ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第2章 祈りは遠く
第1節 曖昧ナ希望/翠雨


 それからというもの、レッドアイ討伐のための作戦を考えていた。

 特に飛んで移動ができるギャラルとアンヘルは積極的に遠くへ行き、レッドアイを探したり聞き込みをしていた。今まで何処で発見されたのか、どういう順番で移動しているのか。

 まず分かったことは、レッドアイは常に他のレギオンと共に進行すること。そして、レッドアイに襲撃された街や村は全て滅んでいるそうだ。

 運良く生き延びて逃げ出してきた人がレッドアイについて広めているようだが、立ち向かってまともに傷を与えられた人はいないようで、特に討伐するための有力な情報は得られなかった。

 また、レッドアイの目撃情報に関してはまちまちで、行動を特定出来るほどは集まらなかった。

 

「こちらから見つけて襲撃するしかなさそうだね。待っていても仕方がない」

 

 何日かかけて情報を集めた結果、そういう結論に至った。

 

「でもミュル達は飛べないし、移動してる間に逃げられるでしょ」

「いや、我が乗せよう。それなら間に合う」

「乗せるって言っても、せいぜい一人しか無理じゃない?」

 

 ミュルの疑問は尤もだ。今のアンヘルは人の姿になっている。仮に複数人乗せて飛べるほど力があったとしても、そもそも物理的に乗ることが出来ないだろう。

 

「ドラゴンの姿に戻ることは出来る。問題ない」

「そうだったんですね。でも、それならどうしてその姿のままなのでしょうか?」

「あの姿でいれば余計な混乱が生じるだろう。レッドアイと戦うときは致し方ないにしても、常にあの姿を保つ必要もあるまい」

 

 アンヘルは上から目線の発言が多いし、高圧的だし、プライドも高い。けれども、人一倍他人のことを気遣えるドラゴンだ。

 旅の中でそう理解していたギャラルは、小さく苦笑いする。もっと素直に言えばいいのにとは思うが、声には出さない。

 

「しかし、肝心のレッドアイが見つからない。巨体であるならば、見つけることは容易いと思っていたが……」

「ギャラルも全然よ。かなり特徴的な見た目だったし、見逃す筈ないのだけど」

 

 イチイバルとカイムも近場を探しているが、レッドアイどころかレギオンも見かけていない。まるで嵐の前の静けさのようで、気持ちが悪い。

 情報の共有はそこら辺にしておいて、一度その日は解散。と言っても、何かやることがあるわけでもないギャラルは部屋に向かい、ベッドに転がる。

 こうしている間にも、白塩化症候群に陥り死んでいく人と、レギオンになっている人がいるのだろう。本当は一分たりとも休まず探すべきだと思うのだが、それはそれで身体が保たない。肝心のレッドアイとの戦いで敗北すれば、それこそ被害を止める手段がなくなる。

 結局、やりたいことには手が届かない。やりようのない無力感に苛まれていると、ドアが開く。

 カイムだ。また外で素振りでもしてきたのだろう、払いきれていない塩が付いている。

 ギャラルが起き上がり手招きをすると、素直にカイムが寄ってくる。何の用だ?と言いたげな顔をしているカイムの頭を軽くはたいて塩を落とす。

 

「ねえ、ちょっといいかな」

 

 ベッドをぽんぽんと叩いて座るように促すと、面倒そうにしながらも隣に座ってくれる。

 

「ギャラルね、色々言ってきたけど何にも出来てないって思うんだ。こんな口ばかりのギャラルのこと、嫌い?」

 

 ズルいことしてるなと思う。だって、カイムがどう感じていたとしても、答えることは無いからだ。それ分かった上で聞いている自分のことが、また少しだけ嫌いになる。

 それでも、それでもそんな質問をしたくなる。自分を支えるものがなくなってしまいそうだから。

 

「ギャラルはね、カイムのこと好き。強くて、怖いけど時々優しくて、意外と照れ屋で。そんなカイムのことが好き」

 

 その上で、カイムのことを好きと言うなんて。自分はなんて最悪なのだろうか。

 きっとカイムは自分のことを嫌っていないんだと、好きと言えば受け入れてくれるのではないかと、そんなことを考えているから言ってしまえるのだ。

 言わなければ良かったと思って、顔を逸らす。でも、カイムに好きだと言って欲しい気持ちもある。それ以前に、カイムの声を聞いてみたい。

 考えていると、カイムの腕が伸びてきて、頭をくしゃくしゃと撫でた。それは慰めなのか、肯定なのか。よくわからない。

 

「ありがと」

 

 どちらにしても、少なくともカイムは自分のことを拒絶していないのは確かだ。だから、お礼は言っておく。

 ……まあ、こうして一緒にいてくれている時点で拒絶はされてないことは分かるのだが。

 それで満足したのだと思ったのか、カイムは立ち上がり床に布団を敷こうとする。この部屋にあるのは一人の用の普通のベッドが一個だけなので、カイムが自然と床で寝ているのだ。

 けれど、何となくそれが嫌でカイムの手を掴む。

 

「今日は一緒に寝よう?ちょっと狭いけど……」

 

 最初は凄い微妙な表情をしたが、手を離さずにいると諦めたのかまたベッドに座る。

 それから二人してベッドの中に入る。やはり少し狭い。けれど、それも悪くない。

 流石に、同情だけで一緒に寝てくれたりはしないよね?

 そう思いながら眠りに付く。凄いことをしてしまったなと気がつくのは、翌朝の話。

 

「寒いなあ」

 

 一人呟きながら、空を見上げていた。今日も塩のせいで曇っているような空だ。ちゃんと晴れている日は一度も見たことがない。

 夏なのに寒い理由もこれだろう。陽の光がまともに来なければ、少しずつ冷えていってもありえないことはないのだろう。

 

「ギャラルも意外と隅に置けぬな」

 

 そう言いながら出てきたのはアンヘル。まだ早朝だし誰も起きてないかなと思っていたが、相変わらず眠れなかったのか。

 

「どういうことかしら?」

「我はカイムと契約している。この言葉の意味が分かるか?」

「………あっ」

 

 つまり、アレだ。昨日の夜のことがアンヘルに筒抜けになっていたのだろう。ついでにカイムが何を考えていたのかも知っているのだろう。

 途端に顔が熱くなる。まあ別に変なことをしていた訳ではないが、それでもなんか恥ずかしい。色んな意味で。

 

「少なくともカイムはおぬしのことを嫌ってはいない。安心しろ」

「じゃ、じゃあ……!」

 

 ギャラルのこと、好きだって思ってるの?

 聞こうとして、ぐっと飲み込む。凄く聞きたいし、聞けば教えてくれそうだけど、やめておく。

 

「……やっぱり、やめておくわ」

「ほう、知りたくはないのか?」

「カイムのいない所で聞くのは、ズルしてるみたいで嫌よ」

 

 アンヘルはニヤけた笑みを浮かべている。ギャラル……と多分カイムも、反応を見て楽しんでいるのだろう。

 少しだけムカッとしたけれど、同時に幾らか気持ちが楽になった気がする。

 

「余り気負うな。人間は弱い生き物だからこそ、手を取り合うのだろう?」

「なにそれ?なんかの本に書いてあったのかしら?」

 

 アンヘルは、家にいる時間は読書していることが多い。何だかんだ人間の姿を楽しんでいるのだろう。ドラゴンである彼女が読書なんてものと関わりがなかったことは誰でも容易に想像が出来る。

 

「想像に任せよう」

 

 ぬひひと小さく笑う。こうしてカイムやアンヘルといる時間は、確かな安らぎになっていることを感じながら。

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