少年は「愛」を信じ、苛烈な道を進むことを決意した。
第八節 母との別れ
「……だいじょうぶよ。じき楽に……あぁ、セエレ!あなたは死んじゃだめよ。……わたしの赤ちゃん……覚えていて。私はあなただけを愛してた……」
その言葉と共に一人の女性が死んだ。しかし少年はその事実に気が付かない。いや、気づいた上で目を逸らしているのか。
「母さん?母さん?眠っちゃったの?父さんも動かないんだ……ねぇ、母さん!」
死に横たわっている女性を揺さぶりながら声をかける。そうすればいつものように起きて、いつものように愛してくれる。
そんな当たり前の日々は失われたのだ。目の前の母は眠っているのではなく、死んでいるのだから。現実は覆らない。
「母さん、キスしたげる。だから起きて、早く」
少年、セエレは必死になって母親を起こそうとする。自分だけを愛してくれた大切な母親を、必死に。
「母さん?どうしたの?お返事してよ。眠っちゃったの? ねぇ、起きてってば」
声をかけてゆさぶって、どうにかして起こそうとする。もちろん、そんなことをしたところで現実は変わらない。母親は死んでいるのだから。
「母さん、僕だけ愛してくれてたんでしょう?僕だけ……僕……だけ……」
かける声も段々と弱ってくる。何をしたところで母親は目覚めないという現実から目を逸らすのも限界が訪れる。
揺さぶる手からも力を失いだらりと垂らし、空を見上げる。やらないといけないことがある。
セエレは立ち上がり、先程契約した相手を見る。契約というものを知らないため、ただ彼が自分に協力してくれる友達だと認識しているが大差はない。
まず、ここで何が起きたのか。天使の教会を名乗る変な人たちがやってきて、みんなを傷つけた。それも大変なことだけど、もう一つ大切なことを言っていた。
『石の谷で発見された子供の生まれた里を見つけるためにやってきた』
そう言っていた筈だ。そして少し前、お母さんはこうも言っていた。
『石の谷でマナがいなくなったわ』
つまり、今マナは天使の教会のという人たちに捕まっているに違いない。しかも、この里までやってきてみんなを傷つけていった天使の教会が、いい人達な訳がない。
セエレは立ち上がる。マナを、妹を救うためには自分が頑張らないといけないんだ。なんといっても、僕は「ちいさなゆうしゃさま」なんだ!
契約した彼と共に、里から出るために動き始める。ゆうしゃのぼうけんがはじまる。わるいてんしのきょうかいから、いもうとをたすけださないといけないんだ!
その矢先だった。セエレが彼らと出会うのは。