ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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海の神殿の近くまで辿り着くカイム達。しかし、そこでアリオーシュの狂気を垣間見ることとなる。


第2節 大好きな……

 艦隊を壊滅させ、海の神殿へと近づくギャラルの目に映り始めるのは海に浮かぶなにか。最初は何なのか気が付かなかったが、目を凝らしてみればそれは死体だった。捨てられた子供たちの死体だろう。

 

「何でこんなことを……」

 

 今も聞こえてくる悲鳴にしてもそうだが、帝国軍がなんの目的でこうもおぞましいことをしているのかが分からない。

 今まで戦ってきた相手は、敵だから殺すという単純な話だった。しかし抵抗も出来ない子供を捕まえ、それからわざわざ捨てる理由とは?

 

「封印を解く為でしょう。エルフは神殿の守り人です」

 

 エンヴィは彼女の推測を語る。詳しいことは分からないが、海の神殿の封印を担当しているのはエルフである。そのエルフを使ってすることなのだから、封印を解くのに必要なことではないか、と。

 そんな話を聞きながら海上を探していると、子供以外の影を見つける。アリオーシュだ。

 彼女の側にエンヴィが槍を投げると、海面に触れると同時に周囲が凍る。近くに降りるための足場を作ったのだ。

 その足場へとギャラルとエンヴィが降り、更にレオナールが遅れてそこに降りる。

 

「かわいい。かわいい子ども達……もうだいじょうぶ。安心なさい。私が守る……かわいい、かわいい……」

 

 それだけ聞けば、捨てられたエルフを保護しようとしているのだろうと考える。しかし、決してそんなことはないということを目の前の光景が語っている。

 浮かんだエルフの子供から、肉をちぎり取り口へ運んでいく。口の周りを真っ赤に染めながら、狂喜の笑みを浮かべている。

 ……アリオーシュもエルフだ。その彼女が、エルフの子供を食べている。

 しかも周りを見れば、既に何人か犠牲になったのだろう。体に不自然な空洞が出来ている死体がある。その何れもが苦痛に歪んだ顔をしている。溺死した者の顔……というものを特に知っているわけではないのだが、そういう風には見えなかった。何とか溺れずに生き延びた子供を狙い食している、そんな想像さえも頭に浮かぶ。

 凄惨かつ異様な光景にギャラルは吐き気を覚え口元を抑える。死体なんぞ慣れているエンヴィでさえも気分が悪くなり目を逸らそうとして、明らかに大丈夫じゃない顔をしたギャラル気が付く。

 

「大丈夫ですか?」

 

 無言でふるふると首を振るギャラルの背中をさする。我慢の限界が来たのだろう、凍らせてない部分へ吐き出した。

 レオナールはそんな二人の様子も察しつつ、アリオーシュへ憤る。目が見えないのは幸か不幸か。

 

「なぜです……?アリオーシュ、あなたに子供はいないのですか!?」

 

 "ごちそう"にありついているアリオーシュは答えない。ただ守るからね、だいじょうぶ、だいじょうぶ……とうわ言のように呟いている声だけがレオナールに届く。

 代わりに答えたのは、彼女と契約した精霊たちだった。

 

「殺された」

「帝国軍によって殺され、捨てられた。こんな風に、血の海へと捨てられた」

「そしてこの先、子供を持つこともない」

「我々との契約に"子宮"を使ってしまったから」

「「よって永遠の、混乱と孤独」」

 

 それは、あまりにも悲しいく惨めな事実。

 出すものを出し終えたギャラルも、精霊たちの言葉はしっかりと聞いていた。狂った彼女の善し悪しは別として、全ての元凶はやはり帝国軍、天使の教会。

 

「……帝国は倒さないと。こんな悲しいこと、少しでも減らすために」

 

 呟いてから、アリオーシュをもう一度見つめる。そうして、一瞬だけよぎった考えを否定する。ここまで狂ってしまったのなら、いっそ死なせてあげたほうが幸せではないか?という考え。

 大抵の者にとって、それは違うと否定できることは今のギャラルには理解できる。でも、アリオーシュだけは例外なのではないかと思ってしまった。

 

「それは辛いことかもしれません、私も帝国によって弟が奪われました。しかし、子供を食べようとするのは……」

 

 レオナールとて帝国によって大切な、大切な弟達を奪われた身であり、その絶望と混乱は理解できないものではない。だからこそ、それだけでここまで狂ってしまうのはおかしいと感じる。

 否定の言葉を続けようとするレオナールへ、ギャラルが口を挟む。

 

「それ以上否定しないであげて。きっと、アリオーシュの心の傷は簡単に理解できるものではないと思うから」

 

 それは、一度は善意で最悪の行動を取ろうとしたギャラルだからこその言葉だろう。人々を救うと言いながら世界ごと殺そうとする、一種の狂気に取り憑かれたことがあるからこそ否定出来ないのだ。

 もちろん、子供……それも息のあるものを食べて殺すという行動そのものには理解も共感も出来ないが。

 

「話はそこまでか?早く行かねば封印が破壊されるぞ」

 

 このまま様子を見続けていれば口論になりそうな気配を感じたアンヘルが、強引に話を切り上げる。

 同じことをさせないように自分が監視すると言うレオナールが、無理矢理アリオーシュを連れてアンヘルの背に戻る。

 アリオーシュのことも大切だが、何よりも封印を守るため再び彼女らは神殿を目指し海を飛んでいく。

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