翌日、二人組を三組にして別れそれぞれ探索することになった。ギャラルはカイムと組んで移動していた。向かう先は、昨日の街。
理由は二つ。一つは昨日、あの後どうなったのか気になるという点。もう一つは、人間のカイムがいれば少しは対応が違うのでは?という点。
相変わらずカイムは喋らないので、お互い特に話すこともなく街へと歩いていた時だった。耳に入ったのは爆発の音。
「カイム、走って!何かが起きてる!」
『レギオンとやらに会えそうか……?』
待ち受けるであろう戦いに笑みを浮かべ、剣を抜き走り出すカイム。ギャラルも急いで駆けつける為に飛んで街へ向かう。
流石に飛んでるギャラルの方が速く、先に街へ近づくのだが、それは思っていたよりも大変な事態になっていた。
見えるだけでも街の中に五体のレギオン。更にざっと20mはありそうな巨大な化け物が一体。更に近づいて様子を見ると、レギオンは襲った人間を食らっていた。
「やあああ!」
雄叫びを上げながら近くのレギオンへと飛んでいき、頭部を一撃で貫く。今まさに襲われかけていた人が安堵のため息をつくが、直後彼はこう叫んだ。
「昨日のキル姫だ!また来やがったぞ!」
今、ギャラルがレギオンを倒した。その事実は伝わらず、キル姫だけが来たという事実だけが広がる。
やっぱりキル姫がレギオンを操っていたんだ……!昨日のは下調べだったんじゃないのか?
そんな声が少し聞こえたが、すぐに悲鳴で埋もれる。急いで次のレギオンを倒さなければと移動しようとして、今助けたばかりの人が掴みかかってきて動けなくなる。
キル姫の腕力なら簡単に離せる筈が、離せない。その人の腕をよく見れば、少しずつ塩になっているのが見える。まさか、この人もレギオンに?
戸惑うギャラルだが、その男は当然待ってはくれない。勢いよく押し倒され、拳を顔面に振るおうとした瞬間、男の首が撥ね飛ばされる。
幾ら人が死ぬ姿には慣れているとはいえ、目の前で人の首が飛んでいく姿には流石に恐怖を覚え固まる。力を失った男の身体が崩れ落ちそうになるが、それも勢いよく蹴っ飛ばされる。
『何やってるんだ。死にたいのか?』
「か、カイム……?」
それがカイムのやった行動だと理解するのに少し時間がかかった。呆然としているギャラルの腕を引っ張り、無理矢理立たせる。
それだけやって、カイムは走り始めた。まずはレギオン共を殺し、それからあの巨大な化け物も殺す。単純な理由だ。
正気を取り戻したギャラルもレギオンを倒すため意識を改めて切り替える。近くのものはカイムが倒すだろうと踏んで、見える限り一番遠くにいるレギオンへ向かって飛んでいった。
何とか抵抗しようとする人がまだ何人かいるのが見えるが、レギオンの剛腕には敵わず吹き飛ばされるばかりだ。しかもよく見れば、吹き飛ばされた人から少しずつ塩が落ちているのも見える。
どう転んだところでこの街は壊滅すると踏んだカイムは、家屋を蹴り飛ばしレギオンへ肉薄する。襲った人間を引き千切り食らおうとしていたレギオンは、カイムの存在に気がつくのが遅れ対処が出来ない。弱点である頭部を狙い振られたカイムの剣は、確かにレギオンの首を斬り飛ばした。
不意打ちすればこの程度かと思いつつも、更に近くのレギオンまで走る。カイムへ気がついた次のレギオンは、真っ直ぐと走り迎撃しようとする。カイムは魔法で炎を飛ばし、命中させる。それ自体はダメージにはならないが、爆炎でレギオンの目が塞がる。その瞬間に足元を斬りつけ、片脚を引き千切った。
バランスを崩したレギオンは勢いよく前に倒れ込む。その背中に乗ったカイムは容赦なく頭部へと剣を突き刺しトドメを刺す。
他のレギオンは……と辺りを見渡すが、あるのは死体ばかりだ。どうやらレギオンの殲滅は出来たらしい。問題はあの巨大な化け物だ。赤い双眸がカイムを確かに捉える。
『また赤い目か』
その化け物の肌も白い……いや、塩になっている。多分あれもレギオンの一種なのだろう。ならばやることは同じと巨大なレギオンへ走り出す。
ギャラルも同時に、巨大なレギオンを倒すために舞い上がる。炎の柱を生み出しながら撹乱し、背後へ回ろうとする。カイムが敢えて真正面から向かっているので、何とか取り囲もうとしているのだ。
しかしその巨大なレギオンは、幾つもある腕で柱を払う。百足のように伸びた身体で動くだけで街が破壊されていく。
それでも背後へ取り付くことの出来たギャラルが巨大なレギオンへ刃を向ける。試しに適当に背中へと一閃。しかし普通のレギオンを斬った時と違い、とてつもない抵抗を感じる。血もほとんど出なかったし、浅い傷しか付かなかったのだろう。
同時にカイムも腕の一本を狙い斬撃をお見舞いするが、斬り落とすことは出来なかった。更に巨大なレギオンは全身を回転させ、尻尾をぶつけるように身体をギャラルへぶつけ、腕でカイムを薙ぎ払う。
二人共攻撃は防ぐものの、威力が凄まじくギャラルは吹き飛ばされてしまう。カイムは吹き飛ばされたギャラルを追い一度巨大なレギオンから離れるが、同時に巨大なレギオンも逃げ出した。
そちらを気にしながらも走り、落ちてくるギャラルをキャッチ。
「ありがとう。あのレギオンは?」
『……』
巨大なせいで距離感がおかしくなりそうだが、背を向け移動するレギオンの姿は遠くにあった。その巨体に見合った速度で移動しているだけあって、今から走ってどうにかなるものでもなさそうだ。
とりあえず全てのレギオンを撃破したのだろう。倒壊した家屋に、あがる火の手。まだ無事な人もいるかもしれないので、救助をすべきだと考えギャラルが動こうとした瞬間、二人に向かって走ってくる気配。
「この化け物共があ!」
『奴らも白塩化症候群に掛かっているのか』
何人かが怒りと恐怖と絶望をないまぜにした表情で、武器を持ったまま走ってくる。その全ての人が塩を散らしながら走っている。
「待って、まだあの人達はレギオンには……」
『今はそうでなくても、その内なるだろうな』
ギャラルの静止を聞かずにカイムは走り出す。幾ら凶暴化しているとはいえ、所詮は一般人。カイムは軽々と避けながら首を撥ねていく。
そんな一方的な殺戮の果てに、静かになった街だけが残った。もうみんな逃げ出してしまったのか、或いは……
「……誰も、助けられなかった」
『そう気負うな。剣を向けてくるような奴ら、助ける必要なんかない』
「カイムなら、気にするなって言うんだろうけど。でも、この人達は帝国兵とは違う。敵じゃないのよ」
当然、カイムは答えない。
結局何も解決できぬまま、二人は帰路につく。いきなり白塩化症候群を治すとか、レギオンを全滅させるとか、そんなのは無理なのは分かっているけれど。それでも人一人も救えなかっただろう自分の弱さを噛み締めながら、ギャラルは歩くのだった。