ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第3章 違える道
第1節 混乱の最中


 目を開く。見知らぬ天井がそこにあった。何をしてたんだったかと考えながら身体を起こす。

 身体の節々が痛む。確か、何かと戦っていたような……?と考えて、脳裏に浮かんだのは赤子の泣き声。無数の泣き声。殺戮をする、赤子の。

 

「……」

 

 驚きと混乱が同時に押し寄せる。そうだ、カイム達を行かせるためにエンヴィと一緒に残り、"敵"と戦ったのだ。自分が生きていることがまず一番の驚きだが、この場所も全く見覚え名がない。

 そこまで状況を飲み込んでから、自分がベッドの上にいるという当然のことにも遅れて気がつく。あれだけ破壊の限りが尽くされた帝都に、このような場所が残っているのだろうか。

 近くに立てかけられている神器を手に取り、重い身体を動かして部屋から出る。

 

「し、七支刀様!?」

「あなたは?」

 

 いたのは見知らぬ青年だった。力なく腰掛けていた彼は、七支刀の顔を見るとパアと表情が明るくなる。

 

「俺ですよ!コラソンで色々世話になったじゃないですか!」

「……待ってください、コラソンですか?」

 

 そこで出てきた地名に、七支刀は少し固まる。その地名を知ってはいるが、何故ここで出てきたのかが分からない。

 だって、その町があるのはミッドガルドではなくラグナロク大陸なのだから。

 

「そうですよ、七支刀様が失踪してみんな大変だったんです。貴方様が倒れているのを発見した時は心臓が止まるかと……!」

「……わたくしが、失踪」

 

 ゆっくりと思考を整える。まず一つ、もしかしてここはミッドガルドではなくラグナロク大陸なのかもしれない。理由は分からないが、あの戦いで力尽きる寸前になった自分はこちらの世界に戻ってこれたのだ。

 そして、自分がミッドガルドへ行ったあの日、コラソンでは七支刀が失踪したということになったのだろう。実際、行こうと思って行った訳でもないので、あながち間違いではないのだが。

 そして、この世界に戻ってこれた時にたまたまこの人が発見してくれた。ということだろうか。

 

「もしかして、ここはコラソンなのですか?」

「い、いや、もうコラソンはねえよ……そんなことより!」

「えっ」

 

 コラソンがない。その言葉の意味を理解する前に、青年は勢いよく掴みかかってくる。その顔は真剣そのもの。額から冷や汗を流しつつ、最後の希望に縋るように見つめる。

 

「七支刀様なら俺の身体も治せますよね?呪術の力さえあれば俺だって……!」

「か、身体……?」

「白塩化症候群ですよ。塩になんかなりなくねえんだ、助けてくれ!」

 

 白塩化症候群。聞いたことのない単語に困惑しながら彼の身体をよく見てみると、身体に塩が付いている。塩にかかってしまった……とかそういう雰囲気でもない。

 

「何ですか、その白塩化症候群とは?」

 

 治すも治さないも、それが何なのか知らなければ話にならない。

 しかし、その質問を聞いた青年の顔はみるみる青ざめていく。希望が絶望に変わっていくその瞬間。ミッドガルドで飽きるほど見て感じてきた、その瞬間。

 

「ふ、ふざけるな!」

「きゃあ!?」

 

 青年が勢いよく七支刀を押し倒す。怒りの形相で彼は捲し立てる。

 

「やっぱりお前らがやったんだな?とぼけやがって!いやあんたがやったんだな?何処か行って呪いを蒔き散らす準備でもしてたのか?俺達になんの恨みがあってこんなことしやがるんだ!」

「は、離して……!」

 

 理不尽な暴力と怒りにはもう慣れたつもりだったが、やはり何度だろうが慣れるものではない。

 力の加減が効かず、勢いよく青年を突き飛ばしてしまう。飛んでいった青年は、そのまま頭を打ち項垂れる。

 

「あ、ああ……」

 

 やってしまった。なんの罪もない青年を、こんな……

 けれど、頭の切り替えは早かった。以前の自分ならそうはならなかっただろうなと考えている、何処か冷静な自分がいた。他人を傷つけることに、慣れすぎたのだ。

 とにかく、この場にいるのは危険だ。神器を改めて持ち、慌ててその建物から飛び出す。どうやら住宅街のようで、周りにも幾つもの家が見える。

 ただそれよりも、妙に冷える空気と降り注ぐ塩に困惑する。

 

「いったい、何が」

 

 自分がミッドガルドに行っている間に、ラグナロク大陸で何が起きたというのか。

 何処へ向かえばいいかも分からずにとりあえず歩き始めるが、少しして先程の家から青年が飛び出し、大声で叫んだ。

 

「キル姫に襲われた!誰か捕まえてくれ!変な形の剣を持ってるからすぐ見つかる筈だ!」

 

 間違いなく自分のことだ。町中にざわめきが起き、そしてキル姫を探せという怒号が交わされる。もちろん、七支刀が見つかってしまうのにそう時間はかからなかった。

 

「いたぞ!キル姫を殺せ!」

「魔術隊を連れてこい、俺達が味わってきた苦痛を思い知らせてやる!」

 

 謂れのない悪意がぶつけられる。理由なんて全く分からないが、この町にいれば命はなさそうだ。

 全力で駆け出す。神器を構えたまま、取り囲もうと集まってきた人の壁を飛び越えてそのまま走る。

 どうしてこんなことに……!

 考える時間も余裕も与えられることなく、とにかく走る。まずは町から出て、それからどうする?分からない。分からないけど、抵抗して傷つけるのだけは絶対に駄目だ。逃げて、逃げて、逃げて……

 七支刀は走る。塩の中を、ただ逃げ続ける。

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