司祭の息の根を止め、帝国兵共を止めろ!
カイムは、司祭の放つ魔法弾を軽く躱し、身体を真っ二つに切り裂く。鎧さえ着ていないそれは容易く両断されるが、直後消滅する。
更に、カイム達を取り囲む形で次々と司祭が現れる。
「分身……わたくしの呪術にお任せください!」
大量の司祭の全てが分身であると瞬時に見抜いた七支刀は、呪文を唱え始める。
その時間を稼ぐために、ギャラルは七支刀の側で警戒し、カイムとレッドドラゴンは目立つように低空を周回し始めた。狙い通り司祭は次々と魔法弾をレッドドラゴンに放つが、回避することに専念しているレッドドラゴンに当たるはずもなかった。
七支刀への攻撃がないことを理解したギャラルは耳を澄ませる。これだけの分身を出したのだ、近くにに本体がいる筈。
分身たちは立ち止まり魔法弾を当てることに集中している。カイム達は空にいるし、七支刀とギャラルも立ち止まっている。しかし足音が一人分。宮殿の方向。
七支刀の呪術が完成すると同時に放たれ、次々と分身が消滅する。同時にギャラルは叫ぶ。
「カイム!本体は宮殿に!」
空から探していたカイムは、宮殿の中へと視線を移す。天井さえない宮殿の中で、隠れるように司祭が立っている。
そこへ向けて飛び降り、一閃。司祭は死んだ。
「エルフ達はどこか別の場所に運ばれてしまったか」
宮殿の中はもちろん、周囲も探していたレッドドラゴンだがついに一人もエルフを見つけることはなかった。
ギャラルと七支刀も改めて宮殿に入るが、どう見てもただの廃墟である。カイムと斬られた司祭以外は誰もいない。
カイムはレッドドラゴンへと剣を向ける。
「……帝国軍の目的?」
カイムはレッドドラゴンへと聞いていたようだ。
「我が知るはずなかろう。人間の考えはあまりに卑小すぎて、想像もつかぬわ」
嘲るようにレッドドラゴンは答える。
剣を向けて質問をしていたカイムに、七支刀は行儀が悪いと言うが、聞く耳を持たない。代わりにカイムは倒れている司祭の顔を覗き込んだ。
「赤い眼がどうかしたか?」
カイムは何か気になったようで、司祭の赤い瞳を見ていた。
ギャラルも赤い眼という言葉を聞いて、引っかかるものはあった。今まで戦ってきた兵士はみな鎧を着ていたので顔を直接見る機会は少なかったが、兜の取れた死体の眼はいずれも赤かった気がした。
思考していたギャラルと、司祭から顔を逸らしたカイムの視線が交わる。
カイムはギャラルへと剣を向ける。
「何を見ている?」
レッドドラゴンがカイムの代わりに口を開く。
「いえ、その……カイムは復讐の為に戦っているのよね?」
カイムは無言で頷く。帝国によって奪われた両親と国、そして今まさにフリアエまで狙われている。帝国を殺すのにそれ以上はいらない。
「ギャラルはね、世界から悲しいことをなくしたいわ」
「それはまた無謀な願いだな」
レッドドラゴンが鼻で笑う。余りにも非現実的な夢を、真面目に語るギャラルが馬鹿馬鹿しいからだ。
「全てなくすなんて難しいのは分かってる。けれど、せめて目の前の人を、貴方を救いたい。ギャラルホルンはその為の力だから」
カイムは勢いよく地面に剣を叩きつける。カァンという音が虚しく響く。
突然のことに少し驚いたギャラルは、ビクッとして固まる。おずおずとカイムの顔を伺えば、怒りに染まっていた。
「その目の前の人に、この男を選んだのは間違いだったな」
レッドドラゴンはカイムと契約しているからこそ、カイムの"声"を聞けるし何を考えてるかも分かる。そして、少なくともギャラルの感情を素直に受け入れることもないことも分かってしまう。
「ごめんなさい。きっと、迷惑なのよね」
カイムを怒らせてしまった。それを理解したギャラルは暗い表情で目を逸らす。
少しでも悲しみを拭いたいというのは本心だし、その為にカイムを助けたいのも事実。しかし、カイムが嫌がっているのにそれをしようとするのはワガママだろうかと考えてしまう。
「好きにしろ、と言っているぞ」
レッドドラゴンが、改めてカイムの言葉を告げる。
「……そう?なら好きにさせてもらうわ。ぬひひひ」
また驚いたギャラルは、もう一度カイムを見ると少しイタズラそうに無垢な笑みを浮かべる。
「ギャラルホルン様の考え、素晴らしいです!わたくしもみんなが幸せな世界になるように頑張ります!」
ギャラルとレッドドラゴンの言葉を静聴していた七支刀は、ギャラルの考えに感銘する。
七支刀はカイムにも、平和の為に共に戦いましょう!と声をかけようとするが、レッドドラゴンの言葉によって遮られた。
「お喋りの時間はここまでのようだ。ヴェルドレとの"声"が途切れた。砂漠へ急ぐぞ」
それは、突然の異変の報せ。"声"が途切れたということは、それだけの何かが起きたようだ。
神官長ヴェルドレだけではなく、共にいるフリアエにも危険が迫っているかもしれないのだ。
すぐにドラゴンへ乗るために走り出すカイムの手を、ギャラルは握る。
「ギャラルも一緒に戦うから」
カイムはギャラルの琥珀色の瞳をジッと見つめる。しかし、すぐに腕を振り払いまた走り出したのだった。