スレッタちゃんを餌付けするだけの話 作:プロリハビラー
エランの合図と同時、轟音と共に放たれた砲弾がエアリアルに飛来する。
アドステラ以前、戦車と呼ばれる当時の機甲兵力に用いられた滑腔砲。それが、タイプグリーンの肩に乗った砲の正体だ。
「このご時世に戦車砲……いつ見ても古風というかなんというか……」
観戦に興じるシャディクの呆れたような物言いが、彼の装備がどういうものであるかを雄弁に物語っている。
本来なら博物館クラスの代物だが、現代の冶金技術と炸薬を用いることで当時と比べ砲身の長さは半減、弾速と破壊力は大きく上回り、何より軍用品とは思えないほどパーツが安く簡単に作れる。いわゆる「枯れた技術の水平思考」である。
戦場で実体弾が重視されなくなって久しい現代だが、だからこそ不意打ち気味の砲撃が十分な脅威となる。装甲技術が進歩した今でも、240mm砲から放たれるAPFSDSの直撃に耐えうる兵器はほとんどないのだから。
リクにとっては挨拶代わりの一発。それで、彼の
『うおわぁ!?』
果たしてスレッタは、素っ頓狂な声を上げながらも器用に機体を仰け反らせ、それを紙一重で躱してのけた。
当たり前だが、撃たれてから避けられる弾速ではない。初手で撃って来るだろうことを読んで、フライングギリギリに動き始めていたのである。
音速を優に超える速度で飛来する重金属のダーツ(比較的柔らかい素材で作られた非殺傷仕様)はエアリアルのコクピット直上を通過し、背後の岩山上部1/3辺りに着弾。大穴を穿って見せる。
『アレ避けるのか! いいねェ!!』
不可抗力とは言え、エアリアルの視線が切れる。それを待っていたリクは、これ幸いと機体のスラスターを一気に吹かした。
見た目に違わず動作に重量感があるタイプグリーンが、轟音と共に意外なスピードで移動を開始。
エアリアルの姿勢と視界が戻る頃には、無骨な巨体がすぐそばにまで迫っている。
しかし、スレッタは姿勢を戻すよりもビットを展開するのを優先していた。
不用意に近づいたリクは、展開を終えた11門からなるビットに取り囲まれ――
――炸薬の爆ぜる音と共に、タイプグリーンの両腕、人間で言う手のひらの付け根部分からアンカーが射出される。
『でもAI制御は素直だなァ!!』
アンカーを岩盤に打ち込み、ワイヤーを一気に巻き取ることで敵の予測を超えて急加速。かと思えば両かかとの杭打ち機を作動させ急ターン、急減速。
ビットの第二射がワイヤーを狙って撃ち出される頃にはアンカーが回収されており、攻撃の掠った腕部装甲を多少コゲさせ、地面を赤熱させるだけに終わった。
極めつけに、尾部の突起を射出し尻尾の如く振り回す。ビームの刃を展開した状態で薙ぎ払いビット3機を破壊してのけたのだ。
「うわっやめてくれぇ! リクが勝っても1.2倍にしかならない!!」
「どうやって避けてるんだろうアレ……?」
観戦に興じる地球寮の面々にとって、リクの戦法は見慣れたものだ。
リクが1年だった頃は、初手の砲撃とすれ違いざまの強襲でほとんどの機体を再起不能にしてきた。
この時点で、所詮アーシアン相手と慢心してロクに対策しなかった相手なら勝負がついている。11機ものビットとそこから放たれるビームを相手にしてもなお、その練度は健在であった。
タイプグリーンにはダリルバルデ等に採用されている意志拡張AIが(旧世代版ながら)搭載され、尻尾と右肩の装甲が分離し自律行動するようになっている。
特に尻尾は有線操作と引き換えにGUNDフォーマットと大差ない精度で動かすことが可能で、剣状の先端部分に工業用ビームカッター(を高出力化改造したもの)を装備。MSの装甲をも容易く両断する破壊力を得ている。
『弊社の電動モーターは世界イチだ! 総重量98トンをこの速度!! 注文待ってるぜ!!』
強烈なGが掛かっているだろうに、あろうことか自社製品のPRまで放っていくリク。彼はハンドルを握ると性格が変わるタイプだ。
タイプグリーンは見た目からは想像も出来ない運動性によってオールレンジ攻撃の大半を躱し切り、ワイヤーの巻き取りで得た推力を殺さず地上を滑りながらドリフトのようにして振り返る。
ここまでの一連の動作をエアリアルが姿勢を戻し、ビットを展開し、本体が反撃に転じるまでの数秒間で済ませる操縦技術こそが、リク・レイゼンをLP011たらしめる。
『これも持ってけ!』
間に再展開を済ませた肩の砲がダメ押しとばかりに火を噴いた。
『うひゃっ!?』
金属が力場に叩きつけられ、けたたましい音がその場に響き渡る。この一瞬で残存しているビットを手元に戻し、盾として構えてバリアを張るのを間に合わせたのだ。
ここまでされても本体にはほとんどダメージのないエアリアルだが、膨大な圧力が瞬時にかかったことで態勢を崩す。
砲から発射できるAPFSDSは装甲にはめっぽう強いが、光学兵装の相手はそもそも設計段階で想定されていない。バリアを抜けないのは初めから織り込み済みで、散弾による面への攻撃と隙づくりと割り切っているのだ。
『次!』
それで止まらず、2発、3発と砲撃を続けるリク。散弾を食らっている間、ビットは本体に戻り、盾としてバリアの展開に用いられる。
攻撃に転じようにも、ビットが分離した所を散弾で狙われれば撃墜の危険がある。かと言ってそのままでは、いずれバリアが削り切られる。
『……っ、進めば、二つ!!』
しかしスレッタは、盾を手放した!
『っ、こいつ盾を囮に!?』
盾を盾の形のまま突撃させて無理矢理遮蔽を作り、自機は横から回り込んでタイプグリーンに迫る。
リクは即座に砲を背中へ格納させ、腰のマウントから鉈を取り出し応戦。山稜の技術ではビームサーベルが作れず、刃の部分にビームを纏わせる旧来の兵装に頼らざるを得ない。
タイプグリーンが赤色に光る鉈を構えた瞬間、そこへ大上段からの袈裟斬りが降りかかった。不協和音と火花を散らして拮抗する刃。立て続けの第二撃、第三撃も的確にガードしていく。
機体推力ではタイプグリーンやや有利だが、攻めに転じようとするタイミングで分離したビットが攻撃を再開する。
『まだまだァ!!』
背後の地面に突き刺していた尻尾のワイヤーを一気に巻き取り、再びの急加速で強引にビームを躱すリク。
さらなる追撃を読み切って、ワイヤーとスラスターによる慣性制御から繰り出されるバク転で回避。
さらにビットが真下に来たタイミングを見計らい、背中に背負った状態の砲をそのまま起動。ビット2機を散弾に巻き込み破壊する。
着地と同時、こちらの回避と追撃を読んで回り込んできたエアリアルのビームサーベルを、振り上げた腕への後ろ回し蹴りで出迎える。
『嘘ぉ!?』
『後ろにも目ぇ付けろって言われてんだろ!!』
タイプグリーンに搭載されている意志拡張AIは第4世代型。
簡単なビット制御と判断補助が主な機能だが、リクはこれをあえて自機後方180度にのみ作動させてリソースを集中、後方・側方からの攻撃に即時対応できるよう戦術を組み立てているのである。
2倍を超えるウエイト差は如何ともしがたく、左腕をひしゃげさせ、派手な金属音を響かせて再び吹き飛ばされ、どうにか膝立ちの姿勢になるエアリアル。
すかさず近寄って頭目がけて鉈を振り下ろすリクだが、これはスレッタが咄嗟にビームサーベルを展開したのが間に合い防がれた。
『ひぇっ!?』
『あそこから間に合うのか……!?』
背後から飛来するビットの射撃を、右肩のアーマーを分離・飛行させ防御。重量があるため簡単な動きしかできず動きも鈍重だが、その強固な装甲はビット6機のビームを相手に十分な時間稼ぎを可能とする。
とは言えビット-タイプグリーン-エアリアルと挟み撃ちの形になるのを良しとせず、鉈とビームサーベルによるつば競り合いを継続したまま尻尾を射出、エアリアルの頭部を狙いに行く。
『決め――ッ!?』
『そこッ!!』
その直後、エアリアル側で生き残っているビット6機が一斉に行動を開始。
タイプグリーンの背後を守る盾2枚を回り込み、尻尾のワイヤーめがけて一斉に射撃。
千切れてエネルギー供給を失った尻尾は、エアリアルの頭部ブレードアンテナに届くことなく動作を停止した。
『チッ!』
エアリアルは鍔迫り合いを放棄し、スラスターを使って後方へ。
それを確認したリクは、その場を仕切り直すためいったん離脱――
それと同時、左肩の砲をパージして機体重量を減らし、鉈をエアリアルの頭部アンテナめがけて上段から切り下ろす。相手の想定からズラして隙を作ることに重きを置くリクの真骨頂である。
それに挑むように、エアリアルがビームサーベルを振り上げ。
フェイント合戦の末に刃がぶつかり――それと同時に、両モビルスーツから何かが射出される。
エアリアル側からは、残った6機のビット。
タイプグリーン側からは肩のアーマーと、両脚に装備されている4機のビット。
リク機の頭上、ビット同士の攻防戦の末、黄色く輝くモノアイの上に生えたブレードアンテナがビットの一斉射撃によって破壊される。
それと同時、タイプグリーンから射出されたビットが、2機一組でエアリアルの右足と腰にとりつき、爆破。
このビットは2機の間がワイヤーで繋がっており、チェーンマインの如く敵機に組み付いて自爆する特攻兵器である。
AIリソースの関係上尻尾と同時に使用できないという欠点はあれど、操作性と破壊力は折り紙付き。文字通りの「切り札」だ。
片足と腰を破壊されバランスを失ったエアリアルはそのまま押し切られ、頭部のアンテナを(頭ごと)叩き斬られる。
『そこまで!!』
傍目にはほとんど同時に見える決着。しかし当人たちにとっては、勝ち負けはハッキリと分かっていた。
「…………やられた。もうちょっと離れてるうちに自爆ビットは使うべきだったな」
「お、お母さんの次に強かったです……」
それから1秒もしないうち、演習場の上空にホログラムで勝敗が表示される。
勝者は、スレッタだ。
しかし、はたから見た時の印象は違う。
片や、腰から真っ二つに破壊され、頭が完全に潰れてしまっているエアリアル。
至近距離で自爆ビットを使ったことで機体前面の装甲はやや破損、頭部にいくらかビームを被弾して、トータル小破~中破状態のタイプグリーン。
「これ、実戦だったら――」
「実戦だったら戦い方が変わる。勝ったのはマーキュリーだろ」
一応言っとくと俺はガチガチの本気だったからな、と通信越しにすがすがしい顔を見せるリクに、スレッタは少し得意になってふふと笑った。
「で。お前、パフェのほかに俺に何でも一つ命令できることになった訳だが」
「はい。そ、それなんですけど」
スレッタは一瞬言い淀むと、満面の笑みで言い放った。
「私のこと、苗字じゃなくて、名前で呼んでください!!」
……参考までに、決闘の様子と戦後の会話は、後でモメた時の証拠にする目的もあって全校に中継されている。
そんな場でこんなことを言ってのけたものだから、向こう数日間は俺とスレッタの関係について生暖かい視線を送られる日々が続くのだった。
その間スレッタはずっとニコニコしていたが、案外狙ってやっていたりしたのだろうか……などとリクが考えを巡らせている所、スレッタの要請によりパフェを食べに行くのに付き合わされ、代金で金欠を起こすのはまた別の話である。
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