄りの大学辺りでしか習わないと思うのだが……それとも。
「あーあれか、乗って覚えたタイプか? ひょっとして」
地球の、特に辺境出身のパイロット科生にはごく稀にいると聞いている。現物を見るのは初めてだが、水星という更なる辺境出身である彼女であれば、何らかの理由でモビルスーツに乗っているうち頭角を現し学園へ、というのはありそうなルートに思えた。
「は、はい、多分。エアリアルとは小さい頃から一緒で」
「じゃああれ結構前の機体なのか。見た目古そうな感じはしなかったけどなあ」
一昨日の昼休み、彼女に案内されて"エアリアル"を見せてもらったことがある。トリコロールカラーの派手なカラーリングと、どことなく女性らしさを感じる流線形のデザインは、確かにスレッタ専用に仕立てられただろう似合い方をしていた。
そうなると――
「……じゃあむしろ、その母さんの教えが効いてるうちにこっちの座学と合わせとかないとだな。今度これまでの範囲とか纏めて持って来てやるよ」
脳裏に浮かんできたいくつかの可能性。それらが一つとしてロクなものではないのを確認して、俺は全てを見なかったことにした。
世の中、突かない方がいいヤブなんてそこら中にあるのだ。俺は他人より、それを少しだけ知っている自負がある。今はただ、何かと放っておけない同級生ができたという所だけ分かっていればいい。
「……図書館!」
そんな俺の考えを知ってか知らずか、スレッタは少し溜めてから素っ頓狂な声を上げる。相変わらず、自分の主張がある時に周りの空気とそれをすり合わせるのが下手な奴だ。
つまり有体に言って、良くも悪くも空気が読めない。今回は、俺の余計な考え事を吹き飛ばすという意味で良い方に働いた。
「おん?」
「だ、だったら、図書館がいいです」
だが俺は、スレッタに底知れぬ実力があるだろうことを(先ほどの小テストも含め)朧気に感じていたし、その程度のことは特に気にならなかった。精々、相変わらずわちゃわちゃしていて可愛いなあと思うのみである。
「ああ、前言ってたリストか」
スレッタが何のことを言っているのか、なんとなく解るようになってきたのも大きい。
「はい! 図書館で勉強! 一度やってみたくて!」
眼をキラキラさせながら展望を語るスレッタは、普段の小動物っぷりが抜けて歳相応の少女らしくなる。
「じゃ、明日の予定は決まりだな……っといけね、昼休みだ今。飯食いに行こうぜ」
「行きましょう!」
なんとなく、昼食は彼女と食べるのが普通になった。
ニカ・チュチュ・マルタン・俺の「いつメン」に、ニカと俺の仲介でスレッタが合流した形だ。
今のところは、そもそも「こいつ誰だ?」や「地球寮ってあんなのいたっけ」のように、地球寮そのものへの認識の軽さが幸いして何も言われてはいないが……。
「ね、今日のメニューはなんですかね?」
わざわざ回り込んでこちらを覗き込んでくるスレッタに、週間献立表を思い出しながら答える。
「鯖の水煮定食、完全栄養シリアル、合成肉のハンバーグプレート、かき揚げうどんだな。今日は電子マネーの決済方法間違えるなよ?」
前それで行列作って半べそで俺のとこ来たよな、と付け加える。頼られて嬉しくないとは言わないが、あれはそれ以上に視線が痛い。
「わぁ……」
「聞いてるか?」
「ひゃい! スススっとしてピッで!」
「それ本当に大丈夫か? まあいいけども……」
しかし、こうして心から楽しそうにしているスレッタを見ていると、なんとなく『お前はスペーシアンの方で友達作って来いよ』と突き放すのはお互いのためにならない気がして、結局今の関係が続いてしまっている。
俺は余計な方向へ広がろうとする考えを再びシャットアウトして、食堂の定位置をニカたちが取ってくれていることに期待することにした。
◼️
スレッタはおぼつかない手つきでどうにか箸を動かし、皮だけ残ったりしないように注意しつつサバのかけらを突き刺して口に放り込む。ここの鯖は骨抜きしてあるので手間いらずだ。
すかさず米を適量かき込んで、いい具合に味わったら、後は味噌汁で流し込む。
「ん~っ♡」
伝統的なニホン食は、なんだかんだ「世界一美味い飯」の一角として、高級料理に定評のあるフレンチ、家庭料理や手ごろな外食に定評のあるイタリアン、ファストフードに定評のあるアメリカンと並んで未だに定番料理の地位を確立している。
「おー、スレッタさん和食も行けるクチなんだ。いいね」
とは言えニカが言うように、昔と同じで小さい頃から食べ慣れていないと美味しく食べられない「上級者向け」としての性格もまた受け継がれてしまい、人を選ぶ所がある。特に食器。
『リクさん達と同じのがいいです!』と謎の自信にあふれていた様子は小さな子供のようで可愛らしかったが、産まれからして日系の血を引く俺やニカと違って、そもそもまともな食事をしたことがない疑惑すらある彼女の口に合うかは正直心配だった。
「これ、すっごく美味しいですね! 何ていうか、全部がいい感じに塩味が効いてるっていうか!」
「段々食レポが上手くなってんね~、いいじゃんいいじゃん」
だが、どうやら杞憂だったらしい。
向かいで囃し立てているチュチュも、何が出てきても美味しそうに食べるスレッタを面白がっているようだ。
それが悪い意味ではないのは、彼女を知っている人間なら誰でもわかるだろう。ああ見えて、この学校のアーシアン差別に一番表だって怒る優しいやつなのだから。
「いいこと教えてやろうか。ここの学食、米とみそ汁はお代わり自由なんだぜ」
「出た、リっさん先輩の先輩風」
「いいのかぁチュチュ、そんな事言っちまって。もう模擬戦の相手してやらねえぞ?」
「うわっ大人げねーし!! スレッタはこんな風になっちゃ駄目だかんな!!」
「僕は、無事で過ごせればそれが一番だと……」
「ん~、おいひい……」
いつメンとスレッタ……いや、
このままのんびりやれればなあと、マルタンと同じようなことを考えていた矢先。
まっすぐこちらへ向かってくる女子二人組――俺が1年の頃から何かと突っかかって来るスペーシアン――を確認して、ここ数日で忘れかけていた「世の中早々上手く行かない」という真理を思い出した。
紙片の都合により、スパゲティ回は後ろ倒しになりました。
申し訳ない。
メインはあくまで餌付けだからそんなにひどいことにはならないので安心してもろて……
スレッタに食べさせて欲しいもの
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主食(洋食系)
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主食(和食系)
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主食(中華料理)
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お菓子、デザート類
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ゲテモノ