そんな彼女から、ギャラルホルンは新たな剣を買うことにした。それが彼女と共に戦う相棒となることは、まだ知らない。
それは、長身の女性だった。眼鏡をかけ、バッグを片手に現れたその女性だったが全く知らない人物だった。
しかし後をつけられていたのは事実なので、警戒は解かずに話しかけた。
「なんの用かしら?」
「いえ、これは失礼しました。私はアコールという者です」
「……どうも?」
しかし、とても丁寧な態度で応えたアコールに困惑して、空返事をしてしまう。
「武器商人をしている者です。貴方がたが戦っている所を目撃し、売るチャンスだと思って様子を見ていたのですが」
「そう、なんだ。……なんだ、びっくりしたわ」
最近は少し物騒なのもあり、無駄に警戒心を強めてしまっていたようだ。
眼鏡をクイッとして、アコールは付いてくるように促す。幸い武器には興味があったので、そのまま付いていくことに。
ついた先には小さな屋台があった。そこには幾つかの武器が並んでいる。いずれも使い古された武器のように見えるが、同時にそこいらの武器とは違うものだということも見ただけで理解する。
「どうでしょうか?あなたにお似合いなのは……」
そう言って渡してきたのは、赤い刀身の直剣だ。少し大きいかもしれないが、少し振ってみると意外と手に合う。
「この武器に名前はあるの?」
「月光と闇です」
月光と闇の赤い刀身は、まるで血のような深紅の色。いや、それにしては少し明るいだろうか。どちらにせよ、月光にも闇にも見えないし、不思議な名前だな〜と思いながら見つめる。
同時に、どうして血なんていう不吉な連想をしてしまったのかと首を傾げた。そう見えるだけの不思議な魔力があるのかもしれない。
「それと、その武器には物語がありますよ。武器の歩んだ物語……私は
「武器物語?ふーん……聞かせてほしいわ」
ギャラルが興味を持ったのは、ある意味当然だった。キル姫のキラーズも、伝承を持った武器を始めとしたものであり、この剣もまたそういった伝承があるのなら気にもなるだろう。
そしてアコールは語りだす。月光と闇の武器物語を。
常に強烈な熱気を放ち続ける大理石でできた剣。冷気を司る月神の加護を受ける者のみが熱に屈することなく剣を握ることができるという。
ある屈強な戦士がこの剣を手に戦場に向かった。雄叫びを上げ最前線へ向かう戦士。その目の前に幾百の弓兵部隊が…。彼の体を数百もの矢が貫く。
しかし!彼の体からは一滴の血も流れず、それどころか確実に心臓を貫いているのに、その力はいっこうに衰えない。戦いは彼の軍が勝利を収めた。
勝利を手に駐屯地に戻る戦士。そこで剣を置くと同時に彼は氷に包まれて絶命する。月神の強い魔力が彼の命を永遠に奪ってしまったのだ。
聞き終わったギャラルは、再びその剣を見つめる。別に自分は月神の加護なんて受けてないが、普通に握れているのであくまでも物語なのだろう。ただ、なんというか。
「悲しい話なのね」
「武器が歩んでくるのは戦場ですから。あなたのキラーズにも、そういった物語があるのかもしれませんね」
少し驚くが、自分が戦っている所を見ていたならキル姫と分かるのもおかしなことではないとすぐに気がつく。
ただずっと剣で戦っていたのもあって、剣のキラーズだと勘違いしていそうだが。実際には笛であり、そもそも武器ではないけれどあえて訂正はしないでおく。
「これ、買うわ。気に入ったのよ。……ふひひ」
そんな悲しい物語があったのかなかったのか、実際のところは分からない。しかし、いつの間にか上がっていた月が照らすその武器は、どこか悲しそうな光を漂わせているように見えたのは、悲しい話を聞いたせいなのだろうか?
赤い空。無数の化物。立ち向かう青年。希望を託すために、その命を投げ出した。
『希望の最期は死にあらず!』
男の咆哮と共に光が溢れる。敵を倒すために彼は犠牲に……
「ひゃあっ!?………夢?」
飛び起きたギャラルは、ふと空を見上げる。青い空にさす太陽に光に目が眩む。そんな太陽の光を反射し主張するものが近くに。月光と闇だ。
「悲しい話を、聞いたからかしら?」
怖くて悲しい情景だった気がする。しかし夢というものは不思議で、起きるとどんどん忘れていってしまうものだ。ただ、不気味で赤い空だけは脳裏から離れない。
頭を振り、月光と闇を持ち出かける準備をする。昨日は魔獣の襲来のせいで何も出来なかったが、今日こそハロウィンの為の準備をしよう。その前にパラシュに会いに行って、この剣のことでも話そうかなと楽しいことを考える。
悲しいことよりも、楽しいことが続くほうがいいに決まっている。
「おはよう、パラシュ」
「おはよう、ギャラル。……ああ、昨日聞きそびれたことがあったんだ」
「どうしたの?」
パラシュの視線が、鞘に収められた月光と闇に向いたのを見逃さなかった。だからこれについて聞いてくるかと思ったけれど、どうやら昨日の話らしい。
「君が剣を使っていることについてだよ。皆から君が鍛錬していることは聞いたけど、理由を教えくれないかい?」
「ふふ、別にそんな難しいことではないわ。ただ、神器なしでも戦えるようになりたいの。それで守れる人が増えるならそれより嬉しいことはないわ」
「君は相変わらずだね。自分の力で誰かを助ける為にできることをする、君のそういう部分が好きなんだ」
「ありがとう。にひひ」
褒められたことが嬉しくて素直に喜ぶ。そう、パラシュはそうやって理想のためにひたむきに努力する者が好きなのだ。
自分が出来ているかは分からないけど、少なくともそう評価してもらえているのは喜ばしいことだ。
「それで、これが気になるのでしょ?これはね」
昨日あったことを話す。アコールという商人と会い、そこでこの月光と闇という長剣を買ったこと。そして、武器にまつわる話……
「パラシュにもそういったもの、あるかもしれないわね」
「きっとあるだろうね。ラーマは英雄と呼ばれたんだ。そんな彼と共に生きていた斧ならば、きっと凄い物語があるはずさ」
そんな他愛のないことを話しながら彼女達は歩く。ハロウィンの日は、ゆっくりとだが確実に近づいてきていた。