それから暫くの間、七支刀は街を転々とすることとなる。キル姫に襲われた人物がいるという噂は思ったよりも広がっており、しかも神器七支刀の独特な形状はすぐに怪しまれる。
それが分かってからは布に隠すようにしていたが、レギオンへの対処をする際にはどうしても見せなければなならない。しかも、その強さからも人間ではないと疑われることも多く一つの街に長居することはなかった。
行く宛もなく森を歩いていると、偶然一本の刀を見つける。何処かで見た覚えがあるそれは、地面に突き刺さっていた。まるで落ちてきたかのように。
「これは、あの時の……?」
持って確認してみると、やはり見覚えのある剣で間違いなかった。帝国領土での決戦、そしてそれを囮にした爆破。その後に、カイムが忠臣から託された剣、信義。
ようやく七支刀に希望が見えてきた。この剣があるということはカイムがいるのだ。そして、共に進んでいったギャラルもきっと。知り合いのキル姫にも一人も会えず、彷徨うばかりだった。
しかも、この信義なら神器と違い簡単には疑われないだろう。これからの活動にもプラスになる。
喜んでいる最中、足音が聞こえる。走っている。そして複数。
「……試し斬りさせてもらいます」
明らかに人間の気配ではなかった。レギオンの襲撃だと理解し、信義を構える。ここでなら人目にも付かないし、全力を出しても構わないだろう。
未だレギオンの正体も知らない七支刀は、獰猛な笑みを浮かべながら信義を構える。決して戦いを望む性格ではないが、ミッドガルドでの戦いは彼女を研ぎ澄ませた刃へと変えていた。
四方八方から足音が聞こえる。距離も余り変わらない。ならばと信義の魔封を発動する準備をする。カイムが使っているところを見てきたからこそ、この剣には氷の力が込められていることは把握している。
ある程度近づいてきた所で、氷を全方位に放つ。地面が勢いよく凍っていきレギオンの足を拘束していく。突然動かなくなったレギオンはつんのめり倒れそうになるが、頭を上げようとしてその前に切り飛ばされる。
七支刀はその確かな感触に満足する。七支刀という武器は本来儀礼用に使われていた物であり、実戦向きの形状はしていない。神器である以上確かな力はあるし弱い訳ではないのだが、信義の素直な斬撃はとてもありがたいものだった。
倒したレギオンには目もくれずに次のレギオンへと走り、動けないレギオンを数体倒したところで流石に拘束が解けてしまう。激昂したのか或いはただ目の前の敵を排除したいだけか、レギオンは再び走り出す。
しかし基本的にその身体を使って攻撃するレギオンは同時に襲撃することができない。真っ先に近づいてきたレギオンの拳を受け流しながら通り抜け、返す刃で胴体を切り落とす。更に迫る次のレギオンに向けて再び魔封を唱える。先程と違い全方向ではなく扇状に広げれば全てのレギオンを捕まえられるので、威力を集中させより強い拘束に成功する。
信義を地面に起き、神器を取り出す。信義にはもう満足した彼女は、もう残りのレギオンをまとめて倒すつもりだ。ありったけの魔力を込めると、巨大化した神器は回転を始め嵐を生み出す。その嵐で動けないレギオンを薙ぎ払い、全てバラバラに引き裂いた。
ふう、とため息を一つ吐いたその時、パチパチパチと乾いた拍手の音がした。間違いなくレギオンではないが、一体なんだろうと辺りを見渡すと、そこには眼鏡の女性が一人。
「素晴らしいお手前ですね」
「あなたは?」
どうしてこんな森に一人でいるのか、何故先程の戦いを見ていたのか。疑問は色々と湧いてくるが、まずは名前から。
「アコールと申します。こう見えて、商人をしていましてね」
「わたくしは七支刀です。アコール様はどうしてこの森に?」
「大した理由ではありません。それよりも、私はあなたが今求めているものを提供できます」
「……えっと」
分かりやすく話を逸らされてしまったことは気になるが、それと同じくらい"今求めているもの"が何なのか気になる。どちらを問いただすべきかと考えていると、女性は手持ちのバッグを起き、中から一つ取り出した。鞘である。
「抜き身のままその刀を持っていては危険でしょう」
「………」
駄目だ、何から聞けばいいのかが分からない。余りにも聞きたいことが多すぎて固まってしまう。
そんな七支刀の手に無理矢理鞘を握らせると、女性はバッグを閉じる。
「今回はお代はいりません。もし次があれば、その時はしっかりと頂戴します」
ペコリとお辞儀をすると、足早に立ち去ってしまう。
何から何まで唐突で、理解できない。唖然としている七支刀だったが、慌ててアコールを追いかける。明らかに今の女性は何か重要なことを知っているという確信があった。
しかし走れど走れどアコールの背中は見えない。そんなに足が速いものだろうかと思いつつも走り続けるが、見失ったことを認めて、それから信義を置きっぱなしにしてしまったことに気が付き先程の場所に戻る。
幸い血と塩と氷が残っていて目立っていたので、戻ることは出来た。
試しに信義を鞘に納めると、まるで最初から信義のためにあったかのように綺麗に納まる。やはり謎だ。
とりあえず信義は腰に、神器を背中に背負うと、再び道なき道を歩き出す。
「……怪しいのは、あれしかありませんよね」
ユグドラシルのあるはずの方角にそびえる、蕾。あの奇妙な花が明らかに怪しい。
なるべくそちらの方角に向かいながら、再び街を探す。ミッドガルドの旅路のお陰で野宿には慣れてきたものの、こんな塩が降りレギオンもいつ襲ってくるか分からない場所で一人眠るのは厳しいものだ。
カイムやギャラル、そうでなくとも知り合いの誰かに会えることを信じて歩き続ける。