ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第3節 それぞれの終わり

 アリオーシュは一人離れていた。理由は単純明快、ごちそうのため。

 

「来て!ひとつに……なりましょう。私の赤ちゃん」

 

 アリオーシュを取り囲むように降り立つ"敵"へ両手を伸ばす。そして剣を握り、ごちそうを頂くために剣を振る。

 彼女がいなくなっていることに最初に気がついたのはヴェルドレだった。"敵"に襲われないように隅っこで座り震えていた彼も、カイム達から少し離れていたからこそ最初に気がつく。

 だが気がついたところでどうだというのだ。その事実を誰にも伝えない。

 次に気がついたのはレオナールだった。魔法を主にして戦う彼は全体を俯瞰していたからだ。

 斬り刻み殺した"敵"へ、赤子へと迫る。たった一人で大量の"敵"を相手にしボロボロになりながらも、念願のごちそうへと食らいつく。

 そのアリオーシュの姿を見て、"敵"は学習した。食べるという行為を。

 赤子達に、次々と歯が生えていく異様な光景に、全員驚き固まる。そして、"敵"の視線がアリオーシュへと注がれていることにも。

 

「アリオーシュ、いったい何を?」

 

 アリオーシュが何をしているかまでは見えていなかったので、困惑する。

 抵抗を続けるカイム達よりも、"敵"を食らい無抵抗になっているアリオーシュへと"敵"は集まっていく。

 アリオーシュもそれに気が付き、向かってくる赤子へと両手を広げ、喜びの笑みを浮かべる。

 

「ごちそう、いっぱい」

 

 直後、アリオーシュの元へと"敵"が降り注ぐ。たった今学習した行動を試すため、アリオーシュを、食べるため。

 "敵"の巨大な口により、アリオーシュの身体は引き千切られ飲み込まれていく。

 

「アリオーシュ!?そんな……」

「自業自得ですよ」

 

 仲間のあまりの死に様に動転するギャラルと、冷たく吐き捨てるエンヴィ。セエレも驚きレオナールへとしがみつく。

 

「何もかも狂ってる……、ここは地獄だ……」

 

 様子を伺っていたヴェルドレが呟く。何もかもが異様と化したこの世界で、なお現れるのは異様な光景ばかり。次から次へと頭のおかしくなりそうなことばかりが起きる。

 しかし、その中でも正気を保ち続けていたアンヘルが彼らを叱咤する。

 

「壊れるのは後にしろ。女の開いてくれた道を進まねば命はないぞ!」

 

 アリオーシュを食べることに夢中になっているのか、いやアリオーシュだけに飽き足らず共食いまで狙っているのか。ひたすらに食べることへ集中している"敵"は、今はカイム達を狙ってこない。幸か不幸か、アリオーシュの行動は道を作ったのだ。

 カイム達は走り始める。ヴェルドレを置いて。

 

「ま、待ってくれ〜っ!」

 

 戦うのは怖いが、一人で取り残されるのはもっと怖い。慌ててヴェルドレも走り追いかける。

 

 カイム達が進む先に、一際大きな"敵"が姿を現す。それは、まるで母親のような、女性を象ったものだった。

 おぞましい存在だが、あれを倒すべきだという明確な指標が出来た。やはり帝都の中枢へと進むしかないらしい。

 闇雲に"敵"を倒すだけではきりがないと、戦闘は最低限にし進むことを優先する。しかし稼がれた時間も有限であり、"敵"は再びカイム達を阻む。

 

「道をひらくにはやるしかありません」

 

 レオナールは、覚悟を決めていた。ギャラルへと見えないながらも向き、決意とともに口を開く。

 

「ギャラル、何か案があるのですね」

「ええ。でも……」

 

 確かに案はある。しかしまだ迷いがあった。理由は幾つもあるが、やったことはないし出来る保証もないし、それ故自身もない。失敗して取り返しのつくものでもないと迷いが頭から離れない。

 

「わかりました。さあ!行ってください!ここは私が……」

「やだよ!」

 

 即座に否定の言葉を放ち、レオナールに駆け寄るのはセエレだった。

 

「一緒に行けないの?どうして行けないの?僕、イヤだ。もう人が死ぬのはイヤだよ!」

 

 セエレが勢いよくレオナールへ抱きつく。かなり身長差があり、その両手は腰の辺りへ伸ばされるが、そうなると頭部は……

 興奮し、そそり勃つ。みしみしと音をたて喜びを証明する。あまりの興奮に息を呑む。しかしそんな甘い誘惑を振り切るためにも、レオナールは声をかける。

 

「……セエレ。君はとてもいい匂いだ……」

 

 目が見えない彼なりの、最大の謝辞と共に。座り目線の高さを合わせ、諭すように。

 

「だいじょうぶ。私は死にません。さぁ、行って!行くのです!!」

 

 嘘だ。レオナールのそれは死を覚悟した人間の目だ。

 しかし止めるものはいない。カイム達は迷い進めない者の手を引き、彼一人だけ残して進んでいった。

 みんないなくなったことを見て安心し、振り向く。おびただしい数の"敵"が、一人残ったレオナールを食らうべく列をなし、いや波を作り迫っていた。

 

「おい、バカ。あさましい真似するなよ。俺まで死んじゃうよ?」

 

 だが一人、彼が死ぬことに反対するものは残っていた。妖精である。

 レオナールが死ぬことはともかく、契約している自分まで死んでしまうのだから大問題だ。

 

「死んだら、あのセエレちゃんとも遊べないよ?」

 

 一度死のうとして、それが出来なかった意気地なし。だから妖精が漬け込んで契約して、今ここにいる。

 何とかレオナールの覚悟を砕けないかと口を回すが、彼の震える手は強く握られた。

 

「……お願いしますよ。生きてください、レオナールさん。ねっお願い、お願い!」

 

 必死に懇願する妖精の声は、もはやレオナールの決意の前には障害でさえない。

 妖精に抵抗させないためにも、レオナールは強く妖精を掴む。

 

「ぎゃっ!どうせ怖くて死ねねぇんだろがっ!?なっ?そうだろっ?おい?やめろって!」

 

 懇願しても駄目ならと罵倒し始めるが、レオナールは動かない。

 そうしている間にも、"敵"は二人へと近づいてくる。迫る死へと、二人は咆哮を上げた。

 

「やめろおおおおおおっ!やめろおおおおおおっ!やめろおおおおおおっ!」

「……希望の最期は死にあらず!うおおおおおおおおっ!!」

 

 先頭の"敵"がレオナールを食らおうと口を広げ地に伏せる、その瞬間。

 レオナールと妖精の持つ、全ての魔力が解き放たれた。それは巨大な爆発となり、近づいてきていた"敵"を飲み込んでいく。白い閃光と共に、全てが消し飛んだのだった。

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