神の使いが消え、全てが終わったかに思えたとき、世界の崩壊が始まる。
そして、崩れゆく空中要塞の中で、イウヴァルトはフリアエを妄執の腕に抱きながら閃光の中に消えた。
崩壊を始める空中要塞。帝国兵が指揮系統を失い混乱している中で、カイム達は走り抜ける。
『我は出口にいるぞ。早く来い、カイム!』
カイム達が脱出できるようにアンヘルも待機している。周囲の防衛用の兵器も、そのほとんどは破壊してある。
妹を殺してしまったことでかなり落ち込んでいるセエレを、レオナールが担いで走っている。剣を振りにくいようなのでギャラルが護衛として近くにいたのだが、帝国兵が全然攻撃を仕掛けてこないのでその内やめた。
要塞内の道は複雑になっており、先程散々走り回った四階はともかく、それ以外のフロアは道が分からない。エンヴィも別に要塞の構造を把握している訳ではないので、がむしゃらになって走っている。
「……結局神は、私のこと、信用してなかったみたいですね!」
走りながらエンヴィは一つ結論付けていた。この世界に連れてこられたときに、必要な知識は神から授けられていたはずなのだが、マナが死んだ時にこんなことが起きるというのは聞いていなかった。
キル姫というのは人間の人間のよる人間ための兵器であり、そんな自分が裏切る可能性があることは重々承知だったのだろう。
「裏切って正解だったでしょ!」
「本当に……そうですね!」
ドヤ顔で言うギャラルに、エンヴィもまた心を込めて返す。最初からこうなることを見越していたわけではあるまいが、道具扱いしてる時点でいい待遇などあるはずないのだ。
帝国兵の流れかき分け進むカイム達は、ようやく出口を見つけた。
「ギャラル、セエレを頼みます」
「分かったわ。セエレ、こっちに来て」
ギャラルがレオナールからセエレを受け取り背負い、残りの三人は外のアンヘルの背へと乗っていく。
ギャラルは自力で飛んで、全員が要塞から脱出した。
しかし、要塞内にはまだ彼らがいた。
神の力を行使していたマナがいなくなり、イウヴァルトにかかっていた洗脳は解けた。脱出するカイム達とは逆に、フリアエを探し祭壇まで来ていた。
「フリアエ!フリアエ!?」
床に倒れているフリアエを見つけたイウヴァルトは、彼女を抱き起こし声をかける。
フリアエの目がゆっくりと開かれて、その姿を認識する。
「……イウヴァルト……」
「神は死んだぞ、フリアエ!神はもういないんだ!自由だぞ!ハハハハハハハハハハハハハッ!」
しかし、洗脳が解かれたことが正気に戻ったと同じということではない。
カイムへのコンプレックスを刺激され赤目の病を発症し、神に操られていたイウヴァルトが、洗脳が解けたからと元通りになれるかといえばそうでもないのだ。
狂気的な笑いをしたイウヴァルトに驚き逃げようとしたフリアエを、彼は掴み直す。自分が避けられているとは微塵も思っていないのだ。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだからな。怯えるな。だいじょうぶだから……。俺達にはやるべきことがあるんだ」
「……あなたは何を?」
「フリアエ、俺達は創造主となるんだよ。エデンがなくなろうとも、俺達が神だ!!ハハハハハーッハハハ!!」
「……」
立ち上がり再び笑い出すイウヴァルトと、それを見守るフリアエ。狂喜の底へと落ちてしまったかつての友人を見ながら、要塞の崩壊に巻き込まれていく。
そして二人は、光の中へと消えていった。