スレッタちゃんを餌付けするだけの話 作:プロリハビラー
決闘すると決まってからの事務仕事はスムーズなものだった。
俺が決闘をするということで上の連中は少々及び腰だったようだが、相手がスレッタであると説明したら手のひらを返したように準備を整えてくれた。
要はスペーシアン上位陣のパワーバランスが崩れるのを嫌ってのこと、いつものことだ。
「ようこそ。キミが自分からここに来るとは、どういう風の吹き回しかな?」
何が何だか分かっていなさそうなスレッタを連れ、決闘委員会の本部へ。
出迎えてくれたシャディク・ゼネリ先輩は、あくまで愉快そうに、こちらを値踏みするような視線をよこす。
その内何割かは新たな女子生徒である――つまり、ゼネリ先輩がまだモノにしたことがない――スレッタへの興味によるものだろう。垢ぬけない田舎者にも容赦がない、ある意味で真の色男と言うべきか。
「決闘委員会は初めてかい? 水星ちゃん」
「ふえ、は、はははい!」
一見優男風だから忘れがちだが、ワイルドに着こなす制服が様になる程度には体格のいいゼネリ先輩だ。
威圧感を感じさせずにスルリとスレッタに話しかけたは良かったが、スレッタは俺を盾にするような(もはや定位置と化しつつある)恰好で応対している。
「おいおい、すっかり頼られてるね。羨ましいよ、どうやったんだい?」
薄い笑みを顔に貼り付け、そんなことを言ってのける。そろそろ学園のフリーな女子をコンプリートする勢いだと聞いているが、この人は満足というものを知らないのだろうか……。
「そう言うんじゃないですよ。先輩として色々教えてやったまでです」
「くくく、いいのかい? あんまり奥手だと俺が取っちまうぞ?」
態々俺の耳元で、態々スレッタにも聞こえるように挑発してのけるゼネリ先輩。何でも卒なく熟すタイプだし、悪い人じゃないんだが、女と見るやこの調子なのがどうにも付き合いづらいというか、何と言うか。
「あ、あわわわ……」
先輩の色気というか、早速のアプローチに許容量を超えたか、スレッタはすっかり真っ赤になってしまっている。
「スレッタに先輩ぶつけるのは酷でしょう。その辺にしといてやってください」
「あっはっは、こりゃしくじったかな?」
悪い悪い、とヘラヘラしながら距離をとるゼネリ先輩。
「じゃ、気を取り直して。決闘の宣誓を済ませてしまおう。エラン、立ち合いを」
「分かった」
一応、正式な手順ではここで宣誓を済ませた後、実際の決闘に移ることになっている。
特に俺は諸事情で上に睨まれているから、余計な難癖をつけられないようにする意味も込めて、きちんと話を通しておこうと思いここへ来た。
ゼネリ先輩から引き継いで、エラン・ケレス先輩がいつもの無表情で俺達の前に立つ。
瞬間、戦術試験区域を映し出していたテラスの窓が投一斉に暗くなり、部屋が一気に閉め切られたような錯覚を得る。元々、ガラスではなく外の様子が投影されていただけなのだが、明確に場の雰囲気は変化した。
「双方、魂の代償を
淡々と問いかけるケレス先輩に、一言「ない」と返答。
こういう采配には、感情の起伏に乏しいケレス先輩が映える。実際彼が担当することが多いので、案外イメージで選ばれていたりするのだろうか。
「リク・レイゼン。君はこの決闘に何を賭ける?」
ここまで勢いだけでスレッタを連れてきた訳だが、どうにかすんなり従ってくれているようだ。
正直、この場に彼女を引っ張り出した時点で、「戦って実力を確かめる」という俺の目的は大凡果たしていると言っていい。
それ故、逆に何を賭けたものか悩ましい訳だが、そこは事前にスレッタ本人と協議済だ。
「金品。この招待券を賭ける」
懐から取り出したのは、このご時世に態々紙で作られている金券。
去年、MS戦で優秀な成績を残しただか何だかで、学校経由で企業から貰ったものだ。学園フロント内にも一店舗を出店している、銀座千〇屋の招待券である。
かの老舗スイーツパーラーは、拠点を宇宙に移して今なお営業中だ。
土で作った食べ物など口にしないスペーシアンの中でも、一部の食通やその辺りに拘らない者達、またアーシアンの上澄み等を顧客に持ち、このアドステラ時代に新鮮な甘味が食べられる店として一定の立場を維持している。
ついでに言えば、かつてより「新鮮な果物を確保する」ことのハードルが高くなった現在、普通に店に入ると高専生の小遣いでは賄い切れないような額を提示される羽目になる。完全に上流階級の道楽だ。
俺にこの券が回ってきたのも、「地球の貧乏人にいい目を見せてやろう」的な考えによるのだろう。
そんな店がわざわざ出店している辺りは、流石上流階級を集めた学園と言えるだろう。アーシアン差別の一環で、客足はイマイチだそうだが。
「スレッタ・マーキュリー。君はこの決闘に何を賭ける?」
5枚綴りで渡されたそれを、まず地位の維持のためゼネリ先輩に2枚袖の下として献上、ニカの機嫌を取るのに2枚使って、残った1枚をこうして賭けに持ち出したという訳だ。
そして、スレッタは――
「い、いい"言うことを1つ聞く権利"ですっ!!」
こうなった。……念のため言っておきたいのだが、この条件を出して来たのはスレッタの方だ。色々良くしてやった恩を持ち出して説得したら、なんだかそれが効きすぎてしまったようで。
俺が勝ったらスレッタは1つ俺の言うことを何でも聞き、スレッタが勝ったら彼女が命令権を手に入れ、さらに高級スイーツ店で舌鼓を打てる。そういうことになったのだった。
また妙な噂が流れないといいのだが……と横を見ると、既に決闘委員会のセセリアが脚を組んでこちらを見つめていた。
「んふふ、確かにその子、身体はいい感じだものね。一体何をお願いするつもりなのかなー?」
大胆に前を開ける着こなしと、通常よりさらに短いズボンから覗く太ももが煽情的な彼女だが、残念ながら中身まで美人とは行かないのが玉に瑕である。
アレはもう、明日の今頃には「"アーシアンの切り札"と"新入りの強者"」との戦いが面白可笑しく、そしてさも欲望に満ちた方向に広まっていることだろう。
「――
女を賭けて決闘している、という謂れはゼネリ先輩だけで十分だと思うが……仕方あるまい。
やるからには、少なくとも相手の戦力を丸裸に剥かねば。
俺は小さく息を吐いて、頭を久々の実戦仕様に切り替えた。
◆
「ほほほ本当にやるんですかぁ!?」
「今更怖気づくなよ」
互いの機体の準備中も、スレッタは終始この調子であった。
「千〇屋のパフェにあんなに食いついてたじゃねえの。その調子で決闘頑張れ~」
俺の投げやりな応援に、スレッタは唸りながらこちらを見ている。一挙手一投足から可愛らしいものだ。
「うぅ~、勢いではいって言うんじゃなかった……」
「まぁそう言うなって。エアリアルの実力が見たいんだ」
ニカの入れ知恵がないとは言わないが、グラスレー社の主力機、ハインドリーを瞬殺した実力を直に見たい気持ちは本当だ。
「あのビット、あの機動性、操縦技術。ひょっとすれば、匹敵するか、上回るかも知れん。前"地球代表"として、試させてくれ」
敢えて主語を省いたが、勿論比較対象はグエル・ジェターク先輩だ。
入学以来無敗の26連勝を積み上げるかの御仁を上回るということは、すなわちこの学園で最強だということになる。
……俺のように初めから戦いを避けている者や、実力を隠している者が何人もいるんじゃない限り、という注釈は付くが。
「地球代表!? なった覚えないんですけど!?」
「俺達とつるんでたら遠からずそうなるよ。あの寮、俺以外でスペーシアンの機体とまともにやり合える奴いないからな。チュチュでさえ大口径ライフルのワンチャンス狙いが精々だ」
生身でなら別だけどな、と付け加えるが、スレッタは「あわわわ……」という表情を崩さない。
「わ、わたし、そんなに目立ちたい訳じゃ」
「そりゃあ、お前が表に出たがるタイプじゃないのは見ればわかるが……気の毒だけど諦めろ。前の決闘でお前の強さは知れ渡ってしまってる。今から大人しくした所で、厄介ごとが向こうから飛んでくる公算が高い」
スレッタに分かるよう、かみ砕いて現状を説明していく。
「そこで俺と戦うことに意味が出る。一応、俺は地球寮だと一番の戦闘力ってことになってるからな。その俺をお前が倒せば、よしんば倒せなくてもいい勝負が出来れば、スペーシアン連中はこっちに喧嘩を売るのが難しくなる」
俺クラスの使い手二人からケンカを吹っ掛けられるのは、特にスペーシアンにとってリスクが大きい。
何せこちらは(向こうから見て)薄汚いアーシアンなので、向こうには勝手に「勝って当然」というプレッシャーが与えられ、うっかり負けようものならこないだのガム子よろしく学園に居場所がなくなってしまうのである。
「悪いが俺達はバックの弱いアーシアンだ。この学園で最低限の立場を守ろうと思ったら、強さを見せつけて威嚇するくらいしか方法がない」
実際、俺が入学してくる前はそれはもうやられたい放題で、俺も初めの内は随分やり合ったものだった。
「勿論、俺やニカ達と縁を切って、今からでもスペーシアンの方に合流することも、お前の実力なら難しくないだろうが」
俺はそう言うが、スレッタの答えは既に聞いている。
「逃げれば一つ。進めば、二つです」
母親に教わったという、スレッタの呪文。
最終的に、彼女は自分の意志でこの状況に向き合うことを選んだ。
「立派な母さんだな。尊敬するよ」
そろそろ時間だ。その会話を最後に、各々のMSハンガーに戻ろうとして、スレッタに声を掛けられる。
「でも! 私が、進もうと思ったのは、リクさんが……」
「悪いけど時間だ。後は決闘の後で聞く!」
後ろでむくれている気配を感じ取りながら、俺はその場を後にする。分かってくれとは言わない。この上それを受け取れるほど、俺の心は頑丈じゃないんだ。
……確認は取れた。彼女は本気で戦ってくれるだろう。ならば彼女の実力なら、後はどう転んでも地球寮の抑止力として、居るだけで仕事を果たしてくれるだろう。
ほぼ何も知らない彼女をいいように利用していることに胸が痛まないではないが、ではあの狭量なスペーシアンたちが彼女を暖かく迎え入れたかと言うと、否だろう。
結果的に、これがスレッタにとっても最善だ。今はそう信じるしかない。
「お互い、ロクでもない学校に来ちまったよな」
彼女に聞こえない程度の音量で一言だけ呟いて、俺は気持ちを切り替えた。
「これより、双方合意のもと、決闘を執り行う」
ケレス先輩が立会人として口上を述べ、お互いの機体がその姿を現す。
今頃は、決闘の様子が全校に向けて配信されている手筈だ。
「LP041、スレッタ・マーキュリー。エアリアル、出ます!」
「LP011、リク・レイゼン。タイプグリーン、出る」
眼前には、軽快な動きでMSコンテナを出たスレッタのモビルスーツ。
前にハンガーで見せてもらった時と変わらない、トリコロールカラーの派手な外見、どこか女性的な流線形のフォルム。
大手MS企業の機体相手に有利を取れるスペックの高さ、スレッタ本人の卓越した技量。そして、例の自称ドローン兵器。
決闘に際して、あの時とは明らかに違った威圧感を感じる。
翻って、自機。
直立こそしているが、如何にも「最近まで重機でした」と言わんばかりの角ばったフォルム。
オリーブグリーン単色の無骨な塗装で、右肩には山稜のエンブレム。左肩には、長大な砲。
全高19メートル半、100トン近い巨体。
両足から飛び出している杭打ち機。
まるで尻尾のような、尾部の突起。
スペーシアンのMSが持つ「小奇麗さ」のない、
こうして決闘に持ち出すのはほぼ半年ぶりだが、シートごしに感じる慣れ親しんだエンジンの振動が、自分に戦いの場を意識させる。
「お願いね、リッ君」
無線の先から聞こえて来るのは、いつものメカニックの声。
「任せろ」
短く応答して、レバーの握り心地を確かめ直す。
基礎設計はそろそろ旧型に分類される時代のものだが、改造と調整のしやすさがコイツの取り柄。通常量産型と比べたら、中身は最早別物だ。
「両者、
ケレス先輩がそう告げれば、画面越しのスレッタはおずおずと、事前に俺が教えたそれを諳んじ始める。
「勝敗、は……モビルスーツの性能のみで決まらず……」
「操縦者の技のみで決まらず」
「「ただ、結果のみが真実」」
俺達が言い終えると同時、フィールドにホログラムが投影され、森林の様相を呈する。
「
ケレス先輩の合図と同時。
タイプグリーンの肩に乗った砲が轟音を上げ、スレッタの機体に向けて実体弾を打ち出した。
タイプグリーンはオリジナル機体になります。
具体的な性能については次話を参照してください。
スレッタに食べさせて欲しいもの
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主食(洋食系)
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主食(和食系)
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主食(中華料理)
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お菓子、デザート類
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ゲテモノ