ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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僕、セエレ。

コロシアムで僕はモンスターたちの景品にされちゃったんだ。いつも迷惑ばかりかけちゃう僕だけど、足手まといなんかじゃない!


第6節 狂気のコロシアム

 コロシアムの中で磔にされているセエレの前に、二人の亜人が歩み寄る。その内ゴブリンの方が、威勢のよい声を張り上げた。

 

「今日の景品はいいのが入ったぞぅ。人間のガキだ!成長の止まった出来そこないだがな!」

 

 このコロシアムを取り仕切るゴブリンなのだろうか。ウキウキでいる彼と反対に、セエレは泣いていた。

 

「ひっく、ひっく。ちがうよ……僕は出来そこないじゃない。僕が大きくならないのは、いつか必要な時がくるまで、ちからをためてるからなんだよ。僕は"ちいさい勇者さま"なんだ……」

 

 勇者と言うにはあまりにも情けない姿で、全く説得力がない。そうでなくとも、完全に妄言の類としか思えない言葉に、ゴブリンがイラつきを見せながら罵声を浴びせる。

 

「うるせえ!何おとぎ話みてぇなホラ吹いてやがる!」

「本当だもん!お母さんだってゴーレムだって、そう言ってたんだ!!」

「ん!おめえが必要とされるときなんてくるわけねーだろっ!一生チビで足手まといのまんまだよっ!」

 

 セエレがどれだけ主張してきたところで、今の状況からして滑稽でしかない。少しうるさいだけのガキでしかないセエレを笑う。

 

「コロシアムの景品になれただけ、マシだな」

「足手まといなんかじゃ……ないもん!」

 

 セエレが自身を失いかけ、反論する口にも力が抜けていくその時だった、空から二人の人影が飛び降りてきたのは。

 アンヘルから飛び降りたカイムとギャラルがコロシアムの中、今喋っていたゴブリンと見張りのオークの背後へと着地する。

 

「ナンダオマエラッ!」

 

 突然の侵入者に驚き声を上げるが、二人は全く動じない。

 

『セエレを頼みましたよ』

「……ちょうど良い機会だ。救うために剣を振ることを覚えてこい。少しはギャラルを見習ってみよ」

 

 侵入者を排除すべく、コロシアム内にいた警護のゴブリンが集まってくる。手斧を装備したゴブリン達はすばしっこく間を詰めようとするが、ギャラルは容赦なく魔法を唱える。

 炎の柱が近くにいた数匹を丸焦げにし、後続のゴブリンも足を止められる。そして、セエレの眼の前でポカンとしてるゴブリンとオークの二人を斬り殺す。

 カイムは炎の中をくぐり抜け、攻めあぐねたゴブリンへ鉄塊を振り下ろす。その怪力と重量にゴブリンの頭部は耐えきれるはずもなくかち割れる。その隙を狙い斧を振ろうとするゴブリンだが、鉄塊を盾代わりにし弾き、よろめいた所を反撃で腹に打ち込む。まるで玉のように飛んでいくその様に、この二人の圧倒的強さを理解させられる。

 炎が止むと同時に、ギャラルが低空飛行しすれ違いざまに斬り倒す。あっさりと警護のゴブリンは制圧されてしまったのだ。

 しかしそんな二人の強さに、待機していたコロシアムの参加者の亜人達は血がたぎっていた。最初に現れたのは、黒い肌のオーガの戦士。鉄塊にも劣らぬ巨大な剣を二つ握っている彼は、圧倒的存在感と共に二人の前に歩み寄る。

 

「助けて!助けてマナ……母さん……」

 

 その間も動けずにいるセエレは、ただ助けを懇願する。自身の無力さを噛み締めながら。

 オーガは間合いを詰めるために、一気に走り出す。カイム二人分くらいはあるだろうその巨大から繰り出される必殺の一撃は、人間くらい容易く砕くだろう。

 カイムとギャラルはオーガを囲むように散開する。すばしっこいギャラルよりも普通に地を歩いているカイムの方が狙いやすいだろうとそちらへ走り、剣を振り下ろす。カイムは難なく避け、更に背後からギャラルが剣を振ろうとするが、それを予測出来ていたのかもう片手の剣で防がれる。いや、それだけではなくそのまま弾かれてしまう。

 だがギャラルは飛ばされながらも、月光と闇から神器へと持ち変える。純粋な剣技ではカイムには絶対に敵わないが、引き出しの多さは間違いなくギャラルの長所だ。

 それをオーガに悟られないように、カイムは懐に潜り込み薙ぎ払おうとするが、やはり剣で防がれる。更にもう片手で、拮抗状態のカイムを叩き割ろうとするが、直後重々しい笛の音がなる。

 それを合図にカイムは飛び退く。獣が撃ち出した魔力はオーガへと命中し、跡形もなく消し飛ばした。

 

 次に登場するのは、オーガ五人組だった。違いは全員素手なことか。武器を使わず戦うならず者の集団だ。

 カイムへ三人、ギャラルへ二人と別れ追ってくるが、ギャラルは再び月光と闇に持ち替えながらオーガの手の届かない所まで飛び、カイムも取り回しのよい古の覇王へと変える。

 身軽になったカイムは三人を相手しながらも翻弄し、殴りつけようとする拳へ、蹴り飛ばそうとする足へ、避けながらも刃で刻んでいく。

 ギャラルもまた空から降りながらの斬撃、そしてまた届かない所へ飛び戻ると繰り返しながらオーガ達を焦らしていく。沸点を超えたオーガの一人が、次ギャラルが降りてきた時に必殺の拳を叩き込もうと露骨に構え、もう一人が援護しようとする。だがギャラルもその瞬間を待っていた。刀身に炎を纏わせ、こちらも必殺の斬撃をお見舞いしようとする。

 三人のオーガを相手していたカイムは、一旦無視して走り出し援護しようとするオーガへ一直線に向かう。

 自然とそちらへ視線が逸れた瞬間、そのオーガの身体を狙いギャラルが急降下。その意図に気がついたもう一体のオーガも大慌てで妨害しようとするが、本命はそっち。急に降りる角度を変え迫ってきた刃を止めることは出来ずに焼き斬られ、首が空を舞う。

 一瞬の出来事に、理解が追いつかずに固まるオーガの首めがけてカイムも跳び、一閃。この僅かの間に二人のオーガは死体へと変わったのだ。

 激昂し襲いかかる残りのオーガだが、三対一でさえ勝てていなかったのだから結果は誰でも予想が付く。二人の動きに翻弄され一人また一人と地に伏せていった。

 

 まだまだ戦いは終わらない。魔術師のオーク三人組が、手下の赤いゴブリンを引き連れ襲いかかる。

 赤いゴブリン達はカイム達を襲撃しようとするが、ギャラルは飛んでオーク三人組の元へ飛んでいく。ゴブリンの何匹が得物を投擲して撃ち落とそうとするがすいすい避けていく。オーク達もカイムよりギャラルを警戒して炎の魔法を撃ち込んでいくが、その程度の弾幕ならいい加減避け慣れた。今更当たるはずもなく、壁際まで追い込まれたオーク達は剣のサビとなる。

 その間もカイムはゴブリン達の鋭い斬撃を躱しながら、カウンターで古の覇王を突き刺して、更にはその死体を放り投げ妨害していく。

 カイム一人なら少し分が悪かったのかもしれないが、この二人の相手にはならない。

 

 一方的に蹴散らされたゴブリン達を笑いながら、最強を自称する三人の赤いゴブリンが現れる。数ばかり多いゴブリンがたった三人、余程の自身があると警戒しながらカイムは構える。

 ギャラルもすぐにカイムの側に戻り背後に立つ。少なくとも、そうやって背中を任せ合えるだけの信頼は二人にはあるのだ。

 そんな二人を取り囲むようにゴブリンは陣形を組むが、すぐには襲ってこない。ジリジリと間合いを詰め、得物のナイフをチラつかせる。ある程度距離を詰めた瞬間、同時にひとっ飛びで迫りナイフを振るう。カイムは的確に防ぐが、剣戟が苦手なのを見抜かれていたギャラルへ二人襲いかかっていた。

 一撃は決して重くないが、素早い連撃を叩き込んでくるゴブリンの攻撃を防ぐのは限界があった。しかも二人も相手しているのだから尚更だ。あっという間に剣は弾き飛ばされ、無防備になったギャラルの首目掛けて刃が迫る。しかし、ギャラルは咄嗟にしゃがみ込んだ。そしてそんなギャラルの背後からは、古の覇王の刃が迫っていた。一回転しながら何方の攻撃も弾いたカイムは、目の前で怒涛の連撃を放っていたゴブリンにそのままトドメを刺す。

 流石のゴブリンと言えど、体力は無限にある訳ではない。ギャラルを殺しそのまま三人でリンチするつもりだったのだろうが、それが失敗した時点でゴブリン達の負けだ。

 更にギャラルは低い姿勢のまま勢いよく飛び出し、弾かれた剣を回収する。そのまま低空飛行で近くのゴブリンの背後まで回り、一閃。計画の失敗と、仲間の死で僅かに反応の遅れたゴブリンはそのまま斬り裂かれる。残った一人も、後は言うまでもないだろう。二人に囲まれ大した抵抗も出来ぬまま倒れた。

 

「まだまだいるみたい!気を抜かないで!」

 

 とてつもない強さで勝利を重ねていくカイム達に目を輝かせ、元気を取り戻しつつあるセエレ。しかしカイム達はむしろ少しずつ疲れが溜まり始めていた。

 それを狙うように現れたのはオーガの二人組。賞金稼ぎの彼らは素直に戦わず、確実に倒せるだろう瞬間狙い飛び出してきたのだ。

 方や剣を持ち、方や素手のコンビだったが、その二人はあまりにも呆気なく倒れることとなる。連戦で魔力の充填が終わっていた月光と闇が振るわれると、二人を狙い炎の柱が飛び出しその身体を焼いていく。それで即死まではしないが、焼かれまともに動けなくなっている所にカイム達が飛び出しその首を斬り飛ばした。

 

 しかしこれで体力も少ない、魔法も撃ち切ったと考えたゴブリンの傭兵集団が襲いかかる。

 だがこの程度の激戦、今まで何度も経験している。まだまだ余裕の笑みを浮かべるカイムとギャラル。まずはギャラルは武器を神器へと変え、鳴らしていく。確かに月光と闇の魔力はまた使ってしまったが、ギャラル自身の魔力が尽きた訳ではないのだ。

 現れた扉から獣を頭を出し、魔力を次々と放っていき制圧していく。幾らか混ざっている赤いゴブリンへは、魔力が吹き荒れる中カイムが接近し死角からの一撃で確実にトドメを刺していく。

 

 挑戦者達が蹴散らされていく中、ついにコロシアムの王者が立ち上がる。王者であるオークは供としてゴブリンを連れカイム達の前に立ち塞がる。

 カイムは再び鉄塊へと持ち替え、ギャラルもまた月光と闇を持ち隣に立つ。

 鎖に繋がれた鉄球を持つオークは、その場で振り回しつつゆっくりと歩み寄る。供のゴブリンが盾を構えながらオークの前に立ち、このコロシアムの覇者たる貫禄を見せる。

 カイムとギャラルが目配せをし、走り始める。それと同時に二人は武器を投げ交換、ギャラルがそのまま勢いよく鉄塊を振り腹でカイムを殴る。いや、殴ったのではなく、足場にしたのだ。タイミングを合わせ跳んだカイムの足を押し出し、勢いよく飛ばしていく。

 今まで散々ギャラルが飛び回り翻弄してきたから、そちらの方を警戒していたゴブリンはまさかの行動に反応が遅れカイムを取り逃がしてしまう。慌てて追おうとするゴブリンへ今度はギャラルが迫り鉄塊が振り下ろされる。カイムほど力がないのもあり盾で防がれてしまうが、弾くこともできない。膠着状態になったゴブリンはカイムに手出しができなくなったのだ。

 飛んできたカイムを迎撃すべく鉄球を投げつけるが、容易く弾かれる。しかし弾かれた鉄球と反対方向にオークは走り、鎖がカイムを捕らえようとする。しかし炎の力をまとう月光と闇なら、その鎖を断ち切ることはあまりにも簡単だった。

 オークは切れた鎖を素早くカイムに投擲し、そのまま一瞬で距離を詰める。飛んでくる鎖を弾き、返す刀でオークも斬ろうと剣を振るが軌道を読まれ躱され、拳を叩き込まれる。

 殴られた勢いでわざと後退し距離を取り直して、今度はカイムから距離を詰め直す。オークの拳が振り抜かれる瞬間にカイムは跳んだ。突然視界から消えたカイムへ反応が間に合わず、背後に着地したのだと気がついた直後、その首は宙を舞っていた。

 お互い動けなくなっていたギャラルとゴブリンだったが、オークが殺されゴブリンが目を奪われた隙に、力の方向をズラシ滑らせてよろめかせ、そのままその胴体に叩き込んだ。ゴブリンの小さな身体はそのまま飛んでいき、コロシアムの壁に激突し倒れた。

 

 ついに、コロシアムの王者さえ下された。その事実に、コロシアムの者達は狂乱し興奮し混乱し、皆が新たな王者達へと戦いを挑むために走り出した。生き残るためか戦うためか、もうがむしゃらになっている。

 流石の連戦の後に、この数は流石にキツイなとギャラルが苦笑いを浮かべた瞬間、鉄格子が開かれる音が聞こえた。入り口の方からだ。まさかまだ敵が?と思い振り返ると、いくつもの光の玉が放たれていた。

 

「避けてください!」

 

 レオナールの声に反応し、ギャラルとカイムが大きく退くと入れ替わるようにして玉が敵の群れへと飛んでいき炸裂していく。更にそれを追うようにエンヴィが飛び込み、魔法を弾いた赤いゴブリン目掛けて走っていく。

 彼らに遅れて、残りの面子もコロシアム内に顔を出す。

 

「皆様、大丈夫ですか!?」

「……ふぅん、全部、終わってるのね」

 

 乱入したレオナールとエンヴィの猛攻であっという間に制圧されたコロシアムで、ヴェルドレが呟いた。

 

「あのカイムが……誰かのために剣を振るとはな……」

 

 カイムはうんざりとした表情で見ていた。しかし何処か困惑した表情になっていることを、ギャラルは見逃さなかった。

 

「どうだったかしら?人の為に振った剣の感触は」

『……別に変わらないさ。殺しは殺しだ』

「全く、こういう時も何時ものように本音を言えばよいものを」

 

 あくまで否定をするカイムだが、その心中は決してそうでないことが伝わってくるアンヘルは少し笑っていた。

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