ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第3節 何があったか

「これはあくまで僕達が知っていることだ」

 

 そう前置きしてイチイバルは語りだす。

 

「全ての発端は五年前のハロウィンか。君と七支刀がいなくなったあの日だよ」

「ご、五年……?」

 

 ただ理解を置いてけぼりに進んでいこうとする話に、なんとか追いつこうとしてもまた分からないことが出てくる。

 ギャラルがカイムとアンヘルへ視線を動かす。その意図を理解したアンヘルが答える。

 

「我がギャラルと会ってから、五年は経ってないな」

「なるほど、君達のいた所とは時間の流れが違うようだね。まあ、それはともかく……」

 

 イチイバルは話を軌道修正し続きを話す。

 今言った通り、五年前のハロウィンの日にギャラルと七支刀、二人のキル姫が突如姿を消した。ギャラルは"死者と会えるハロウィン"の仕掛け人でもあったため、あの街周辺での魔獣等の出現が多くなっているのも相まって、ギャラルのゆらぎが原因で何か起きたのではないかと調査が行われた。

 七支刀もまた、その街に向かっていたことがイシューリエルから伝えられ、同じく巻き込まれたのだろうと考えられた。

 しかし、それから数日後にその街で奇妙な現象が起こり始めたのだ。

 

「……何があったの?」

 

 自分がいなくなってから、何があったのか。とても怖いが、興味もある。

 何より、ここで聞かずに逃げたところで状況が変わるわけでもないのだろう。勇気を振り絞り問いかける。

 

「人間が塩になる奇病が流行りだしたんだ」

「人間が、塩に?……それは本当に病なのか?」

「僕は違うとは思っているが、少なくとも人々はそう考えたんだ。白塩化症候群と呼ばれるようになったこの奇病は、君のいた街を中心に少しずつ広がっていったんだ」

 

 人間が塩になる。その言葉を聞いて最悪の想像が頭をよぎる。もう一度外を見れば、まるで雪のように舞っている塩があるばかり。

 ……この塩は?何?

 ギャラルがまた絶望しかけている中、それでもイチイバルは続きを話した。

 塩になるとは言ってもいきなり全身が塩になるというものではなく、少しずつだったのでキル姫を中心に世界の各地で白塩化症候群を治せないかという研究が進んでいった。

 治癒の魔術を用いれば進行が遅くなることも分かり、奇病が解決する日を待つばかりと思われていた。ギャラル達を探し、ゆらぎの原因を突き止めることも平行して行っていたが、状況は更に悪化していく。

 白塩化症候群に陥った患者の内、一定数が凶暴化し始めたのだ。

 

「よく分からないよね〜。まあ自分が塩になって死んでしまうと思ったら、暴れたくなる気持ちも分からなくもないけどさ」

 

 そう言うのはミュルグレス。

 

「気持ちの問題ならよかったんだけれどね、明らかに理性を失っている感じだったんだ」

「……なるほど、そやつらのせいで研究の進行も遅れていったのだな」

「まあ、それもある」

 

 含みを持たせた回答をするイチイバルに、アンヘルは訝しげな顔になる。

 

「確かに大変だったけど、この時点ではまだ対処できる段階だったんだ」

 

 それから、二つの大きな出来事があった。それも取り返しのつかなくなるような出来事が。

 一つは、白塩化症候群に感染し凶暴化した人間が、化け物になったことである。辛うじて人間の形は残っていたが、体表が塩に覆われ知性も失ったその姿は化け物と呼ぶに相応しかっただろう。レギオンと呼ばれるようになった彼らは、討伐する以外の方法で抑える手段がなくなってしまい体力的にも精神的にも疲弊していくばかりだった。

 ただでさえ魔獣や異族といった化け物が現れていた中だったこともあり、対処が追いつかなくなり始めていた。

 

「魔獣や異族とやらは、本来はいないものなのか?」

「ああ。本当はこの世界にはいないんだけど、ゆらぎの影響で現れることもあるんだ」

 

 アンヘルはその説明で納得がいったが、ここまであまり興味を示していなかったカイムがアンヘルに質問を頼んだ。

 契約者がカイム達以外にいない以上、カイムは誰とも会話は出来ないのだ。

 

「異族とは何だ?」

 

 その質問に答えたのはイチイバルではなくギャラルだった。

 

「消滅した世界線にいたキル姫の成れの果て……と言って伝わるかしら」

「世界線?」

「かつての世界には、違う可能性を辿った同じ世界が沢山あったの。それを世界線って言っていたわ。……このラグナロク大陸にはないはずだけど」

 

 かつてギャラルが行おうとしていた終焉は、全てのの世界線の終焉だった。直接行き来したことはないものの、知識としては知っている。

 

「で、カイム。もしかして異族と戦いたいとか思った?」

「………」

 

 ギャラルに図星をつかれて少し気まずくなったカイムは目を逸らす。分かりやすい反応にギャラルは呆れてため息をついた。

 ……でも、そうやってカイムが余計な質問をしてくれたお陰で、少しだけ気は紛れた。

 

「まあ、戦いたいならその内戦えるさ。今だって時々湧いてくるからね」

 

 それよりも、と付け加えイチイバルは話を戻す。

 もう一つ起きた重大な事件。それはキル姫の暴走だった。今まで白塩化症候群にかかったキル姫は出ていなかったのだが、その代わりと言わんばかりに暴走し始めたのだ。

 最初はキル姫複数人で取り掛かり何とか抑えていたのだが、暴走する人数が増えてきてそういうわけにもいかなくなった。

 しかも、暴走していたキル姫はみな赤い目になっていたという。

 その話を聞いた瞬間、三人の目つきが変わる。赤い目と言われれば連想せざるを得ない。帝国兵達のこと、そして司教マナのこと。しかも帝国兵達は理性を失い天使の教会の傀儡となっていたのだから、その点でも似ているところはある。

 

「……何か、知っているようだね?」

「それは後で話そう」

 

 完全に収拾が付かなくなった頃、まだ状況は悪化していった。一つはティルフィングと連絡が取れなくなったこと。マスターも行方不明になり、補佐をしていたミーミルも同じく。

 更にゆらぎに付いて詳しいマナナンとマクリルの二人さえいなくなってしまった。この時点でギャラルと七支刀の捜索は完全に打ち切られた。

 それから人々の間に一つの噂が流れ始めた。白塩化症候群はキル姫が流行らせたのだというものだ。最初は信じるものはいなかったが、キル姫に白塩化症候群に感染したものがいないこと、暴走したキル姫がレギオンと共に人々を襲ったという事件が発生したことにより信じられるようになっていった。

 全ての人が信じたのかは分からないが、その意見に反対する声も次第に減っていった。

 

「ティルフィングとマスターとやらはそんなに重要な人物なのか?」

「この世界の要であるユグドラシルに繋がっているからね。特にティルフィングはこの世界の心臓と言ってもいいかもしれない」

「でも、ティルフィングが暴走したというわけではないのよね?それならまだ……」

 

 希望はあるんじゃないかしら?そう言おうとして、そうでもなかったのだろうと考え口を閉じた。

 あの旅の中でも、進むたびに状況が悪化し絶望していったことは記憶に新しい。

 

「悪くなる一方でしたが、でも一つだけ発見があったんです。今までは見られなかった新たな魔力が発見されました」

「ああ、魔素のことだね」

「……魔素だと?この世界に魔素があるのか?」

 

 アンヘルの中には疑問が生まれた。新たな魔力という言い方をしている以上、元からあったものではないのだろう。あちらの世界にあるはずの魔素がこの世界にあるのは奇妙な話だ。

 何より、この世界でも魔素と呼ばれるようになったことは偶然と片付けるには怪しすぎる。

 

「まさか、君達の世界に魔素があるのかい?……なるほどね。まあ謎解きは後にしよう」

 

 魔素が発見されたことにより、魔法を扱える人々が増えた。キル姫反対の流れもあったため、自分たちで対処出来るようにと発展が進んでいった。

 その頃には正気のキル姫の方が少ない状況になっていたが、魔素を白塩化症候群の治療に使えないかと試行錯誤もしていたが上手く回らず。研究していたキル姫が暴走したり、暴走したキル姫に襲撃されたり、そもそも研究するのに必要な環境を整えられなかったりととにかく研究が進むことはなかった。

 

「それから大して進歩することもなく、今に至るという訳さ。僕達が未だに暴走していたいのも、正直奇跡のようなものだ」

「じゃあ、他に連絡が取れるキル姫はいないの?」

「知っている限りはね。何処かで生きてくれていればいいけれど、噂の一つも入ってこない」

「……はは」

 

 最悪だ。あの旅の中で、あれ以上はないだろうという程の絶望を味わってきたが、帰る場所があるというのは数少ない心の支えだった。

 だというのにだ。そうしている間にもラグナロク大陸でも大変なことが起きていたのだ。しかも事の発端が自分のゆらぎの可能性まである。

 一度緊張の糸が切れて、その上で再び叩きつけられた絶望にギャラルの我慢は限界になる。ぼろぼろと涙が溢れ始める。

 見かねたカイムがギャラルの元へ行き、優しく抱きしめた。そのままギャラルはカイムの胸に顔を埋め声を上げて泣き始めた。

 

「……少し、待ってはくれぬか?」

「そちらでも大変なことがあったのですね」

 

 それからギャラルが泣き止むまで、皆で待っているのだった。

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