ヴェルドレと合流したカイム達は、帝国軍の狙いを知ることになる。
捕虜収容所から、囚えられていた連合軍の兵士が姿を表す。次々とギャラルへと感謝を告げていく。
「助かりました。しかし君のような子供まで前線に……」
「あちらの青年がカイム隊長ですか?ギャラルさんもそうですが、ずいぶんと若いのですね」
連合兵達は、ギャラルのような子供がいることはもちろん、兵を率いていたカイムでさえまだ若いことに驚きを隠せないようだ。
「レッドドラゴンから話は聞いていました。貴方がギャラルホルンですね」
「ギャラルでいいわよ」
兵達の中にいた高齢の男性、彼が神官長ヴェルドレだという。契約者であるため、先にレッドドラゴンから"声"である程度のことは聞いていたらしい。
しかし、ギャラルはその男性のある点が気になっていた。髪が生えていない……のはまあ、神官長というだけあって整えているだけかもしれないが、頭皮に魔法陣というか、紋様が浮かんでいるのは異常だ。
「その頭はどうしたのかしら」
「契約の代償です。代償として失われる部位やその近くに紋様が浮かぶのです」
もしかして、契約の代償は髪なのだろうか?と思いヴェルドレを観察するが、どうも髪どころか毛の一本も生えているようには見えない。地味ながらもかなり重い代償のようだ。
ギャラルとヴェルドレが話しているところに、カイムと七支刀が現れる。
「貴方がカイムですか。そしてそちらが七支刀……」
ヴェルドレが七支刀を見ると、彼は近くの連合兵に声をかけた。
「君、七支刀の服を用意してあげてください。……さぞかし大変な戦いだったのでしょう、ほとんど布切れではありませんか」
言われた連合兵は、チラッと七支刀の格好を見て少し恥ずかしそうに近くの兵に声をかけに行く。女性用の服なんて用意してたかなとボヤいているのも、ギャラルには聞こえる。
しかし、このヴェルドレという男。今まで誰も触れていなかったことに触れたなと、カイム、レッドドラゴン、ギャラルがそれぞれ思う。カイムも女への興味はそこまで無いのだが、あの格好で戦っていることには流石にどうかと思っていたことを、レッドドラゴンは理解する。
そして、自身の格好を布切れと言われ、更にこの場の雰囲気を察し、流石に自分がどういう目で見られていたかを理解し顔を真っ赤にする。
……余談だが、ヴェルドレが布切れと評した"メイド服のようなナニカ"は七支刀の普段着である。元の世界、ラグナロク大陸で彼女はアイドルの様に囲いが出来ていたのだが、誰一人して際どすぎる格好にツッコんでくれる人はいなかったのである。
「ギャラルよ、そちの世界の者は七支刀のような者ばかりなのか?」
少し引っ張れば胸も丸出しになるような格好で、言われるまで恥ずかしいことにも気付いてなかった七支刀を見てレッドドラゴンは質問を投げかける。
「いや……どうしかしら?」
目を逸らしながら答える。ここまでの者はそうそういないが、昔の戦いの中でもっと際どいキル姫はいた気がする。
その微妙な空気をヴェルドレは理解するが、それどころではないと口にする。この空気を作った元凶なのだが。
「帝国軍は国への介入に飽き足らず、もっと根本的なところから創造しなおそうとしているようです。」
「世界か?」
「はい……封印がすべて解けた時に出現すると言われている”再生の卵”、彼らの狙いはそれでしょう。だから最終封印である女神の命まで」
ギャラルはその話を聞いて、少し罪悪感を覚えた。かつて、世界を終わらせようとした者の一人として。世界を創造し直す、もしかすれば昔の自分と同じように人々を救うための行いかもしれない。一瞬そう考えるが、帝国兵の正気の無さげな言動や、余りにも残虐な戦い方を考えるとそれはないと否定し直した。
……その間七支刀は、没収されていた荷物から服を引っ張り出してきた連合兵に男性用の衣服を渡される。着替えるためにもこの場から一旦離れた。
「”再生の卵”だと?真実を都合のよい神話にゆがめるのは、人間どもの悪い癖だ」
「"再生の卵"、貴方は何か知っているの?」
吐き捨てるように言うレッドドラゴンにギャラルは質問する。
「我も詳しいことは知らぬがろくなものではなかろうて」
「帝国軍の聖地破壊を止めてくれぬか?封印を解いて世界が無事なはずがない。……まして、神殿の封印がやぶられるごとに女神の負荷はますます重くなるのだ」
ヴェルドレの言葉に答えるように、カイムは強く剣を振り上げる。
ギャラルはカイムがどう応えたのかを推測することしか出来ないが、ヴェルドレは契約者だからこそカイムの"声"を聞く。
「おぉ、そんな!帝国軍とて人の子、慈悲を持って穏便に……」
「この男に説教は無駄だ。世界がどうなるかより、己の恨みをどう晴らすかで頭がいっぱいらしい」
カイムはヴェルドレを軽蔑するように睨みそれから振り返ってしまう。ギャラルはそんなカイムの手を取る。
「大丈夫よ。誰が何と言おうと、ギャラルは一緒に戦うわ」
「お主は否定しないのだな」
「少なくとも戦いが終わるまでは、復讐が終わるまでは戦いをやめるつもりはないでしょう?」
ギャラルを一瞥した後に、カイムは手を振り払う。しかし、その視線に侮蔑するような意思はなかった、少なくともギャラルはそう感じ取った。
戦いの中でしか満たされないのは悲しいことだが、他人でしかないギャラルがカイムを安易に否定は出来ない。だからせめてこの戦いが終わるまでは、その戦いを肯定しようと決めていた。新しい幸せは、平和になってから模索することもできる。
ヴェルドレとギャラルを背に、歩いていこうとするカイムを見てヴェルドレが呟く。
「神よ、哀れな子供らに祝福を」
「祈る者と殺す者に何の違いがあろう?ひと皮むけば、人間など、みなおしなべて愚劣よ」
平和を祈る者が、剣を手に取り殺す者になる。まさに今の自分だと、ギャラルは若干の自己嫌悪と共にカイムを追って歩き出した。