「皆殺し?随分なこと言ってくれるね……!」
静かに怒りを露わにしながら、レーヴァテインは神器を振り抜きギャラルへと接近する。
「神の手先がうるさいなあ!」
ギャラルもまたカイムの剣を振り抜き、真っ直ぐに向かっていく。空いた左手の中に炎を込めながら。
二人の剣が交錯する。しかしギャラルは受け流しながら通り過ぎ、すれ違いざまに炎を放つ。レーヴァテインもすぐに振り返り神器で弾きながらそのまま距離を取り、入れ替わるようにパラシュとロンギヌスが接近する。
パラシュの斧をカイムの剣で、ロンギヌスの槍を炎で作り出した障壁で受け止める。その二人の背後で強力な一撃を放つために雷を溜めているレーヴァテインの姿。
「正気に戻ってくれ。できれば僕だって君を傷つけたくない!」
「パラシュの口で喋るな!」
剣へ込める手の力を少し緩めパラシュのバランスを崩し、障壁をズラしてロンギヌスの方向へ力が逃げるように誘導する。
目論見通りパラシュは神器をロンギヌスに当てそうになり慌てて軸をズラし、驚いて視線が一瞬外れたロンギヌスをギャラルが勢いよく蹴り飛ばす。
その均衡がなくなった瞬間を狙いレーヴァテインは雷を纏った神器で斬撃を飛ばすが、炎の障壁、いや炎の暴食と言うべき魔法でギャラルは弾き返す。
レーヴァテインは自分の攻撃を防ぎ弾き飛ばすが、その一瞬の間にギャラルは姿を消す。代わりにそこにいたのは炎で出来たドラゴンの姿。
アンヘルの力を纏ったギャラルは大魔法を放つ。数えきれない数の炎の球が放たれる。それぞれがまるで意思を持つかのように三人目掛けて飛んでいく。最初は避けようと飛び回るが、避けきった炎はユグドラシル目掛けて飛んでいくことに気が付き可能な限り弾く。
それも一部を重点的に狙ったのか、花弁に焼けた跡が残ってしまっている。流石にこの程度で破壊はされないが、何度も使われれば危険だ。
魔力を解き放ったギャラルはアンヘルの姿を形成していた炎を再び魔力へと還元し、炎の幻影を重ねていく。大魔法の対処で離れ離れになった三人を、更に分割するように幻影が斬撃を放っていく。その中でギャラルは再びパラシュの元へ向かっていく。
幻影を躱しながらもそれを認識したパラシュはギャラルへと相対するが、更に八つ炎の槍を生み出し連射する。神器を盾にして防ぐが、トドメと言わんばかりに叩きつけられたカイムの剣により神器を落としてしまう。
そのままパラシュの首目掛けて剣を振ろうとするが、飛んできた槍が妨害する。
信義と神器七支刀を構え七支刀は走る。まずは近づかなければ何も出来ない。
当然フェイルノートもそれを分かっているので、魔弓を構え矢を生み出す。生み出された巨大な四つの矢は魔弓の周りに生み出され、引き絞ると同時に連続で放たれる。
見るだけで分かる圧に、直撃すればひとたまりもないことを直感する。だからこそ七支刀は一か八かの賭けに出た。触れそうな距離に入った瞬間に信義の魔法を解放し、一瞬だけ周囲の空気を凍らせ、同時に矢を躱す。すると予想した通りに矢は空を走っていく。
いくらフェイルノートが必中の弓と言われていても、彼女にそういう運命力があるわけではない。確かに弓自体にも当てやすくするための機能はあるのだろうが、根本的な所はフェイルノートの技術である。相手の行動を予測し、確実に当てる。ならば躱せると踏んだのだが、正解だったようだ。
同じ手段で残りの三つの矢も躱す。後ろで炸裂しとてつもない振動を生み出しているが、振り向かない。もしあの矢の威力を目の当たりにしたら、竦んでギリギリで躱すなんて芸当はできなくなるかもしれない。
「行カセナイ!」
「わたくしはギャラル様に用があるのです!」
新たな矢を番えると、魔弓を今度は空に向けた。次は何をしてくるつもりなのだと考えるが、それは放たれた矢を見てすぐに理解させられた。空で炸裂し、無数の矢が雨のように降り注ぐ。一発を丁寧に避けられるのなら、数で押す。戦い方を変えたのだ。
しかしそれなら無問題。剣の舞と共に七支刀は突き進んでいく。尚も距離を維持しようとするフェイルノートと進んでいく七支刀は、そうしている間に花の目前まで迫っていく。
矢も収まったのを確認すると同時に、七支刀は信義をしまいながら勢いよく飛び上がり斬りかかる。フェイルノートも冷静に神器で防ぐ。剣と弓で鍔迫り合いのような形になり、押し通そうと神器七支刀を巨大化させようとして、止まる。
「ユグドラシルハ壊サセナイ……!」
「まさか!」
確かに真紅に染まったその瞳の奥に、まだ強い光が残っていることに気がつく。赤目の病に感染させられ、神からの洗脳を受け、尚自我を完全に放棄はしていない。
「私ハ王ヨ。……神になど!」
「くっ!」
しかしその影響から完全に逃れられているわけではないのだろう。自分も同じくユグドラシルの破壊を食い止めようとしている仲間なのに、それを理解させられる余裕がない。
それでも、まだ意識がある。それは一瞬でも迷いを生むのには十分だった。その隙に弾き飛ばされてしまう。
剣先がブレた瞬間を見逃さなず、パラシュは再び距離を取る。更に二人分の神器を回収しようとするものの、流石にそれは読まれていたようでギャラルは下に回り込んで炎の弾を放ってくる。
だがパラシュに気を取られている隙にレーヴァテインが拾い、ギャラルの視界に入らないように上昇してから二人に投げて渡す。その妨害までは間に合わないことを察知したギャラルは再び炎の槍を生み出していく。標的はやはりパラシュだ。
それならばとパラシュは敢えてギャラルの元へ突っ込んで行こうとするが、それが罠だったとこに気が付いたのは接近してから。槍は頭上で纏まり、視線の向いていたパラシュではなくロンギヌスの方へと放たれる。突然の強力な攻撃に対処しきれず左半身を焼かれるロンギヌスと、下手に近づいてしまったパラシュを狙い澄ました斬撃が腹を裂く。直前に気がついたから良かったものの、後一秒でも遅ければ身体と頭が別れていた所だろう。
「あーもう面倒臭い!次の一撃で決める!」
「ユグドラシルに当たったらどうするつもりだ!」
「二人ならなんとかしてくれるでしょ!」
そう言い、レーヴァテインは少し距離を取りつつも最大の一撃を放つ為に雷を溜めていく。
考える。もしかしたらフェイルノートを正気に戻す手段があるかもしれない。ここでトドメを刺すことなく止めて、ギャラルも止めて、ミュルグレスとイチイバルと合流する。そうすれば丸く収まる筈だ。
けれど、必中の弓の名を冠した王の瞳は、紛れもない殺意に溢れていた。そんな甘い考えを消し飛ばす程の殺気に、考えを振り払う。
出来るならそっちの方がいいし可能な限り狙うが、自分がここで死ねば全て終わりだ。
吹き飛ばされながら考えをまとめて地に足を付ける。フェイルノートが改めて弓を構えると、背後に幻影が浮かぶ。直接合ったことはないが、それがルシファーであることを本能的に理解する。
フェイルノートが構えるとルシファーの幻像も手のひらを七支刀に向ける。放たれるのは最強最大の一撃。必中の弓に相応しく、一撃で葬り去るという意思。
「……消えなさい」
花を背に浮かぶフェイルノートは、まさしく魔王のように見えた。
神器フェイルノートを中心に、とてつもない力が集まってくる。それは理屈で説明できるものではない。当てられれば最後、跡形も残さずに消えるのだろう。王の御前に塵一つ許されないのだ。
レーヴァテインとユグドラシルの対角線上にギャラルが入らないように誘導してほしい。レーヴァテインが要求したのはそういうことだ。
明らかに危険な攻撃を放とうとしているレーヴァテインを止めるべくギャラルは飛翔しようとするが、止めるべくパラシュが先回り。更に神器を振り下ろし強引に鍔迫り合いの形に持っていく。
流石に魔力を使いすぎたのか、素直に剣で受け止める。
「君は君のエゴの為に世界を滅ぼす気か!」
「違う。……違うわ!ギャラルは!」
否定させない。ここまでの旅路と戦いと犠牲と、その全てを否定させない為に。
この花を破壊する、それが正しいんだ。でないと、でないと……!
初めてギャラルに浮かんだ苦悶の表情にパラシュは手応えを覚える。そこにロンギヌスも追撃に入り、ギャラルの身体は大きく吹き飛ぶ。
フェイルノートは最後の一撃を放とうとして、そこで矢を放てないことに気が付いた。
「何ッ!?」
矢を支える右腕に強烈な違和感。そこで初めて戦略的に敗北したことを悟る。フェイルノートはこの瞬間まで、七支刀が呪術を使えるということを失念していた。
フェイルノートが七支刀と顔を合わせたことがロクにないことが仇になっていた。それを察したからこそ、七支刀も呪術を使うのは最大のピンチをチャンスに変えるこの瞬間のために温存していた。
七支刀は走り出す。花に向かい走り、更にその花を蹴り上っていく。七支刀の最大の一撃を放つ為に。
その瞬間、レーヴァテインは神器を振り切った。ラグナロクの中で振るわれた世界を滅ぼす魔剣の一撃が、ラグナロクの始まりを告げる笛のキラーズへと放たれた。
けれども、吹き飛ばされたギャラルには、笑みが浮かんでいた。直後、ギャラルの身体の周りに炎の渦が生まれた。轟音と共に放たれた筈の雷は、炎の中へと消えていく。
突然のとてつもない轟音に驚きつつも、神器に力を込めていく。刀身が回転を始める。
フェイルノートも上昇して距離を取りながらも攻撃を放とうとするが、右腕が言うことを聞かない。魔弓を形成してしまった以上、今更変えることも出来ない。
雷は魔力へと分解され吸収されていく。炎の渦が収まったところにはもう、誰の姿もない。
代わりに現れたのは灼熱。三人より上空で、巨大な炎の拳を作り上げていた。
回転が激しくなる。風と共に巨大なエネルギーを纏う。エネルギーを纏うと共に巨大化していく神器をフェイルノートに向ける。
三人へと容赦なく炎の拳が振り下ろされる。防ごうとするが、最大の一撃を吸収した最強の一撃を防げるほどの体力は、三人に残ってなどいなかった。
とうとうフェイルノートの矢は放たれることなく、嵐がフェイルノートの身体を割いた。嵐に飲み込まれたフェイルノートは、全身傷だらけになりながらも吹き飛ばされ、そして堕ちていく。
三人がもう動かないことを遠目で確認したギャラルはそのまま花の上まで飛んでいく。
フェイルノートを倒した勢いで七支刀は花を駆け抜けていく。
そして、二人は蕾の頂上へと降り立った。