両親を失った彼は、その両親の手によって石の巨人と契約をしていた……
谷を歩いていると、ドスンドスンと足音が聞こえる。その音は、先程も倒したゴーレムに違いない。
カイム達が警戒しながら進んでいくと、足音と共にゴーレムが姿を現す。しかしそれだけではない、ゴーレムの掌の上には少年が座っていた。
「この村には誰もいないよ……父さんも母さんももういないよ」
そう話すのは掌の上に座る少年、セエレだった。
「ゴーレム、おぬしが我々を導いたのだな?」
ゴーレムも今は契約した身。"声"を使いここまで導いたのだろう。
理由は単純、カイム達の目的が天使の教会だからだ。それを理解したセエレはゴーレムから飛び降り、カイムに問い詰める。
「天使の協会ってトコロに行くの?連れてって!僕、行かなきゃ!妹がさらわれたままなんだ」
早口でまくしたてるセエレに驚き少し距離を取るカイム。しかし彼が降りてきたことで、先頭にいたカイム以外もセエレに気が付く。
「こんな幼な子と契約したか?ゴーレムよ……」
「そもそもゴーレムって契約できるの?」
ギャラルよりも一回り小さな少年と契約したことに驚くアンヘルと、ゴーレムが契約しているということに純粋に疑問を抱くギャラル。
二人への答えをゴーレムが返した。
「セエレ、ヒトリ。チイサイ。ヨワイ。ココニイテハ、キケン……ツレテ、イク……」
「ゴーレムに、僕の"時間"をあげたの。そしたら、友達になってくれるって言うから……」
セエレを守るために契約したゴーレム。そこに悪意はない。また同時にゴーレムが明確な意思を持ち喋ることにも驚く。
これが二人の疑問への答えだった。カイムも意思を持つゴーレムなんぞ見るのも聞くのも初めてで、内心驚いていた。
「……ゴーレムに時間を渡すとはどういうことか、おぬし、わかっておるのか?」
少なくともギャラルは分からなかったので考える。契約の代償は身体に起きるもののはずだ。そして時間……そうなると考えられる可能性は多くはない。
「周りの人間が寿命で死んでいくなか、おぬしひとり老けも死にもせず、一生そのままの姿ぞ?……いや、おぬしらキル姫も似たようなものではあるな」
アンヘルが答え合わせをしつつも、三人のキル姫へと視線を向ける。詳しいことまでは聞いていないが、彼女らが永い時間を生きてきたことには違いないだろう。
「ひ、ひとりじゃないもん。ゴーレムがいる!それに……僕は"ちいさい勇者さま"になったんだ。このお話知ってる?僕はお母さんから教えてもらったの」
ずっと仏頂面……むしろ睨んできているカイムよりも、ギャラルの方が親しみやすそうと感じたのかそちらに喋りかける。
「ごめんね、ギャラルは聞いたことないんだ。また今度、教えてね」
「うん!」
幸い子供の扱いには慣れているし、カイムのように冷たい態度を取るような性格でもないのでギャラルはよしよしとしながらしっかりと聞いている。邪な視線を向ける一名と、少し怪しい雰囲気になっている一名には冷たい視線を返すが。
「また神話か!人間はすぐに現実から目を逸らし、絵空事へ逃避する。……キル姫というのもまた、神話と契約させられたようなものではないか」
人間を見下す傲慢で高潔なドラゴンらしからぬ、人に同情する様子にカイムはやはり疑問を抱く。なんとなく感じてはいたが、このドラゴンは冷酷な存在ではないらしい。
その様子を静かに見ていたエンヴィは、一つ引っかかっていたことがあった。質問するなら今だろうかと思い、口を挟む。
「探している妹、名前は何ですか?」
「マナだよ。もしかしてなにか知っているの?」
少し言いづらそうな顔をして、エンヴィは悩む。このセエレという少年の顔を見たときから、一人の人物を頭をよぎっていたが名前を聞いて確信する。
「エンヴィ、そなたは天使の教会と通じていたな?何を知っている」
「その、マナという人ですが。……司教です」
悩んだ結果、素直に打ち明けた。わざわざ隠すことでもないと感じたからだ。
ただ、肝心のセエレには司教というものが何か分かってないらしい。一番驚いているのはヴェルドレだった。
「この幼子の妹が司教だと!?そんな馬鹿なことが……」
「疑うなら好きに疑ってください」
「待って、お姉さん。"司教"って何?」
それ以上説明するのは面倒だと顔に書いてあるエンヴィの代わりに、ギャラルが説明した。
「司教はね、そうね……一番偉い人よ」
「マナが?そんなはずないよ、マナはさらわれたんだ。マナがこんなこと……」
「セエレの妹さんなんだよね、きっとそんな悪いことしないよ。一緒に確かめに行こう」
「……うん!」
こんな力も持たない子供が、自分と同じ妹探しをしているという事実に、また奇妙なこともあるんだなとカイムは考える。
「ゴーゴゴーッ」
沈んだ表情になるセエレを励ますように、ゴーレムが声をあげる。
「ゴーレムにも情けはあるのだな」
そう呟くアンヘルの声は、慈愛に満ちた優しい声だった。
「それじゃあ行くわよ、帝国領土へ」