自分より強い上位種に愛されるの良くないですか!? 作:糖分至上主義
酒の席で妄言を吐いている男がいるもんで話してみたんでさぁ。
内容は妄言ばかりだったんですががあんまりにも楽しそうに話をするもんだから1つあんたに共有しようと思ってのことでね。筆をとったしだいでさぁ。
ハガキが届いている頃にゃあっしもだいぶん近くまで帰ってることだと思いやすんで会った時にでも感想を聞かせてくだせえ。
その男が言うには「生きると言うことは歩き続けるってこと」みたいでさぁ。
「俺ァ少なくともそう思って今まで生きてきたし、これからも生きていくだろう。」赤ら顔で酒を飲んでいた男が何やら訳知り顔で云々言いながらそうかたってやした。
男が言うには様々な場所を歩いてきた旅人らしく普段は(非常に胡散臭いが)憑き物払いをして生計を立てているらしいでさぁ。
あっしは既に酒飲みの妄言吐きの相手をすることになってしまったのかと幾分か好奇心を恨んだものでさぁ。しかし男の話はなかなかに面白く作り話だとしても十分に面白かったんであんたにこうしてハガキをださせていただきやす。
最初は出自やらなんやらをポツポツと聞いていたんですが、やがて思い出したかのように1つ、ある村での出来事を話してくださいやした。
ある村に1人の少年がいた。
生まれも育ちも普通の家。少しビンボーだったかもしれないが両親ともに仲が良く幸せに過ごしていたらしい。生まれ育った蛇口村(どこにあるのかははぐらかされたが)は田舎だったらしく、自転車なんてハイカラなもんはなかったが村人同士での結束が強く、日々生きているだけで幸せを噛み締めているような穏やかな奴らばかりだったそうな。
子供はみんな兄弟みたいなもんでよく薮や林に入って怒られてた。少年も、もちろんそんな中に混じってよく母に怒鳴られたらしい。
そんなフツーの少年があるモノと出会ったのはその時だった。
まだ子供だった少年は母の言いつけ守らず山に入って、毎日駆け回ってた。そしてある日いつもは行かないような道を見つけたらしい。蜘蛛の巣やら茨やらで拒むようにされていたそうだが、だからか逆に突っ込みたくなったみたいだ。
身体中切り傷だらけの蜘蛛の巣だらけ。なんとかくぐり抜けた先は沼ひとつポツンとあるだけで何も無い。そんなだからか気が抜けたんで帰ろうとしたらしい。
ふと傍目に黒い何かが映った。そこにはとても綺麗な黒い蛇がいたそうな。少年は思わず連れ帰ってしまった。しかしそれを見た両親がとても驚いたようで、「どこで拾ってきた」って怒鳴られたそうな。少年はつい「山で」って言ってしまった。
それからはてんやわんやで「この地に入れない」だの「大上様がお怒りになられる」だので急いで村を出た。なんでこんなに村人たちが騒いだのかと言うと蛇が真黒であったことに起因するらしい。村の名前も蛇口村と言うほどで氏神として蛇を祀っていたそうな。そう真っ白い白蛇を。しかし少年が山で見つけて来たのは黒い蛇。おそらくなにか悪いものに違いがないと殺してしまおうとしたんだとか。
少年は必死に蛇を隠してついには村から家族全員追い出されたんだとか。件の蛇は気がついたらいなくなっていたようだが。そしてそれ以降村に近寄れなくなった少年一家は別の町で暮らしていたそうな。最初は不慣れな場所であったためかなかなか馴染めずにいたが不思議と仕事には困らなかったようで最終的には呉服屋を営んでいる町長のところで住み込みで働き出したんだとか。
ところでその町では度々不審なことが起きていたようで、町の人は極力夜間には外に出ないようにしていたんだと。
その頃には少年も14.15歳程で町長から頼まれた商いの仕事を補助していたそうで。
ある日どうしても仕事の関係で夜遅くまで帰れなかった少年は昼はあんなに活気づいていたのに今は誰もいない町の道をひとり急いで帰っていたんですって。
この次の角を曲がれば家まで一直線だ。というところではたと気がついた。今まで家に帰る道は角が3つじゃなかったか?今の角はさっきも曲がらなかったか?と。
何度か角を曲がり家に帰ろうとするもやはり帰れずにここに戻ってきてしまう。さすがに怖くなってきたからか少年は誰かいないか。と呼びかけたんだとか。すると1つ「はーい」という穏やかな声が聞こえてきた。あぁよかった人がいる。と安堵した少年は声の方に近づこうとした。
ギリィ
何かがなる音が聞こえてくる
不安に駆られた少年は声の主の方に走っていく。
ガチガチガチ
なにか固いものがぶつかるような音がしている。
声の主はニコニコとしている中年男性だった。薄手の甚平に杖を持っているようで何が楽しいのかずっとこちらを見て笑っていた。
「おい小僧、早くこっちに来い。それとも貴様、儂を置いてそこの芥虫の方に着くわけではないだろうな。普段ずっと儂を無視しおってからに。」といったふうな言葉を投げかけられる。
振り返るとそこには、綺麗な黒髪に山茶花の柄が入った黒い和服、真っ赤な簪を挿した同年代ほどの少女がいた。
「おい芥虫、さっさと去れ。儂もお前なんぞ喰いとうないわ。しかし儂のものに手を出すんじゃったら、、、」
その瞬間少女の目は黄色に輝き縦に裂けたように見えた。
気がつくと男は消えておりその場には少女と少年2人きりしかいなかった。しかしぽつりぽつりと明かりがついている家が目に入り一気に安堵した。色々と少女に聞きたいことはあったが1呼吸置いた後に、
「助けてくれてありがとう。俺は竜二」
「知っとるわたわけが。改めて言うが儂はオオカミじゃ。ようやく儂を無視するのをやめたんじゃな。後少しで頭から噛みついてやろうとおもとったとこじゃったわい。」
これが俺とこいつの出会いだ。そう目の前の男はひとり笑って言ったんでさぁ。
なかなかに話が上手く引き込まれちまいやしたが所詮は戯言ですからね。なんだか急にシラケちやいやしてせめてものということで勘定だけして分かれやした。
ずっと部屋に引きこもっているあんたのためにこんな話であれですが送らせて貰いやす。今の仕事が落ち着いたら熱海の方に湯治にでも行きやしょう。最近耳鳴りが酷いのと体の節々が痛くて仕方ねえんでさぁ。あっしも歳ですかいねぇ。
なかなかに興味深い話だった。君からの話は毎度楽しく読ませてもらっているよ。ところで最後のハガキから半年ほど経つが今はどこにいるのだろうか。早く旅の話を聞かせてほしい物だ。それに私も仕事が一段落したためまた君の旅に同行したいと思う。期間は今から4月ほどだ。君からの返信を楽しみに待っている。湯治は久しぶりだからなにぶん楽しみで仕方ないのだ。