ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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"敵"の本体はますます成長し、世界を飲み込もうとしていた。カイムは、敵本体中心部への突入を決意。

セエレの最期の叫びが響く中、ドラゴンの突入と共に"敵"は光となって時空の狭間に消える。

そして、カイムが見る世界とは?


第十三章 真実
第1節 旅立ち


 膨張し続ける巨大な"敵"、無限にいるのではないかと錯覚する赤子達の母親のようなそれは、お腹に当たる部分が膨らみ続けていた。

 幾つもの犠牲の上でその"敵"の近くまでたどり着いたカイム、ギャラル、セエレ、ヴェルドレ。しかしその"敵"を倒すための秘策など何処にもなかった。

 

「おしまいだ!おしまいだー!」

 

 狂乱の中、ヴェルドレが叫ぶ。まさに世界の終わりと呼ぶのに相応しい目の前の光景に、そう叫びたくなるのも気持ちだけは分かる。ただ、叫んだところで現状は何も変わらないというのもまた現実なのだが。

 

「祈らぬのか?」

 

 アンヘルがヴェルドレへと問いかける。いつもの様に祈らぬのか?と。それは純粋な疑問というより、ここに至ってなお震え叫ぶだけの嘲笑とも取れた。

 

「何にっ?……何にすがれば良いのです!?」

 

 ヴェルドレが信じていたもの、神がこの事態を引き起こしたのなら……もはや何にすがればよいのだろうか。

 ヴェルドレは臆病者だが馬鹿ではない。この状況を理解できてしまうからこそ、すがるものが残されていないという事実もまた理解してしまうのだ。

 

「知るか。すがるものなど、はじめから何もないのだ」

 

 狂乱の縁に落ちているヴェルドレを、アンヘルは冷たく突き放す。いや、アンヘルだけではない。この場で彼のことを気に留め救おうとする者などいないのだ。すがる神どころか、仲間さえも失ったのだ。

 

「そうさな……虎の子を見つけたくば、虎の巣に入るしかなかろう」

 

 この状況を打開するために取れる選択、それはあの巨大な"敵"への突撃しか残されていない。アンヘルは暗にそう示す。

 その言葉を実行すべくカイムを乗せ飛び立とうとするアンヘルを、ギャラルが静止した。

 

「待ってカイム!お願いだから……一人にしないで」

 

 ギャラルがこのミッドガルドで戦ってきて、初めてまともに出会った人物。その凄まじい強さで勝利へと導き、時には不器用な一面も見せ、一緒に旅をしてきたカイム。彼へと強く依存していた。

 今までそれを自覚することは無かったが、今まさにたった二人で"敵"へと飛び立とうとした瞬間、自分が残される側になると思った瞬間に嫌というほど理解させられた。

 アンヘルは飛び立つのをやめ止まり、カイムがアンヘルの背から降りてくる。今にも泣き出しそうなくしゃくしゃの顔のギャラルへと近づき抱きしめて、それからその小さな身体をひょいと抱え上げた。

 

「カ、カイム!?」

『そうだな。一緒に行こう』

 

 カイムもまた、彼女に惹かれていたのだ。フリアエを匿っていたあの城で出会ったあの日から、しつこく絡んできたこの少女へと。

 最初は綺麗事ばかりのうるさい女だと思っていたが、彼女もまた壮絶な過去を持っていて、それでも尚誰かのためにと戦い続けられる彼女の強さは、ただ殺戮のために戦いに身を投じていた自分にはない強さだったのかもしれない。

 そんな感情さえも超えて、このギャラルホルンという少女を愛おしいとさえ感じるようになったのは、何時からなのだろうか。

 一度考えたことがある。戦いが無くなり平和になったら、自分の居場所は消えてしまうのではないかと。戦いの中でしか生きられない自分は異端として弾かれてしまうのではないかと。

 こんな自分を変えて、平和な世界で生きれるように祈ってきた彼女なら、そんな彼女の側でなら生きていけるのかもしれない。

 アンヘルへと乗り、自分の前へギャラルを座らせる。驚きと戸惑い、そして喜びの表情を浮かべる彼女を見て、この選択は間違いでないのだろうと確信する。

 

「……良いのだな?」

 

 アンヘルは、二人が惹かれ合っていることに気がついていた。いや、それ以上に依存しあっているのかもしれない。

 だからこそ、勝機など見えないこの特攻へギャラルを連れて行くかは迷っていた。カイムも最初は連れて行こうとは思っていなかったからこそ二人で飛び立とうとした。

 しかしカイムが三人で逝くことを選ぶのなら、止めはすまい。

 飛び立っていくアンヘルの背中へ、もう一人の残された人物が声を上げる。

 

「やだ。行かないで……みんな!僕をひとりにしないでよー!」

 

 アリオーシュもレオナールも死んだ。七支刀とエンヴィも殿となるために残っていった。そしてカイムとギャラルは行ってしまう。

 これまで共に戦ってきた仲間達が、みんな逝ってしまう。自分一人だけを残して。

 セエレはそんな思いを胸に叫んだ。この狂気の世界にたった一人ぼっちになってしまう恐怖と悲しみを声に出した。

 

「生きておれば、また会えようぞ」

 

 お互い、生き残れるとよいな。そんな祈りと共に、アンヘルが返事をする。少なくとも、あの"敵"へ行き無事に生きて帰れる可能性は限りなく低いだろう。

 しかし、その可能性がゼロでないなら……信じてもよいのではないだろうか。生き延びて再開するその日を。

 

「……じゃあさ……せめて……」

 

 彼らが行ってしまうことは止められない。もうそれしか方法はないのだから。

 だから、せめて……

 

「忘れないでっ!僕のこと!!」

 

 返事はなかった。ただ、セエレの言葉を聞き届けたカイム達は、巨大な"敵"へ向かい飛んでいく。

 彼らの姿が見えなくなる頃に、突如光が溢れた。光に呑み込まれるようにカイム達は消えていく。カイム達だけでなく、"敵"もまた光と共に消えていった。

 

 

 カイムは善も悪も全て道連れにして飛び立った。我々は生きるしかあるまい、混沌の世界で。

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