その中で、二人のキル姫は語りだす。
第1節 神の道具
海上を飛んでいるカイム達。静けさを取り戻した海の上には、残骸や死体しか残っていない。
そんな中、行きと同様にギャラルは背中にエンヴィを乗せ飛んでいた。幸か不幸か、行きも帰りも人数は変わらなかったから。
重苦しい空気を払いたくて、ギャラルはエンヴィに声をかける。
「ギャラル、正直驚いたのよ」
「……何にですか?」
エンヴィは特に話したいとは思ってはいなかったものの、することも特にないし、何より運んでもらっている身だからギャラルには応えるべきだろうと思い会話を始める。
「エンヴィって、優しいのね」
「そんなことありませんよ」
ギャラルは海の神殿とその周囲の海であったことを思い出しながら語る。なぜ優しいと評されるのか分からないエンヴィは考えるが、特に思い当たらない。
「エンヴィのこと、少し怖いと思っていたの。なんの躊躇もなく戦うし、目つきも悪いし」
「キル姫ですし、戦うのは普通では?」
目つきのことは余計だと感じつつも、素直に答える。ただ、答えてから二人の認識の齟齬に気がつく。
生まれ生きた時代も世界も違うのだ、同じキル姫という存在でも在り方は違う。
「そうやって割り切れて、強くて、優しくて。エンヴィみたいになれたらいいなって、少し思ったの」
「……」
私より遥かに強い力を持つはずのお前が言うのですか。
口にしかけて、やめる。少なくともそれは今言うべきことではない。それに、そうして褒めてくれることは少しだけ嬉しかったから。
「でも、私はあなたのように、誰かのための戦うことはしていません」
「なら、どうして戦うの?」
「それは……キル姫だからです」
キル姫だから、道具だから。神の命に従い、彼ら彼女らに付き様子を探り、必要とあらば始末する。そうしろと言われたから。
それ以上でもそれ以下でもない。私はただの、戦うための……
「でも、ギャラルが気持ち悪くなった時に心配してくれたよね。どうしてかしら?」
「えっ?えっと……」
一瞬だけ、心を読まれたのではないかと思いドキッとする。ギャラルホルンというキル姫にとって、キル姫というものは殺し合いの道具とは認識していないはずなのだ。なのに、でも、と否定した。
けれど、そんなことはない。ギャラルホルンというキラーズにはそんな能力は備わっていない。考えられるのは、この少女が自分の言動の意図を察した。それだけのことだ。
……と、質問の内容とは別のことを考えていたせいで、なんて聞かれたのかを聞き逃していた。そうして黙りこくっているのを、答えられずに困っていると思ったのか言葉を続ける。
「今だってこうして話してくれているわ。エンヴィって、特別喋るのが好きというわけでもなさそうだけど、それでもちゃんと答えてくれてるわ」
言われてみればそうだ。本来敵である彼女の会話に素直に応答する必要は何処にもないし、もちろん好きで話しているのではない。
「暇潰しですよ」
苦しい言い訳をする。特に嘘をついているわけではないが、暇なのを嫌だと思っているということでもない。
ギャラルはそんな様子をちらりと見たあと、ぬひひと笑い出す。
「やっぱりエンヴィは優しい人よ。……だから、キル姫だから戦うなんて悲しいことは言わないで」
キル姫だから、道具だから戦うことが悲しいこと。そんなのは一度も考えなかった。むしろ、道具として価値があることを認めてもらおうとして強さを求めていた。
けれど、道具ではなく人として。何かを求めて戦っていいのだろうか。少しだけ考えてすぐに振り払う。
ただ、一つだけ思うことはある。
「あなたの優しさが羨ましいです」
「……にひひ」
何を思ったのか、小さく笑いそれ以上は言わなかった。
それ以降は特に何も言わずギャラルは飛んでいた。海を越え砂漠が見えてくる。無事にフライトは終わるかと思えたとき、アンヘルが声をかけた。
「この"声"……女神が襲われておるぞ。急ぐぞギャラル!」