花が開く。その巨大な花が開いた中に、更に妙な光景を見る。色とりどりの花が内部に咲いていた。
しかしその光景に感慨を覚えている時間が許されることはない。サルビアの咲く地帯から女性を象った巨大な何かが生えてくる。それは、まるであの時の"敵"のようだった。
その女性の形をした像は歌い出す。世界の滅びの告げる歌を。
ギャラルは咄嗟に神器を取る。これから始まる戦いはあの時と同じだ。"ウタ"と"オト"の激しいぶつかり合い。理解の範疇を越えた異次元の戦い。
「何なのよこれは……!」
ウタは魔力を帯び全てを拒絶する。広がっていくウタへ、ギャラルは神器を鳴らし打ち消すオトを生み出す。
しかし"敵"の鳴らしていたウタとは何処か性質が違う。同じオトで相殺するのではなく、ウタに合わせてリズムを取って破壊しなければならない。
魔力を帯びているおかげで可視化されているウタの輪が迫っていているタイミングで、ギャラルホルンのオトを鳴らし破壊する。
激しいオトのぶつかり合いの末に、ウタさえ歌えなくなった像は沈黙する。今がチャンスと踏んだギャラルは、魔力を練り上げ炎の幻影を生み出す。真っ直ぐ像へ飛んでいき、像を真っ二つに破壊する。
「これで……」
これで終わりかと少しだけ考えて、長い戦いになりそうなことを思い知らされる。
ペチュニアの咲き乱れる地帯から、また新たに像が生まれる。まだ花はある。キキョウ、マリーゴールド、カーネーション、アイ。そして、花畑の中でも中心に位置するコスモス。その花々に何処か強烈な既視感を覚えるが、その理由を考える時間は存在しない。
再びウタは紡がれだす。絶えた祈りを、絶えた希望を、絶えた望みを。
この花と像の正体など分からないが、あの時の"敵"と同じウタによる攻撃と破壊をすることが、正にこの花は世界の敵なのだと物語っている。
魔力を全て吐き出しウタを紡げなくなった像を破壊する度に、次の像が生まれていく。魔力を持ったウタを破壊するのには、魔力を持ったオトがいる。幾ら今のギャラルが特別な状態とはいえ、これだけのウタを破壊しきるのに魔力が足りるのか……
ギャラルは心配になるものの、すぐに意識は持っていかれる。ウタを止めることが出来なければ、今すぐここで死ぬだけだ。世界ごと。
ウタとオトの激しいぶつかり合い。狂乱に陥ったこの世界でも、特段目立つあの花で行われている異様なオトの戦いは、世界中から観測されていた。再生の卵、レギオン、異族と魔獣、様々な物が現れたせいで大変なことになっている中での、極めつけの異変に人々はより混乱を激しくしていく。
「次!」
幻影が力尽きた像を破壊する。これで何度目だろうか。六つの花と、六つの像。余りにも激しいオトのぶつかり合いに、ギャラルも体力も魔力も限界が近づいてくる。
最後の花が開く。コスモスから生まれいづる像もまた、女性をかたどった何か。その姿に何度目かの既視感を覚えるものの、答え合わせは許されない。
しかし状況は考えていたよりも最悪だった。コスモスの像が歌い出した途端に、先程まで破壊してきていた周りの像が復活していく。コスモスの像を囲むように再生した六つの像、合わせて七つの像は歌い出す。祈りを、祈りを、祈りを、祈りを。
けれど、同時に確信を得た。これを乗り越えた時が勝利なのだと。ありったけの魔力を込めてオトを出す。ギャラルホルンの笛の音が世界に響く。終焉を告げる笛のオトが、世界を滅ぼすウタとぶつかり合う。
いつまで続くのかと考える余裕もなく、持てるもの全てでオトを鳴らし、ウタを破壊していく。それは相手も同じなのだろう、像が一つまた一つと沈黙を始める。そうしてついに訪れた、最期の時。ついにウタが止んだ。
最後の大魔法を放つ。七つの像を破壊するために、六つの幻影を練り上げ飛ばしていく。幻影が周りの像を破壊する中、ギャラル自身もカイムの剣を構え中央の像へと飛んでいく。
「これで最後だ!」
巨大な像の頭部へと剣を突き刺し、そのまま地上へと落ちていく。真っ二つに切り開かれた最後の像が、ついに崩壊を始める。いや、像だけではない。花そのものが崩壊を始める。世界が揺れ動く。
「やったよ、カイム、アンヘ……ル……」
全ての魔力を吐き出したギャラルは強烈な目眩に襲われる。けれど、少しだけならいいや。これで世界は救われたんだ。
意識を投げ出し地面に倒れる。意識はどこまで深く、溶けていく。深く、深く。
[A]nything and everything return to blisters